言論外交の挑戦

第2回言論NPOフォーラム
「米大統領選と北東アジアの未来」報告

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  10月19日(月)、言論NPOは茅場町オフィスにて、シカゴグローバル評議会プレジデントで元米国NATO大使のイヴォ・ダールダー氏、米国外交問題評議会シニアバイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏、マンスフィールド財団理事長フランク・ジャヌージ氏の各氏をお迎えし、日米対話「米国3シンクタンクトップに聞く 米大統領選と北東アジアの未来」を開催しました。

151019_kudo.jpg 冒頭挨拶で、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、パワーバランスの変化を背景に、北東アジア地域のガバナンスが不安定化する中、「2013年の『第9回東京―北京フォーラム』で中国側と合意した『不戦の誓い』を北東アジア全域に広げていくためにこれから動き出すが、今日の対話はそのための民間側のチャレンジのスタートだ」と述べ、対話が始まりました。


アジアの平和のためにはアメリカのアジアリバランスは不可欠

 まず、工藤が「アメリカが進める『アジアリバランス』とは何を意味しているのか」と問いかけると、ダールダー氏は「確かにこの15年、アメリカの関心は中東やアフガニスタンにあった」としつつ、「ただ、本来的にアメリカは自身をアジア太平洋の国である、と認識している。実際、1945年以降、ずっとこの地域に深く関与してきた。いうなればリバランスというのは本来あるべき正常な姿に戻るだけのことだ」と指摘しました。

 これを受けて工藤は、「ただ、これまでと状況が異なるのは、中国の台頭がある点だ。その中でリバランスにはどういう意味があるのか」と重ねて問いかけると、ジャヌージ氏はダールダー氏と同様の認識を示しつつ、「アジアには欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような安全保障上の枠組みがない。そういう状況の中で平和のためのマネジメントをしていく上ではアメリカの関与は不可欠であり、そこにリバランスの意義がある」と解説しました。


アメリカ国民の対アジア政策に関する認識は「健全化」してきている

 続いて、工藤が「中国の台頭によって日米同盟の重要性は増してきている。しかし、一般のアメリカ国民はこの重要性をきちんと理解しているのか。世論調査結果を見ると、経済的には日本よりも中国を重視しているし、軍事的にもなるべくアメリカの負担を軽減したいと考えているように見える」と問いかけると、ダールダー氏はアメリカ国民の日米同盟の重要性に対する認識は一般的な理解にとどまっていると指摘しつつ、「北東アジアの安全保障環境向上のため、アメリカがサポートすべきという考えや関心が世論の中に戻ってきている」と述べ、アメリカ国民の対アジア政策に関する認識が「健全化してきている」との見解を示しました。

151019_2.jpg ジャヌージ氏もアメリカは、政府も一般世論も本音では極力軍事的な介入は避けたいと考えていると紹介しつつ、「一方で、アジアに対するコミットメントを強化することを求める声も多い」と指摘しました。その上で、世論における課題として、「米中関係には色々な課題はあるが、実際にはそこまでは悪い関係ではない。にもかかわらずどうしても『ドラマ化』したがる人々がいる。あまり『米中衝突』などと世論を煽るべきではない」と語りました。


「日米中」を対立の構図にしないためには、中国をルールに基づく枠組みに引き込むべき

 次に、工藤は、8月から9月にかけて実施した「第11回日中共同世論調査」の結果を踏まえながら、「中国世論の中には、『日本とアメリカが連携しながら中国を包囲しようとしている』という認識がある。アメリカでも『日米VS中国』という構図で捉えられているのか」と尋ねました。

151019_1.jpg これに対し、ダールダー氏は、「中国の台頭には(特に経済的には)世界に対してプラスの面もあるが、南シナ海で見られるように力の増大に伴う要求の拡大という課題もある」と指摘した上で、「例えば、ヨーロッパではルールを作り、レジームを整えることで安定した。日米も中国をルールに基づく枠組みに引き込むことができれば北東アジアでも安定が実現できる」と述べ、日米中は対立の構図ではなくより深くコミットしていくべきとの認識を示しました。

   151019_3.jpg リンゼイ氏は、「日本、アメリカ、中国にはそれぞれに関心がある。そこで各国は互いに譲るべきところは譲るべきだ。中国はアグレッシブに行動するかもしれないが、そういう中でも紛争や対立なくして問題を解決していく必要がある」と述べました。

 ジャヌージ氏は、大国となった中国がグローバルな利益を追求するようになったのは当然としつつ、「それは軍事的な影響力を行使しながら追求すべきではない。あくまでも国際的なルールを尊重した上での繁栄を追求すべきであり、これ以上危険なチャレンジをすべきではない」と述べ、ダールダー氏と同様に、中国をルールに引き込むことの重要性を指摘しました。


「日米韓」から「日米中韓」へ、「ゼロサム」の関係ではなく、「ポジティブサム」な関係を

 議論はさらに、北東アジアにおいて目指すべき枠組みに移りました。まず、ダールダー氏は、「前提として『日米韓』の枠組みが基本的に重要」としつつ、「これを基盤として新たな構造を作っていく必要がある。つまり、中国を対話に引き込みながら『日米韓』から『日米中韓』へとアーキテクチャを発展させていく必要がある」と主張しました。

