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2011年10月25日
言論NPOの次の10年-日本の課題に答えを出す議論づくりを
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言論NPOの次の10年 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事) |
これまで10年間を振り返って
田中:工藤さん、こんばんは。
もうすっかり秋めいてきましたが、言論NPOは今年の11月で10周年を迎えることになるのですね。言論NPOはいつ設立されたのですか?
工藤:ちょうど10年前の2001年の11月21日が設立日で、設立総会が10月10日だったのを今でも覚えています。あの時はちょうど小泉政権が発足し、アメリカで9.11が起こった直後でした。
僕は言論NPOを設立する前はメディアにいました。しかし、きちんとした議論の舞台を日本に作りたいということで10年前に言論NPOを設立し、その時はとりあえず10年継続できればいいと思っていました。それがあっという間に10年目になってしまって、もう10年も経ってしまったのかと感じています。
この10年を通して、僕たち言論NPOが言い続けたことは、多くの市民が自分たちの社会で起こっていることに対して当事者意識を持っていないといけないということです。単なる議論のための議論とか、評論家的な議論をするのではなく、メディアはもちろん市民1人1人が社会を構成しているという意識や自分たちの力で未来を切り開いていくという覚悟が必要だと主張してきました。また、同時に、このようなきちんとした健全な議論をする舞台を市民社会に作りたいと考えていました。
しかし、これらはまだ十分に実現できていないと今感じています。ですので10年目以降で次の動きをはじめないといけないと思っています。
日本を大きく変える議論形成を
田中:次の動きというのは具体的にどういうものですか。
工藤:やはり今考え方を変えようとしている点で一番大きなことは、日本を変えるような議論形成をするということです。健全な議論っていうのは日本の社会に必要なのは事実です。そのような議論を聞いたり参加したりすることが、市民が政治を選んだりする際の判断材料になりますので。
しかし、ただ議論することを目的にするのではなく、その議論が日本を変えるくらいの大きな力を持たないといけません。日本が未来に向かい課題を解決につながらないといけないと思っています。単に議論を交わすのではなく、議論をする中で必ず課題に対する答えを出して、その答えによって、日本の未来に向かうための何か大きな流れを作るような議論形成にこれから徹底的に取り組んでいきたいと思います。
また、言論NPOの議論の舞台には多くの有識者が自発的に手弁当で参加していただいていますが、こうした知識層との草の根の市民が一緒に対話をする場も作りたいと考えています。
今日本は大きく変わらないといけない時期であり、有識者層だけではなく、草の根の市民が持っている大きなパワーとかエネルギーが必要なのです。原発や民主主義などこれまで当たり前に考えられてきた問題を考え直してみようという動きも始まっています。こうした議論を有識者が持つ専門的な知識などと交えて、日本が抱える課題の解決につなげなくてはならないと思うのです。
そのためにも知識層と草の根の市民が交流することが必要だと思っています。言論NPOは有識者間で健全で質の高い議論をする舞台と、その知識層と草の根をつなぐ議論の舞台、この2つの舞台を構築し、この議論の中で答えを出す取り組みを10年目の今年から開始しようと思います。
地域の草の根の活動とつながる
田中:逆説的な質問をしますが、知識層に課題解決をする力が本当にありますか?
工藤:日本はもうかなり厳しい状況ですが、自分たちが直面している課題をきちんと認識して、当事者として課題解決に取り組むという意思を持てば、知識層は力になると思います。
問題なのは、多くの人がこうした現実に傍観者として接し、自分の仕事や組織を維持することだけに躍起なことです。余裕がないこともありますが、こうした人が先頭に立つくらいでないと、動きが始まらない。ただ、言論NPOには多くの知識層が参加していただいていますし、その輪は確実に増えている実感はあります。言論NPOはこういった努力や挑戦をしている人たちとつながろうと思っていますし、言論NPOの議論の舞台で議論に参加して、流れを作ってもらうことを期待しています。
また、東京だけではなく、地域で頑張っている人たちともつながっていきたいと思っています。地域の草の根の活動を巻き込んだ議論作りを、言論NPOは間違いなく作っていきたいと思います。これが次の10年に向けてのスタートだと思っています。
世界へ日本の議論を発信する
田中:知識層に関しては、震災あるいは原発事故を経て、色んな反省の議論がなされています。草の根の側から見れば知識層を本当は課題解決の力があるのか疑問を持っているところがあると思います。そういう意味で、課題解決に向けて言論NPOが知の力を集結していただきたいと思います。
工藤:もちろんそのために動いていくつもりです。
それと同時に国内問題だけではなく、国際社会に対しても積極的に発言していかなければ、と思っています。「北京-東京フォーラム」はその一つの舞台ですが、それだけではなく、常設で対外問題を討議する舞台もできないかと考えています。今日本は国際社会の中でかなり孤立しています。日本が世界のグローバル・アジェンダに関してきちんと日本の意見を発信する必要があります。しかし、国際社会の中でアジェンダに対してきちんと答えを出して発言するためには、日本が自分たちの将来とか日本社会が抱える課題の解決に取り組まないといけないのです。言論NPOは日本の課題解決のための議論を行いながら、同時に世界にその議論を発信していくことも考えています。
健全な社会には健全な言論の舞台は必要ですが、議論だけではこの国は変わりません。有識者と草の根の市民をつなげ、現場の当事者の意見を交えながら議論を通じて、課題解決に踏み込まなくてはいけないと思っています。そして、同時にその内容を国内だけではなく対外発信し、大きな目に見える変化を必ず作り出していきたい、これが僕の10年目の決意です。
