言論外交の挑戦

日中両国民の認識ギャップにメディアが果たすべき役割とは ~メディア分科会 報告~

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 「第15回東京-北京フォーラム」のメディア分科会は、10月26日、「理性的な相互認識の促進に向けた日中メディアの今日における役割と課題」をテーマに、日中両国のメディア関係者ら20人が参加して行われました。

 前半では、言論NPOなどが24日に発表した「第15回日中共同世論調査」の結果を踏まえ、両国の民意から見える日中関係の課題やメディアのあり方を話し合いました。

 初めに日本側司会の小倉氏が、メディアには「情報の伝達機関」だけでなく「意見を発表する言論機関」という意味もあると指摘。メディアは権力に反対する手段であると同時に、権力を強める重要な手段にもなりうるため、後者の側面もよく考えなければならない、と、議論の視点を提示しました。


相手国を見る「フレーム」の違いが、両国民の意識の非対称性を生んでいる

 続いて、日中一人ずつの問題提起者が、世論調査結果の分析を披露しました。

 日本側の園田氏は、今回の調査結果を受け、「両国民は日中関係について、違うものを違うように見ているかもしれない」と語りました。園田氏は、相手国や日中関係に対する中国人の意識は大きく改善しているのに対し、日本人の意識は横ばい、または悪化している結果に対し、「両国政府の努力により客観的には関係改善が進んでいるが、日本人の主観的な評価にはつながっていない」と指摘。その要因として、中国人はSNSなどの新しいメディアや個人の日本訪問の経験から、日本人はテレビなどの伝統的メディアから、相手国への情報を得る傾向が強いことを挙げました。

 園田氏はさらに根本的な理由として、自身がアジア各国の学生に調査を行った経験から、お互いを見る「フレーム」の存在を指摘。「中国人は、観光など『経済』のフレームで日本を見ている。一方、日本人は中国を、アジアの平和に対する姿勢や、統治体制という『政治』のフレームで見ており、そのフレームが新たな事実によって上書きされていない」とし、「日中関係が実際に改善されたとしても、それを政府やメディアが伝えきれているのか」と疑問を呈しました。そして、日本のメディアは「相手が自分たちに恐怖を与える、というフレームを多用する一方、いかに経済が互恵的か、という視点は弱い。そのフレームだけで日本国民が日中関係を見ているとすると、本当にそれでいいのか」と、日本のジャーナリストらに問いかけました。


 次に園田氏は、調査の結果、「東アジアの将来理念」では日中両国民の回答が似ていることに触れ、「日中が価値を共有しているのに摩擦が起きているとすれば、同じ言葉について違った理解をしている可能性がある」と述べました。具体的には、日中とも10数%の国民が「民主主義」を東アジアの理念に挙げていることについて、中国のメディアは「民主主義」の意味をどう考え、言論空間をつくっているのか、と問いかけました。


 中国側の基調報告者である金瑩氏は、民意の非対称性が生じた要因について、「ニューメディアで情報を得、観光目的で日本を訪問する若者が多い中国人」と、「11年以上前にしか、あるいは全く中国を訪問したことがなく、伝統メディアに情報を依存する日本人」という、両国民の構成のギャップを指摘。

 そして、調査結果を受け、今日の中日関係を考える三つの視点を挙げました。まず、中日の心理的な信頼関係は薄い、とし、このことが日本人の対中イメージの低さにつながっていると語りました。次に、「世論が認識する世界の課題は同じだが、その解決策は違う」とし、具体的には、WTO改革を支持する割合が中国で高く、日本で相対的に低いことや、「世界をリードすべき」国で相手国への評価が低いことを挙げました。第三に、アジアや世界の平和と発展への貢献、という国民の志は日中で同じだが、その具体策やイシューについてギャップがある、と分析。この三つの角度から世論の現状を分析する必要がある、と語りました。

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日本人はなぜ、日中間の問題に「わからない」と答えるのか

 二人の問題提起を受け、小倉氏は、「日本人では、様々な質問に『わからない』という回答が多い」ことについて、その理由を園田氏に問いました。

 また金瑩氏に対しては、「日本人はテレビ、中国人はニューメディア」という情報源の違いは、すなわち、相手国に求める情報の内容の問題ではないか、と問いました。


 社会調査を専門とする園田氏は、「わからない」が多い最大の理由を、質問文が多すぎて短い間に回答ができないからだ、という認識を披露。どのような状況、どれくらいの回答時間で調査が行われたが、調査結果にも影響すると述べました。

 加えて、事態が非常に複雑であり、市民が事態の意味の解釈に困っていることが、もう一つの理由だと指摘。知識や分析のフレームを十分に持っていない市民は、様々な意見がある中で自分の見解を形成できずにいる人が多いのでは、と語りました。


