日米中韓4カ国対話
「北東アジアの未来と日米中韓7000人の声~日米中韓シンクタンク対話と4カ国共同世論調査~」

2015年10月20日



 10月20日、開催された日米中韓4カ国シンクタンク対話「北東アジアの未来と日米中韓7000人の声」の第1部では、今回世論調査を行った日本、アメリカ、中国、韓国の代表から今回の世論調査をどう読み解くのか、について各国の分析が示されました。

 続く第2部では、第1部の出席者に加え、日本から藤崎一郎氏(上智大学国際関係研究所代表、前駐米大使)、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)、アメリカからジェームス・リンゼイ氏(米国・外交問題評議会シニアバイスプレジデント)、中国から趙雷氏(零点研究コンサルテーショングループ国際世論調査部門長)、韓国から孫洌氏(韓国・延世大学国際研究大学院院長)が加わり、今回の世論調査を踏まえる形で、北東アジアの未来についての議論が行われました。


日本の将来の影響力は低下するのか

 冒頭、司会の工藤が「中国、韓国の国民は日本の影響力が低下していると過小評価しているが、10年後の北東アジアの姿をどう見ているのか」と問題提起しました。

 この問いかけにダールダー氏は「日本の影響力が落ちているという見方は間違いで、私は今後の10年も楽観視している」と語りました。その理由として、北東アジアや東南アジア各国は日本に好意的であること、中国の台頭もあって期待感を持って見られていること、また、アベノミクスについてもポジティブにとらえられていることなどを挙げました。また、安全保障面では日本にもっと貢献してほしかったぐらいで、日本の影響力の維持は米国にとってもアジア全体にとっても大切であり、中国、韓国が安心できるように動いていく」ことが重要だと指摘しました。

 リンゼイ氏もダールダー氏の意見に同意し、「米国民の7割は日本のリーダーシップを期待しており、これから日本が何をやりたいかが重要になってくる。日本が自分たちの影響力を上げるために動くのであれば、きっと成功裏に終わるはずだ」と語りました。

 宮本氏は「『力』の観点からすれば日本の影響力は相対的に落ちていくが、日本国民が現在の日本の状況をどうとらえて、将来どう対応していくか、ということについて国民が今一度考えることで、今後の影響力の維持に繋がっていく」と日本国民の奮起を促しました。

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 藤崎氏は「過小評価されている」という工藤の問題提起に、「評価されるか、されないかということを気にせず、もっと自信をもっていいのではないか」と問いかけました。


日本の影響力を過小評価している中国と韓国

 袁氏は、情報規制など国民が十分な判断材料を持っていないために、日本への認識が小さい点を挙げました。しかし、「新しい中国の世代は日本の社会が好きであり、ヨーロッパのスタイルは古臭いと感じている」と指摘し、日本や韓国のゲームやファッションを身近に感じている若い世代で、日中関係をつくっていきたいとの意気込みを示しました。

 李氏はまず、反日感情から日本を認めたくないことを指摘した上で、「国際的なデータを見ても日本の影響力は下がっており、外国人労働者に市場を開放しない限り、日本経済は期待できない。今、購買力では日韓に差がないのではないか。しかし、ソフトパワーとしての日本の文化など、その影響力には様々なものがある。こうしたものは急に低下するものではなく、将来も継続していくものだと思う」と分析しました。

 続けて、韓国が中国に傾斜しているのではないかとの指摘に対して、孫氏は「韓国国民は中国の台頭を寛容に見ている。韓国の経済は、中国に依存しているが、それが深まると、非対称性によって韓国の外交施策の自立性が失われるかもしない。この点では、日韓の協力、また多国間制度の強化が重要になってくるだろう。その意味で、TPPは一つのヘッジの方法であり、中国を多国間に組み込んでいくのもヘッジ政策になる」と冷静に分析すると共に、TPPへの韓国の参加の可能性についても言及しました。