 これを受けて工藤は、「日本では、オバマ大統領は韓国の朴大統領に対してこれ以上韓国が対中傾斜しないように釘を刺した、と報道されているが、アメリカではそうした韓国の姿勢に不安の声はないのか」と尋ねました。

 これに対しダールダー氏は、「朴大統領は中韓関係の強化は米韓関係の強化に資すると説明しているし、あまりそういった報道のようには捉えられていない」と述べると、リンゼイ氏も「そもそもアメリカ自身が中国との関係強化を進めているのだから、韓国の対中接近について大きな懸念を持つことはおかしい。中韓関係の強化はアメリカにとっても利益だ」とした上で、「むしろワシントンでは日韓関係が心配されている」述べました。
ダールダー氏も「中韓の接近に懸念があるとすれば、それによって日韓関係が悪くなることだ。しかし、中韓関係と日韓関係はゼロサムの関係ではなく、ポジティブサムな関係にある」と述べ、この点について日本側はあまり懸念を強めるべきではないとの認識を示しました。


ガバナンス確立のためには対話とルールの整備が必要

 続いて工藤は、北東アジアで平和的なガバナンスを確立するためにはどうすべきか、そのためのアドバイスを各氏に求めました。

 ダールダー氏は、「欧州ではOECD、NATO、そしてEUなど様々な枠組みを作ることによって平和と安定をつくり上げてきた。北東アジアでもすべての関係国が、排他的にコミットメントし合う関係づくりをすべきだ」とした上で、「そのためには対話が重要で、中国と北朝鮮をそこに引き込むことが重要だ」と指摘しました。

 ジャヌージ氏は、これまで北東アジアが冷戦期の安全保障体制の枠組みを基礎として動いてきたため、現在の状況とはギャップが生じていると指摘。中国もそれを前提に自身が「アメリカによって封じ込められようとしている」と感じているため、対話を通じて日米韓など周辺諸国が「封じ込めをする意図はないということを明らかにしていく必要がある」と語りました。

 リンゼイ氏は、南シナ海における中国が、関係諸国と話し合おうとする姿勢を見せないことから「対話だけでは不十分であり、例えば国際海洋法などルールを整備しながら長期的な視野で平和な環境を構築していく仕組みが必要だ」と主張しました。


北東アジアにおける民間外交の役割は極めて大きい

 セッションの最後に、工藤は「北東アジアでは何か問題が起こると政府間外交はすぐに止まってしまうことが多い。その中で民間外交にはどのような役割があるのか」と問いかけると、ジャヌージ氏は、「非常に重要」と応じ、「中国のメディアには政府による『ファイヤーウォール』があり情報が遮断されているが、国民間で直接的に自由な対話をすれば、互いにフレンドシップが生まれ、世界観も広がる」とその意義を語りました。


北東アジアの平和を実現する上で一番大きな課題は北朝鮮の核問題

 続いて、会場からの質疑応答に入りました。

 まず、北東アジアの平和を実現する上で、ロシアの役割について問われたダールダー氏は、ロシアはスーパーパワーであり、北朝鮮に対して強い影響力があるとしつつ、クリミア併合やシリア問題への対応などを例に「今のロシアは我々が求めるロシアではない」と述べ、この北東アジア地域のおける安定的なパートナたり得ないとの認識を示しました。

 続いてイギリスの役割について問われたリンゼイ氏は、「イギリスは軍事的には縮小しているし、経済的には中国とさらに接近したいと考えている。そもそもヨーロッパ自体色々な問題があるので、アジアに関与してアメリカの手伝いをするような余裕はない」と述べると、ダールダー氏もイギリスが中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)にG7の中で真っ先に加入を表明したことに触れながら「中国を『こちら側』に引き込むためであればよいのだが、そういう意図はなく専ら経済的な利益しか考えていない行動だ」とイギリスの対応を批判しました。

 次に、「北東アジアにおいて平和を実現していく上で、今、何が一番問題なのか」という質問が寄せられると、「やはり一番の問題は北朝鮮だ」と述べ、日米中ロ韓など関係諸国が連携した上で体系的、包括的に対処することの重要性を説きました。

 ダールダー氏は、北朝鮮が最大の脅威だとしつつ、それ以外の懸念材料として、中国が経済成長の減速や格差、環境問題など、国内的な課題に対する世論の批判を逸らすために、「『外』に活路を見出すようなことがあれば大きな危機が訪れる」と指摘しました。

 リンゼイ氏も、北朝鮮を最大の課題としつつ、アメリカ自身の課題も指摘しました。その中でリンゼイ氏は、「実はワシントンの中でもアジアリバランスをめぐっては様々な意見がある。TPPでも意見が分かれており、このアジア地域との経済的な連携でさえ順調に進むかはまだ定かではない」と述べました。

 議論を受けて、工藤は、「様々な環境の変化を受け止めながら、日本も一歩を踏み出す必要があり、その大きな流れを生み出すための議論を続けていきたい」と明日の「日米中韓シンクタンク対話」、そして週末に控えた「第11回東京-北京フォーラム」への意気込みを語り、今日の対話を締めくくりました。

 10月の「言論外交」の取り組み第2弾、日米中韓4カ国対話「北東アジアの未来と日米中韓7000人の声」は、明日20日に行います。12時30分より、下記URLからインターネット中継をご覧いただけますので、ぜひご覧ください。

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