世界は今、大きな転換点に立っている。大国間の競争と対立が激化し、「力の政治」が国際秩序を揺るがしている。一方で、民主主義国では健全な言論空間の弱体化が進み、政治への不信が深まっている。世界は協調と対話の道を維持できるのか、日本は未来への展望を作り出すことができるのか。その分岐点に私たちは立たされている。
言論NPOは令和7年度、こうした問題意識の下で、世界と日本が直面する困難に正面から向き合うことを提起した。言論空間の再構築と国際対話の強化は、2001年の創業以来、私たちが取り組み続けてきた使命そのものである。
令和7年度は、その使命を実現するために、行動するシンクタンク「DO-TANK」への組織改革に着手し、国際対話ネットワークの拡大や新たな法人会員制度の創設など、将来に向けた基盤整備を進めた一年であった。
しかし、それは土台を築いたに過ぎない。重要なのは、その可能性を信じ、実際の行動と社会的な影響力へと結び付けることである。
令和8年度は、これらの成果を実際の社会的影響力へと転換する一年と位置付ける。そのため、令和8年度からの2年間を、言論NPOが行動するシンクタンク「DO-TANK」として本格的に機能するための実装期間とし、次の三つの重点目標に取り組む。
【令和8年度の三つの重点目標】
1)世界のシンクタンクやアジアのリーダーとの連携を強化し、日本発の国際対話プラットフォームとして課題解決に向けた行動提起の場へと発展させる。
2)言論空間の再構築を本格化し、市民が主体的に考え、参加できる課題解決型の言論プラットフォームを形成する。
3)「DO-TANK」として行動できる組織改革を推進し、公益性・持続性・正当性を備えた組織基盤を確立する。
令和8年度は、言論NPOが社会に広く開かれ、世界と日本の課題解決に行動で貢献する組織へと進化するための重要な一年となる。以上の方針の下、言論NPOは、日本から世界の課題解決に貢献する行動するシンクタンク(DO-TANK)としての役割を本格的に強化する。
世界やアジアが力を合わせ、未来に向けた外交舞台を日本に作る
世界では、「力の政治」を誰も止められず、国際秩序は勢力圏による対立と分断へ向かいつつある。この大きな流れを直ちに変えることは容易ではない。しかし、言論NPOが世界26ヵ国のシンクタンクとともに2026年初めに行った専門家調査では、「主体的な努力があれば、地域や個別テーマにおいて、ルールに基づく秩序と協調を維持することや、民主主義を再構築することは可能である」と約7割の専門家が回答している。
令和8年度は、この認識を出発点として、「東京会議」を中心とする国際対話ネットワークを、理念の共有だけでなく具体的な行動や提案を生み出す協働のプラットフォームへと発展させる。
また、中国との対話やアジアにおける多国間対話を重層的に再構築し、日本から世界に向けて課題解決型の国際対話を提起する役割を強化する。
「東京会議」をさらに発展させ、国際協働ネットワークを形成する
言論NPOが毎年3月に開催する「東京会議」は、毎年1月から始まるダボス会議、ミュンヘン安全保障会議といった一連の国際会議の一つとしてすでに注目され、大国主導の力の世界に対し、多国間主義や法の支配を守ろうとする数少ない国際会議として、その存在感を世界的に拡大させている。ただ、「東京会議」は理念を繰り返すだけの会議ではない。必要なことは国際秩序の危機に対して、地域やテーマごとに何ができるのかを具体的に議論し、アジアや世界に対し提案を行い、行動を促すことであり、アジアをはじめとした各国のリーダーとも協働し、新しい動きを作り出す影響力を持った日本発の世界的な政策対話のプラットフォームに進化させることである。
「東京会議」の組織体制は2年以内を目途に完成を目指すが、今年度、取り組むのはその中での骨格となる世界の主要シンクタンク間の協働である。
すでに参加する13の主要シンクタンク(協力するシンクタンク全体の総数は36組織)と協議は進めているが、共同調査やテーマごとの議論は年間を通して実施する。また、「東京会議」に関しても将来的にはステアリング・コミッティ(運営委員会)をシンクタンクと構成することも視野に入れており、今年度からは「東京会議」のアジェンダや政策提言についても順次協議を重ねる。
