「第12回 東京-北京フォーラム」安全保障分科会 報告

2016年9月27日

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安全保障分科会「北東アジアの紛争回避と平和秩序への道筋」前半 報告

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 「安全保障対話」では、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使)と陳小工氏(空軍元副司令官(中将)、第12期全人代外事委員会委員)による司会の下、「北東アジアの紛争回避と平和秩序への道筋」というテーマを掲げたパネルディスカッションが行われました。

 その前半では「北東アジアでの紛争の危険性と危機管理」と題して、この地域の安全保障をめぐる現状認識についての意見交換が行われました。


 日本側からは、磯部晃一氏(川崎重工業株式会社航空宇宙カンパニーストラテジック・アドバイザー、元東部方面総監・陸将)、小野田治氏(東芝インフラシステムソリューション社顧問、元航空自衛隊教育集団司令官、・空将)、香田洋二氏(ジャパンマリンユナイテッド株式会社艦船事業本部顧問、元自衛艦隊司令官・海将)、神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部准教授)東郷和彦氏(京都産業大学世界問題研究所所長、元外務省条約局長)、德地秀士氏(政策研究大学院大学シニア・フェロー、元防衛審議官)の各氏が、中国側からは、姚雲竹氏(軍事科学院中米研究センター元主任・研究員、少将)、張沱生氏(中国国際戦略研究基金会学術委員会主任)、朱鋒氏(南京大学中国南海研究協同イノベーションセンター執行主任)、呉懐中氏(中国社会科学院日本研究所研究員)、王翰灵氏(中国社会科学院海洋法与海洋事务研究センター主任、教授)の各氏が参加しました。

蛻・ァ台シ・MHI_2247.jpg 対話の冒頭で宮本氏が、9月23日に公表されたばかりの「第12回日中共同世論調査」を引用しつつ、「両国民は互いに相手に対する軍事的な脅威感を強めている。しかし、歴史的に見れば紛争というものは、相手の意図を読み間違えたことから起こるものだ。そこでまず相手の意図を正確に理解してもらいたい」と呼びかけ、議論がスタートしました。

北東アジアの「脅威」と「懸念」


蛻・ァ台シ・MHI_2330.jpg まず基調報告として、日本側から香田氏が発言しました。香田氏はまず、日本から見た場合、北東アジアには「脅威」と「懸念」の2種類があると指摘。前者については、北朝鮮の核の高度化、ミサイル射程の長距離化を挙げ、後者については、中国の東シナ海、南シナ海における積極的な海洋進出を挙げました。特に、尖閣を中心とした東シナ海の動きについては、漁船や海警局の船だけでなく、フリゲート艦など軍艦まで接続水域にやってきたことに「意図が分からない。これでは日本側の不信感も高まるばかりだ」と強い懸念を示しました。また、周辺空域での自衛隊機の中国機に対するスクランブル発進回数の激増にも触れ、「空での緊張も高まっている」と語りました。

 香田氏は次に、南シナ海について、中国が日本を「部外者」と呼んで排除しようとしていることについて、「確かに領土問題については部外者なので、そこでは中立の立場を守る」とする一方で、この海域は日本にとってシーレーン(海上交通路)として死活的に重要であるため、「そこで『海洋を自由に利用する』という国際法上認められた権利に対して、中国がチャレンジしてくることは見過ごすことができない」と中国側に迫りました。そして同時に、「南シナ海での振る舞いをやがては東シナ海でもするようになるのではないか」と日本側の懸念も示しました。

日中間の安全保障では今、何が問題になっているのか

蛻・ァ台シ・MHI_2355.jpg 続いて、中国側の基調報告を姚氏が行いました。姚氏はまず、朝鮮半島情勢については香田氏と同様の見方をし、北朝鮮の核大国化は、「中国にとっても脅威であり、この地域の非核化は切なる願いだ」と語りました。一方で、北朝鮮問題を契機として、日米韓3カ国の安全保障協力が進んでいくことも脅威とし、特に米韓が進める「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備に対しては露骨に不快感を示し、「中米関係の戦略的な安定性を損ない、中韓関係にもひびを入れるものだ」としました。

