歴史的な局面で、数多くのドラマを生み出すフォーラムに
 ~「第14回 東京-北京フォーラム」事前協議 報告座談会~

2018年7月13日

⇒ 新たな政治文書の基礎となる「平和宣言」を発表することで合意
~「第14回 東京-北京フォーラム」事前協議 報告~


IMG_9297.png明石康
(国際文化会館理事長、元国連事務次長)
宮本雄二
(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
工藤泰志(言論NPO代表)


2017-04-20-(18).jpg工藤:今回の「東京-北京フォーラム」での対談は14回の対話の中でも歴史的な局面であると同時に、チャンスだという声もありますが、宮本さんは今回の対話の意義をどうお考えですか。


歴史的な局面で行われる「第14回 東京-北京フォーラム」の意義

2017-04-20-(9).jpg宮本:アメリカと中国の貿易戦争と呼ばれるように、米中両国が正面からぶつかり合うような状況が生じて、アメリカが中国に対して全面的に対抗していくという戦略も打ち出され、実際に対抗措置が実行されたことで、中国の人たちも「ちょっと待てよ、世界は大きく変わったかもしれない」ということを本能的に感じています。研究者はこれが大きな世界の転換点で、その中にある国際情勢が反映していると理解しています。その理由の1つは中国がこれだけ大きくなったということだと思います。要するにアメリカという要素が入ってきて、大きな転換点の中で、もう一度、日本との関係を見直してみたら、実はとても重要な関係だということを再確認したというのが中国の状況です。そうであるなら、日本と緊密な関係を持ちたいし、できれば日本との関係を中国が考える国際的な環境の安定や有利な方向への発展へと役立てたいはずです。中国にとってみれば世界的な視野で日本との関係を考えなければならないのです。

一方で、日本の立場からしても、間違いなくグローバルな変化が起こっている中で、日中間の対話を強化することによって、日本の外交の選択肢が広がると思っています。日中両国は北朝鮮を含む北東アジアの安全保障の問題を必死になって考えなければなりませんし、米中が経済面で衝突しただけでも大変なのに、ましてや軍事的な危機になってしまうとより大変になってします。だから、日本が中国との対話を強化して、日中が今の事態にどう対処するか、という新しい視点が必要なのです。

結果的に、中国にとっても日本にとっても昨年とは比べ物にはならない背景のもとで開かられる「東京-北京フォーラム」だと実感しています。

工藤:「東京-北京フォーラム」がなぜ始まったかというと、日中両国の信頼醸成や両国民間の相互理解が進んでいない状況を民間レベルでも議論し、両国に横たわる課題を解決するための動きをつくり出したかったからです。そして、今日では世界の大きな転換点の中で日中関係の協力が別の形を持ち始めている、ということを明石さんや宮本さん、私も持ち始めています。一方で、今まで日本は民主主義の規範をベースに世界の中を生きていました。確かに日中関係に新たな領域は広がってきたと思いますが、日米関係を切り捨ててしまうのかということを思う方もいらっしゃると思います。我々が考えている日中対話の意味を、世界が大きな転換を迎える中で、どのように考えればいいのでしょうか。

2017-04-20-(1).jpg明石:日中関係と日米関係は切り離せないものだと思います。私はアメリカの世界的な地位が今までよりは低下し、中国の地位は上がっていくという文脈の中にありながら、なおかつ日本とアメリカとの距離と中国との距離は少し違うと思います。アメリカはやはりナンバー1の超大国であり、中国はナンバー2の超大国という厳粛な事実があり、アメリカとの関係を調整しすぎると日本の世界的なバランスが崩れてくると思います。中国との関係はより重要になることは間違いありませんが、中国はまだナンバー1のところまではいっていないわけですし、中国との関係は近くなっているものの、アメリカとの関係とは比較はできません。

北朝鮮の非核化に向けた査察・検証の問題については、中国も頑張ってくれるとは思いますが、アメリカのガバナンスの構造の中ではアメリカの国務省が果たす役割はより大きい。特に韓国の情勢が北朝鮮との関係でかなり感情的にのめり込む中で、時には厳しい態度を取り得るアメリカと、北朝鮮に擦り寄られている中国の現状を考えると、この方程式が非常に複雑になってくるのです。それは日本としても考えなければならず、今度そのギアチェンジをしすぎるとまたバランスが崩れるという面は忘れてはなりません。

工藤:今の話は本質的な話でした。確かにトランプ大統領がマルチラテラルな様々な協力体制について、自国主義をベースに世界を不安定化させています。それに対して中国は、あたかも自由の旗手だという言い方をしているのですが、日本の立ち位置をどこに置けばいいいのでしょうか。


