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2010年01月01日

 新年、あけましておめでとうございます

カテゴリー: 言論日記

 新しい年、、私が思うのは今年こそ、日本が未来に向かって挑み始める年にしたいということ。ある意味では私の決意表明でもあるが、この国は未来に向かうどころか、今の日本の課題に答えを出せず、ツケを未来の世代、つまり若者に飛ばし続けて、漂流している。この無責任な流れをもうこのままにはしたくない、そう本気で思うのだ。


私たちが否定したいのは「古い政治」

 日本の政治の世界では昨年、政権交代という歴史的な変化があった。既得権益が構造化した日本の政治を一度変えたい。日本がそれで変わるなら、多少の混乱はやむを得ない、と思っていた。しかし、今の混乱は日本の未来のためではなく、政治自体の準備不足や政党自体の改革の遅れにあることが、わずか100日でよく分かった。

 政治もまた成長するのはよく知っている。それでも今の日本の政治に違和感を覚えるのは、今の政治も過去の政治と同じように、政権をとってもなお日本の課題解決に挑むよりも、選挙に向けた党利党略だけで動いているように感じるからだ。国民の期待とはほど遠いその露骨な動きにも関わらず、政治の世界だけでは自浄作用がなかなか働かない。

 多くの国民は自分の将来だけではなく国の将来にも不安があるのに、日本の政治は未来に向けたビジョンや解決策を未だに競えない。

 そして、まじめに税を納める納税者があきれ果てるような政治指導者の身勝手な行動。それこそ、私たちが否定したい「古い政治」そのものだったはずだ。


本当の変化は「公」への参加が始まったこと

 この間の政治や世界の流れを見てはっきりと分かったことがある。政治に期待するだけでは日本は変わらない、ということだ。では、どうするのか。答えははっきりとしている。私たち自身が変わるしかない。この国の未来は私たちが選ぶという、未来に向かい合う当事者意識と覚悟。それをこの新年にどれだけ多くの人が考えたかで、この国の未来は変わる。それくらい今日の思いが大事だと思うのだ。
私は8年前に、非営利組織で言論の世界に挑もうと多くの人の支えで言論NPOの活動を始めた。考えて見れば、8年前に会社を飛び出したときも,日本の未来に強い危機感を抱いていた。「こうした日本に当事者として向かい合う言論はあるのか」、それが決起の理由だった。

 ではこの8年間、日本は何も変わらなかったのか。そうは思わない。第一に政権交代が実現した。しかし私が感じる確かな変化は、そうした政治の世界の話よりも、公(おおやけ)の分野に広がる、個人の参加の動きである。

 私が日々出会う数多くの人は、様々な分野でこの社会の課題に自発的に向かい合っている。共通していたのは、政府や組織への依存心ではない。自ら主体的に社会の多様な課題解決に挑もうとしていることだ。

 苦労はあるはずだが、多くの市民とつながり、課題を突破している。そして何よりもミッションを語るときの笑顔が素敵である。こういう人間こそこれからのリーダーではないか、という思いが私の中に広がっている。

市民が強くならない限り政治も変わらない

 さて、2010年、私、そして言論NPOはこの閉塞感を打ち破るために、自らも突破しなくては、と考えている。議論の力で、日本の未来に向かう動きを後押しし、市民の中で見え隠れする多くの新しいリーダーを表に出したい。そして課題に答えを出し、新しい政治の流れを作り出したい。 
それが私が今、考えていることである。やや気負って言えば、それは市民社会に新しい、そして強力な論壇、あるいは議論の舞台を作り出す作業だと私は考えている。私たち有権者が、そして市民が強くならない限り、日本の政治も変わらないし、未来に向かえない。私はそれを議論の力で実現したいのである。

 私たちはウェブサイトを1月初め、全面的にリニューアルする。そのテーマは少し気恥ずかしいが「強い市民をつくる言論」である。そこから私たちの新しい年の挑戦を始めたいと思う。

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2009年12月27日

 「鳩山政権の100日」をどう見るか

カテゴリー: YouTube通信

「鳩山政権の100日」をどう見るか

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)



田中: 工藤さん、こんにちは。12月24日は鳩山政権が発足して100日目にあたる日でした。そして昨日25日には来年度の予算案が確定しまいたね。言論NPOではこの100日の鳩山政権をどう見るかということで、有識者を対象にアンケート調査を行い、12の政策分野に関して評価を行って、そして9人の評価委員の先生方の同席のもと記者会見を行ったわけですけれども、今日はこの内容についてお聞きしたいと思います。まずはアンケート結果についてご説明をお願いします。