 一方、日中の安全保障上の最大の懸案を尖閣問題とした上で、そこでの課題としてまず「海空連絡メカニズム」の構築が急務と語りました。一方で、周辺空域の防空識別圏については、「互いに設定し、それが重複しているが、そもそもまだ国際ルールもない。何がルールなのか、そこは話し合う必要がある」としました。

 次に姚氏は、台湾問題も日中関係の重要課題と指摘。独立志向の強い蔡英文政権が誕生し、中国が神経をとがらせる中、日本の台湾政策には中国も注目していると警告しました。

 さらに、もう一つ日中間の重要課題として南シナ海問題にも言及。フィリピンやベトナムに対する巡視船の提供や、アメリカの「航行の自由作戦」への積極支持表明、そして、常設仲裁裁判所が南シナ海におけるフィリピンと中国の領有権に関する紛争に対して、フィリピン側の申し立てを支持した裁定受け入れを中国側に迫ってくることなど、日本の関与が増加していることに対して「域外国は関係ないはずだ」と批判。さらに、「そもそもルールに基づく秩序とは何を意味しているのか」と日本側に逆に問いかけました。

 姚氏は最後に、安保法制の展開にも触れ、「駆けつけ警護、宿営地共同防護など、任務が増えていく自衛隊がこれからどう変わっていくのか、中国も注視している」と述べ、成立から1年以上経った今でも安保法制は中国にとって大きな懸念であることを仄めかし、発言を締めくくりました。

 基調報告の後、各パネリストの発言に入りました。

北朝鮮問題―日中が協力しながら対処すべき―

蛻・ァ台シ・MHI_2431.jpg 磯部氏は、「北東アジアの紛争回避と平和秩序への道筋」という全体テーマを考える上で、北朝鮮問題が最大のポイントとした上で、日米韓が共同して対処していくことの重要性を説きました。しかし同時に北朝鮮に対して強い影響力の持つ中国の関与が不可欠であるため、「中国も日米韓の枠組みに加わってほしい」と呼びかけました。

0091b70bbb9b00a0118aeb10835f929ecc053422.jpg 神保氏はまず、日中双方が北朝鮮の核・ミサイル能力について「過小評価も過大評価もするべきではない」と問題提起をしました。過小評価については、北の核・ミサイルが実戦配備段階ではないとの楽観的な見方があることを踏まえ、「既に最小限の能力は備えており、日本に対して実存的な脅威になっていると見るべきであり、そういったことは中国側も理解してほしい」と語りました。次に、過大評価については、「アメリカに対する抑止力になったと評価をすると、北朝鮮は自信を持ってしまい、かえって小規模、中規模の衝突が頻発しかねない」と注意を促し、適切で冷静な評価をすべきとの認識を示しました。

蛻・ァ台シ・MHI_2297.jpg 小野田氏は姚氏の基調報告を受けて、「北朝鮮の核・ミサイルが中国にとっても脅威だというのであれば、日中間でもっと議論をすべき」とした上で、「安全保障というのはとかくゼロサムゲームになりがちだが、北朝鮮問題では双方がwin-winの関係になれるのではないか」と呼びかけると、朱氏も同様の見方を示しました。

沖ノ鳥島と太平島

蛻・ァ台シ・MHI_2510.jpg 海洋法が専門の王氏は、常設仲裁裁判所の裁定では、南沙諸島中最大の天然地物で、台湾が実効支配する「太平島」が「島」ではなく「岩」と認定されたことを引き合いに、「ならば、太平島よりも小さい日本の沖ノ鳥島も『岩』になる。一方で沖ノ鳥島を『島』だと主張し、他方で仲裁裁判所の裁定受け入れを声高に中国に迫るのはダブルスタンダードではないか」と日本側に問いかけました。

 これに対し神保氏は、2012年に国連の大陸棚限界委員会が沖ノ鳥島の北方など太平洋の4海域約31万平方キロメートルを日本の大陸棚として新たに認める勧告を採択したことを挙げ、「島」としての地位が国際的に認められたと反論。同時に、こういった国際法をめぐる問題については、「国連の委員会で議論する必要がある」と指摘しました。

 香田氏は、中国との会合では度々王氏のような指摘を受けることを紹介しつつ、「『中国の立場と相容れない』と反対している裁定を論拠にするのはそもそも論理矛盾ではないか」と指摘しました。

