日中の有識者は何を合意したのか ~「第11回東京-北京フォーラム」報告会~

2015年11月11日

 11月11日、言論NPOは茅場町オフィスにおいて、ゲストスピーカーとして宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、本フォーラム副実行委員長)、山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長、本フォーラム副実行委員長)、加藤青延氏(NHK解説委員)、福本容子氏(毎日新聞論説委員)の各氏をお迎えし、「第11回東京-北京フォーラム」の報告会を開催しました。会場には平日午前中の開催にもかかわらず60名近い聴衆が詰めかけるなど高い関心が寄せられました。


今回のフォーラムを振り返って

 報告会の冒頭、司会を務めた言論NPO代表の工藤が、スライドを用いながらフォーラムの様子を振り返りました。その中では非公開で行われたセッションや、中国側の新しい主催者である中国国際出版集団とのコンセンサス締結に向けた交渉の様子など、これまで明かされてこなかった対話の舞台裏についても紹介されました。

 続いて、工藤から全体的な所感を尋ねられた宮本氏は、「今回で11回目だが、回を重ねるごとに、両国民が日中関係について考える場として成熟してきたという印象だ。今回から中国側の主催者も変わったということもあり、『新たな10年』の第一歩となった」と語ると、山口氏も同様の見方を示すとともに、「全体のコンセンサスは締結されなかったが、分科会ごとに『日中関係を再構築しなければならない』というコンセンサスは得られた」と対話成功の手応えを口にしました。

 加藤氏は自身が長く参加してきた「メディア分科会」が今回から「メディア分科会」へと拡充されたことを踏まえ、「これまでの対話よりも視野が広がり発展したものとなった」と語りました。同時に「メディアと文化というベクトルの異なる分野を同時に議論することの難しさも感じた」と述べ、次回以降の課題も提起しました。

 今回が初参加となった福本氏も「男性同士の対話だと直球勝負が多く対立的になってしまうので、変化球も交えた対話にするためにも次回からは女性パネリストの比率を増やしていくべきではないか」と提言しました。

 その後、工藤はまず、フォーラムが今年新しいステージに入った背景として、「2013年に『不戦の誓い』を合意したが、このようにアジアや世界の課題に視野を広げ、共に考えていくための対話をさらに発展させていきたいと考えた」と説明しました。その上で今回のフォーラムについては、「世論調査では国民間の印象が改善しつつあるものの、まだまだ予断を許さず、さらに今年は戦後70年ということで、両国内で様々な議論がある。加えて中国経済の問題も顕在化しているという状況の中で、今回の対話はぴったりとはまったのではないか」と述べました。


将来に向かい合うためのベースはできたが、さらに丁寧な議論が必要に

 続いて分科会報告に入りました。まず政治・外交分科会に参加した工藤は、安倍談話に関する議論が多かったことを紹介しました。その上で、日本側が談話の真意を説明してもなかなか中国側と議論がかみ合わなかったと振り返り、「将来に向かい合うためのベースはできたが、安倍談話や安保法制が障害となる場面もあった。会場から見れば迫力のある議論になったが、これではなかなか動けないので、次からは丁寧な議論が必要になったと感じた」と次回以降への宿題を挙げました。


相手を批判するだけでなく、議論を通じて相手に対する理解を深めることができた

 安全保障分科会の報告として宮本氏はまず、具体的な議論の様子として、前半では互いの安全保障政策についての説明がなされ、特に日本の安保法制については10月初めまで防衛審議官を務めていた徳地秀士氏による解説がなされたことが紹介されました。後半の議論では、「東アジアの平和構築に向けて日中でどのような協力ができるのか」というテーマから、危機管理メカニズム構築やハイレベル対話の創設、非伝統的安全保障分野やPKOでの協力拡大などでコンセンサスが得られたことが明らかにされました。
 宮本氏は総括として「互いに相手の安全保障政策のロジックに納得しない場面もあったが、相手を批判するだけでなく、議論を通じて互いに相手に対する理解を深める、という対話の趣旨通りに進んだ」と語りました。


合意できるところを見つけていこうという意識が日中双方に広がった対話に

 経済分科会の報告では、山口氏はまず、「前半の議論では両国が抱える構造的な課題について議論がなされ、後半ではそれを踏まえて日中の経済協力の可能性について話し合った」と説明。その上で、「後半では環境、医療・介護、さらにはロボット分野で協力の余地があるとの認識で一致した。また、金融面でも中国側が金融自由化を進めることを前提に、ビジネス面やアジア・アフリカにおけるインフラの展開を金融がどう支えるかという視点で議論がなされた」と紹介しました。
 山口氏は総括として、「活発でかみ合った議論ができた。これまでの経済対話はお互い言いっ放しが多かったが、合意できるところを見つけていこうという意識が日中双方に広がっていることを感じた」と高く評価しました。