アンケート結果から何が見えたのか

工藤: このアンケートは一般のメディアで行っている世論調査とは違って、主に企業経営者や専門家・研究者の方々、それからメディアの編集幹部の方々などが回答しています。2000人に送付し、今の時点で324人分の集計が終わっていますが、かなり冷静に、政府と距離を置いて政権の取り組みをきちんと判断できるような方々の回答である、と考えていただいて良いかと思います。今まで安倍、福田、麻生という3政権においても、同様のアンケート調査を行ってきましたが、鳩山政権の100日をどう思うかという質問に対しては「鳩山政権は「当初の期待以下」だという意見がかなり多く、52.5%でした。つまり半数以上が期待以下だと見ているわけです。この期待以下という数字は自民党の3政権よりかなり高いのですが、自民党政権に対しては「そもそも期待していない」という回答が多く、逆に言えば鳩山政権に対しては、当初期待した人は多かったけれども、その期待が急に落ちてしまって、しかも半数以上が今後の政権運営にも「期待できない」と答えているのです。それに伴って支持率も下がり、各政策の評価もかなり低くなっています。特に「首相の資質」など8つの項目で鳩山政権を評価した時に、今までの3政権に比べて特に評価が低いのが「首相の指導力」で5点満点中1.7点でした。これまでは麻生政権の1.6点が最も低い数字でしたが、それに並ぶ水準となっています。ということで、「期待以下」という声が多いのは、首相の指導力のなさと連動しているようにも感じました。
 もうひとつの特徴は、民主党と社民党、国民新党という与党3党のマニフェストをこの時点でもう一回判断してもらおうということで設問をつくりました。先の選挙ではマニフェストの内容を読んで投票した人は少なく、だからこの時点でもう一度聞いてみようと思いました。結果は「修正すべき」という声がかなり多く、特に、現政権がどうしても取り組みたいと言っている「高速道路の無料化」などについては「実行すべきでない」あるいは「修正すべきだ」との意見が圧倒的多数です。これは非常に興味深い問題だと思います。詳しい内容はウェブサイトでもご覧になれますが、以上のような点が特徴だと言えますね。

田中: ということは、民主党政権が重要だと思っている政策については、有識者は「優先順位が低い」と考えているということですね。

工藤: そうなんです。つまり高速道路の無料化や農業の戸別所得補償、それから子ども手当などが、何のために行われるものなのかがわからないと。鳩山政権はその目的を十分に国民に説明していないと思います。ただお金を配ると言ってもそこには目的がありはずです。選挙の際に私たちの評価が低かったのはそれが見えなかったからです。目的がきちんと見えていて、そのためにお金を配るということであれば「なるほど」と納得できますが、目的がわからないまま支出計画だけが出ているのであれば、やはり「選挙目当てでばらまいているのではないか」という疑いは消えません。しかも財政状況が非常に厳しい中で、そこに何兆円ものお金を使うことが果たして正しいのか、見直すべきではないかと。おそらくそのような見方が多いのではないかと思います。


鳩山政権100日の評価は「C」

田中: わかりました。次に言論NPOが行なった鳩山政権の100日時点での評価結果について、ポイントを教えていただきたいのですが。まず評価点は高かったのでしょうか、それとも低かったのでしょうか。

工藤: これは低かったと言えます。今回はABCの3段階で評価を出しましたが、総合評価はCでした。この評価は選挙の際に有権者の判断材料のためにやっているので、100日時点では点数を出したくないのですが、それでもCというのは100点満点中40点以下ということになりますから、かなり低かったということです。
 それはなぜか。私たちの3つの項目について評価を行っています。まずはマニフェストで言われたことが実行されたか、ということですね。そしてその実行のプロセスはどうだったのかということ。もうひとつは国民に対する説明責任が果たされているのか、ということです。この中で点数が良かったのは、実行の部分で、今は成果を出すという段階には至っていませんが、マニフェストを軸として進めていくということに、鳩山政権は非常にこだわっていますので、そういう姿勢に対する評価も反映され、この実行の項目では半分くらいの点はつけられると。
 総合的な評価を下げてしまった要因は、実行プロセスの問題と国民に対する説明不足でした。実行プロセスのところですが、決定はしたものの閣僚間や連立与党間で意見の食い違いが見られ、それを首相はリーダーシップが発揮できませんでした。それだけでなく、「政治主導」ということで、政府が政策を一元化し、内閣主導でやっていくと言っていましたが、予算を見ていても、最後は党の要望によって決断されてしまった。そしてそのときに「党の要望は国民の声だ」ということが言われましたけれども、だとすれば、党の政策決定プロセスをもっとオープンにする必要があります。そういったところで、点数が非常に低くなってしまったということがあります。それから普天間基地の移設問題などを見ていてもそうですが、首相としての意見がブレたり、閣内でいろんな意見が出ることに「最後は自分で決める」と言っても、結局決めることができなかった。個別の取り組みにおいて、それらがどのように進んでいるのかが、国民にとって非常にわかりにくかったのです。説明責任の部分の評価がかなり低かったために、全体の点数も低くなりました。

