言論外交の挑戦

第2回アジア言論人会議報告(2) アジアの民主主義と自国の課題:多様性はどのように民主主義に影響したか

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 第2回アジア言論人会議の第2セッションのテーマは、「アジアの民主主義と自国の課題」。最初に、フィリピンとシンガポールの代表が基調報告を行いました。具体的な事例だけに議論は白熱。浮かび上がってきたのは、民主化の歴史、民族構成、経済の発展段階の違いなどによる多様性でした。

 第1回のアジア言論人会議では、民主主義の共通項として、以下の4点が必要との認識で合意に達しています。今回の議論もこの4基準を意識しながら、展開されました。

1. 国民が自由に意見を言い、選挙制度を始めとする諸制度の中で政治に参加できる仕組みがあるか。
2. 制度を通じて、諸課題の解決に向けたサイクルが機能しているか。
3. こうした仕組みが国民から信頼されているか(汚職や選挙制度の問題)。
4. 実際に市民が、主権者・主体者として政治に関わっているか。


フィリピンとシンガポールの自己診断

IMG_0328.jpg まず、フィリピン大学ディリマン校行政・ガバナンス国立学校准教授のマリア・ファイナ・ディオラ氏(*)が、フィリピンについて基調報告を行いました。

 同氏はフィリピンで過去、覇権主義的な政権が続いたため、本当の民主主義ではないとの批判があると紹介たうえで、「恐れや飢え、不平等といった自由を損なってしまうようなことをなくし、民主主義の自由というものを享受できるような状態を作ること」が課題だと結論付けました。

 同氏によれば、フィリピンの民主主義の発展を妨げている要因として、経済格差と貧困を加速する自然災害、弱い政権だと反政府分子の活動が活発化すること、国民の歴史・文化の違いを尊重するのではなく、自分のやりたいことを優先する傾向があること、恣意的な政争が繰り返されてきたことなどを挙げました。一方、公権力をチェックするNPOなども増えており、市民社会も構築されつつあると述べました。

IMG_0317.jpg 次に、シンガポールの南洋理工大学准教授アラン・チョン氏が基調報告を行いました。
シンガポールは1人当たりGDPでは、日本を抜きアジアの先進国となっています。民主主義という点では、「コミュニティを個人よりも高めて、コミュニティ内での信頼性をあげることがテーマ」との説明がなされました。その背景には、シンガポールの特殊性があります。非常に小さな島国であること、多民族国家であること、グローバル化の過程で530万人の人口のうち5分の2が外国人であることなどです。

 国民と政治参加では、議員が有権者と直接に接する機が増えており、課題解決のサイクルについても、国民のメールでの要望に対して政府が返事をするほか、議員自身が解決に向けて直接動くこともあること、その結果政府に対する信認は基本的には高いということでした。「与党は非常に努力していて、人々の生活の中でその声を吸い上げたり、国民が政府に対してものを言いやすくなっている。言われたことに対して解決する責任が求められているし、そういう姿勢の政府ということでは非常に良いところがあると思う」と締めくくりました。


リベラルな経済と制約のある民主主義

IMG_0310.jpg これに対して元インドネシア外務大臣のハッサン・ウィラユダ氏は、フィリピンは教育の普及には成功した一方、エリート層が特権を守るために、下の層から上層にあがる動きを妨害したことが、民主主義の発展を阻害したこと、これに対してインドネシアは独立戦争を戦ったため既存のエリート層が特権を享受するのを妨げたこと、したがって歴代の大統領も貧困層から富裕層まで、出身層が多様なことを挙げ、これが民主化への移行をスムーズにした一つの要因であると指摘しました。

IMG_0303.jpg 工藤からは、海外からはその強権的なやり方が非難されることの多いドゥテルテ大統領が、「フィリピン国内では圧倒的に支持されているのはなぜか、課題というものに民主主義がなかなかうまく適用できないから、強い政治リーダーを求めてしまうのか」という疑問が出されました。

 これに対してディオラ氏は「ドゥテルテ大統領は、ダバオ市長時代に反汚職や麻薬対策で実績を上げて尊敬されており、その行政官としての能力が評価されて大統領に選ばれた」との見方を示したうえで、麻薬捜査に代表される人権無視の対応については「市民社会、NPOなどが、殺人などこれまでのやり方に対して反対の意見を表明しており、民主主義の感覚という点では疑問視されている。これからこの政府がちゃんと公約を実施できるのか、そしてしっかりと包摂的な社会を民主主義の名の下に実現できるかということです」と、ドゥテルテ政権の課題を指摘しました。

 また、シンガポールに対してハッサン氏から「実際に議員に直接相談ができるということ、しかも経済的な発展が引き続いているのであれば、それは良いことです。しかし、すべての人たちが本当に国を挙げて議論をするということは難しく、実際には自由の欠如もある」との指摘がなされました。

 これに対してチョウ氏は「シンガポールの皮肉というのは、リベラルな経済を重視する一方で、本当にリベラルな政治であると言えるのかどうかということです。世界のリベラルな経済秩序を享受してきたシンガポールは、非常に豊かな社会ですが、ある意味で管理されている部分がある。世界的にもシンガポールはデモクラシーが確立しているということで、人気のある投資先にもなっていますが、それは必ずしも政治的な部分での民主主義の成熟とマッチしていません」と、現状を分析しました。


民主主義の成熟度を測る異質な意見への寛容さ

IMG_0330.jpg 最後にムルデカセンタープログラムディレクター兼共同創設者のイブラヒム・スフィアンが、マレーシアの民主主義の現況について報告しました。

 同氏によれば、1957年の独立以来、民主主義の仕組みはあったが、争点は「人権」をどこまで認めるかということだった。「マレーシアの民主主義というのは、やはり衝突する国益、もしくはそれぞれの利益のための妥協の連続であったと思う」と振り返りました。マレーシアの場合、国家的なアイデンティティだけではなく民族、宗教ごとのアイデンティティも強いわけで、それが国政でも議論される。つまり、その中でバランスを取っていくという課題を背負っていたわけです。

 個別具体的な課題としては政府情報の公開性、強くなり過ぎた中央集権、政治に対する信頼性の低下、都市部と農村部の利害対立の先鋭化、石油輸出収入の減少などに伴う公共サービスの見直しなど、多岐にわたる課題を指摘しました。

 同氏は最後に「全ての意見を拾い上げることはできないので、抑圧的な面も出てくることはある。どうこのモデルから徐々に脱却していって、民主的な原則により力を入れ、アイディアの違う人、意見の違う人に対するリスペクトをより広げるように移っていけるかが課題だ」と述べて、報告を締めくくり、第2セッションを終えました。

(*)パネリストの略歴はこちらをご覧ください

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