日中間の現状を認識し、危機管理をどのように強化していくのか(安全保障:前半)

2014年9月29日

 「安全保障対話」では、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使)と張沱生氏(中国国際戦略研究所基金会学術審議評価委員会主席)による司会の下、「北東アジアの平和と危機管理」というテーマを掲げたパネルディスカッションが行われました。

 日本側からは、金田秀昭氏(NPO法人岡崎研究所理事、元海将)、中谷元氏(衆議院議員、自民党幹事長特別補佐)、小野田浩氏(ハーバード大学シニア・フェロー、元航空教育集団司令官)、神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部准教授)、東郷和彦氏(京都産業大学世界問題研究所所長、元外務省条約局長)、藤崎一郎氏(上智大学特別招聘教授、前駐米大使)、山口昇氏(防衛大学校教授)各氏が、中国側からは、朱成虎氏(中国人民解放軍国防大学戦略研究部教授、少将)、姚雲竹氏(中国人民解放軍軍事科学院中中美防務関係研究センター主任、少将)、呉寄南氏(上海国際問題研究院諮問委員会副主任)、呉継陸氏(国家海洋局海発展戦略研究所海洋法律・権益研究室主任)、馬俊威氏(中国現代国際関係研究院日本所副所長)、呉 懐中(中国社会科学院日本研究所政治研究室主任、研究員)の各氏が参加し、議論が行われました。


140928_kaneda.jpg まず、日本側の基調報告に立った金田氏は、北東アジアの危機管理の一環として、日中の「海上連絡メカニズム」を確立することの重要性を指摘しました。これについては、冷戦締結後の日露海上事防止協定を成功例として取り上げ、それを参考に、年次会議の開催、当局間のホットラインの設置、締結協定のルール策定、締結(事故防止協定)などのメカニズムの内容を説明しました。

140928_shu.jpg 一方、中国側の基調報告に立った朱氏は、まず、「沖縄・尖閣諸島(釣魚島)に関して、過去の了解事項を守る、威嚇的行為をとらない、非軍事化を実現する、すなわち釣魚等に軍艦と船を向かわせない、共同のタスクなど協議の場を設ける」などの6項目を提案。さらに、北東アジアの平和確立に向け、救助活動の規則作り、ホットラインの創設、軍関係者の人的交流の促進など独自に作成した25項目のリストを示しました。


 続いて張氏からは、「現在の危機的状況は過去の冷戦思考にとらわれていることから生じている」と指摘し、「中日双方が誤解の解消に努め、2008年の日中共同声明がなされた時期に立ち戻って、戦略的パートナーシップを再構築する必要がある」との提案がなされました。

 山口氏は海上の危機管理については成熟しているとの見方を示しましたが、日本の航空自衛隊と中国の空軍との接近が増えていることに危惧を示し、ロシア空軍との過去の接触の経験から、「パイロット同士のルール作りが必要」である旨、指摘しました。

140928fumei.jpg また、中国が設定した防空識別圏(ADIZ)について姚氏は、国際関係を変えてしまった、国際法に違反しているのではないかとの批判があることに対し、「日中韓三カ国とも防空識別圏を持っており、設定することで現状を破壊するということはなく、自国の安全をよりよく守るためのものだ。国際的慣行からもはずれていない」と、設定の正当性を主張しました。その上で、中日の間でともに話し合い、空中で接近した場合にどう対応すべきか、決めておくことは大事だ」と対話の重要性を指摘しました。

140929_onoda.jpg こうした空での危険性について、航空自衛官でもあった小野田氏は、日本は防空識別圏を設定しているものの、法律で設定しておらず、防空識別圏に侵入する場合に、航空自衛隊に連絡しなければならないというだけだとして、欧米との違いを説明しました。その上で、中国が防空識別圏に入る際に取る措置は行き過ぎがあるとの見方を示し、防空識別圏に尖閣諸島が含まれていることは問題だと指摘しました。

 呉懐中氏は中国が主張する「ニューノーマル」について、決して北東アジアに緊張をもたらすものではなく、中国海軍のグローバル化の進展により新たなバランスを考慮すべきだと指摘しました。また、中国が通常の海域を通過する際にまで、あまりにも警戒し過ぎではないかとし、日本側が過剰に反応しているとの認識を示しました。また、防空識別圏に関して定義の議論はいいが、撤回することは難しい。マイナス要素をプラスに変えていくことで、新たなコンセンサスを形成することができるのではないか、と提案しました。

 神保氏は、2年4カ月ぶりに再開された「日中高級事務レベル海洋協議」に触れ、軍同士の信頼醸成や執行機関同士の連絡の必要性を指摘。また、北東アジアに限らず、南シナ海でも衝突にも懸念があるとした上で、無人機の導入が突発的衝突の機会を増やすかもしれないとの懸念を示しました。

 続けて呉継陸氏は、危機管理を法律的側面などから論じ、「世界の海では境界問題が未解決な場合が多く、解決は無理でも事態を直視し処置していかねばならない」と話しました。また、海底ケーブルの保全、海洋資源の管理などの具体例を示し、軍事外でも専門家のタスクフォースによる検討が必要だとの考えを示しました。

 最後に小野田氏は、「海上連絡メカニズムを確立するにあたって、指示があっても現場の統制が保たれなければならない。最近の尖閣周辺の中国空軍機の異常接近などは、中国側でも許していないはずだ。規律の乱れが心配だ」と指摘しました。
これに対し、張氏は連絡メカニズムがないことが実際に危機を招いており、協力し合うことが大事だと議論を総括しました。

 ここで会場からの質問も受け付けながら、活発な意見交換がなされ、安全保障対話の前半は終了しました。
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