田中:  実績や成果のところは比較的点数が高かったとおっしゃいましたが、私も評価委員として参加させていただいた身として所感を申し上げますと、実績や成果は2つの要件に分かれていて、いわゆるマニフェスト型の政治を貫いているかということと、政策の中身がきちんとしているかということの2つに着目する必要があります。前者のところでは、確かに鳩山政権はマニフェスト型政治を貫いていたということで、私も高い点数をつけましたが、実際の政策の中身や目標は曖昧であったり、あるいは目標設定が違うのではないか、ということがあり、そこはかなり低い点数をつけました。

工藤: そうですね。マニフェストを具体的に進めた、という形式的な展開に関しては、実際にある程度手続きを踏んで動いているということで点数が高かったのですが、実質的な要件、その中身がどうだったのかという話になると点数が下がるので、その均衡で50点、半分くらいになったということです。しかし、政策実行プロセスというのはそれ以前の問題で、意見がばらばらだったり、党の主張によって政策が変更されたり、首相も決断ができない、国民に説明ができないとなると、この要素について先の「実行」の評価と比べて配点は少ないとはいえ、点数は非常に低くなります。


マニフェストの実行はほぼ不可能になった

田中: ところで、昨日政府の予算案が閣議決定されましたけれども、これをどう見たらいいのかということについて工藤さんのご意見を聞かせてください。

工藤: 民主党のマニフェストは、民主党が国民に提案した、子ども手当や高速道路無料化などいろんなものを含めて16.8兆円がかかる、それを財源として捻出するためにムダを削っていく、というストーリーで構成されていました。だから「今後4年は増税をしない、借金も増やさなくて大丈夫だ」と。もともと、民主党のマニフェストは財源に関する説明が非常にあいまいだったので、前回の選挙の時に行った評価でも、私たちは非常に低い点数をつけたのですが、結果としてその税源の捻出がうまくいかなかったわけです。ムダを削減して財源を生み出すということが上手くいかず、結果として埋蔵金―自民党の時もやっていましたが―それを使ってお金を集める。あとは国債を発行して何とか予算を組んだというのが実態です。
 そうなってくると2つの問題が出てきます。ひとつは民主党が掲げたマニフェストを実現できるのかどうか。今回は、今後1年について埋蔵金を使って何とか財源を捻出しましたが、埋蔵金は残念ながらもう底をついており、来年は期待できません。その中で借金を増やさないというのであれば、本来は増税をしてその負担を国民に求めるか、もしくは約束した支出をやめるか、あとは将来世代にツケを回す、つまり国債を発行するしかない。そうなってくると、どちらにしてもマニフェストの変更は避けられません。支出を変えるというのは、約束した支出を変更するということであり、政権としては「今後4年間は増税をしない」と言ってきましたので。
 今回の予算を見て、マニフェストに盛り込まれた政策を実行することはほとんど不可能になったと思いました。これは来年度の増税の検討を含めて、7月の参院選に向けてマニフェストを本気で変更していかないといけなくなった。そういう事態になってしまったということは、政権は国民に説明しなければいけないと思います。

田中: なるほど。今の話を聞いて私もかなり危機感を持ったのですが、メディア報道や首相の説明を聞いていても、そこまではっきりとは説明されていなくて、「何とか上手くいきました」という伝え方ですよね。

