十倉雅和日本経済団体連合会会長
「東京会議2024」の開会にあたり、一言ご挨拶申し上げます。本会議は、世界10カ国のシンクタンク代表者が参加する形で、これまでに7回開催され、回を重ねるごとに内容が充実していると伺っており、ご同慶の至りであります。主催者であります言論NPOの皆様のご尽力に敬意を表したいと思います。
本日のテーマであります「多極化、分断化する世界で国際協力をどう回復するのか」は、世界の現状に鑑みれば、誠に時宜を得たテーマであると同時に、非常に難しい課題であると存じます。
1989年の冷戦終結後、1995年に設立され、その後に中国やロシアも加わったWTOを中心とする自由で開かれた国際経済秩序の下、世界各国の相互依存が進みました。しかし、そこから30年余りが経過した現在、世界は、分断の傾向を強めると同時に、大きな構造変化と地球規模の課題に直面しております。こうした変化や課題について、3点申し上げます。
1点目は、地政学・地経学的な緊張の高まりです。米国と中国の二つの経済大国間の競争・対立は、冷戦後の相互依存関係を逆手に取った強制技術移転や経済的威圧行為、相互依存関係の一部を断ち切る輸出管理や投資規制の強化などを通じ、世界に多大な影響を及ぼしています。
また、国連憲章を率先して体現しなければならない常任理事国ロシアのウクライナ侵略は、主権と領土の一体性という国連憲章の原則をあからさまに踏みにじるものであります。しかしながら、それを明確に非難せず、曖昧な態度をとる国があるのも、国際社会の現実であります。さらにハマスとイスラエルの大規模な戦闘は、巻き込まれた市民の悲惨な光景、戦闘の宗教的・歴史的な背景と相まって、世界中に新たな溝を産んでおります。
ドイツの著名な哲学者でありますボン大学のマルクス・ガブリエル教授は、危機が相互に因果関係を構成する現状を、nested crisis、すなわち、危機が入れ子状態(nested)で複雑系(complexity)を成していると表現しております。
こうした危機をいかにして乗り越え、決定的な分断を回避していくのか、我々は大きな課題に直面しております。
2点目は、グローバルなパワーバランスの変化です。今や世界最多の人口を抱えるに至ったインドを筆頭に、インドネシア、ブラジルをはじめ、いわゆるグローバルサウスの国々が台頭しています。一方、昨年、日本が議長を務めたG7の世界に占めるGDPのシェアは5割を下回っております。G7広島サミットに、多くのグローバルサウスのリーダーを岸田総理が招待したのは、こうした現実を反映したものであると思います。
また、グローバルサウスの国々は、大きな市場を世界に提供するとともに、資源・エネルギー・食料を供給する重要な存在であります。
わが国をはじめ各国が持続的な成長を遂げるためには、こうしたグローバルサウスの国々との連携が欠かせません。一方、多くのグローバルサウスの国々は深刻な社会課題を抱えており、我々としては、それらの解決に協力しながら、いかにして連携を深めていくか、国際秩序を再構築するにあたって重要な課題となっております。
最後3点目は、気候変動問題や感染症への対応といった地球規模の課題が喫緊の課題になっていることです。こうした地球規模課題を解決するためには、国際協力が求められます。しかしながら、世界の分断は自国優先主義を助長し、課題解決に向けた国際協力を阻んでいる現状にあります。
気候変動問題につきましては、パリ合意を経て、期限付きのカーボンニュートラルを表明する国・地域が、世界のGDPの94%を占めるなど、気候変動問題への対応の重要性は世界的な理解を得つつあります。しかしながら、危機の深刻さを前に、いかにして協力の機運を盛り上げ、努力を継続していくか、我々に課された重い課題であります。
こうした複雑で難しい課題を解決していく上で、シンクタンクの果たす役割は非常に大きいと考えます。経団連は、Policy & Actionをモットーに、政策提言を取りまとめ、その実現を働きかけるにあたり、シンクタンク的な機能も有しております。
以下では、このPolicyとActionという二つの視点から、シンクタンクへの期待、「東京会議」への期待を述べさせていただきます。
まず、policyについてであります。先ほども申し上げましたように、様々な課題が複雑に絡み合っている時代にあって、適切なpolicyを打ち立て、実行するには、複雑に絡んだ糸を解きほぐしながら、複数の課題に対して、複数の政策を講じていく必要があります。
そして、そうした政策が着実に実行されるには、自国民あるいは相手国の市民に対し、わかりやすいナラティブをもって説明して理解を得ること、いわゆるパブリック・ディプロマシーが極めて重要となるものと存じます。
本日のような会合の開催、特にこの後に予定されているパネルディスカッションなどは、様々な政策の功罪を検討する上で格好の機会を提供すると考えます。
Actionの面では、現在のような国際環境の下では、多くの国々が集うマルチの場で、なかなか意見の一致を見ることが難しいところです。まずは、同じ価値を共有する、あるいは価値観の近い、例えばG7でコンセンサスを得て結束を深め、その協力の輪をOECD、G20、さらには国連・WTO等に徐々に広げていくことが有益であると考えます。
この点、「東京会議」がG7各国にインド、ブラジル、シンガポールを加えた10カ国のシンクタンクで構成されていることは非常に意義深く、今後の発展を期待させるものであります。
経団連としても、引き続きPolicy & Actionを積み重ね、微力ながら国際協力の醸成に貢献していく所存です。
今年は世界各国で選挙が行われる選挙イヤーです。既に行われました台湾やインドネシアに加え、来月はインド、韓国、そして11月には米国で議会選挙や大統領選挙が予定されています。これらの結果を見通すことは困難ではありますが、世界の分断がこれ以上進まないように、我々民間として、叡智を結集し、世界のリーダーにあるべき政策を発信していく必要があると存じます。
最後に、今回の会議が国際協力の回復・推進の一助となることを祈念し、私の開会の挨拶といたします。
ご清聴ありがとうございました。