国際秩序の維持のために日本は何ができるのか

宮本:トランプ的なアメリカが、我々の想像を超えるアメリカ社会になっていったということに我々は驚いています。一方で、我々と同じような考え方を持った人たちもまだアメリカにたくさんいます。しかし、昔ほど国際協調主義的で、全面的に関与しなければならないという考えをもった人々の勢力は弱くなっています。そうしたアメリカの内向き志向が始まり、昔に比べるとアメリカの地位は下がってきますが、それでも依然として、アメリカの存在は重要です。さらに、トランプ大統領のやり方は、あまりに既存の秩序に挑戦しすぎていて最終的にどうなるかわかりませんが、国際社会が動揺しているときだからこそ、これまでの国際秩序から利益を得てきた国々が今までの国際秩序を守るのだという決意を示し続けていくことが必要なのです。そうした中で、日本の最も自然なパートナーはEUなのです。逆にいえば、「G7-アメリカ」になってしまうのですが、この関係性が一番大事なのです。

一方、中国も昨年初頭ぐらいから習近平・国家主席が大きな路線修正をして、既存の大きな国際秩序に対する「挑戦」ではなく「補完」だと言い始めました。内心どうかということはこれからの言動を見なければなりませんが、そういう方向を打ち出して、どこまで本気なのかを証明していくことが必要です。ですから、これまでの秩序を中国と議論をして、中国が本気でこれまでの国際秩序を支えなければならないと考えていると判明したら、そういう面で仲間にすれば良いと思います。特に経済、中国が「自由貿易」と言った際、どこまで考えているのかが重要で、「自由貿易」を主義として主張する以上、最終的にはそれを実現する決意がなければなりません。日本もそれに関しては必ずしも優等生ではないかもしれませんが、農業の問題にしろ、医療や労働の問題にせよアメリカと比べると自由化されていないのではないかという気がします。そうなると中国もそうですが、日本もトランプの保護主義反対というのであれば、「自由貿易」ということについて覚悟を固める必要がでてきます。中国には果たしてそれぐらいの覚悟があるのかということをしっかり見極めていかなければなりません。私は、「東京-北京フォーラム」を、そのような場として使えば良いと思います。

工藤:今の話を聞いてもう1つ伺いたいのは、確かにアメリカはダメ、中国も不安。しかし、戦後の日本の歩みはマルチラテラルの経済協力や自由や民主主義の規範を大事にしたから成長してきたわけです。色々な問題があるにせよ、日本の今後の生き方として、そうした規範を守る側になって中国と対話をするとか、アメリカと対話をするとか、そのように格好良くはいかないかもしれませんが、そのように立ち位置を守るということはあまりに理想過ぎるのでしょうか。

明石:日本が戦後保ってきたマルチラテラリズム、世界主義の立場や民主主義の立場は基本的に正しいと思います。アメリカがトランプという全く異質的な大統領が出現して、フラフラしているけれども、私はアメリカの政治的な伝統、基本的なガバナンスの重要性や、そのダイナミズム、そういうものがやはり世界で最も安定的なものであるという可能性は高いと思います。今後もアメリカはフラフラするかもしれませんが、アメリカの復元力は4年後に発揮されるのか、8年後に発揮されるのかは冷静に見ていかなければなりませんが、トランプ以外のアメリカというものがどれだけ我々が信頼できるものなのか、これを確かめることが必要です。

またEUの話が出ましたが、EUはアメリカ、中国に次ぐ第三の勢力になるには日本よりは総合力において大きいわけです。しかし、ドイツのリーダーシップの減少やイタリアやスペイン、東ヨーロッパにおけるポピュリスト政権の出現によって、EU内部の結集力が落ちたことで、EUの強さが揺らいでいます。NATOの話については、国際機構というよりは軍事機構ですから別の問題になってきます。

日本はそういう意味では中国の持つ意義を忘れてはいけないのと同時に、中国と北朝鮮が朝鮮戦争以来保ってきた結束というものが、多少韓国の出現によって弱まってはいますが、やはり北朝鮮の金正恩が、習近平を三度も引き続いて訪れるということからわかるように、中国もまたなかなか決断できないような局面が出てくるだろうし、中国と日本との色々な意味での新しい局面を追求することはとても大事です。私は例のAIIBとの協力関係も本当に密接なものにしうるという可能性は一生懸命未来を見ながら追求していくべきだと思います。

工藤:これまで日本は、アメリカと一緒にやってきましたが、いよいよ日本は自由や民主主義と言った規範を守るために、独自の戦略をきちんと持ちながらアメリカや中国と付き合っていかなければならないという理解でよろしいでしょうか。

宮本:戦後作り上げてきた国際秩序を支える理念というのは経済のリベラリズム、政治のリベラルデモクラシー、そして方法論としてのマルチラテラリズム、そこに集約できると思います。そして法の支配というものが戦後の秩序を作っているのだと思います。日本はまさに、それらを支持してきました。これまでの日本の歩んできた道は国策としては正しかったし、これからもそういう国際社会であり続けることが日本の利益に間違いなくなります。だからこそ、同じ考え方をもった国々と協力して、それを維持するように努力することが必要です。

