言論NPOフォーラム「アメリカ人の日本観、アジア観」報告 ~アメリカ人と日本人の相手国に対する認識が明らかに~

2015年9月19日

 9月19日、第1回言論NPOフォーラム「アメリカ人の日本観、アジア観」が開催されました。

 第1部では、「アメリカ人は日本人、日本、アジアをどう見ているのか」と題して、アメリカを代表する世論調査を行う機関で、世界の50カ国以上の国で毎年継続的に世論調査を公表し、最近もアジアに関する調査を公表したピューリサーチ・ディレクターのブルース・ストークス氏と、代表工藤との対談形式で議論が行われました。


日米両国民は本当に相手国を理解しているのか、という問題提起を

 第1部の冒頭で工藤は、言論NPOが10年間行ってきた日中間での共同世論調査の初回で、「中国の6割を超す人が、今の日本を軍国主義で報道の自由もない国だ」と回答したことを振り返り、「国民同士の相互理解、相手国に対する基本的な理解や認識を色々な形で深めていくことが重要であることを痛感した」と語りました。その上で工藤は、「日本で今、アメリカが話題になるのは、安全保障の話題がほとんどで、言論NPOが取り組んでいる、民主主義や市民社会の問題で、日本や米国でどのような変化や課題があるのか、そうした対話が広範に起こっていない」と指摘し、日本とアメリカは安全保障上の同盟国であり、自由で民主主義の国という同じ価値観を共有しているが、「日米両国民は、本当に相手のことを理解しているのか、国民的に相互理解が深まっているのか」との疑問を投げかけました。そして工藤は、「これからの、アジアの未来を考えるときに、パートナーである米国と、広範な分野でいろいろと話し合い、協力し合う場が、民間や市民レベルであってもいいのではないか。今回のフォーラムがそうした場になるきっかけにしたい」と、今回のフォーラムの趣旨について説明しました。

 その後、ピューリサーチがアメリ人に実施したアンケート結果について、ブルース・ストークス氏の講演で、本フォーラムが開幕しました。


アメリカ人は日本や日本人をどう見ているのか

 冒頭、ストークス氏は、「私たちの世論調査は一般的な人、平均的な人の声を対象にしたもので、そこには感情的、偏見的な意見もある」と指摘した上で、特徴ある結果について紹介しました。

 まず、日本は地域情勢に関連し、より積極的な軍事的役割を演じるべきかを尋ねたところ、「(日本は)より積極的な軍事的役割を演じるべき」と答えたアメリカ人は47%だったことに触れ、「アフガニスタン、イラクと2つの戦争で疲弊した国民が多いこともあり、もっと高い数字になると思っていた」と述べ、この結果に驚いたと語りました。

 次に、「アジアの国々に関してどのように考えているのか」を尋ねると、アメリカ人の74%が日本を「好ましい」と回答し、インド、韓国、中国を抑えてトップになったことを紹介しました。これに対して、アメリカ人の54%が中国を「好ましくない」と見ており、この傾向はここ3年ほどで高まり中国への不信感が強くなっている、と指摘しました。さらに、日本に対する信頼については、民主党支持者(66%)、共和党支持者(69%)、ともに同じような割合となり、これは二大政党制の下では非常に珍しい結果だと語りました。

 日米通商政策に関連した調査では、アメリカ人の日本人に対する好感度がここ30年弱の間に大きく変わり、日本を「不公正」と考えるアメリカ人が39ポイントも減少し、逆に「公正」と見る人が33ポイントも増えている一方、中国に対しては「不公正」が48%となり、日本との貿易赤字が減り、中国への貿易赤字が増えた点を指摘し、「アメリカ人にとって、悪役が日本から中国に変わった」と語りました。また、「軍事・経済大国という中国の台頭によって、日米関係はどうなっていくか」と尋ねたところ、「より重要になる」と答えたアメリカ人は60%となり、アメリカ人の平均的な人々が、同盟国と仲良くやっていくことが非常に重要だと考えていることが明らかになりました。ただ、「中国と日本のどちらの国とより強力な経済関係を持つべきだと考えるか」との問いでアメリカ人は、「日本(36%)」より「中国(43%)」と回答しており、「日本との関係は必要だが、経済的に重要になってきた中国との関係を犠牲にはしたくない」というアメリカ人の思いを指摘しつつ、こうした矛盾したメッセージをどうするかが各国の政策に反映していくかが重要になると分析しました。


今回の調査結果も、日本への表面的な印象だということは忘れてはいけない

 その後、代表の工藤との対談に移りました。まず、工藤はピューリサーチが公表した調査結果で、日本人は「勤勉」との回答が94%、「正直(71%)」、「創造的(75%)」、「利己的ではない(73%)」などとなった結果に触れ、「こうした結果が本当に多くのアメリカ人の基本的な日本理解なのか」と尋ねました。

 これに対してストークス氏は、「1980年代に調査を行っていれば、日本に対する恐怖心が勝っており、こうした結果にはならなかっただろう。ただ、今回の調査も平均的なアメリカ人は日本のことを間接的に聞いて解釈している人が多く、日本に対する表面的な印象ということは忘れてはいけない」と指摘しました。


世論調査と有識者調査を比較することの重要性

 次に、工藤は言論NPOが行った有識者調査から、アメリカ人よりも韓国人の方が「勤勉だ」と感じてる一方、中国人よりもアメリカ人を「勤勉だ」と感じていること、さらに、アメリカ人を「好戦的だ」と見ており、その比率は中国人に対する見方よりも多いという結果を紹介しました。一方で、工藤は、日本の有識者の7割は、アメリカ人を「信用できる」「誠実だ」と捉えており、9割を超える人が「創造的だ」と回答していることを指摘し、こうした結果をどのように見ているのか、ストークス氏に尋ねました。

 ストークス氏は、「信頼がないと同盟国としては機能しないわけで、一般のアメリカ人、日本の有識者も互いに信頼していることは、リレーションシップとしては大きな一歩である」と指摘しました。そしてストークス氏は、「一般の世論調査と比較する形で、言論NPOが行っている有識者調査を実施することは非常に重要だ」と指摘しました。ただし、「有識者にありがちなのは、一般人の理解は低いといって、そこで議論をやめてしまうことであり、逆に、一般人の理解の方が有識者より高いこともあると考えるべきであり、有識者としても一般人の意見は聴くべきだ」と、各種世論調査の読み方、分析の仕方について語りました。

 その後、会場のグレン・S・フクシマ氏、藤崎一郎氏も交えて意見交換を行い、第1部「アメリカ人は日本人、日本、アジアをどう見ているのか」は終了しました。

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