東シナ海―海だけでなく空も緊迫化―

蛻・ァ台シ・MHI_2606.jpg 大きな懸案の一つである東シナ海をめぐる情勢について、まず東郷氏が、中国公船による領海侵入の件数が8月に急増したことを踏まえ、「これは一体どういう意図があるのか」と中国側に問いかけました。


蛻・ァ台シ・MHI_2358.jpg これに対し張氏は、尖閣周辺海域では8月1日まで休漁期間だったと説明しつつ、その解禁直後なので一気に増えただけと説明。さらに、休漁が明けて大量の漁船が出漁するため、海警局の公船も「パトロールのために尖閣周辺海域を航行する必要があった」とあくまでも周辺海域の安定のための措置と強調しました。

蛻・ァ台シ・MHI_2506.jpg 一方、德地氏は、知り合いの中国人研究者が8月に中国公船による領海侵入が増加したのは、「仲裁裁判所裁定を日本が支持したことの意趣返しだ」と打ち明けたことを紹介。その上で、「反論があるのであれば、行動ではなく言論ですべきだ」と注文を付けました。

 神保氏は、東シナ海における問題として、中国公船による領海侵入の件数もさることながら、その船体の「トン数」を問題視。中国海警局の巡視船の中には排水量1万トンを超えるものがあり、「これはもはや軍艦だ」と指摘するとともに、「こうなってくると警察力と軍事力がオーバーラップしてくるのではないか」と述べ、事態がエスカレーションした場合に適切に対処できなくなるのではないかと懸念を示しました。

 同時に、日本がフィリピンの沿岸警備隊などのキャパシティビルディングを支援するのは、「東南アジアの場合、警察力が弱いため事態によってはいきなり軍艦を派遣せざるを得なくなる。そうなるとますますエスカレーションしてしまう。だから、軍事力の前段階である警察力を上げていくための支援が必要だ」と日本の取り組みの意義を説明しました。

 小野田氏は、5月下旬以降、複数回にわたって中国軍機と自衛隊機が異常接近したことを挙げた上で、「尖閣周辺の『海』については皆が注目しているが、実は『空』の方が情勢は緊迫している」と問題提起。すると、元空軍副司令官の陳氏も全面的に同意し、「海だけでなく、空の連絡メカニズムも早急に構築する必要がある」と語りました。

南シナ海―アメリカのパワーをどう考えるか―

 基調報告で香田氏が示した中国の南シナ海の動きに対する懸念に対し、張氏は、アメリカがオバマ政権以降、アジアリバランス政策を進め、南シナ海では一度は基地を撤退したフィリピンに再駐留を進めていることや、大規模演習、空母の配備などの展開を見せていることに触れ、「中国の南シナ海での措置はこうしたアメリカのパワーへの対抗措置にすぎず、軍事衝突など望んではいない」と力説しました。

 これを聞いた德地氏は、「アメリカの役割について、日米と中国では大きな認識の違いがある」とした上で、「南シナ海が今のところが一応安定しているのは、アメリカによるバランス・オブ・パワーによるところが大きいが、その恩恵を実は中国も受けているのではないか」と指摘。さらに日米同盟によって安定が保たれている北東アジアでも同様の構図があると述べ、「古典的なパワーバランスの概念は今日においても平和的秩序を守る上で不可欠なものになっている」と述べました。

安保法制をどう考えるか

 基調報告における姚氏の「任務が拡大する自衛隊の今後を注視している」という発言を受け、德地氏は「今後、PKOにおける日中協力の拡大はあり得るが、中国は日本の安保法制をどう見ているのか」と尋ねました。

 これに対し姚氏は、「PKOでの活動には反対しないが、集団的自衛権の行使には反対だ」と回答。その理由として、台湾海峡有事や南シナ海での米中衝突など不測の事態が起こった場合、日本がどういった行動に出るのか不透明であるなど、全体像が見えにくく中国にとって不安要素が大きいことを挙げました。

 これを受けて德地氏は、民主主義国家、法治国家である日本においては、集団的自衛権の要件も手続きもすべて法定されているし、その法定も公開の国会審議によって行われ、行使の適正が担保されているていると反論。香田氏も集団的自衛権を行使するにあたっては、「あらゆる事態を想定し、国会でも慎重に審議されるため、自由に発動できるようなものではない」と答えるなど、昨年の第11回フォーラムと同様に突っ込んだ討論が展開されました。

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