 金瑩氏は小倉氏の指摘に同意。中国人が日本に好印象を持つ原因は、観光や日本製品の使用などの個人的な経験である一方、日本でも中国でも、相手国へのネガティブイメージの多くは、テレビでよく取り上げられる政治的課題への反発だ、と述べました。

 一方、王暁輝氏は、日中の非対称性の要因には、日本人はじわじわと、中国人はスピーディーに変化するという国民性の違いがあるのではないか、と述べ、日本人の対中印象もあと2年くらいで改善に向かうのでは、という観測を語りました。


メディアに求められるのは、「日中協力」という議題設定

 中国側の調査実施機関として長く調査に携わってきた袁岳氏は、日中世論の非対称性を改善する上で考えるべき三つのポイントを述べました。まず、両国の有識者は相手国への印象がポジティブになっており、それは一般市民よりも関心領域や情報ルートが広く、問題をより高みからとらえられるからだ、という点。第二に、中国でも日本でも伝統メディアは論調や読者層が固定化しているが、中国で普及が進むSNSは、世論をダイナミックに変えやすい性質を持っており、とりわけ中国の若者はSNSを通して日本の文化に親しんでいる点。

 第三に、中国に軍事的な脅威を感じる日本人が多いことに触れ、脅威だけでなく両国が協力しているというイメージを定着させるという視点での議題設定がメディアに求められるとし、その具体的なテーマとしてイノベーションにおける日中協力を提案しました。

 杉田氏は、相手国を見る「フレーム」の違いについて園田氏の見方に賛同した上で、「経済水準が変わっていない中、日本人は安全保障の問題を意識せざるを得ない」という面で、対中印象の相対的な悪さは自然な現象だ、という認識を示しました。一方、杉田氏は、日本人の対中印象もわずかに改善している点に着目し、この要因は、しばらく様子を見て判断したがるという日本人の国民性にあると発言。王暁輝氏と同様、数年たてば大きく改善していくのではないか、という展望を示しました。

 さらに杉田氏は、規模が大きく多様な側面がある中国を「何主義と思うか」と聞くと、中国への固定的なイメージを誘導してしまうのではないか、と懸念。同様に、今の日本を「軍国主義」と答える中国人が多いことにも触れ、相手国の政治的体制を問うことにどんな意味があるのか考え直すべきだ、と指摘しました。

 そして杉田氏は、東アジアの将来理念を巡り、両国で「平和」が最多となった結果を喜ばしいことだとしながらも、「問題は、米国が世界の秩序から撤退していく時代の変わり目の中で、日中がどう協力していくべきという姿が見えていないことだ。それが、安全保障上で日本が中国に抱く認識の根本になっている」と強調しました。


直接交流の拡大に向け、世論をリードするのもメディアの役割

 青樹氏は、日本人と中国人の間で一番必要なのは「お互いの姿を翻訳して相手に伝える作業だ」と、さらなる交流の強化を主張。具体的には、「両国民とも自分の物差しで相手を見てしまう傾向があり、ともに漢字を使用しているからこそ、その意味の違いにより相互理解から遠ざかっている。また日中間の最大のギャップである年齢構成に関して言えば、日本人はいまだに20~30年前に見た中国をイメージする人が多い」と、課題を語りました。

 新聞の電子版の編集長を務める韓蕾氏は、「伝統メディアはSNSで数千万人のフォロワーを有しており、依然として世論への影響力は強い」と紹介。自身が所属するチャイナデイリーでも中日交流や日本人の生活の報道は非常に多い、とし、伝統メディアがさらに強い日本において、中国に対して一般市民の生活を含めたポジティブな報道がもっと必要だ、と求めました。

 調査の方法論に関する発言が多かったこれまでの議論を受け、中国側司会の趙啓正氏は「この調査の目的は、両国の相互理解促進に何が必要かを把握することだ。調査手法やサンプルの属性によって結果が違うのであれば、その結論はなかなか得られない」と主張。例えば日中の大学生同士を比較するなど、より比較可能な形で両国のギャップを分析することが必要だと語りました。

 また趙啓正氏は、上海の新聞の元編集長が書いた『遊びたければ日本に行け』という本が中国でヒットしたことを紹介。彼はイデオロギーの強い人物だが、20回近くにわたり、中国人があまり行かない日本の地方の観光地を訪れた結果、日本への反感はなくなった、と述べました。そして、中国が「共産党を恐れないでください」と口で言っても説得力がない、とし、「中国を直接訪れる日本人を増やすという点で、世論をリードしてほしい」と日中のメディアに呼びかけました。