国際情勢については、誰もが十分かつ適切な情報を持っているとはいえず、既存のメディア報道を越えた情報共有も重要な作業である。だからこそ、世界の危機の最前線で課題解決に取り組むトップシンクタンクとの直接的な情報交換や意見交換が不可欠であり、そのための協働も既に始まっている。そこで得られた知見や情報については、パートナー法人会員の皆様に定期的に紹介するとともに、国内における言論NPOの議論や提言にも積極的に反映させていく所存である。
「アジア円卓会議」は、世界とアジアの未来についてリーダーと対話する舞台
今年3月の「東京会議2026」で創設した「アジア円卓会議」をアジアに定着させ、定期的に行える会議体に発展させることが来年3月の第二回会議に向けた主要課題となる。
令和8年度は、「アジア円卓会議」3カ年計画の初年度として位置付ける。共同議長体制を確立するとともに、アジア各国のリーダーや専門家によるコアメンバー会議を形成し、アジアが直面する課題について継続的な対話を進める。
また、次世代リーダーによる若手会議の創設も検討課題に加え、将来のアジアの対話を担う人材のネットワーク形成にも取り組む。
「東京会議」同様にここでの議論も理念的、表面的なものに陥らないように、アジアの未来に必要不可欠な共有の課題解決を考えると同時に、主要国や国際社会の動きに対してアジアとしての声を発し、具体的な行動や提案へと結び付けていく姿勢を貫く。また、ここで積み重ねられた議論や提案は、並行して開催されるグローバル会議である「東京会議」に提起し、アジアと世界をつなぐ議論の深化と国際社会への発信につなげていく。
さらに、「アジア円卓会議」を持続的で強い発言力につながるものとするため、アジアの中核的なシンクタンクとの連携も考え、アジェンダや政策提言に関する議論や必要な事前調査を行う。
「東京-北京フォーラム」の再開と中国との対話の体制強化
現在、延期されている「東京-北京フォーラム」は再開に向けたあらゆる努力を行うことが、今年最大の課題となる。既に中国側主催者とは協議を開始し、代表・工藤の北京訪問も予定されているが、「東京-北京フォーラム」は、過去20年間、中国政府上層部が深く関与し、協力してきた極めて重要な二国間対話であることから、日中両政府関係に変化がなければ、その再開はそう簡単ではない。
ただ、政府間の困難の中でこの民間外交が20年間、果たしてきた役割はあまりにも重く、また言論NPOも多くのネットワークを持つために、危機下における民間対話の在り方を考える貴重な機会と考える。そのため、一つの対話チャネルに依存しない重層的な対話の基盤づくりを進める。中国の研究者や有識者との対話は非公開でも継続しながら、環境づくりに取り組むと同時に中国に加え、韓国や米国を含む北東アジアの多国間対話の再開の可能性を模索する。米中の対立が厳しくなる中で、北東アジア地域における平和と安定は、日本にとって最も重要な課題の一つである。言論NPOは民間レベルでの対話を通じて、地域の信頼醸成と平和構築に貢献していく。
課題解決型の言論空間の再構築に着手する
世界の民主主義国では、健全な言論空間が機能を失いつつあり、民主主義そのものへの懐疑や不信を止められない状況が広がっている。
日本でもSNSでのフェイクニュースや対立的な議論の蔓延で社会課題を冷静かつ建設的に議論する場が失われつつある。
意見の対立はあっても、共通の事実に基づき課題解決を議論する公共空間が弱体化し、民主主義を支える公共的な議論の基盤をどのように再構築するかが大きな課題となっている。
こうした時代に、言論NPO自身も創設時の理念に立ち返り、世界と日本が直面する課題に対して、どのように自己革新し、具体的な行動を起こすのかが問われている。
言論NPOは創設以来、「議論を通じて課題解決を目指す社会」の実現を理念としてきた。令和7年度はウェブサイトの全面リニューアルや編集体制の整備など、言論空間再構築に向けた基盤整備を進めたが、令和8年度は、言論NPOの言論空間再構築の取り組みを、制度設計の段階から実践段階へ移行させる。