工藤: そうなんです。昨日の発言を見ていても、予算案は「コンクリートからヒトへ」という理念を貫いたと。それから政治主導の徹底や、予算の編成プロセスの透明化など、かなり良いことをやっていて、約束を一部なくしたことに関してはマニフェストの修正をしていかなければいけないとの程度です。しかし、予算の中身をきちんと見てみると、辛うじて組んだという感じです。今回に関しては税収が大幅に減ったということもありますが、鳩山政権からは、経済を大きく変えていくという戦略がまだ提案されていません。「コンクリートからヒトへ」ということは主張していますけれども、もし本当に景気対策を優先するならば、公共事業を行うという選択肢も考えられます。それをやらずに、ヒトにだけお金を配るというかたちになっていますが、その財源について来年以降はメドがついていないということでなれば、国民は消費を増やすでしょうか。私はむしろ、来年以降は予算編成ではメドがつかないという大変な事態になっていると思っています。そういうことについては、説明していませんね。

田中: かなり注意して見ていかないといけませんね。この国の将来がどうなるのかということについて、大きな不安が残ります。

工藤: それから鳩山政権には、根本的なところに疑問があるのですが、政治が政策を考えるときに、「選挙」という要素が強すぎます。今回の予算を見ていても、「来年の参院選をどう戦えばいいのか」いう思惑が見え隠れします。しかし本来、政策というのは科学なのです。つまり何のための政策なのか、その時代や社会の課題にどう向かい合うのか、そしてどう解決するのか、ということに応えていかない限り、政策とは呼べないのです。そういうしっかりとした政策の体系が、政治のレベルでなかなか出てこないのが非常に気になります。
 私たちの先の有識者アンケート調査で注目すべきなのは、日本の今の政治状況を、「二大政党が実現し、今後安定していく」と見ている人が非常に少ないということです。有識者の中ではむしろ「選挙対策でポピュリズムが広がり、政治が混乱していく」と見ている人がかなり多い。既成政党への失望があるのは、日本の政党が党利党略を優先し、未来に向かって競争していないからです
 つまり日本の政治を、社会の課題を解決し、未来に対して挑んでいくというかたちに変えなければいけない。そのために、「今回は無理だったのでマニフェストを変える」ではなくて、もっと積極的にマニフェストを変え、国民に信を問うてほしいのです。そうしない限り、約束を軸とした,国民との合意に基づく政治を実現することはできないと思います。

田中: 有権者にも、今度こそはマニフェストの政策を見て政治を判断するということが問われているということですね。ありがとうございました。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)

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2009年11月28日

 言論NPO設立8周年にあたって

カテゴリー: YouTube通信

 言論NPOは2009年11月21日、設立8周年を迎えました。言論NPOの8年間の活動と、今後の取り組みについて、言論NPOの監事である大学評価・学位授与機構准教授の田中弥生氏が工藤にインタビューを行いました。


言論NPO設立8周年にあたって

田中: 工藤さん、こんばんは。11月21日で言論NPOは8周年を迎えたそうですが、この間、言論NPOは何を目指して、そして今までに何を達成してきたのでしょうか。

工藤: 健全な社会にはきちんとした言論の役割が必要ですが、8年前、私たちには、しっかりとした議論をするという空間が非常に小さくなってきているという危機感がありました。私が目指したのは、その空間を広げるということです。真剣な議論から、政治や政策が動くような流れをどうしてもつくりたかった。それは既存のメディアでは限界があるので、私は非営利組織として、そういうことに挑戦したかったのです。

田中: 具体的にはどのような活動をしてきましたか。

工藤:  大きく言えば2つあると思います。ひとつは、きちんとした議論をする舞台をつくらなければいけないと思ったことです。当時気になったのは、日本の議論を見ていると議論のための議論というか、批判のための議論ばかりだった。日本の将来や未来に向けていろんな議論が行われて、政治が国民に対して何かを提案し、国民がそれを判断するというような、将来志向の議論というものが本当に少なかったわけです。

 それで私がまず取り組んだのは、将来に向けた議論です。そのための会議をつくり、その中で日本の実力の評価(パワーアセスメント)をしたり、日本の将来選択をどうするのかといったことについて議論を行ない、各党の政調会長を呼んで、どのようなビジョンを持っているのかを問うてみたり、その議論のプロセスを公開するといったようなことを行ってきました。そのような議論を行っているときに、ちょうど中国で反日デモが起こり、日中関係が大変な緊張状態になったわけです。私はこの状況を議論の力で解決したかった。アジアの中でもきちんとした議論の舞台をつくるため、私たちは北京に向かい、日中の民間対話を実現したわけです。