 王衆一氏はメディアが日中世論の非対称性に与える影響について、「メディアが伝える真実は、編集者の想像力によって再編されている」と指摘。具体的には、「中国では最近、多くの日本の書籍が中国語で出版されている。一方、日本は中国を歪曲して伝える本が多く出ている」と例を挙げました。そして、両国の人的往来の現状から、「今の日本の若者は中国を見る機会がなく、マスコミの想像から影響を受けるしかない」と指摘。さらに、中国を訪れる日本人を増やす具体策として、「一見をもって百聞を検証する」ことを提案。三国志や漢詩などを若者に読ませて中国への想像を膨らませ、実際にその舞台に行き物語の世界を実感することで中国への好印象を確かなものにしてはどうか、と語りました。

 五十嵐氏は、日本の若者の対中交流について、ポテンシャルと障害の両方を指摘。まず、7月に邦訳された中国のSF小説『三体』がヒットしていることや、漫画やゲームの影響で中国の歴史を知る若者もいることに触れました。一方、「相手国をよりよく知るにはその国のメディアから情報を得るのが望ましく、中国人は日本や西側のメディアにもアクセスしているが、中国のSNSにアクセスするのは日本の若者にとってハードルが高い。そもそもラインやグーグルが中国では当局の規制で使えないので、そんなところには行きたくないとなってしまう」と語る五十嵐氏でした。


日本人の自国メディアへの信頼はなぜ低いのか

 ここで小倉氏は、調査の別のポイントとして、「中国人は自国のメディアに対する信頼が低い一方、日本人は日本のメディアを信頼していない」ことに言及。これは何を意味しているのか、とパネリストらに問いました。


 山田氏はその理由を「日本のメディアは戦後、巨大化し、複雑化したために、メディアが営業上の利害や圧力に配慮していることに国民の批判がある。また、巨大化したメディア自体を批判するメディアもある」と述べました。

 また、山田氏は、「メディアは世論をリードすべきだと言われるが、どの方向に、どういう正義と理想をもってリードすべきか、ということが問題だ」と指摘。「中国のメディアは共産党と同じ方向でリードすることが前提だが、日本のメディアは政府からの独立に重きをおいていて、そうでないメディアは信頼を得られない」と日中のメディアの違いに理解を求めた上で、「メディアが多様化、複雑化した一方、日本人の価値観も多様化してきたために、批判の余地が出ている」と語りました。


ナショナリズムを反省する中国人が持つ真意とは

 大野氏は世論調査から見える国民意識について、二つの質問をぶつけました。まず、「日中関係の発展を妨げるもの」について、中国人の「中国国民のナショナリズムや反日感情」という回答が昨年の5.4%から20.4%に急増したことをどう解釈するのか。次に、日本人の中国への理解で一番大きいのは「社会主義・共産主義」だが、それは正しい理解なのか、誤解なのか、と問いかけました。


 韓蕾氏は前者の質問に関し、メディアの影響を指摘。中国のドラマや映画には親日的なものも多く、そのため中国人はとても情熱的に日本を見ている、と述べました。

 また、中国社会の現状について、「共産主義は、何十世代もの努力で実現する人類の偉大な理想だ。中国はまだ社会主義国であり、共産主義に向かって発展している途上だ」と語りました。

 園田氏は、中国人のナショナリズムへの反省は「多様な世論」の表れだという見方を提示。「中国国内でも、日本への訪問により日本に良いイメージを持つ人が増えている一方で、それを『日本に媚びている』と苦々しく思っている勢力もある。その勢力に対して『これでいいのか』と思う人たちも多い」との理解を示しました。

 一方で金瑩氏は、全般的な国際情勢の変化で中国が感じるプレッシャーが、中国人が自国を反省する機会になっていると発言。「世界の変動期は一般的にナショナリズムが激化しやすいにもかかわらず、ナショナリズムを反省する世論が高まっていることは、中国社会が理性的なものとなり、より良く発展することでナショナリズムを乗り越えなければいけないと考えている証だ」と語りました。

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回答の背景や解決策にも踏み込み、調査結果を活用していくことが今後の課題

 さらに園田氏は、本世論調査の課題と今後について「この調査では、その選択肢を選んだ理由は聞いていない」と指摘。自身が各国の学生に対象に調査を行っている目的を「なぜそう考えるのか、と互いに問うことで学び合いがあるからだ」と語り、データを取って終わりではなく、データを使って「何を考えていたのか」「では、どうしたらいいのか」を考えられることに世論調査の意義があるとしました。そうした問いかけの途中で互いのステレオタイプに気付き、「自分が相手をこう見ているから、相手が自分をこう見ているのだ」とかを理解するプロセスが重要であり、その分析に基づき世論を動かしていくことがマスメディアの教育的機能だ、と主張する園田氏でした。

 最後に小倉氏が「大変良いコメントをいただいた」と総括し、議論は15分間の休憩に入りました。

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