そのため、世界や日本が直面する課題を継続的に発信するとともに、多様な知識層の考えや提案を可視化し、市民が自ら主体的に考え、参加できる課題解決型の言論空間の形成に取り組む。
(1)言論プラットフォームの本格運営
令和7年度に整備した新たなウェブサイトを基盤として、「日本の課題を考える」「世界の課題に挑む」「アジアの平和と課題を考える」「民主主義を強くする」の4つのテーマを中心に、継続的な情報発信と議論の蓄積を行う基盤は整った。
ただ、単発の論考やフォーラムにとどまらず、それぞれのテーマについて、直面する課題に関する継続的な問題提起と論点整理を行い、多くの人が課題を体系的に理解できる環境を整えることは急務である。
また、「東京会議」や「アジア円卓会議」など世界の最前線の議論も、それらが何を目的とした議論であり、そこで示される提案がどのような意味を持つのかを理解できなければ幅広い理解に基づく外交議論を構成できない。
そのため、言論NPOに参加する専門家や有識者と連携し、定期的に考えるべき議論や緊急の議論を取り上げ、議論を公開すると同時に、それぞれ国際会議の前には特集的に我々が考えるべき議論や公開のフォーラムを行い、その内容をウェブだけではなく、SNSや動画も活用して公開する。
すでに令和7年度から組織化しているが、令和8年度も日本の各分野で活躍する知識層やジャーナリストに客員編集委員、研究員、評価委員などへの就任を依頼し、連携を本格化させ、それらの多様な知識層が司会やコメントを提供することで、言論空間に携わる多くの人が参加する空間を充実させる。
これらを通じて、言論NPOは、単なる情報発信組織ではなく、市民と知識層がともに課題解決を考える公共的な言論基盤としての役割を強化していく。
(2)言論フォーラムと勉強会の拡充
令和8年度も、国内外の重要課題をテーマに言論フォーラムを継続的に開催する。
特に、安全保障、国際秩序、経済、安全保障と技術、民主主義改革、日中関係など、その時々に社会で話題になり、かつ日本の将来に関わるテーマについて重点的に議論を行う。
これらは月に2回程度実施し、その内容はウェブや動画などで公開するほか、動画は検索しやすいように整理する。
また、会員向け勉強会や、一般の登録者との対話の機会を拡充し、単に情報を受け取るだけではなく、主体的にその問題について議論を深めたり、一般の市民が主体的に議論に参加できる環境づくりを進める。
(3)SNSと広報力強化
社会との接点を拡大するため、SNSや動画などを活用した情報発信を強化する。
言論NPOの活動は世界的に多様な形で拡大しているが、その認知度は現在のところ極めて低く、その取り組みや議論を多くの人に伝えるために広報力を強化する必要がある。
特に、代表・工藤の発言を広げたり、複雑な国際問題や政策課題についても、解説やその基本を考えるために多くの人が理解しやすい形で発信する工夫を進める。
また、フォーラムや調査結果との連動を図りながら、オンライン上でも継続的な議論が生まれる環境づくりを目指す。
令和8年度は、ホームページ、SNS、フォーラム、調査事業を有機的に結び付け、課題解決に向けた新たな言論プラットフォームとしての機能を高めていく。
DO-TANKとしての組織改革と基盤強化
言論NPOが目指す「DO-TANK」とは、世界や日本が直面する課題に対して、対話を基盤に具体的な行動を提起し、その実現に向けて多様な主体をつなぐ組織である。
令和7年度は、その実現に向けた制度設計と経営基盤の整備を進めた。令和8年度は、その成果を実際の組織運営に反映させ、「DO-TANK」としての機能を本格的に強化する一年と位置付ける。
その際に重要となるのは、公益性、持続性、正当性という三つの原則である。言論NPOは社会に広く開かれた公益的な組織であり続けなければならない。同時に、持続可能な財政基盤と運営体制を確立し、多くの人々の参加と支持によって支えられる正当性を持つ組織でなければならない。
令和8年度は、新たに創設したパートナー法人会員制度を本格的に運営し、企業との連携を機動的に進めるとともに、その拡大を図る。同時に、個人会員基盤の再構築に取り組み、言論NPOの使命を共有する新たなメンバーの参加を促す。