 もうひとつは、強い民主主義を実現するための言論です。そのために、私たちは市民側に立ち、その目標に向けた議論をつくりたかった。やはり強い民主主義というのは、市民が強くなっていかない限り実現できないと思うのです。本当の言論の役割というのは、日本の将来に対していろんな問題提起や議論をしていくということだけではなくて、市民が自分たちで自分たちの人生なり未来を決定するための判断材料や議論の場を提供する、ということも重要なのではないかと。そこで私たちが考えたのが、マニフェスト評価だったわけです。マニフェスト評価は、政治が、国民が何でも政治にお任せするような政治から、自分たちが当事者意識を持って、自分たちで政治を判断していくというような大きな政治の変化の流れのひとつだろうと思います。そのために、私たちはこのマニフェスト評価というものを立ち上げたのです。

田中: パワーアセスメントと、アジアの戦略についての議論から始まった日中の議論、それからマニフェスト評価という、3つの大きな柱で、言論NPOは活動されてきたということですね。工藤さんは実際に評価を行う立場でいらっしゃるわけですけれども、今の3つの柱を軸に振り返ってみたときに、ご自身の言論NPOでの8年間を何点だと評価されますか。

工藤: 51点くらいですね。

田中: 51点ですか。その心は?

工藤: つまり、その1点が大きいわけです。次に向けた手がかりが見えてきたということです。やはり、議論を継続していく中で、日本の社会の中で健全な議論をつくるということが日本の未来にとって非常に重要だということを実感したわけです。次の目指すべき方向もはっきりしてきたということで、そういう面では51点だと。

田中: 次の課題が見えてきた、展望が見えてきたということですが、ではこれから具体的に何をしたいのか、抱負をお聞きしたいのですが。

工藤: 言論NPOは12月にホームページを全面的にリニューアルするんですね。これからは「4つの言論」で、議論をさらに発展させようと思ったからです。

 これも、次の展望に関係するところですが、やはりこれからは「市民が強くなる言論」ということを重視しなくては、と思いました。日本では政権交代が実現しましたが、本当の意味でこの国を変えるためには、強い市民社会が必要だと思うからです。ここでは市民を強くするための様々な議論をするために、NGOやNPOの皆さんだけではなくて、田中さんにも協力してもらっていますが、いろんな学者さんに編集委員になってもらって、多くの人が参加できる議論の舞台をつくり、その議論を広く発信したいと思っています。それだけではなくて、やはり私たちは「政治に向かい合う言論」ということで、市民がきちんと政治に向かい合えるようにするために、マニフェストの評価をはじめ、様々な政策課題について学んだり議論ができるような言論をつくろうと思っています。それから、政治の評価をするだけではなくて、みんなで日本の将来を考えようというのが、「次の日本をつくる言論」です。その中では様々な日本の課題解決に向けて、期間を設けて議論をし、その結果をもとに政府や政党に対して提案をしていくということを考えています。4つ目は「世界とつながる言論」です。アジアや世界が多極化する中で、日本はどのような存在感を発揮していけばいいのか、つまり大きな意味での外交ということを民間が語っていくと。実は、国際社会の中で日本の針路を語り合う議論の場は私たちの初心なのですが、それは次の3年で必ず実現しようと思っているのです。

 今度のリニューアルでは、サイトをこの4つの言論というカテゴリーに分け、そこで議論が回るだけではなく、活動が動き、それが見える形にしようと、全面的につくり変えているところです。急ピッチで作業を進めていますが、おそらく12月中旬には公開できるのではないかと思っています。

田中: 楽しみにしています。それから8周年を記念して、パーティーを開催されるとのことですが。

工藤: はい。私たちの運動は、いろんな人に支えられて成り立っているんですね。そして、健全な社会には健全な言論が必要だと、日本の将来にとってきちんとした議論が必要だという思いを持っている人はやはり多いのだろうと思います。そういう方々にはぜひ、私たちの議論に参加してもらいたいし、こういう議論づくりに協力してもらいたいと思っています。そういう意味で12月22日、次の動きに向けてパーティーをやろうと。年末の大変な時期ですが、今年はやはりパーティーで締めくくって、新しい2010年には、私たちは本当の議論をやっていきたいと思っています。

田中: 私も参加させていただきますが、頑張ってください。

工藤: どうもありがとうございます。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)

