言論外交の挑戦

公開会議第2セッション「北朝鮮の核開発を食い止めるために日韓は何ができるのか」

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 続いて行われた第2セッションでは、東アジア研究院院長の李淑鍾氏による司会進行の下、「北朝鮮の核開発を食い止めるために日韓は何ができるのか」をテーマに議論が行われました。

 現在、北朝鮮は核・ミサイル開発を止めることなく、国際社会に対して挑発を続けています。では、北朝鮮の核・ミサイル問題はどうしたら解決することができるのか。米中もそのシナリオを持ち合わせていない中で、北東アジアの平和秩序を形成していくために、日本と韓国はどのように協力し合うべきなのか、といった点に関して議論が展開されました。


北朝鮮の核と弾道弾開発にどう対処すべきか

YKAA2465.jpg 冒頭、日本側の問題提起に登壇した元自衛艦隊司令官・海将の香田洋二氏はまず、北朝鮮の核と弾道弾開発の足跡を振り返りました。

 その中で香田氏は、北朝鮮の核及び弾道弾開発が顕在化した1994年以降の特徴として、六カ国協議をはじめとする開発の凍結・中止(ゼロ・リセット)を企図したあらゆる対話は失敗。米軍の軍事圧力を併用した外交交渉も開発中止には至らず、国連制裁等も効果がなかった」ために、「2006年以降、北はかえって開発計画を促進・加速させた」と指摘。

 その結果、核については、開発・製造が最終段階に入り、弾道弾搭載を前提としたミラーボール試験、ロフテッド軌道など各種実験の実施が繰り返されていると解説。米国の指摘では再突入技術は未確立であるものの、「弾道弾に搭載可能な核弾頭の開発・戦力化は時間の問題」との認識を示しました。

YKAA2509.jpg 弾道弾については、KN17型(射程約500~1000km、対韓国精密攻撃)、北極星2型(射程約1000km)、火星12型(射程約5000km、グアムが射程内)、火星14型(射程6000~8000km、ハワイ・アラスカが射程内)といった様々な機種の発射実験が行われるとともに、開発の最終目標型であるKN-XX型(射程約10000~14000km、米国全土、欧州全域が射程内)の開発も進められ、「米国本土に到達するICBM開発・戦力化完了についても時間の問題」と分析しました。

 その上で香田氏は、北朝鮮の核・弾道弾開発を食い止めるためには、「意図」、「能力(技術・生産設備)」、「資源(資金等)」から成る開発の三要素のうちいずれかを、日本、韓国、米国、中国、ロシア、欧州といった主要関係国が、外交手段(交渉・制裁)や軍事圧力・手段を通じて「ゼロ」にする必要があると指摘しました。


北朝鮮の対米攻撃能力向上と「デカップリング」問題の浮上

YKAA2538.jpg 続いて、韓国側の問題提起を行った元国立外交院院長の尹德敏氏は、まず金正恩・朝鮮労働党委員長率いる北朝鮮がなぜ弾道弾開発に執着しているのか、その背景について解説。そこでは、金日成が朝鮮戦争時の反省から、50年前にすでに沖縄やグアムの米軍基地を直接攻撃できる弾道弾開発の必要性を認識していたというエピソードを紹介し、以降、弾道弾開発は「『金王朝』三世代にわたる夢になっている」と語りました。

 そして、10年前の段階ですでに日韓を直接攻撃できる能力を手に入れた北朝鮮は、さらに大陸間弾道ミサイル(ICBM)にも手を伸ばし始めたと指摘。例えば、今年試射された「火星12号」は、ICBMではないとの見方が多いものの、尹氏はこれを否定し、「6000kmは飛行可能と見られるので、これはICBMと言っていいだろう」と語りました。さらに、今日の公開セッションのまさに前夜に発射されたミサイルについては、高度は3700kmとこれまでにないレベルに達していたことから、「北朝鮮の開発能力は着実に進んでいる」との見方を示しました。