私は、アメリカも紆余曲折があると思いますが、最終的にはここに戻ってくると思っています。今は離れているように見えますが、アメリカがそこから離れた異質な国になるとは私には思えません。アメリカは最終的に民主主義の補正能力で最終的には戻ってくると思いますが、それまでは、日本やEU、例えばドイツなどが中心となり、協力してやっていかなければならないと思います。


「第14回 東京-北京フォーラム」で何を実現するのか

工藤:世界的な大きな変化の中で、中国自身が自由やマルチラテラルの環境を自分たちの主張だ、として動き出しました。そうした中で日本と新しい関係を築くということが今回の事前協議の中でもかなり出てきました。非常に大きな歴史的な局面の中で今回の「東京-北京フォーラム」は東京で開催されることになります。

私たちは、今回の対話での議論を通じて1つのコンセンサスを得たいという大きな決意のもとで今回の事前協議を行い、記者会見で発表しました。我々は今回このフォーラムの中で何を実現すればよいのでしょうか。

明石:今回のフォーラムでは、今までにも増して世界の大きなモヤモヤとした力がぶつかり合う中で、もう少し安定的、平和的なものにして、戦後続いてきた日本にとっての理念を実現させる大変重要な機会であり、それを見逃すことがあってはなりません。そういう意味では、日中を中心とした我々の対話は今までにも増して重要なものになっていきますし、そうしていかなかくてはならないと思います。

工藤:今年は本当の議論をしようと考えています。世界が大きく変動する中で、中国は自由というものを主張し始めましたが、我々は違うと思ったら違うと言わなければならないということです。一方で、議論の結果、1つのメッセージにつなげたいということを求めているのですが、我々は何を実現すべきなのでしょうか。

宮本:中国は何でもわかっていて、最終的な考え方もしっかりもっていて、それに向かって着々と進めているという中国像がありますが、私はそうは思っていません。これだけ急成長して、ヨーロッパが200年ぐらい、日本が100年ぐらいかけてやってきたことを中国は4、50年で成し遂げました。しかし、もの凄いスピードで変化したがために、様々なものが発展途上にあります。日本がこれまで支持してきた原理原則は、国際政治上は最終的に中国の利益にもなると思います。中国が覇権王国を作って、皆自分の意見を聞くような世界を作ろうと思っているようならいざ知らず、それは客観的に見て不可能です。

そうであるなら、現在のシステムを支えることは最終的に中国の利益にもなりますし、当然日本の利益にもなります。その一致点を探すということが国際社会の動揺を少しでも小さくするということになると思います。日本と中国の関係をグローバルに眺めていると、そのグローバルな視点が大きく変わってしまい不安定化してきた。これをどう支えるのか、ということについて新たな観点が出てきたのだと思います。まさに異なる考え方がぶつかり合って新しい創造的で建設的なものができるというプロセスなのかもしれません。日中両国が意見をぶつけ合って、何か建設的なものを今度のフォーラムで作り上げることができれば、これは地域のみならず世界にとっても大きな貢献ができると思います。

工藤:今年は本当にすごい対話になると思います。また、今年は日中平和友好条約40周年の節目の年であると同時に、北朝鮮問題を含め、北東アジアの平和問題も抱えています。我々は今回の対話で1つのコンセンサスをまとめたいと思いますが、どのようなコンセンサスをまとめればよいのでしょうか。

明石:我々は今まで経験したことのないような難しい方程式の前に立たされていますが、新しい大国となった中国と、旧い大国であるアメリカの間で日本が果たす役割は極めて大きく難しいと思います。長い目で見てこの両大国から、日本はやはりこのような存在であってよかった、と思われるような大きな視野をもっていて、両国に対して本質的に親しみをもった信頼できる国としての姿を評価してもらえるような日本という姿を浮かび上がらせてほしいです。そして、世界にとっても目の離すことできない1つの国としての日本というのが鮮明になっていくような未来であって欲しいと思います。

宮本:まさに今年は日中平和友好条約の40周年という節目の年ですが、平和友好条約の中に我々は法律的に約束していることがあります。これは法律的に約束していることですから、いい加減にできないのですが、その基本は「平和と協力」です。ですから、我々は平和を保ちながら、協力を進めていくということになります。しかしタイトルは「平和友好条約」なので、そのようなことを進めることによって友好が生まれていくという考え方であり、出発点なのです。

今の時代もこれが残っている以上、「平和と協力」を再確認して、激動する世界の中で日中関係がどのようなグローバルな役割を果たすのかを加味した新しい日中関係に関する示唆を得られれば素晴らしいものになると思います。

工藤:私たちの「第14回 東京-北京フォーラム」は、東京で10月中旬に開催されます。このような歴史的局面において、だんだんレベルが高まってきているのですが、その中で明石さんや宮本さんのような人々と、このようなドラマをつくることができるのは非常に光栄なことだと思っています。何としても成功させたいと思っていますので、ぜひこの10月のフォーラムに向けて、本番の対話以外にも議論や対話を行いますので、見守っていただければと思います。

明石さん、宮本さん、今日は本当にありがとうございました。