朝鮮半島の非核化をどのように実現するのか
~緊急フォーラム「米朝会談の結果をどう読み解くか」報告~

2018年6月14日

⇒ 米朝会談に関する有識者アンケート 結果はこちら

 言論NPOは、歴史的な米朝首脳会談から一夜明けた6月13日、「米朝会談の結果をどう読み解くか」をテーマに緊急フォーラムを開催しました。

kudo.jpg まず、司会を務める代表の工藤泰志が挨拶に立ち、前日行われた米朝会談について、「歴史的な首脳会談と言われながら、非核化に向けた具体的な行動や、期限、検証の方法では合意ができず、今後のプロセスとして先送りされ、単なる政治ショーに付きあわされたような、違和感を覚えた人も多かったのではないか」との見解を語りました。一方で、「朝鮮半島では間違いなく歴史が動こうとしており、私たちは、その準備を始めなくてはならない。そうした中で、朝鮮半島の完全な非核化をどうやって具体的に実現していくのかについて今日は議論したい」と今回の緊急フォーラムの意義を語り、フォーラムは開幕しました。

 今回の議論には、賈慶国・北京大学国際関係学院院長(政治協商会議常務委員)、宮本雄二・元中国大使、西正典・元防衛省事務次官と香田洋二・元自衛艦隊司令官の4氏が出席しました。


今回の会談で交渉を有利に進めたのは金正恩氏

 議論の冒頭、言論NPOが前日に急遽行った有識者アンケートの結果が工藤から報告されました。

 首脳会談の成否については、「どちらとも言えない」が51.9%で最も多く、次いで「成功した」が29.8%、「失敗だった」が14.4%でした。また、会談での合意によって朝鮮半島の完全な非核化の道筋を描けたか、との問いについては、「解決の一歩とはなったが、最終的な解決は今後の協議次第で先行きが見えない」が48.4%で、「前進はあったが、完全な非核化は未解決のまま」の27.0%と合わせ、75.4%もの人が、将来の非核化の難しさを指摘していました。さらに、「両首脳のどちらが交渉を有利に進めたか」との質問には、二人に一人(50.5%)が金正恩朝鮮労働党委員長を上げ、これに対しトランプ米大統領としたのはわずか9.1%だった、との結果を紹介しました。

 ⇒詳細な有識者アンケートの結果はこちら

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会談は成功、失敗? 
     次への一歩か、引っ込みがつかなくなったか

 さて、初の米朝首脳会談は、名を取ったトランプ米大統領と実を取った金正恩委員長とも言われていますが、会談は成功だったのか、失敗だったのか、四氏が語ります。

miya.jpg まず宮本氏は、「今回の会談のみをもって、『会談は成功』とは言いたくないが、次への一歩という意味では成功だった。ただ、問題は山積しており、楽観は許されない」と語りました。さらに、トランプ大統領の目標として、11月の中間選挙の可能性を挙げ、「中間選挙が終わって国内状況が変わり、望み通りのペースで進まず、北朝鮮が動かないという時には、トランプさんが強い態度で臨むかもしれない」との見解を示しました。

kakei.jpg これに対し賈慶国氏は、「核・ミサイル問題の緊張を緩和できたこと、非核化を原則的な共通認識として示せたことの二点で成功だった」と、前向きに捉えました。さらに、「目標に向かって現実化することが大事だ。平和的解決の基礎ができたからと言って、将来のことを話すのは時期尚早で、多くの困難はまだまだある。平和解決に取り組む準備も必要で、喜ばしいが、喜び過ぎる理由もない」と、冷静に語りました。

nishi.jpg 次に、防衛事務次官も務めた西氏は、「両国のトップが会って話をしてしまったから、もう引っ込みがつかない。これからどう転がすかについては、両国に多分、アイディアはない。もう引っ込みがつかないという点では、どこに向かっていくのか、ずっと見ていくしかない」と悲観的に語ります。

 一方で西氏は、北朝鮮がミサイル開発に踏み切った理由として、中韓の結びつきを北朝鮮への裏切りとして反発したこと、通常兵器は費用がかかり、核の方がコスト的に安いこと、かつ、通常兵器では軍にお金が回るために、軍の権限を奪い、国内権益の塊の軍を解体することを挙げました。そして、「今回の交渉は、そうした理由からはメリットであり、とにかくサインするのが目的だったはずだ」と、首脳会談の前後の状況を説明します。


アメリカの採点は「0」

koda.jpg 一方、北朝鮮の核・ミサイル問題についてメディアへの登場が多い香田氏は、「一つの評価尺度では、米朝が当初、意図したものの何を達成し、何を失ったかというと、例えばアメリカで考えると、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)と朝鮮半島における在韓米軍には手をつけないとか、いくつかあった。でも、今回は全て崩されて試験では0点で、アメリカの明らかに失敗」との視点を披露。さらに、トランプ大統領が記者会見で、米韓演習を止めるという話をしたことに触れ、「会談を行った高揚感からだと思うが勇み足だ。演習は『経済的ではない』、『(北朝鮮に)脅威を与えている』という言葉遣いだったが、米軍の最高司令長官からそうした発言が行われたことに対して、軍は耐えられないだろう」と防衛関係者としての現場感覚を語りました。そうした点も踏まえ、今回の会談は北朝鮮の勝ちだろう、と述べました。

 4氏の発言を受けて工藤が「今回の会談の成果は、精一杯だったのか。会談を進める最終的な落しどころだったのか」と問いかけます。


今後、問題になる非核化の定義とは

 賈慶国氏が答えます。「(合意文書の)他のバージョンもあったが、双方が発表できる結果があの文書だった。CVIDの問題など具体的な共通認識では、同意したが公開できなかったとかあったのではないか」との見方を披露しました。さらに賈慶国氏は、「核兵器の放棄は含まれていても、アメリカが韓国で核兵器を配備しないとか、北朝鮮に対して、威嚇として核兵器を使わない、先制使用しないとか、韓国に核の傘の保護を与えない、などを求めるという話もあり、非核化の定義が具体的に何なのか、についてはこれから話し合う必要がある」と、今後の問題点を指摘します。

