日韓間の信頼をどう構築するか
~非公開対話セッション1報告~

2018年6月23日

⇒ 「第6回日韓未来対話」関連記事一覧

0B9A5484.jpg

 6月22日に開幕した「第6回日韓未来対対話」は23日、10時から17時30分まで、合計約8時間にわたる3回の非公開セッションが行われ閉幕しました。

 午前中に行われた非公開セッション1では、「日韓間の信頼をどう構築するか」をテーマに、日韓両国から2名ずつが基調報告を行い、2時間にわたって本音の活発な意見交換が行われました。

kudo.jpg 冒頭、司会を務める言論NPO代表の工藤泰志が、「現在の日韓関係は大きなチャンスを迎えている。それは未来に向かい合うチャンスだ。しかし準備は十分に出来ていない」と述べつつ、「だからこそ、その準備をするために非公開の対話である今日の対話を活用し、遠慮しないで本音で議論したい」と語り、議論を開始しました。


世界的な視野に立って日韓両国の在り方を考える時がきた

ogura.jpg トップバッターとして発言した小倉和夫氏(国際交流基金顧問)は、歴史的に見ると日韓関係は、①軍事的、あるいは戦略的連携、②貿易、投資、技術など、経済交流と協力、③自由主義、民主主義の育成、許可のための連携、④文化、観光、スポーツなどの分野における交流の4つの柱によって支えられてきたと説明。そして、「4つの柱にまつわる歴史的問題点を明確化した上で、今後の米朝関係の変化や、南北朝鮮間の緊張が緩和した場合、これら4つの柱にどのような影響を与えるのか、さらにその結果を受けて、日韓関係にどのような変化や発展を与えるのか」と指摘し、4つの柱について考察の必要性について具体的な考察を語りました。

 さらに小倉氏は、日韓間の信頼構築のために日韓両国民が留意すべき点として、まず、国家と国民をできるだけ区別し、国家の行為を以って国民一人一人の関係を傷つけないよう留意すること、次に、政治が介入すべき分野とすべきではない分野を選別し、過度の政治的介入を控えること、最後に日韓関係を極東地域、アジア、ひいては、世界的視野に立って両国関係の在り方を考えることを挙げ、基調報告を締めくくりました。

YKAA0581.jpg


日韓パートナーシップ20年の節目に、信頼醸成のための戦略的コミュニケーションを

1.jpg 次に基調報告した申珏秀氏(韓国国立外交院国際法センター所長、元駐日韓国大使)は、現在日韓両国が歴史的な転換期に置かれているにもかかわらず、日韓関係は国交正常化以降、最も悪い状況が続き、それは6回の日韓世論調査結果を見ても明らかだ、と語りました。その原因として、相互敬遠現象が深刻化し、お互いを敬遠しているか、無視し続けていることで、対日、対韓関係が悪化している可能性が高いことを指摘。こうした状況を打破するためにも、日韓間での信頼構築が必要であり、そのためには、急がない(No rush)、責任を問わない(No Finger-pointing)、同じ道を歩まない(No Backtracking)の「3 Nos」や、フランスとドイツの間で結ばれたエリゼ条約のような条約を結ぶことなど、日韓パートナーシップ20周年の節目に、新たな20年を目指して信頼醸成のため戦略的なコミュニケーションを行うことを提案しました。


互いの問題意識を理解した上で、北東アジアにおける新秩序構想を作るべき

nishino.jpg 続いて基調報告した西野純也氏(慶應義塾大学法学部教授)は、日韓パートナーシップが結ばれた20年間で日韓両国に何があったのか、協力関係はどう進んだのか、さらに、環境がどのように変化したのかを改めて評価する必要性を主張した上で、今後の日韓関係を考えることが重要だと語りました。

 さらに、西野氏は小倉氏の「国家と国民を分ける必要がある」という点に賛意を示し、「毎年の世論調査結果を見ても、両国共に国家と国民を分けて考えられていない。リーダーの存在を意識して評価する傾向が大きく、日本では比較的支持の高い安倍政権は韓国での支持は低く、逆も然りである。リーダーだけで判断するのではなく、相手の国民を見なければならない」とその重要性を指摘します。加えて、政治家や若者、経済界など、様々な分野での日韓ネットワークの再構築の必要性も主張しました。

 もう1つの重要な視点として西野氏は、日韓両国の将来構想におけるお互いの立ち位置が、どのような問題意識からきているのかを理解することだと主張。特に、北東アジアにおける新しい安全保障秩序ができることは日本にとっても望ましいことであり、互いの問題意識を理解した上で、北東アジアにおける新しい秩序構想を作っていく必要性を指摘しました。

