言論外交の挑戦

第4回国際シンポジウムでの言論NPOの提案 「2030年に向けた日本の選択肢」

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2005/2/21 (月)
第4回国際シンポジウムでの言論NPOの提案
「2030年の将来に向けた日本の選択肢」

場所:経団連会館


言論NPOは、日本の将来像を描くために、アジア戦略会議(座長:福川伸次)を中心に日本の国家戦略の形成に向けて議論を重ねてきました。
国の戦略策定において重要なのは、どの国家もが共通の必要条件として追求している「経済的繁栄」や「安全保障」を、自国はどのような「国家の姿」を目指す中で実現していくのかを明確化する作業です。それは、多くの国民をそれに向けて突き動かすだけの魅力を備えた自国のアイデンティティーであり、自国がその実現に対してアスピレーション(熱望)を持てるものでなければなりません。しかも単なる理想や夢ではなく、現実性のある、「限りなく理想に近く、かつ現実的な自国のアイデンティティー」であることが必要です。

こうした問題意識から、私たちは以下の5つのステップにもとづき、3年前から日本の将来戦略を提案するための作業に取り組んできました。

◆ステップ1 日本を取り巻く世界の中長期的な潮流の把握
◆ステップ2 日本の強さ、弱さの客観的、分析的把握
◆ステップ3 日本のアイデンティティー願望と主要な潮流とのギャップの特定
◆ステップ4 日本の強さの徹底活用によってギャップを埋める選択肢の抽出
◆ステップ5 日本の永続的優位確立の視点からの選択肢の評価と最適案の決定

私たちの議論はステップ1の世界の潮流把握から始まり、2年あまりをかけてステップ3の入口まで到達しました。ステップ2の「日本の強さ、弱さの客観的、分析的把握」については、昨年3月の国際シンポジウム「日本のパワーアセスメント」において、「戦略マップ」を提示して議論を呼びかけたところです。そこでは、日本が他国に比べて「圧倒的に強い」かつ「戦略的な重要度の大きい」分野・要素は、「経済の強靭性」、「大衆文化の影響力」、「科学技術の先進度」の3つであるという私たちの仮説を提示しました。これに、同時に実施された有識者アンケートで戦略的に重要度が大きいとされた「環境」を加えた4 分野について、私たちはその後、それぞれの分野の専門家の方々とも議論を重ねてきました。これらの4分野は今後も日本の強さであり得るのか、また将来にわたりこの強さを永続させるためには何が必要かを見極めることが、日本の将来像を描く議論のためには不可欠の作業だと考えたからです。

このような議論の上に立って、私たちは日本の戦略を作成する上での選択肢を提示し、今回の第4回の国際シンポジウムで内外の有識者との間で議論を行うことにしたのです。


言論NPOは日本の将来の希望をどう描いたか

将来の日本の選択肢を提示し、日本の政治にそれらを問うという作業は、日本の政党に目指すべき日本の姿を明らかにさせるという言論側の課題を果たすことになるだけではなく、私たちの先の方法論に基づくステップ3に作業を進めるために必要不可欠な作業でした。選択肢を選ぶという判断そのものが、私たちが望む日本の社会の姿や価値観を浮き彫りにする作業であるからです。

選択肢を提示するためにはその「解が存在する空間」(ソリューションスペース)を提示する必要があります。空間を指定しない議論は日本が現在置かれた状況の下で将来に向けた解を導くことができないからです。そこで示される選択肢が、日本が置かれた国際的、国内的な制約条件の下での与件であったり、将来にわたり辻褄の合う持続可能なシステムとして説明できないものであるならば、日本の将来にとって望むべき現実的な姿を示すことはできないと考えました。この場合の理想は、ソリューションスペースの中に選択肢が複数提示されることです。そこに国民が選ぶべき対立軸が描かれることになるからです。

その空間を描くため、私たちはこれまでの議論から以下の3つの軸(3時限の空間)を設定することにしました。そして、戦略形成の方法論に従って、3つの軸から描いた日本の選択肢を、私たちの仮説とともに議論の叩き台として提示することにしたのです。