 この点について西氏も、「北朝鮮の核の議論は簡単だが、アメリカの潜水艦の核などはどうするのか。朝鮮半島の非核化となった時、何をアメリカの核として廃止対象にするのか」という問題はあると賈慶国氏の意見に同調します。さらに、「北朝鮮にとって自分の体制を守るというのは、アメリカのみならず、中国、ロシアも含め、自分の体制を保証してくれるとわからない限りは核放棄もない。いつ約束できるかわからない北朝鮮の核放棄と、定義できるかわからないアメリカの核の廃止、朝鮮半島の核廃止という問題をどう乗り越えるのか」と、複雑な核廃絶の困難さを話します。


 続いて工藤は、トランプ大統領には真に非核化に向かうための覚悟があるのかと問いかけました。


トランプ大統領に対し、安倍首相がしっかりと助言することがカギとなる

 これに対し西氏は、朝鮮半島の非核化といった場合、問題は北朝鮮の核を廃棄することだけではなく、アメリカの核も問題になると解説。しかし、「アメリカの核をどう定義するのか、何を廃棄対象とするのか」といった点が実は曖昧であるとした上で、「不透明な北朝鮮の核と、対象が定かではないアメリカの核をどう考えるのか。これは逃げ水を追うような議論になるが、この難しさをトランプ大統領は本当に理解しているのか」と懸念を示しました。

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 香田氏は、両首脳が署名した共同声明の中で、「マイク・ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が主導して、できるだけ早い日程でさらなる交渉を行う」という一文に着目し、「来週にも交渉が始まるというのにもかかわらず、北朝鮮側の担当者がまだ決まっていない」ことを指摘。その上で、「穿った見方をすれば」と前置きしつつ、担当者を頻繁に交代させることで交渉を引き延ばしたり、合意事項を反故にしようしたりとするのではないかと分析しました。そして、そうした中では、アメリカ側に軸のぶれない確固たる方針が必要であるものの、トランプ大統領がこれまでCVIDを強硬に主張していたにもかかわらず、あっさりとその主張を変えるなどしたことから香田氏は、「このように目標を堅持しない態度は危険だ」と警鐘を鳴らしました。その上で、安倍首相にはトランプ大統領が迷走しないように「しっかりと助言すべき」と注文を付けました。

 続いて、工藤は「ずばり、北朝鮮の核問題は解決できるのか」と直球の質問を投げかけました。


決して楽観はできない

 賈慶国氏は、非核化プロセスにおいては、査察をはじめとして主権国家に対する過度の干渉となり得るようなことが多々あるとし、プライドの高い北朝鮮がこれを受け入れる上では相当の忍耐を要すると指摘。さらに、金委員長は韓国との軍事バランスを保つ上でも、自らの生存を確保する上でも本来的に核は不可欠と考えているため、国際情勢の変化によっては核放棄撤回に踏み切る可能性が高いとし、楽観論を戒めました。

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重要なのはこの1カ月

 西氏は、今回の会談において金委員長には多くの収穫があったとした上で、しかし譲歩を貰ったにもかかわらず、約束を果たせなければトランプ大統領の怒りを買うのは必定であるため、「かえって自分の首を絞めかねない」と語りました。しかも、金委員長にとって勝負となるのはこの1カ月であり、ここでポジティブなメッセージを世界に対して出せなければ、一気に窮地に陥ることになるとの見方を示しました。


ここで止めなければ"地獄"が待ち受けている

 仮に非核化が出来なかった場合に世界はどうなるかを問われた香田氏は、「核保有国北朝鮮を起点とした世界への核の拡散が始まる」と回答。その上で、そうした事態は「今戦争をするよりももっと酷い地獄になる」とし、であるからこそ今ここで解決しなければならないと強調しました。

 最後に工藤は、「では、我々は今何をすべきなのか」と問いました。


北朝鮮に希望のある未来を感じさせることが大事

 これに対し賈慶国氏はまず、朝鮮半島の安定と繁栄は関係各国共通の大きな利益であることを再確認する必要があると主張。その上で、日本や中国がなすべきこととしては、経済援助や体制の保証などを含めて北朝鮮が非核化のメリットを感じられるような案を提示し、「希望のある未来を感じさせることが重要だ」と語りました。同時に、これから先、アメリカに北朝鮮が受け入れ不能な要求をしないように説得することも必要になると付け加えました。


今こそ知恵を出し合うべき

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 宮本氏はまず、これまでの関係各国が自らの国益のみを追求して連携してこなかった結果、今日の北朝鮮の核開発進展を招いたと振り返りました。その上で、「そろそろ各国は知恵を出し合ってまとまるべきだ」と主張。各国が緊密な連携を進める中でこそ、賈慶国氏が言うような案も出てくると語りました。同時に、各国の連携をしていく上ではやはりトランプ大統領の"アメリカ・ファースト"は危険であるとし、日本としてはそれを抑えるための大きな役割を果たし、国際的な連携を積極的に主導していくべきと提言しました。また、民間、そして言論NPOに対しては、そうした連携や案作りを先取りするような動きを期待しました。

 その後、会場からの質疑応答を経て最後に工藤は、「歴史的な変化が始まった。北東アジアの平和実現に向けて議論を加速させていきたい」とし、まずは今月22日の「第6回日韓未来対話」に向けた強い意気込みを語りつつ、白熱した議論を締めくくりました。

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