0B9A5569.jpg


朝鮮半島の平和構築は、日韓間の価値の共有を強化する機会になる

YKAA0643.jpg 最後に基調報告にたった李政垣氏(ソウル大学校外交学科教授)は、自身が教える学生と北陸・関西を訪れたことを紹介し、東アジア研究院(EAI)と言論NPOが実施した世論調査結果と同じように、韓国の若い世代の対日感情の改善を感じたとし、全体的には日韓で対立がなくなる方向にあるものの、短期的な観点では管理されているがなかなか好転が見られていない部分もある、と世論の改善の難しさと指摘しました。

 また、李政垣氏は日韓における共通の価値として民主主義と人権を挙げ、「東アジアにおいて日韓両国は価値を共有する重要な国であり、日本が行う価値観外交は韓国の立場からは否定するのは難しく、お互いに共有できるものだ」と語りました。加えて、李政垣氏は北東アジア地域における民主主義や繁栄、そして平和の価値を共有する日韓両国のアイデンティティを日韓関係の将来に向けた基軸にする必要があり、朝鮮半島の平和構築は、日韓間の価値の共有という側面を強化する機会になり得ると語り、普遍的な価値の共有の取り組みの必要性を主張しました。

 以上の4人の基調報告を受け、本音ベースの活発な意見交換が行われました。


経済人は被害者で政治家は加害者だ

0B9A5481.jpg

 基調報告の後、代表工藤の「本音でお願いします」というディスカッションに入りました。まず、韓国駐在19年という経済人が、「韓国駐在の経験から腹立たしい部分がある。日韓関係は、70年間大波小波があっても改善していることは事実で、経済という観点から韓国は、三段階のパラダイムチェンジを通じ、特にIMF加盟以降は大変な成長を遂げてきた。金大中大統領が外国資本をどんどん取り入れた結果が、こうした韓国の経済の発展をもたらした。日韓の交流が大事ということは、韓国の方にも理解されているだろう。しかし、2012年に李明博元大統領が天皇陛下に謝罪を要求した時から、激減した。これは大変なインパクトで、政治が邪魔をした」と本音を語ります。

 日韓間の信頼をどう構築するか、というテーマでは、政治面での議論が多くなるのに反発するように発言は続きます。「2003年廬武鉉元大統領の時に日韓FTAは絶対すべきだと関係者として言った。日本と韓国のマーケットを一つにし、人的資源的技術的交流が自由に進むべきだと提案したのに実現できない。検討は十分しているのになぜできないのか、腹立たしい。そのバリアを取りたいのに、全然実現できていない。まさに"TALK ONLY NO ACTION"。これは双方で考える必要がある」と被害者・経済人としての立場から、非公開ならではの厳しい意見が飛び出しました。


日韓はニューノーマルな関係に

 これに対し、韓国の学術関係者からは、「日韓関係の現状は変わった関係で、日韓正常化の65年体制に返れるのか、そこはすでに卒業して、新たなニューノーマルでいかないといけない」という視点を示しました。さらに、「国際環境も変わったし、両国の性格も変わった。国内体制もかなり違うので、ニューノーマルが新たに作られていることがわかる。にもかかわらず異常で、いつまで続くのか憂慮している。これを正常化するためには首脳会談が必要だ」と語ります。さらに、「国民・国家を分けるべきだという話があったが、首脳会談が行われれば国民の認識は変わるはず。金大中元大統領と小渕恵三元首相の共同宣言20周年の契機をうまく生かしていけば、両国の改善につながるのではないか。安倍首相は地球儀を回す外交をし、ほとんどの大国と関係を上手く進めているように見える。両国の関係改善の契機をつかむべきで、双方が共感をつかむことが大事だ。その意味でも、日韓は歴史問題を外交のアジェンダとして出さず、問題を最小化していくべきだ。政府が主導する画期的な方法で解決するというような、過度な意欲は捨てるべき。何をしないことが大事か、を考えることが必要です」と、話しました。

YKAA0739.jpg

 このニューノーマルの視点は韓国側に強いようで、政策研究者が話を繋ぎました。「今は、ニューノーマルに転換している。日韓関係は戦略的な価値を共有する意識が弱くなり、無関心が深まっている。そして、国民間の不信の溝も深まり、日韓関係を積極的に発展させる意識も弱い。そうした特殊な日韓関係から、民間の役割をもう一度振り返る必要がある」と民間の役割に期待を示しました。さらに、「日本の地方に行くと関係はとてもよい。福岡とか札幌にはたくさん韓国人が行っているし、日韓交流を発展的にやる意思がみられる。地方と地方の交流を活性化させ、これをボトムアップすることが大切だ。若い人たちは日本の文化、特にグルメに強い反応を示しているので、世代間の交流も重要だ。中央政府の和解や発展のための方策に重要性を見るよりは、文化交流を通じてより段階的にやり、現実に見合った形の政策が必要ではないか」と述べました。政府の動きよりも、幅広い民間交流の深まりが、今後の日韓関係の方向性を示していると語ります。
 