 その上で尹氏は、「トランプ米大統領が言うところの『レッドライン』を超え、金王朝の夢の実現に間近に迫った北朝鮮の狙いは、米国を交渉に引き出し、米本土に届くICBMを放棄する代わりに、それ以外の物(核爆弾、中距離弾道弾等)は認めさせるという取引をすることだ」と分析しました。

YKAA2560.jpg そうした状況の中で日韓両国がなすべきこととして尹氏は、「抑止力強化」、「国際的な枠組みを通じた非核化のための中長期的な努力」、「金体制のトランスフォーメーション」の三点を提示。ただ、その中でも「抑止力」に関しては、韓国は先制攻撃戦略「キルチェーン」の構築に重点を置くのに対して、日本は防衛的な抑止力向上を志向していると両国の違いを指摘しつつ、「どちらも不十分」とし、「抑止力として重要なのはやはり米国の『核の傘』の提供を含む拡大抑止だ」と主張。しかし、北朝鮮が米国に対する攻撃能力を高めつつあることに伴い、米政府が自国への核攻撃で国民の命を犠牲にしてまで同盟国を守るのか疑心暗鬼に陥る「デカップリング(離間)」問題が浮上しているとの見方を示し、「したがって、『アメリカはきちんと同盟国を守る』という信頼性を維持、確保するために必要なことは何か、今こそ議論すべきだ」と問題提起しました。


抑止力をどう考えるか

 続いて、ディスカッションに入りました。まず、尹氏の問題提起にもあった抑止力の問題については多くのパネリストが言及しました。

YKAA2588.jpg 政策研究大学院大学シニアフェローで、元防衛審議官の德地秀士氏は、「米国の拡大抑止については、米国の同盟国である日本と韓国がともにその信頼性を強化するために米国と協力していくべきであるが、米国がLAやサンフランシスコを犠牲にしてまで同盟国を守るかといった議論については既に冷戦時代に答えが出ている話である。核兵器の威力の大きさが余りにも大きいので、もしかしたら使われるかも知れないというだけで抑止力は働く。したがって、拡大抑止の信頼性について根本的な疑問をもつべきではない。」と語りました。

YKAA2643.jpg 参議院議員の松川るい氏は、「ICBMへの核弾頭搭載が間近に迫っている現在、必要なのは抑止力、特にアメリカの拡大抑止が必要である」とし、デカップリングに対する疑念に対しては、たとえ不信があっても、それを口に出してしまえば予言の自己成就のようになってしまうため、「日韓の方から言い出すべきではない」と指摘しました。

YKAA2703.jpg 韓国戦争記念財団理事長で、元国防長官の金泰榮氏は、北東アジアと欧州の違いとして、「ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)」という北大西洋条約機構(NATO)の核抑止における政策上の概念に言及した上で、「日韓も米国との信頼醸成によって、このような枠組みを作る必要がある」と語りました。

YKAA1845.jpg 国立外交院国際法センター所長で、元駐日韓国大使の申珏秀氏は、これまでの「核の傘」が抽象的な概念であったと指摘しつつ、「これからは戦術核兵器や核潜水艦の配備など、より具体的な展開を見せることで抑止力を強化しなければならない」と主張しました。

YKAA2740.jpg 慶應義塾大学教授の西野純也氏は、「抑止については各国でほぼコンセンサスができている」とした上で、「抑止のためにはそれなりのコストを払わなければならない。現在日本ではイージス艦とPAC3の二段構えの備えをしている。しかし、システムを最新のものにアップデートし三段構えにする必要がある」と語り、米国だけに頼るのではなく日韓も抑止力強化にコストをかけることの必要性を説きました。

YKAA2126.jpg 一方、近藤文化・外交研究所代表で、元文化庁長官の近藤誠一氏は、「これからのアメリカはこれまでのアメリカと同じと考えてよいのか」と問題提起。ティラソン米国務長官が国務省職員に対して行った講演では「理念は確かに大事だが、アメリカの利益の方が大事だ。それが『アメリカ・ファースト』の意味だ」と発言していたことを紹介しつつ、「米国が日本や韓国を見捨てるとは思わないが、そのような方向性に動いていくこともあり得ないことではない」と注意を促しました。