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2009年11月20日

 「事業仕分け」前半戦をどう見るか

カテゴリー: YouTube通信

「事業仕分け」前半戦をどう見るか

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)



「事業仕分け」前半戦をどう見るか

田中: 工藤さん、こんばんは。事業仕分けに関して、工藤さんは新聞やテレビで発言なさっていましたけれども、紙面や時間が限られている中で、全体の真意が伝わりきらなかったところもあるのではないかと思います。そこでもう一度、事業仕分けについておうかがいします。前半戦が終わったということですが、今回の仕分けをご覧になってどのようにお考えですか。

工藤: 予算査定の一端がオープンになったということで、国民にとっても「予算とはこういうものなのか」ということがわかったという意味では良かったと思います。また、無駄に切り込むということで、いろんな手法を活用して政権が取り組んだということは、政権交代があったからこそ実現できたことですから、これは評価できると思います。しかしやり方が荒っぽい。何がムダなのかよくわからない。ルールなきショーを見ているような感じがして、違和感を覚えましたね。

田中: 確かにこの点については、インターネットなども含めて他の報道を見ていても、プラスの評価と同時に批判も出てきているように思います。ただ、問題の本質というものはそれ以外にもあるような気がしますが。

工藤: 私は3つあると思います。ひとつは、「無駄を査定する」ということそのものに問題がある。本来、無駄という場合には短期的な効果が見られないとか、社会的なニーズに応えていないとか、もう終わっている事業にお金がついているといった問題があるのだろうと思います。しかしこれらは本来、財務省の査定の中で解決すべきものであって、これまでそれを解決できなかったということのほうが問題です。にもかかわらず、今回の仕分けは、財務省の主計局がお膳立てしたメニューの中で、議事の進行が行われています。中には良い議論もありましたが、個人的な主観だけのヒステリックな議論が目立った。そうなってしまうと、この先、査定というものをどう考えていけばいいのかということについて、大きな課題が残ったように思います。
 2つ目は、そうは言っても、これまでのきちんとした査定ができなかった背景には、要求官庁の後ろに政治や利害当事者の既得権益の問題があるなどの理由で、なかなか予算を切れないということがありました。切るといっても「前年比~%」というくらいが精いっぱいで、結果的には何かのかたちで残ってしまうという構造的な問題があったのだと思います。しかしそれを改めることができるのは、政治しかないわけです。鳩山政権は政治主導を謳い、これまで官主導の中で生じてきた構造的な無駄や不都合を改めたいということで、取り組んでいるわけですが、今回のこの問題について、なぜ政治主導で取り組まないのかと。逆に、政治主導ということで各省庁に入ったはずの副大臣や政務官が、仕分け結果について「問題がある」と言っているのは、どういうことなのか。つまり、これは政治主導による改革に動きに限界があるということを示しているのでしょうか。私が一番気になるのは、こうした民間の力を借りての査定を行うことで、これまでの自民党政治がもたらしてきた構造的な問題を解決することについての政治の責任を、回避することになってしまうのではないかということです。
 3つ目に、政府が抱える課題の中には「無駄」という基準だけでは答えを出せないものもあるわけです。たとえばスーパーコンピュータなど科学技術にかかわるプロジェクトの中には、確かに疑わしいものもありますけれども、20分や30分という時間の中で「無駄だ」とか「国益上の問題は意味がない」などと言って判断してしまうのは、やり過ぎだろうと思います。いっぽうで、国と地方との関係や官と民との関係などはまさに、行政刷新ということで取り組まなければいけない問題ですが、それは「無駄かどうか」という基準で判断できることではないでしょう。行政刷新のための政策手段として、「無駄」ということだけをベースにしてやるということには、明らかに限界があります。

田中: 確かに今回の仕分けについては、「査定プロセスが透明化された」という切り口で見て評価をしている人が多いように思いますが、その背景には、これまで弱まってきた財務省の査定機能をどう考えるのか、そこをリードする政治主導の問題をどう考えるのかという、かなり本質的な課題が残されているというわけですね。