◆1. 日本を取り巻く世界や内外の中長期的潮流の把握からの軸
◆2. 日本に問われる課題からの軸
◆3. 日本のパワーアセスメント(日本が戦略的に活用できる日本の強さ)からの軸

この作業には専門家も含め多くの有識者に参加していただきましたが、この軸からさまざまな選択肢を検討した結果、私たちが現時点で導き出した日本の「限りなく理想に近く、かつ現実的」なアイデンティティーは、「世界のソウト・リーダー(Thought Reader)でありアジアの知のプラットフォーム」になること、でした。

もちろん、これは私たちが現時点で導き出した仮説であり、別の選択肢の体系を選べば、別の仮説が成り立つことも可能でした。こうした選択肢を描き出すためには一定の価値観がそこには存在します。それは「世界の中で魅力ある日本の存在感をつくり上げたい」という希望です。これは第一回の国際シンポジウムの際に提案した「開国宣言」やパワーアセスメントの際の戦略的重要度を判定する際に用いた価値前提と同じです。

この仮説をもとに私たちは次の第4ステップ以降の議論に進むことにしました。ただ、私たちはこの仮説が絶対的なものだとは現時点では考えてはいません。仮説はその妥当性を何度も確認し、検証することが必要ですし、場合によってはステップ4や5の作業によって仮説自体を見直すこともあり得るからです。こうした知的な反復作業を繰り返すことで私たちは今回の仮説を最終的に日本の国家戦略の形成に結び付けたいと考えています。

現時点で私たちがこうした仮説を生み出したのは、以下の理由によるものです。
世界や日本の内外の潮流は、日本に様々な先端的な課題を突きつけています。課題自体に直面しているのはどの国でも同じですが、私たちが注目したのは、日本が様々な分野で世界でも最初に人類共通の課題に直面し、その解決を迫られる「課題先進国」となっているということです。私たちが先に行ったパワーアセスメントで明らかになった「強み」を発揮して、こうした課題に答えを出し、課題解決の先進国となることを目指していくことが日本の重要なアイデンティティーとなると考えたのです。


なぜアジアの「知のプラットフォーム」なのか

20世紀までの歴史的経緯の結果として、21世紀の人類は地球規模での共通の課題に直面しています。21世紀には世界的に高齢化が進行するとともに、人類社会の持続可能性が問われる様々な課題が現われています。例えば、人口問題、南北格差の拡大や人権も含めた民主化の問題、さらに地球環境問題、異常気象がもたらす自然災害の問題などがあります。

特に日本の高齢化のテンポは人類史上未曾有のものとされ、少子化とも相まって日本の人口構成は世界に先駆けて急激に変化します。しかし、2030年頃までを考えれば、世界の人口は増え続け、特にアジアでは、中国やインド、インドネシアなどの人口大国の行方を背景に人口分布が高まることが見込まれます。そうした動きの中で、日本は逆に人口減少社会に突入し、アジアの中で他国に先駆けて高齢化の影響が強まり、そして少子化が大きなインパクトをもたらすことになるのです。

一方で、アメリカを中心とする世界の構造は次第に弱まり、これに対してアジアがダイナミックな変化と経済発展を遂げることが2030年頃までの世界の潮流だと私たちは考えています。東アジアは世界のモノの生産の大半を担う「世界の工場」となり、そこから情報・知識社会に向けた知を創出する地域へと脱皮する力がアジアには求められてきます。その一方で、アジアでは経済統合や地域協力の動きの試みは進むものの、中国やインドの大国化の動きを背景に多様性と競争の様相が強まると予想されます。

こうした世界の潮流の中で、日本には独自の変化が既に生じています。日本ではこれまでの閉鎖的で分配型のシステムが既に行き詰まり、構造改革の進展で様々な分野に格差が広がっています。持続不可能となった従来型のシステムの再設計を迫る最大の課題が、世界的な先進的課題である少子高齢化の重圧なのです。活力を伴った高齢化社会を構想するためには、こうした格差は認めながらも、質の高いサービスを全体的に提供できるシステムを作り出さなければなりません。それが、世界に開かれた開放型で柔軟性のある自立型の社会システムへの転換だと私たちは考えています。