YKAA2347.jpg 宮本アジア研究所代表で、元駐中国大使の宮本雄二氏は、冷戦期の核抑止論は、「アメリカとソ連が同じ核の論理で動いていたからこそ成り立っていたもの」と指摘した上で、「北朝鮮は違う論理で動いているかもしれない。我々は従来の抑止論が北朝鮮に対しても有効か否かまだ実証していない」とし、従来の発想にこだわることに対して警鐘を鳴らしました。


北朝鮮の核保有を前提とすべきか 

YKAA2437.jpg 北朝鮮の核保有についても、様々な見解が寄せられました。松川氏が、北朝鮮を事実上の核保有国と考えた上で、これとどう向き合うか考えるべきとの認識を示すと、明治大学国際総合研究所フェローで、元外務大臣の川口順子氏も、「いかにして北朝鮮に核兵器を使わせないか、というところに知恵を絞るべき」と核保有を前提とした視点を提示しました。

YKAA2613.jpg 一方、韓国高等教育財団総長で、元国連大使の朴仁國氏が、より根本的な解決のためには、「核分裂性物質を作ること自体を阻止しなければならない」と徹底して北朝鮮の核保有を否定すべきとの認識を示すと、宮本氏も「北朝鮮が米国とは異なる核抑止論を持っているという危険な可能性がある以上、現段階ではとにかく核開発を止めることに全力を尽くすべき」と訴えました。さらに、国会議員の李哲熙氏は、「核開発を阻止することと、核攻撃を阻止することでは、後者の方が困難が大きいので、やはり開発段階で阻止すべきだ」と主張しました。


危機が高まる現状は協力拡大のチャンス

 一方で、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展を、むしろ日米韓の協力拡大の好機と捉える見方が相次ぎました。

YKAA2085.jpg 上智大学国際関係研究所代表で、前駐米国大使の藤崎一郎氏は、デカップリングヘの不安はむしろ「日韓のカップリングを促す」とし、さらに米国が対北朝鮮に本腰を入れ始めた今こそ「日米韓協力の好機」と語りました。

 朴仁國氏も、これまで周辺諸国が「戦略的忍耐」をしている間に北朝鮮の軍事的脅威が飛躍的に増大したことを振り返りつつ、トランプ米大統領が北朝鮮問題を「トップ・プライオリティ」と位置付けた今こそが解決に乗り出す好機との認識を示しました。ただ、トランプ大統領の動向は不確実性が高く、方針が変わる可能性もあるため、日韓が協力して「米国の積極姿勢を下支えする必要がある」と指摘しました。

YKAA0485.jpg 韓国国家戦略研究統一戦略センター長の文聖默氏も、「米国も国際社会もこれほど北朝鮮に関心を向けたことはなかった」ため、今が最大の好機との見方を示しつつ、日韓ともに多くの在留米国人がいるため、デカップリングは杞憂との認識を示しました。そして、具体的に協力すべき課題としては、香田氏の問題提起に同意し、「意図」、「能力」、「資源」といった「三要素の無効化に向けて協力を拡大すべき」と述べました。

YKAA2303.jpg 日本経済研究センターアジア研究本部首席研究員の伊集院敦氏は、経済面での協力拡大を提案。北朝鮮を平和裏に国際社会に引き戻すためには、「インセンティブの付与が不可欠」とした上で、特に北朝鮮は経済関係における中国依存を脱却し、「多角化を図りたいというのが本音だ」と分析。そこで日韓協力の余地が大きいとの見方を示しました。


対話路線は是か非か

 文在寅政権が進める対話路線を課題視する声も寄せられました。藤崎氏は、国際社会が一致結束して北朝鮮に対して圧力をかけるべき時に、「対話路線を打ち出すのはいかがなものか」と疑問を呈し、韓国側の見解を求めました。

YKAA2673.jpg これに対する韓国側の中で、朴仁國氏は藤崎氏の見方に同意し、文聖默氏もこれまでの六カ国協議などの対話がことごとく失敗していたことを振り返り、「対話で解決できると思うのは誤り」と断じました。