田中:そうですね。是非知識の力を課題解決のためのエネルギーに変えて、日本を変えるための流れをつくれるように頑張ってください。
工藤:必ず実現します。
田中:どうもありがとうございました。
投稿者 genron-npo : 12:07 | コメント (0) | トラックバック
2011年10月11日
野田政権誕生から1ヶ月-日本の政治をどう考えるか
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野田政権誕生から1ヶ月 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事) |
田中:工藤さん、こんにちは。大変お久しぶりです。
工藤:今、「on the way Journal」というラジオ番組に出演していてその番組内での議論は流していますが、私自身も発言はしないといけないと思っていました。「北京-東京フォーラム」という大きなフォーラムが8月にあり、その後、疲れていて止まっていましたが、10月に入り次に向けた動きを言論NPOは始めましたので、今回「工藤ブログ」を再開させていただきました。
田中:この間大きな出来事として野田政権が誕生しましたが、言論NPOとして野田政権に関してのコメントをお伺いしてよろしいでしょうか。
工藤:野田政権の評価自体は、100日間はハネムーン期間ですので、それを経て100日後にきちんと評価しようと思います。ただ私が野田政権をどういう風に見ているかといいますと、前の首相が辞任をして党内の選挙で首相が変わっただけですので、何かをこの政権が日本の政治を安定させて次に続くとは見ていません。つまり、日本の政党政治がここまで崩壊してしまって、その中で日本が課題解決に向かえず世界から孤立している。この状況は首相が変わったから、それでなおるというものでもありません。ただ、新政権の誕生は日本が大きく変わる中で1つの大きな転機になる可能性が高いとは思います。
田中:転機というのは具体的にはどのような形で訪れるのでしょうか。
工藤:まず新政権が何をしたかというと、党内の中の意思決定の仕組みを決める、ということでした。だけどそれは自民党時代の政務調査会と同じであり、基本的に党が事前審査を行うということと同じです。これは昔民主党政権が言ったこと、つまり、政策決定の政府への一元化や官邸主導とは異なりますよね。しかし、それでも自民党と同じやり方を取ったのはなぜなのか。それほど、民主党の党の意思決定は壊れている、政策を軸に党がまとまっていないということなのです。これは政府の統治の混乱に前政権でつながりました。つまり、何も決められない。党の意見集約がそもそもできない事態に追い込まれていたのです。民主党の場合、それはあまりにもひどい状況でしたが、ただこれは日本の政党政治にもあてはまっていることだと、私は思います。
つまり、政策を軸にして、党が何かをきちんと合意して動かすという仕組みが、日本の今の政党政治には出来にくくなっている。
新政権は党内融和という言葉を使いましたが、そうした状況を立て直さないと、党自体が分解してしまう。そういう状況下に今の政治があるということです。これが成功するかどうか私は分かりません。小沢さんの問題もあります。ただ、仮に党内融和が成功したとしても、日本が抱えている課題の解決に間に合うのかという問題があります。
来年、非常に重要な局面に日本はあります。アメリカも韓国も大統領が変わり中国も権力が変わるなど、大きく世界の政治のプレーヤーが変わるのです。そのときに日本もいろんな影響を受けるはずなのです。日本も政治が大きく変わるでしょう。
しかし、この歴史的な局面で、日本が世界から孤立している。日本の政治に問われるのは、あくまでもこの国が将来像や政策をベースにして日本の未来に向かう動きをつくらなくてはならない、ということです。それを野田政権ができるとは思いません。
日本の政治が大きな変化の最中にあることは事実です。ただ、私はその時に今の日本の政治が未来に向かって本当に動くかどうかということは、永田町が決めるのではなく国民が決めることだと思っています。国民が日本の未来に目を向け、自分たちが何ができるかということを考えていかないと、日本が確かな未来のために一歩を踏み出すということにはならないと思います。
言論NPOはそのための、議論をしないといけないと思っています。
田中:確かに、今おっしゃった点は分かるのですが、具体的にどうやって私たちは政治に対して影響力を行使できるのでしょうか。
工藤:国民がまず政治に影響力を行使するにはまず投票しかありません。
だけど私は「新しい民主主義」というのが必要だと思っています。現在、代議制民主主義の中で私たちは選挙で自分たちの代表を選ぶことになっています。しかし、その政党が駄目なのです。つまり政治家を選ぶ際に商品棚に並んでいる商品が、いつも同じなのでなかなか選べないという事態になっている。つまり、選挙だけではだめで、この棚卸しを行い、この状況を変えないと、私たちが代表を選べないという状況なのです。この状況では私たちはもう1つのことにも取り組まないとなりません。つまり、僕たち自身が今の課題に対してどういう答えを出すのか、未来に対してどういう生き方をすべきかというのをまず自分たちが考えて、実際に課題の解決に取り組むことです。その中には、被災地の問題もあります。実際の課題解決に私たち自身が何らかの形で取り組みを始めない限り政治は変わりません。
その2つが動いて「新しい民主主義」ができるのだと思います。たぶん言論NPOは、そのための議論の場としての役割を果たさないといけないと思っています。今その準備をしていますので、是非期待していただければと思っています。
田中:政治家が政策を作るのを待っているのではなく、政策を誘導するようなアクションを有権者が見せていかなければいけないのですね。
工藤:政策を誘導するのではなく、僕たち自身が課題解決に取り組むという当事者としての意識を固め、自分たちが政策を考え決定して、それを逆に政治に投げるような動きですね。そういう流れが無い限り日本は変わらない状況にきています。
田中:よく分かりました。では、これが「工藤ブログ」の再開のはじまりということで今後も継続して議論を発信していただければと思います。
工藤:はい、これからもよろしくお願いします。