工藤: そうです。仕分け人の方々がどういう基準で選ばれたのかよくわからないですが、今回はその「民の力」を借りて、旧来の構造を変えていくという手法をとったわけですよね。しかしそれは本来、政治主導でやるのが鳩山政権の狙いだったのです。今回の一連の仕分けについては、そのプロセスをオープンにすることが目的なのではなく、結果として本当の無駄をどれだけ削減できたかということが、評価の対象になるわけでしょう。「廃止」とされたものが、今後の予算編成の中で復活するということはあまりないと思いますが、「一部削減」や「見直し」とされたものが、これから行われる査定官庁と要求官庁との間の調整の中で復活する可能性はあります。ですから結果に関して、政府は責任を持たなければなりません。事業仕分けを行う人たちは、言ってみれば責任がないわけです。予算に関しては、査定官庁と要求官庁が決め、内閣として予算書を決定することになるわけですから、この決定について、政府にはきちんと国民に対して説明してほしい。なぜその事業が無駄と判断されて廃止されたか、あるいは復活したかについて説明する必要があるということです。

田中: 今の時点では、仕分けの結果を見て「何兆円削減できたか」というところだけで評価をしがちですが、私たちが本当に着目すべきは、その後に出てくる予算書であり、それについて政府がどういうふうに説明できるかということなのですね。

工藤: そうです。マニフェストを軸とした政治のプロセスにおいて、予算書というのは約束を実現することを目的とした政策決定メカニズムの中の、ひとつ目のアウトプットなのです。だからこそ、予算書には非常に意味がある。しかし残念ながら、言論NPOでもこれまでのマニフェスト評価の中で、この予算書というものを評価しようと何度も試みてきたわけですけれども、非常に難解です。省庁別になっていて事業別に体系化されていない。ひとつの事業に関するものがいろんなところに入ってしまっていて、目的と、何のためにその手段を使うのかということが体系化されていないわけです。ですから、国民に対して開かれた予算のプロセスを実現したいというのであれば、まず予算書の改革をすべきです。国民にとって評価可能なものに、予算をつくり変える必要があります。同時に政府として、それを自己評価するしくみをつくらなければなりません。そうなれば、私たち言論NPOも含めて民間側がそれを評価できるようになるのです。それが本当の、国民に開かれた政治のあり方だということになるのだと思いますが、いかがでしょう。

田中: おっしゃる通りですね。マニフェスト評価を行ってみて、私たちが最後に突っ込みたいところはやはり予算書ですよね。逆に言えば、予算書を見ると、政権が何をしたいのかということがわかるのではないかと思いつつ、今のしくみではそれができないということですね。それが機能別の予算書などと言われているところだと思います。ここまでの制度改革には時間がかかると思いますが、ぜひ新しい政権に期待したいところですね。

工藤: 極端に言えば、政治の意志さえあれば、予算を変えたり、過去の政権が行ってきたものの中で無駄だと判断できるものをなくすことはできるわけです。それを、政治主導で行政刷新に取り組もうとしている鳩山政権に期待したということはあったと思います。それが果たして今回、十分に発揮されているのかどうかという点も重要でしょう。いっぽうで、今回の話は、麻生政権までの自民党政権の中に、既得権益に支えられたかたちでの構造的な無駄があったので、これを正さなければいけないということが前提となっているわけです。仕分けについては今、大騒動になっていますが、これを乗り切って来年予算編成を行ったとして、その後の査定はどういうしくみでやっていくのでしょうか。そこでも絶えず効率を考えていかなければならないでしょうし、無駄を削減するという視点で吟味していくことが必要になりますよね。今回と同じように、査定が不十分だということで、民間を巻き込んで仕分けを行うつもりなのでしょうか。それをしないというのであれば、政治主導の中で、今後査定機能をどのように強化していくのでしょうか。それらが今後の課題になっていくと思います。

田中: いずれにせよ、こういうしくみを導入したことによって、予算編成や査定といった政府の最も重要な機能の本質的な課題が、見えてきたということではないでしょうか。

工藤: そうですね。国民との約束を軸とした政治のプロセスが始まったという視点で、厳しく見ていかないといけないと思います。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)

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2009年11月13日

 「北京‐東京フォーラム」で学生たちは何を思ったのか

カテゴリー: 言論日記

 先日開催された「第5回 北京‐東京フォーラムin大連」には、日本から5名の学生インターンが参加しました。学生たちはこの歴史的な舞台に参加して何を感じたのでしょうか。フォーラム閉幕直後の11月3日深夜、会場のホテルで彼らに話を聞いてみました。

<発言者(学生インターン)>
石田由莉香、楠本純、河野智彦、角陽子、水口智
<司会>
工藤泰志(言論NPO代表)

