貿易、金融開放など、様々な分野で日中両国が前向きに協力していく姿勢で一致 ~経済分科会報告~

2019年10月27日

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 続いて行われた経済分科会の後半部分は、前半で示された課題を念頭において、日中間の協力の在り方について検討が行われました。前半同様、日中2人ずつ、計4人の問題提起から始まりました。


日中間では、貿易、人的交流など、様々な分野で協力が必要との見解で一致

 まず、三井住友フィナンシャルグループ執行役社長の太田純氏は、日中間の金融機関の協力の方法について、インフラ投資などのプロジェクト単位での取り組みの増加に言及しました。一方で、プロジェクトを行うためのリスクの評価方法が日中で異なるという課題を示し、案件の透明化や人材の交流を通して両国の共通化を図っていくべきだと語りました。

 続く東京大学公共政策大学院特任教授の河合正弘氏は、第三国での日中企業による共同事業が行われているものの、リスク認識の違いなどに起因して象徴的な大型のプロジェクトがないことを課題として取り上げました。また、RCEP、日中韓FTA、TPPといった貿易・投資の協力の重要性を説明しました。さらに、WTO改革について、日中が共通点、相違点を突き合わせて真剣に議論していくことが必要であると述べました。


 後半から参加した中国側の司会である中国国際経済交流センター副理事長の魏建国氏も河合氏に賛同した上で、中日間の貿易の強化、第三国における日中間の協力、日本の金融開放のスキルを中国に取り入れることの重要性等に触れ、日本の経験から学ぶと同時に、中日間で様々な協力していくことが、両国にとって重要であるとの見方を示しました。それと同時に、日本から中国へのVISAの規制緩和、健康・介護におけるジョイントベントのハードルの引き下げ、日中での大型プロジェクトの実施、中国とのFTA構築の検討を提案しました

 中国東方航空グループ有限公司副総経理の席晟氏は、日中友好のベースは民間レベルにあるとし、日本と中国の直通便の行き来の増加など、交流の発展について言及しました。また、産業、第三国市場の開拓、一帯一路それぞれについて協力の必要性を説きました。

 続いて華為技術有限公司公共・政府事務副総裁の周明成氏は、日中がサプライチェーンにおいて緊密な関係にあること、また、日中双方のICT分野で協力の可能性があると述べ、伸びしろを模索していきたいと意欲を示しました。

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企業内の共産党の存在、WTOにおける発展途上国の定義においては意見の隔たりも

 JFEホールディングス株式会社名誉顧問の數土文夫氏は、中国企業内に共産党の組織があることに対する違和感がWTOの問題や中国への日本人観光客数などに影響していると指摘しました。続けて、NHK解説主幹の神子田氏は、中国が発展途上国としてふるまうことへの違和感を示し、先進国並みの役割を果たしてほしいと語りました。また、中国が第三国支援を通して自国のやり方を広めていこうという考えがあるのではと疑問を提示しました。

 魏建国氏は、數土氏の意見に対して党の組織の在り方は国によって違い、党の組織と中国への日本人観光客数に関連はないと主張しました。また、神子田氏の指摘に対して、中国はWTOのルールで発展途上国に位置付けられていること、中国は自国のやり方を他国に押し付けるようなことはしないという姿勢を示しました。


金融開放・第三国市場・観光における日中の協力の可能性

 中国グローバル化センター(CCG)創始者兼秘書長の苗緑氏は、VISAの規制緩和を通して、より日中間の観光客の往来を増やしたいと訴えました。

 これに対して河合氏は、中国への日本人観光客の増加のためには中国の尖閣諸島問題が落ち着きを見せるなど、安心できる国だと日本人に示すことが重要であると示しました。続けて、山口氏は、中国に他国からどう見られているのかということに敏感になってほしいと述べ、謙虚な対応をすることで他国との通商が円滑になるという考えを示しました。


 高偉達ソフトウェア有限公司董事長の于偉氏は、日本の海外進出は銀行・企業・商社が三位一体となっていることに触れ、中国でも特色のある商社の創設の必要があると語り、海外進出についても、日本から学ぶことの重要性を指摘しました。