和解への四つの条件   ――加害者は事実を認め謝罪し、被害者は寛容の心を持つ

 日韓関係では、歴史問題が大きなトゲとして残っています。両政府は問題を管理する方向で進んでいるようですが、歴史問題を抱える国、国民はどうやって進めばいいのでしょうか。お互いの"和解"――これに日本の学術関係者がその本質を語りました。

 「戦後70年の安倍談話で韓国のことが入らなかったことは残念だった。1931年の満州事変を転機にしたので、1910年の韓国併合のことは入らなかった。和解は難しいもので、戦後ドイツ・フランスの協力条約であったエリゼ条約は、和解を目指したものでなく、結果的にああなったということだ。和解には、双方が歩み寄り、利益を見出し、国家国民にその意思があるなど四つの条件がある。加害者は事実を認めて反省、謝罪する心を持ち、被害者は寛容の心を持って、相手を許すけれども忘れないことが大事になる」と語ります。さらに、「大事なのは、日本は日韓の和解への試みはやったし、やっていないわけではない。小渕元首相の共同宣言を読んでも明確に、日本は韓国国民に対して多大な損害を与え、植民地支配を反省し、お詫びすると言っている。しかしそれを忘れた。1998年の日韓共同宣言では村山談話を重視すると書いた。それをないがしろにすると、日韓共同宣言を反故にすることになる」とした上で、何ができて何ができなかったのか、和解プロセスの検証が、歴史研究と同様に必要ではないかと指摘しました。

 金大中・小渕の和解については、日韓関係に多大な尽力をし、この日死去した金鍾泌元首相の存在が金氏を支えていたと、当時和解交渉に参加していた元政府関係者が、その時の状況を説明しました。「元首相が金大中を支えていたのは忘れられている。同時に、日本側の小渕氏は自民党だが、保革連合政権の非常にリベラルであったその流れが生きていた。韓国側も同様で、金大中政権を作り出したのが単に保守ではなかったことを忘れるべきではない。現在の状況をどう見るかはそこから出てくる。被害者、加害者の関係について。日中国交正常化の作業を行っていたが、中国は、日本の国民も国の軍国主義の犠牲者であると区分論を掲げていた。でも、それには無理があった。つまり被害者、加害者という時、常に国家だけを考える。しかし国民はどうか。国民は戦争の被害者で、植民地支配の被害者であったとさえ言えるので、国民がどうなっていたのかについても考えるべきだ。国と国の関係のみを考えても、そこに大きな問題が生じる」と話すのです。

YKAA0683.jpg


政府は不必要な行動はするな

 一方、韓国の歴史研究者からは、「日韓の信頼構築について、一番障害になっているのは歴史問題。日本のスタンスは80年代まではアメリカに追いつくことだったが、失われた20年で保守化傾向が強まり、中国が台頭してきて余裕がなくなってきた。指導者が発言すると世論を反映しているように見えるが、日本の肯定的な要素をもっと韓国に伝える必要がある。慰安婦問題はセンシティブな問題だが、それが成熟した段階で問題になっており難しい。政府間合意は国際的なルールだが、今は政権が代わり曖昧な状況になってしまった。日本の立場からすれば、政権交代で政府間の協定を再びテーマに上げるのは常識レベルでは考えられず否定的な影響が出た。慰安婦問題は難しい問題だ」と、日本に一定の理解を示しました。

 議論では、韓国側の対日印象の変化を口にする意見が続きました。「韓国の日本に対する見方は、嫌悪不満もあるが、過去と比較すると、当時は日本の助け無くして韓国は発展できず依存度が高かった。私はソウル大学に入る前に、日本の名門高校の問題集を使った。今、韓国社会に広まっているのは、あえて日本に頼らなくても、国際社会の中で生きていけるという考え方がだいぶ多い。それを恐れるのではなく、逆に新しく健全な対等な中で、日韓関係が発展できる状況ではないだろうか」と指摘。さらに、「例えば独島訪問などは不必要で、両国関係に傷を与える。わざわざしなくても良いことを政府がしている。それよりボトムから共存できる分野を探すことが必要だ。昨年、東芝問題でSK・東芝間での難しいディールの成功で、韓国企業、日本企業が互いに補完できる分野があると証明した。第二第三の形で出てくれば非常に良いパートナーという認識になる」と建設的な話も数多く出されました。

 2時間にわたった活発な議論が行われ、午前中の非公開対話セッション1は終了しました。

0B9A5619.jpg