また、ガバナンス改革を進め、言論NPOが公益性、持続性、正当性を備えた組織として発展するための組織の方向を明確にする。
(1)個人会員基盤の再構築と次世代の参加の拡大
言論NPOの独立性と公益性を支える基盤は、幅広い社会の多くの人の参加と社会への貢献である。
そのため、令和8年度は、無料登録者、フォーラムなどの活動への参加者との関係を再構築し、より幅広い人が言論NPOの活動や議論に参加できる機会を増やす。
無料登録者は毎年増えているが、現状の水準は明らかに少なく、5万人程度までの参加者を引き上げるために、全ての取り組みや議論づくりにおいても、より多くの人々が活動へ参加できる仕組みづくりを計画的に進める。
この中から継続的に参加できる会員を増やし、会員間が、我々の活動を巡って交流できる場を拡大する。特に、若い世代の参加を促進し、次世代の言論空間や国際対話を担う人材の育成とネットワーク形成に取り組む。
また、会員制度の見直しや活動内容の充実を通じて、会員の主体的な参加を促進する。
言論NPOが長期的に発展するためには、世代を超えて理念を共有する人々の輪を広げていくことが不可欠である。
(2)パートナー法人会員制度の本格運用
言論NPOが取り組む、多国間主義やルールに基づく世界を柱にした国際対話や課題解決に向けた活動は、一部の専門家だけで支えられるものではなく、世界の課題に最前線で取り組む多くの人の協働で成り立つものである。
そのため、令和7年度に創設したパートナー法人会員制度を本格的に始動させる。グローバルで活動する企業との連携は単なる財政支援の関係ではなく、世界や日本の課題解決に共に取り組む連携に発展させる。
令和8年度は、パートナー法人との定期的な対話やブリーフィングを実施し、多くの企業のグローバル展開に貢献するとともに、「東京会議」や「アジア円卓会議」などの活動との連携を強化し、この会議が持つ世界を代表できる政策課題の対話プラットフォームとしての価値向上を図る。
また、新たな参加企業の拡大にも取り組み、持続可能な財政基盤の強化を進める。
(3)世界を代表するDO-TANKとしての実践と組織改革
令和8年度は、言論NPOが「行動する組織」へと発展する転換点とする。「東京会議」、「アジア円卓会議」、言論フォーラム、各種調査や議論活動などを相互に連携させながら、課題の分析だけでなく、課題解決に向けた具体的な提案や行動を社会に示していく。
世界の分断や民主主義の危機が深まる中で、対話による課題解決の可能性を示し続けることこそが言論NPOの果たすべき役割である。
こうした努力は、世界の困難に立ち向かう世界のシンクタンクや国内外の多くの組織や個人との協働で成り立つものであり、令和8年度は、その役割を実践するための組織運営の高度化を図る一年とする。そのため、理事会、アドバイザリーボード、会員組織の役割を整理し、より機動的かつ透明性の高い組織運営の検討に着手する。
また、言論NPOが目指すべき組織像について議論を深め、公益性、持続性、正当性を組織運営の基本原則として位置付ける。
公益性とは、特定の利益や立場に偏ることなく公共の利益に貢献することである。持続性とは、活動を継続するための財政基盤と人材基盤を確立することである。正当性とは、多様な市民や支援者の参加と支持によって活動が支えられることである。
これら三つの原則を組織運営の基盤としながら、世界と日本の課題解決に貢献する、独立した公益的な民間組織としての発展を目指す。
結び
言論NPOは創設以来、対話と議論を通じて課題解決を目指すことを理念として活動を行ってきた。令和8年度は、その理念を改めて原点に据えながら、国際対話、言論空間の再構築、そして組織改革を一体的に進めることで、日本から世界の課題解決に貢献する行動するシンクタンク(DO-TANK)としての歩みを本格化させる。
令和8年度は、令和7年度に築いた基盤を実際の社会的影響力へと転換する一年である。言論NPOは世界と日本の課題に向き合い、対話による課題解決の可能性を示し続けることで、より良い未来の実現に貢献していきたい。
令和8(2026)年度の年間スケジュール