日中間の文化交流を回復させるために、メディアはどのような役割を果たせるのか

 続いてメディア分科会の報告に登壇した加藤氏は、前半のメディア対話では、今回の日中共同世論調査では自国メディアに対する両国民の評価の傾向が大きく異なった結果を踏まえ、「こうした認識の違いは、文化的な要因も背景にあるので、深層的に分析すべきという指摘がなされた」と紹介しました。また、日本メディアからは、「相手のことをよく知らずに報道する」、「政府の立場に立ってしまっている」など、自省の声も聞かれたものの「多様性が重要なので、色々な観点から報道すべき」という意見も出てくるなど、「日本メディアの中でもメディアのあり方について見方が分かれる部分があった」と説明しました。
 後半の文化対話については、「日中ほど密接な文化交流の歴史がある2国間関係はないとの声もあったが、交流の減少を懸念する指摘も相次いだ」と説明し、「これをどう回復するべきか、メディアはどのような役割を果たせるのかという問題意識を日中で共有できた」と語りました。
 加藤氏は最後に「今回は初回ということもあり具体策にまでなかなか踏み込めなかったが、次回はメディアと文化がそれぞれの持ち味を発揮するためにどうすればいいのか、方向性を打ち出したい」と意気込みを語りました。


生活に密着し、地に足の着いた議論ができた

 「観光」と「環境」の2つをテーマとした特別分科会の報告として福本氏は、まず「観光」について「訪日中国人観光客は急増しているのに、中国を訪れる日本人観光客の数は停滞している、という『非対称性』や、両国間の修学旅行の減少に関する問題提起が両国から相次いだ」ことを明らかにし、さらに「修学旅行を増やすための具体的な提案も出された」と成果を説明しました。
 一方、「環境」について福本氏は、「中国側に日本から学ぼう、取り入れようとする意欲が強く見られ、中央の対立を地方間における具体的な協力によってカバーしていこうという積極的な意識も見られた」と振り返りました。
 福本氏は最後に、「異なる2つのテーマをどうまとめていくのか不安もあったが、生活に密着し、地に足の着いた議論ができた。むしろ具体的な提案が多すぎて時間切れになってしまったので、次はもう少しテーマを絞りながら議論したい」と述べました。

その後、会場からの質疑応答に移りました。


日本の安保法制についての説明に多くの時間を割いた安全保障対話

 その中で安全保障対話において、「日本の安保法制についての説明を直近まで防衛審議官を務めていた徳地氏が担当したとのことだが、それでは政府の意見を代弁することになってしまうのではないか」と民間対話の本質を問う質問が寄せられると宮本氏は、「安保法制は複雑で日本人ですら多くの国民が理解できていない。しかも、日本政府はこれまで中国側に説明していない。そういう状況の中で基本的な不信感を払拭するためには政策を最も良く理解し、説明にも慣れている人物が、民間によるオープンな場で直接中国国民に語りかけることの意義はとても大きい」と回答しました。

 これを受けて工藤も「中国では安全保障専門家ですら日本の安保法制をよく理解していない。そうするとやはり一番よく理解している人物を呼んで説明してもらう必要があった」と説明しました。


日中両国民が共通して課題に挙げた「平和」と「協力発展」をどう実現するか

 その上で、「民間対話で大事なことは企画立案から運営に至るまでのオペレーションを民間が担うということであり、実際このフォーラムはそこに対する中国政府の介入は断固拒否している。確かに、対話発足当初は政府の意見を代弁し合うような場面もあったが、現在は課題解決に向けた議論になっている」と民間対話のあり方について語りました。

 さらにその後、「世論調査からは両国民間で共有している課題というものが見えてくるが、今回の調査ではこれからアジアが目指すべき理念として、『平和』と『協力発展』で日中両国民が合意していることが明らかになった。これらを実現するためにどうすれば具体的にどうすべきか、それをオープンに議論していくことで両国の国民にも考えてもらいたい」と工藤が語ると、各スピーカーからも民間対話のあるべき姿についての発言が相次ぎ、盛況のうちに報告会は終了しました。


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