世界とつながる言論

北東アジアの平和的な秩序づくりのために民間の果たす役割とは

このエントリーをはてなブックマークに追加

セッション2:言論外交はアジアの平和構築に寄与できるか

 第2セッションでは、「言論外交はアジアの平和構築に寄与できる」をテーマに、白熱した議論が行われました。

 セッション2のパネリストとして、日本からは田中均氏(日本総合研究所国際戦略研究所理事長、元外務省政務担当外務審議官)、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使)の3氏が、韓国からは柳明桓氏(元外交通商部長官)、中国からは栄鷹氏(中国大使館公使参事官、元中国国際問題研究所副所長)、アメリカからはナンシー・スノー氏(米国社会科学評議会 安倍フェロー)、そして、初日の「アジアの民主主義をどう発展させるのか-インドネシアとの対話」に引き続き、インドネシアからラヒマ・アブドゥラヒム(ハビビセンター所長)とクトゥト・プトラ・エラワン(平和民主主義研究所所長)の各氏が参加しました。


有識者アンケートから見えてきた「民間外交」と「不戦」への期待

 セッション2の冒頭、言論NPOが今回のシンポジウム前に行ったアンケートを代表の工藤が紹介しました。

 まず、昨年実施した「第10回日中共同世論調査」や、「第2回日韓共同世論調査」では、日中間、あるいは日韓間で互いに相手国に対する軍事的な脅威感が高まっていることが明らかになった。そこで、東アジアで平和的な秩序をつくり出すための枠組みとして、どのようなものに期待しているかを尋ねたところ、「日中韓など北東アジア各国に米国などを加えた多国間協議」との回答が38.0%と最多となり、「日中韓など北東アジア各国による多国間協議」が21.7%で続く結果となりました。

150321_5.jpg

 続いて、現在、この地域では「政府間外交」があまり機能していない状況にあります。そこで、民間が行う外交である「民間外交」の役割に対する期待を尋ねたところ、「期待している(「どちらかといえば」を含む)」との回答が79.4%と8割近くに達しました。その回答者に民間外交に対して具体的にどのような役割を求めているのかを尋ねたところ、「外交というよりも民間同士の交流や両国民間の相互理解の促進」との回答が最多となりました。また、「政府間外交と共に課題解決に向けた推進役」(24.8%)、「政府間外交が動き出すための環境づくり」(23.3%)と、4割程度がより積極的な役割を期待する声が存在しています。

 さらに、北東アジアで不安定な状況が続く中、言論NPOが一昨年の「第9回 東京-北京フォーラム」において合意した中国との「不戦の誓い」を北東アジアの平和な秩序づくりに向けて広めていく賛否を尋ねたところ、「賛成(「どちらかといえば」を含む)」が86.0%と圧倒的多数を占め、「反対(「どちらかといえば」を含む)」はわずか2.3%に過ぎませんでした。続けて、こうした「不戦の誓い」を将来、北東アジア地域における平和構築のための合意として、ふさわしいものなのかを尋ねてみたところ、ここでも「ふさわしいと思う」と回答した有識者は、77.9%と8割近くを占めました。

 最後に、「アジアの将来を考えた場合に、目指すべき価値観や理念は何だと思いますか」については、「民主主義」と答えた人が26.0%、「平和」が22.5%となりました。

 こうしたアンケートの声を背景に、政府外交が機能しない中での「言論外交」の役割について、「言論外交」の実践で協力いただいている宮本氏、パブリック・ディプロマシーに詳しいスノー氏の基調報告から議論が始まりました。


大きなビジョンや理念を打ち出し、政府の半歩先いくのが「言論外交」の意義

 宮本氏は「今は外交が内政に近づいてきて、外交が即内政に影響を与える状況が見られる。こうした状況では、国民社会が変わらないと、外交が危険な方向に行ってしまう。成熟したコミュニティー社会を作ることが私たちの使命であり、成熟した国民社会、成熟した民主主義が重要になってくる。現在のように価値観や理念が多様化したバラバラの社会を1つの方向に持っていくのは難しいが、大きなビジョンや理念、価値観を共有することは可能であり、そうした大きなビジョンを打ち出そうとする実践が、まさに『言論外交』の本質的な意義だ」と語りました。

 その上で、2013年の「東京-北京フォーラム」で中国との間で合意した「不戦の誓い」を振り返り、「政府間交渉とは別に日中の国民がともに平和を追求し、戦争はしない、対立は全て話し合いで解決するという将来へのビジョン、理念で合意できたものが、まさに『不戦の誓い』であった。そうしたものを打ち出していく、どうしたら膠着状態を解決できるか提案していく。そうしたことが『言論外交』であり、政府が動けないところで一歩でも、半歩でも先を見ることができる」と語りました。


