「日米中韓4カ国共同世論調査」記者会見報告

2015年10月20日

⇒ 日米中韓4カ国共同世論調査 結果報告書(PDF)はこちら

 10月20日(火)、国際文化会館・岩崎小彌太記念ホールにて、日本・言論NPO、米国・シカゴグローバル評議会、中国・零点研究コンサルテーショングループ、韓国・東アジア研究院による「日米中韓4カ国共同世論調査」の結果発表に関する記者会見が行われました。

 記者会見ではまず冒頭で、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、「北東アジアの変化は中国の台頭を軸に進み、その中で米国はアジア回帰を進めようとしている。このような変化が始まっている不安定な北東アジアで平和的な秩序を今後、どのように形成していけばいいのか。それが今回の4カ国共同世論調査の背景にある問題意識である」、「北東アジアの変化の行方や平和の現状に関して、4か国の国民がどう考えているか、それを明らかにしたいと考えたのは、こうした民意にこそ私たちがこれから考えなくてはならない、北東アジアの未来や平和に向けての課題や解決に向けた手掛かりが存在するからだ」などと今回の調査の意義を説明した上で、以下のように調査結果の説明を行いました。


アジアの変化はこの10年間、中国の影響力増加を軸に展開する

 まず、今後10年間の各国の影響力に関しては、中国の影響力の増加を、中国自身だけではなく、日本、米国、韓国の国民も認めていることが明らかになりました。特に韓国の国民の中に、中国の影響力の拡大を意識する傾向が高く、80%と8割を超えました。

 これに対して、アジアへの回帰を進める米国の影響力がアジアで増加すると見ているのは、米国民でも31%にすぎず、52%は「現状と変わらない」と回答しました。日本、韓国、中国の国民も、米国の影響力がアジアで今後「増加する」と見ているのは3割に満たず、逆に「現状と変わらない」が半数程度で最も多い回答となりました。

 また、その米国のアジア・リバランスの評価に関しては、米国でもそれを支持する人と支持しない人はそれぞれ49%と42%と分かれて、日本でも「分からない」が41.9%と、最も多い回答となるなど、十分に理解されたものとはなっていない現状が浮き彫りとなりました。


「責任ある行動が取れる国」という期待では、日米と中韓に温度差が大きい

 しかし、こうした影響力と、世界的課題に対する責任ある行動をとることへの期待は連動しておらず、日本と米国と、中国、そして韓国の国民に大きな意識の差が見られました。今回の調査では、日本、米国、中国、韓国、ロシア、EU、インドの中で、どの国が世界の課題に対して責任ある行動をとると期待できるかを尋ねましたが、日本と米国の国民は米国、EUと日本にそれぞれ半数を越える強い期待を持っているのに対し、中国と韓国にはそれほど強い期待を持っていませんでした。これに対し、韓国人は米国、EUと並ぶように中国にも高い期待を寄せています。中国人では、自国の90.1%に次いで7割の人がロシアに期待を寄せたのに対して、米国に対する期待は45.1%にすぎず、日米と中韓の間に認識のギャップが見られます。


米中の国民が、中国の軍事増強や米国のこの地域での行動に懸念を強めている

 次に、この地域の紛争の原因に関する設問では、まず「中国の軍事的な増強」や、「米国のアジア太平洋における展開」が、今後のアジアの紛争の原因となる可能性がある、という認識が米国と中国の国民に強いことが明らかになりました。例えば、「中国の軍事力の増強」が、紛争の可能性の原因となる可能性がある、あるいは可能性が高いと考える米国人は79%と8割近くとなっており、中国人も58.9%と6割近くはその可能性を認めています。逆に、「米国のアジア太平洋における軍事展開」が紛争の原因になる可能性を中国人は65.2%、米国人でも63%と6割以上が認識しています。

 ただ、現実に北東アジアに存在する二国間の対立に関しては、関係当事国間の国民の意識に非対称性が存在しています。例えば、「日本と中国間の紛争」について、中国人の71.4%が、その可能性がある、あるいは、高いと考えていますが、日本人でその可能性を指摘しているのは38.9%にすぎませんでした。

 4か国の過半数の国民が共通して、紛争の可能性があると認識している課題としては、「エネルギー資源の競争」、「アジアでの新たな核保有国の出現」などがありました。

 米軍の存在に「現状維持」を求める声が日米韓で過半数。しかし、紛争の際の米軍投入には米国民は消極的。朝鮮半島統一後の米軍駐留の要否では米中と日韓で意識に差がある

 不安定な北東アジアの環境下で、アジア地域における米軍の存在に関しては、「現状維持」を求める見方が、日本と韓国と米国の国民の間に多く、米国は64%、韓国は60.6%、日本は53%と半数を越えており、それぞれ最も多い回答となりました。

 ただ、アジアの紛争において米軍の派遣を正当化できる事態をどのように各国の国民は認識しているのかについては、中国国民の7割程度はいずれの紛争でも米軍の投入に反対でしたが、米国国民の中にも米軍派遣を反対する声が多く存在していることが、今回の調査では明らかになりました。特に米国民の反対は、尖閣諸島における日本と中国の衝突、中国と台湾の衝突のケースでより大きなものとなっており、それ以外でも米軍の派遣に賛否が拮抗しています。