 一方、船岡氏は、第三国でのプロジェクトにおいては、各国の特色を意識して相手の国に合わせた提案を行うことが必要であると述べ、太田氏は、第三国でのプロジェクトにおいて中国はリスクや収益評価といったファイナンスの観点ではグローバルスタンダードと乖離があるという課題を指摘しました。

 さらに嶋田氏は、中国が設備投資を通して市場歪曲を起こしている可能性を示唆し、中国と誤解を解くために議論を進めたいと提案しました。

 UBSグループ投資銀行副主席の何迪氏は、中国での資本の自由化について、いかに日本の過去30年の経験を取り入れるかが中国にとっての課題であると語りました。さらに、吉林大学経済学院・横琴金融研究院院長の李暁氏は、中国は日本の30年前を歩んでいるという歴史的な観点から見てほしいという考えを示すとともに、中国の金融開放のために日中で協力できることを考えていかなければならないと述べました。

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企業再編による非効率の改善を

 後半でもパネリストと会場との間でディスカッションが行われました。まず山口氏が、中国への日本人観光客を増やすためにはスマートフォンアプリを中国でより使えるように整備すべき、モンゴルの草原やチンタオの塩湖のような日本では見られない観光地を案内すべき、という会場の意見を紹介しました。また、中国企業で働く日本人を増やすことで企業内に共産党組織がある違和感を解消できるという意見、日本の経験からのアドバイスはないかという質問も紹介しました。

 こうした質問に対して保志氏は、かつての日本の不良債権問題の解消においても重要であったゾンビ企業の再編による非効率の改善が中国への一つの示唆ではないかと語り、河合氏は、日米貿易交渉を振り返り、米国の要望の中でも正当なものは受け入れつつ改革を行っていくことも大事であるという教訓を示しました。


日中は協力に向けて前向きな姿勢を共有

 苗緑氏は、中国の印象は外国メディアの報道によって悪化している可能性を示唆するとともに、TPPに関して、改革をしてから参加の議論を進めるのではなく、TPPに加盟してから改革をするという考え方もあるのではないかと指摘しました。

 數土氏は、日本の対中資産を増やすことで観光などにも好影響がある可能性を示し、苗緑氏の指摘に対して神子田氏は、メディアは中国の悪い部分だけでなく、良い部分も報道する努力をしていくべきだ、と日本のメディアの在り方についての見方も示しました。


 その後、山口氏は、WTO改革の必要性の認識やRCEP、日中韓FTAへの姿勢は日中両国で同じであること、TPP加盟には今後の議論が重要であること、第三国市場での協力などでは中国が他国からどう思われているかを意識すべき、金融市場開放、資本の自由化にはまだ練られていない部分がある、国有企業改革は中国も必要性を認識している、と後半の総括をしました。

 最後に魏建国氏は、率直な意見交換をすることができたと総括をし、今後も関係を密にして協力を深めていきたいという意欲を示して、経済分科会を締めくくりました。


【経済分科会】参加者
日本側司会 山口廣秀  日興リサーチセンター理事長
パネリスト 太田 純  株式会社三井住友フィナンシャルグループ執行役社長
      河合正弘  東京大学公共政策大学院特任教授
      嶋田 隆  前経済産業省事務次官
      數土文夫  JFEホールディングス株式会社名誉顧問
      船岡昭彦  三井不動産株式会社常務執行役員
      保志 泰  株式会社大和総研執行役員
      神子田章博 NHK解説委員室解説主幹
      吉川英一  株式会社三菱UFJ銀行顧問

中国側司会 張燕生  国家発展・改革委員会学術委員会研究員(前半)
      魏建国  中国国際経済交流センター副理事長(後半)
パネリスト 常振明  中国中信集団有限公司(CITIC)董事長)
      席晟   中国東方航空グループ有限公司副総経理)
      孫強   中国光大銀行副総裁)
      何迪   UBSグループ投資銀行副主席)
      張燕生  国家発展・改革委員会学術委員会研究員)
      于偉   高偉達ソフトウェア有限公司董事長)
      周明成  華為技術有限公司公共・政府事務副総裁)
      李暁   吉林大学経済学院・横琴金融研究院院長)
      苗緑   中国グローバル化センター(CCG)創始者兼秘書長)


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