「言論外交」の浸透により、国民が市民外交官としての認識を共有できる

 続いて、日本の対外イメージと戦略についての著書があるスノー氏は「一般に言われる『パブリック・ディプロマシー』というのは広報外交であり、政府外交に入る。冷戦時代の1960年代、旧ソ連とのプロパガンダ戦争の中で、米国の立場を宣伝するのにプロパガンダでは響きが悪いということで生まれた言葉だ」とパブリック・ディプロマシーの成り立ちを紹介しました。そして、2007年に中国で教鞭をとっていた当時を振り返り、「当時から中国は自国の国家ブランドの広報に力を入れ、韓国には韓流ブームがあった。その点で、日本はかなり遅れていた。しかし、言論NPOのような活動を日本の国民や高校、大学でその意味を教え、若者も自らの役割、市民外交官としての役割を常に認識できるようになるのではないか。そして、『言論外交』の価値を認め、将来、日中韓が協力して継承していけば、それぞれの信頼醸成にも役立つ」と指摘しました。


「言論外交」への賛意を示しながら、参加者から示唆に富む提案がなされた

 2人の発言を受けて田中氏は「日本は政府のプロパガンダではなく、民主主義がある程度成熟しており多様性がある。こうした多様な議論をファシリテートしていくのが『言論外交』である」と指摘しました。これに対し柳氏は「グローバル化によって政府の役割は落ちてきている。『言論外交』を政府外交と置き換えることはできないが、政府外交を補強することはできるし、政府外交が間違った方向にいこうとする際、介入することで政府の方向性を変えることができる。また、国民同士の意見交換によって、市民レベルでの相互理解が深まる。そうした人と人との交流が『言論外交』の基礎であり、その機会を増やしていかなければいけない。その重要性はみんなわかっていることだ」と、自身の出来事も交えながら語りました。

 その他のパネリストも「言論外交」への賛意を示した上で、「インターネットの多様性など通常の世論は感情的になりやすい。外交の実務者たちはどうやって効果的なコミュニケーションを実現し、世論からの意見を外交に生かしていくか考えなければいけない」(栄氏)、「民間外交の課題は、市民社会がいかに現実を取り込んだやり取りができるか、多様化した社会で、誰が責任を持ってアジェンダを作るのか、解決に向け、誰が関与する立場にあるのか」(エラワン氏)などの意見がパネリストから寄せられました。


歴史認識をどのように考えればいいのか

 この後、会場からの、「歴史問題の認識で、民間がいろいろ努力しているのに、政府関係者の発言が一瞬で無にしてしまう。政府はもっと慎重にならなければいけないが、どうすればよいか」との質問に田中氏は、「歴史認識に関して、必要最小限の言い方で作ったのが村山談話である。村山談話の『国策を誤り』という言葉によって、日本は戦前と戦後を断ち切った。こうしたことを踏まえて過去の政府は全て村山談話を承認してきた。この談話を変えるのであれば、その理由を国民に説明をしなければならない」と指摘しました。

 栄鷹氏は、「日中間、日韓間には領土問題と歴史問題が存在している。解決方法としてコンセンサスは出ているかもしれないが、相手国にも影響があるため解決できない。互いにどのような協力ができるか、両国のメリットについて真剣に議論していくことで、より健全な関係を保てるのではないか」と語りました。

 その後も会場から、多くの質問が寄せられました。


良好な未来づくりのために、今こそ行動を起こすとき

 こうした議論を振り返り宮本氏は「もし我々が戦後70年という節目を活かすのならば、良好な未来を作るために行動を起こさなければいけない。そのためにも、どのようなビジョンを追求していくのか、という方向性を作りたい。そして、未来のためにあたらしい歴史を作っていくことが重要だ」と語りました。また、世界中のデモクラシーが悪戦苦闘し、模索している状況に触れ、「もうスーパースターの登場を待ち望むのは止め、全員で議論して話し合いをしていくためにも、そうした状況をつくり出そうとしている言論NPOの活動は重要だ」と語り、言論NPOへの更なる活動の飛躍にエールを送りました。

 2日間にわたる議論を終えて工藤は、多くの示唆に富む意見を提示してくれたパネリストに謝意を示した上で、「日本の未来に対しての議論を開始しなければならない。そのための基礎工事を始めるためにも、今回のシンポジウムで語られたことを財産として、明日から厳しい闘いに挑む」と決意を語り、2日間にわたる議論に幕を閉じました。

⇒第1セッション「戦後70年 北東アジアは平和へ動き出せるか」


このエントリーをはてなブックマークに追加

言論NPOの活動は、皆様の参加・支援によって成り立っています。

寄付をする

Facebookアカウントでコメントする


ページトップに戻る