 一方、文大統領と同じ共に民主党に所属する李哲熙氏は、「大統領も対話だけで解決できるとは思っていない。国際協調の枠組みは守るつもりであり、対話はオプションの一つにすぎない」と説明しました。

 申珏秀氏は、「分断国家である以上、常に対話の扉を開けておくことがまず基本だ」と韓国特有の事情に理解を求めるとともに、「大事なのは対話と圧力の組み合わせだ」と藤崎氏に答えました。

YKAA2785.jpg 日本側からは、近藤氏が、「我々は自由民主主義国家だからこれまで自由民主主義的なアプローチで北朝鮮と向き合ってきたが、効果はこれまでなかったし、これからもないのではないか」と対話路線に疑問を呈しました。

 西野氏は、トランプ米大統領も圧力だけでなく、「関与」が重要と語っていると指摘。トランプ大統領の政策は振れやすいが、仮にアメリカが対話中心路線になった際、それは日本のこれまでの方針と異なることになるため、「そこでどう足並みを揃えるのかが課題」と語り、日本側には路線変更に対する心構えが必要との認識を示しました。


民間は何をすべきか

 民間の役割を指摘する意見も相次ぎました。宮本氏は、「これまで北朝鮮の核開発を止めるためのプランを世界のどこも考えてこなかった」ことを厳しい口調で批判した上で、「最も北朝鮮の核の脅威に直面している日本と韓国こそが知恵を出してプランを作るべきである。それを両国の有識者の対話で作るべきだ」と提言しました。

 川口氏も、「日米韓は具体的に何ができるのか。なすべきことのリストを作ることが民間の有識者の役割だ」と語りつつ、同時に一般世論に対する教育の重要性にも言及。「韓国人には日本の安全保障に対するアレルギーがある。日本人自身も安保法制に対する誤解がある。そうしたものを教育によって解きほぐしていく必要がある」とし、そこでも有識者の役割を求めました。

 德地氏も、今回の日韓共同世論調査では、韓国の世論の7割近くが自国の核武装に賛成していることに触れた上で、「自国の核武装は、新たな核保有国の誕生を意味し、核拡散防止条約(NPT)を中核とする核不拡散レジームの流れに逆行するものであるということを理解している有識者と一般世論の認識のずれは大きい」と語り、有識者が世論を説得するような議論を展開していくべきと語りました。

YKAA2796.jpg 日本放送協会報道局国際部副部長の塚本壮一氏は、「韓国人には日本の安全保障に対するアレルギーがあり、日本人は北朝鮮の脅威に対していまだ真剣に向き合っていない」とし、両国民が課題を認識し、何が最も実効的なのやり方なのかを考えられるような「合理的なマインド」を涵養することが日韓協力の第一歩になると語りました。

 伊集院氏は、北朝鮮と強いつながりのあるロシアの役割を重視し、そのロシアも含めたかたちでの北東アジアの経済協力の必要性を主張しました。そして、「そうした枠組みに対して、これまで政府は北朝鮮への支援につながりかねないことから消極的であったが、政府がやりにくいのであれば、トラック1.5やトラック2などによって民間の知恵も入れるべき」と語りました。

YKAA2837.jpg その後、会場からの質疑応答を経て、最後に日本側の司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、「過去5回の対話の中で、今回ほど課題に迫ったことはなかった。この対話を見守った多くの両国民にも問題意識が伝わったはずだ」と手応えを口にしました。そして、「世論調査では多くの両国民が、日韓関係を改善したいと考えている姿が浮き彫りとなっていたが、共有する課題がある今こそチャンスだ」とし、「課題解決を軸とした日韓関係を今から始めよう」と両国のパネリストと会場の内外にいる聴衆に対して呼びかけました。

YKAA1243.jpg 李淑鍾氏は、今回の対話のタイトルに「揺れる日韓関係」という一文が含まれていることに言及した上で、「来年の今頃、北朝鮮情勢がどうなっているかわからないが、『揺れる』の文言が消えた良いタイトルの下で議論をしよう」と述べて来年ソウルでの再会を約束し、「第5回日韓未来対話」の公開セッションは終了しました。

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