 これに関連して、朝鮮半島の平和統一後の在韓米軍の駐留の要否について、統一後も駐留軍が必要と考える国民が多いのは、韓国と日本で、逆に中国では65.7%が「必要ではない」と考え、さらに米国では「同盟関係は維持するが、駐留軍は置かないが」と「同盟関係を終了し、駐留軍は引き上げる」を合わせると62%が駐留軍の引き上げを求めています。


2国間関係の重要性でも韓国国民に目立つ中国傾斜

 東アジアで、それぞれの国民がどの2国間関係を重要だと考えているかについても、国民間の意識に差が表れています。日本人にとっては、米国との2国間関係が最も重要であると回答する国民は合わせて92.2%と最も多く、中国が82.3%で続き、韓国は73.7%でした。米国人にとって重要な2国間関係は、日本と中国が88%で共に並び。韓国も83%ありました。

 一方、韓国でも米国との関係を「重要」だと考える国民が98%で最も多いものの、中国との関係が「重要」と考える人も96.6%とほぼ並んでいます。しかし、日本との関係が「重要」だと考える人は84.1%と相対的に少なくなっています。

 中国人では米国が79%で最も多く、韓国も70.2%となっていますが、これに対して、日本を重要と考える人は47.3%にすぎませんでした。

 こうした認識のギャップは、「信頼できる国」に関する設問でも同様の傾向が見られ、米国から見れば同盟国間の協力連携に懸念を抱きかねない状況になっています。


今回の世論調査は平和構築に向けた第一歩

 工藤は最後に総括として、「中国の台頭の中で、このアジア地域の変化や紛争の可能性に関して見方が分かれている。各国の中で懸念が大きいのは、この地域に二国間関係の対立や、米国と中国の安全保障上の対峙が存在するにもかかわらず、こうした課題を話し合える、また危機を未然に防ぐガバナンスの仕組みが存在しないことにある」とした上で、「今回の調査は、この地域における平和構築の課題やその必要性を浮き彫りにしたという点で大きな意味を持つ。こうした北東アジアの不安定さにどう向かい合い、この地域に安定的な平和を構築するのか。そのためには、民意の動向を把握しながら、平和の構築を多くの国民が自らの課題として考える、そうした対話の舞台は必要になっている。今回の私たちの共同調査はそのための第一歩になったことだけは間違いない」と語り、報告を締めくくりました。

 続いて、記者会見は「アメリカ側は今回の結果をどう読んだか」に移り、シカゴグローバル評議会外交政策世論調査フェローのカール・フリードホフ氏がコメントしました。同氏はその中で、今回の結果から読み取れる懸念すべきこととして、日米韓三カ国の同盟関係をあげました。同氏は、日韓両国民の米国に対する信頼は非常に高い反面、日韓間には信頼関係がないため、両国の国民はこの日米同盟、米韓同盟という安全保障同盟関係を、3カ国間の同盟関係ではなく、それぞれアメリカとの二国間協定と解釈していると指摘。「こうした日韓両国における相互不信は、この3カ国協力関係の妨げとなっており、注意が必要なほころびも目立ち始めている」と警鐘を鳴らしました。

 「中国側は今回の結果をどう読んだか」では、中国零点研究コンサルテーショングループ董事長の袁岳氏は、日本と中国で認識の差が見られるのに対し、中国と韓国は見方が近いことに関して、「例えば、北朝鮮の核問題など、中国と韓国には特定の問題について一緒に考える共通の基盤がある。一方、日本と中韓にはそれがない。その差が出ているのではないか」と分析した上で、「今後の世論調査でも、より具体的な課題に質問を絞っていくことで、日中が協力できることは何か、浮かび上がってくるのではないか」と提案しました。

 「韓国側は今回の結果をどう読んだか」では、延世大学国際研究大学院院長の孫洌氏は、韓国の対日認識について、「世論は明らかに日本を過小評価しているが、これは政府間外交の冷え込みを反映しているし、逆に、こういう世論だからこそ冷え込んだ政府間外交になる」と世論と政府外交の相互作用の問題点を指摘しました。

 同氏はさらに、他のパネリストからの指摘が相次いだ韓国の対中傾斜に関しては、韓国の対中貿易の拡大や、中国が北朝鮮に対して強い影響力を有することなどが、韓国国民の対中認識形成の背景にあると説明しました。しかし同時に、「韓国はアメリカとも協力を進めているし、中国の軍事的な拡大に対しては韓国内でも懸念する声は多い」と述べ、もっと韓国を多角的に見て欲しいと呼びかけました。

151020_02.jpg その後、会場に詰めかけたマスコミ関係者からの質疑応答が行われました。その中で「今回の調査で明らかになった各国の認識のギャップを埋めるためにこれから何をするのか」と問われた工藤は、「各国の世論がこの地域の将来や課題について共に考えることができなければ未来はない。今回明らかになった世論を現状として受け止め、もう一度課題を設定し直し、平和構築に向けて民間が動いていくためのスタートを切っていく」と意気込みを語るなど、活発な質疑応答が行われ、記者会見は盛況のうちに終了しました。


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