中国にとっての中ロ関係は、日本にとっての日米関係のようなもの

 また、今回のアンケート結果で、中国人が考える国際的リーダーシップをとることが望ましい国として、自国を除けば、「ロシア」と回答した人が7割を越えて最も多く、米国(64.1%)を上回る結果となりました。この結果について袁氏は「安全保障の面で見ると、軍事技術の交流とか、国際政策での協力でロシアは中国にとってパートナーであり、日米のようなもの。しかし、ブロックで見ることなく、それぞれの国と対話を積み重ねてお互いの価値観を認識し、安全保障の選択肢を増やさないといけない」との見方を示しました。


これまでの北東アジアの平和に寄与してきたアメリカ、
そして、これからもその寄与を望む声が多数となった

 北東アジアの安全保障面については、北東アジアには紛争の種がいろいろある中で、今回の調査結果でも日米韓の国民は、北東アジアの平和的な環境作りに対してアメリカの存在感はこれからも残るだろうとの声が多数となりました。そこで工藤から、「米国はいかにして平和的秩序を構築していこうとしているのか」とアメリカのパネリストに問いかけました。

 これに対してリンゼイ氏は、その質問には簡単に答えられるものではないし、「平和」を望めば作り出せるなら、既に世の中に「平和」は存在するだろう、と前置きした上で、「ナショナリズムが台頭してくると、政策手段が限られてくる。そうした時ほど、お互いの違いを認め合い、対話が必要になってくる。対話の深化も大事で、新たな枠組みも必要だろう。中国に対しては米国が封じ込めようとはしないし、その力もない。冷戦時の旧ソ連との対立とは逆に、自由経済圏に入ってほしいと思っているし、敵意のあるものではない。中国も含めた環境を整えなければいけない」と語りました。

 ダールダー氏は「北東アジアは平和的地域であり、それは日韓に対し米国が戦略的にコミットしてきたからだ。米国が安定要素になってきた。中国が台頭してきた状況では、それをいかに平和裏におさめていくか。大国になって国内的に問題があると、国外的に強く出て、国内問題を緩和しようとする。こうした政治面での行動の可能性は否定できない。これをどう封じ込めるか、一つは米国のプレゼンスだと思う」とした。


 この地域での平和秩序構築について、「安全保障の構造としては、ミニラテラルのアプローチをマルチに進めていくような枠組みをつくることで、地域に継続的な平和と繁栄をもたらすことが重要だ」(李氏)、「安倍首相の積極的平和主義はいいものだが、近隣諸国との気持ちの共有が必要」(孫氏)、「中国が日本を見る時、日本が中国を見る時、いずれもどちらかに偏っている。バランスが大事であるということを発信していくことが大事」(袁氏)とそれぞれの意見を述べるなど、活発な意見交換が行われ、ディスカッションは閉幕しました。


世論調査をベースにした対話が、新しい民意を作り出すサイクルの端緒に

 今回の議論を受けて工藤が、これまで日本では各国との対話を行ってきたが、この対話が他の対話と決定的に違うのは、「国民の世論をきちんと把握することから議論を始めていること」だと指摘。ただ、民意は移ろいやすいものだが、「民意の中に、確実にアジアの未来を考える上での課題や解決の手がかり存在している。そして、多くの人たちがアジアの将来を自分の問題として考えるような状況になることで、新しい民意を形作っていける。そういうサイクルが動きだすことで、北東アジアの平和がもっと強固になっていくのではないかと感じている」と締めくくりました。

 最後に、「今回のような調査を、一回で終わらせるのはもったいない」と感想を話すと、ダールダー氏が「平和を作っていくためにも、これからも引き続き行っていってもらいたい」と応え、第2回の日米中韓の世論調査、シンクタンク対話に含みを持たせ、今回の対話は幕を閉じました。

⇒第1部の議論はこちら
⇒日米中韓4カ国世論調査結果はこちら

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