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2009年11月04日

 フォーラム全日程を終えて

カテゴリー: 言論日記

 フォーラムを終えてまず感じているのは、ようやく折り返し地点に来たなということです。日中関係が最悪のときにフォーラムを立ち上げて、当面は10回開催することを中国側と合意しています。これを軌道に乗せるまでに5年かかりました。次の5年はこの成果の上に立って、さらにこの対話を前進させなくてはなりません。これからは抽象的な議論でお互いの考えをぶつけ合うのではなく、具体的な課題解決や、日中やアジアの未来に向けて具体的な何かが動き出すような対話をつくっていかなければいけない。これは「大連宣言」にも盛り込まれたことです。

 一方で この対話が何かの価値を生み出していくようにするためには、議論のあり方や方法について、いろいろな改善しなくてはなりません。たとえば、この対話を年に1回で終わらせるのではなく、継続的な議論を経て、このフォーラムに結びついていくようなかたちにできないだろうか、あるいは言論NPOや中国日報社の発信媒体を利用して、そうした議論をつくれないだろうか。いろんな可能性があると思います。

 私が嬉しかったのは、まさに予算委員会が行われている大変な時期に、日本の政界から、渡部恒三さんを含め4人の政治家の皆さんが参加してくれたということです。かなり困難な局面であったにもかかわらず、それを乗り越えてこのフォーラムを発展させなければいけないという思いが、両国の中にきちんとある。それを今回は再確認できたということも、嬉しかったですね。

 もうひとつ、私が説明しなくてはならないのは、このフォーラムは手作りで行っているということです。北京での大雪が原因で、政府関係者が来られなくなったり、しかしそんな中、通訳の方々が深夜にマイクロバスを乗り継いで駆けつけてくれたり。大連市からもたくさんの市民ボランティアの方々にご協力いただきました。日本人留学生も参加してくれました。皆さんの思いに、今回のフォーラムは大きく支えられたのだと実感しました。

 それから、もうひとつ、今年のフォーラムのタイミングが私たちの思っていた以上に歴史的なものだったということです。建国60周年を迎えた中国が経済大国として台頭しつつある中、日本では政権交代によって政治が大きく変わりました。しかし、一方で私たちが行った世論調査では、この5年で政府間関係は改善したにもかかわらず、お互いの相互理解が進んでいない、つまり、変わらないものと変わったものが共存しているのです。

 次の5年ではこの問題に取り組みながら、このフォーラム自体が未来志向でアジアの将来や課題の解決に取り組む必要があります。これはチャンスだと思います。実際、大会期間中の議論を聞いていて、このフォーラムが新しい日中関係やアジアの未来に向けて具体的な議論を始めるためのきっかけになるのではないかと思いました。

 鳩山政権が提唱した「東アジア共同体」についてはフォーラムでも活発な議論が行われていて、このメッセージが中国社会に想像以上に伝わっていることがわかりました。中国側は明確な発言を避けるようなところもありましたが、中国のメディアは高い関心を示しており、記者会見での質問もこの話題に集中しました。

 共同体の議論は始まったばかりで、まだまだ見えてこないところも多いですが、これまで過去を議論してきた日中が、新たな関係に向けて同じ土俵で議論していこうという動きが始まっているのだと感じました。また「気候変動の問題には取り組まないのか」と中国の記者から聞かれた時には少し驚いたのですが、このフォーラムがアジアや世界の課題の解決に取り組むことへの要望や期待は、かなり高いわけです。次の5年ではそれに応えないと、と思ったわけです。


 皆さんにはインターネットを通じてこの議論を見ていただいたと思います。議論は毎日、公表しましたが、これは30人を越す、現地の日本人留学生や日本からのボランティアが、議論を一刻も早く伝えたいという思いで徹夜で努力した結果です。皆さんに知っていただきたいのは、アジアの将来に向けた議論が民間の力で動き出していると、いうことです。

 また大連理工大学で行われた「政治対話」には300人以上の学生が駆けつけ、会場に入りきらなかったと聞きました。次々に質問が出たと。中国の若い層が日本の政治の変化や、アジアの未来に向けた対話に強い関心を持っている。私たちはこの勢いを来年の東京大会に結びつけたいと思います。東京でもぜひこのような学生との対話の機会を設け、若い人たちの熱気にも支えられた対話をつくりたいと思います

 言論NPOでは今回のフォーラムの報告書も発行する予定ですので、ぜひご期待いただきたいと思います。


投稿者:gnpo|この記事へのリンクコメントする/見るトラックバック