こうした合意さえできれば、受益と負担、官と民、そして国と地方など、求められている既存システムの再設計は、この設計思想の下で行い得ることになると考えます。

小泉改革は従来型のシステムを壊そうとしました。しかし、改革がいずれも不徹底になり新しいシステムへの提案ができないのは、変化の先にある日本の姿、世界の中での新しい哲学を提起できていないからです。日本に問われた課題に答えながら、日本の将来に答えを見つけるための選択肢の提起が今こそ必要なのです。日本だけが「仙人国家」として国内外の変化の潮流から孤立するわけにはいかないからです。

ここで重要なのは、日本はこうした課題を乗り越えられるだけの力を有しているというのが、私たちのパワーアセスメントで得られた結果だったということです。日本が将来戦略を考える上で極めて重要であり、世界の中でも圧倒的な力を持っていると評価されたのは、「経済の強靭性」「大衆文化の影響力」「科学技術の先進度」「環境の先進度」の4分野でした。日本が「経済の強靭性」や「大衆文化の影響力」で圧倒的な強さを誇っているのは、日本が、層が厚く労働のモラルが高く平均的な質の極めて高い中間層と、多様で高度なこれも層の厚い巨大マーケットという、将来にわたり永続可能な潜在力に恵まれているからです。この潜在力を活用することによって、日本は、超高齢化社会においても活力ある社会の運営を実現するという大きな課題を解決できるはずだと私たちは考えています。

また、科学技術と環境の両分野における先進度が圧倒的に強いということは、それを徹底活用することにより、人類社会の持続可能性に対する建設的な解答を提示し、日本が知の分野における国際的な影響力を高め、知の創出の核となって世界やアジアの中で新たな存在感を構築するという戦略を持てることを示しています。

私たちのパワーアセスメントでは、この2分野の他にも「先進性」に力を持つ分野がありました。しかし、その「影響力」は大部分が劣っているという共通の現象が見られました。それは、これらの分野が国の意思として構想化されていないからです。先進性を活用して、世界的な課題にどう向かい合うのかが、日本の将来に向けた選択肢として重要な意味を持つのはそのためです。

こうした世界の潮流と日本の強さ弱さ、日本に問われている課題の3つの軸から浮かび上がった私たちの選択肢は、「先進課題の解決能力」、「アジア」、そして「開かれた国」という3つのキーワードでした。これらから、私たちの仮説である「世界のソウト・リーダー」であり「アジアの知のプラットフォーム」という提案が導き出されたのです。

世界や日本の今後の潮流から生み出された課題に対して、日本は自らの強さを戦略的に活用しながら答えを出し、あるいは、「人類社会は持続可能か」という問いにポジティブな解答を提示する国になる。こうしたことなどを通じて「世界のソウト・リーダー」となることが日本のアイデンティティーになるのだと私たちは考えました。それは、日本が世界の潮流の中ではアジアの「知の創出の核」となることであり、そして、それを通じてこの地域に「知」の価値を中心にした一つのまとまりを形成していくことなのです。

「ソウト・リーダー」というアイデンティティーは具体的な国家像というよりも、その上位の理念のレベルで日本の将来像を示したものといえますが、それはより具体的には、アジアの「知」の創出を主導する「知のリーダー」を目指すものです。しかし、ここで言うソウト・リーダーは先進的なモデルを他国に押し付ける覇権的リーダー(力のリーダー)ではありません。日本が目指そうとするのは、日本が先進的な課題解決のモデルとなると同時に、特にアジアにおいて、こうした価値を提供できる知的なプラットフォーム(場、舞台)を形成し、提供していくことであり、そこに日本の新たな存在感を創出しようというのが私たちの仮説的な提案なのです。この仮説を基に、私たちはこれを戦略化する作業にこれから入りたいと考えています。


「言論NPO 第4回国際シンポジウム」を開催
自民・民主・公明3党政調会長はじめ内外の著名パネリスト13人らが活発な議論

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