I 言論フォーラム「米国政治に変化はあるのか」
参加者:今村卓(丸紅経済研究所代表取締役社長)
中林美恵子(早稲田大学教授、東京財団理事長)
三牧聖子(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
司会者:五十嵐文(読売新聞論説副委員長)
2024年の米大統領選は、7つの激戦州すべてを制するなど、トランプ氏の圧勝で終わりました。しかしトランプ大統領の支持率は、2025年10月末から急落し、11月に入ると平均で40%台前半にまで落ち込んでいます。
一方、ニューヨーク市長選では、自身を民主社会主義者と位置づける民主党候補、ゾーラン・マムダニ氏が当選しました。
米国政治に今、どのような変化が起きているのか。長年米国政治をウオッチしてきた専門家らは、「激しく対立してきた共和党と民主党が、あまりにも大きな格差を前に、政策面で似た傾向を示し始めている」との認識で一致しました。米国社会は「右か左か」ではなく、「上と下」で分かれ始めている――。そうした構造変化を指摘する声も相次ぎました。
また、トランプ氏、マムダニ氏ともに党内の本来的な主流派ではないことから、今秋の中間選挙は「共和、民主のどちらが勝ったとは言えない選挙になる可能性がある」との見方も示されました。
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I 民主党への政策的接近― なぜトランプ大統領はマムダニ氏を評価したのか
今村 卓氏(丸紅経済研究所代表取締役社長)発言要旨

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ベネズエラ攻撃は、西半球を確保するという国家安全保障戦略の最初の一歩であり、現時点では「成功」と評価できる。
• ただし、トランプ大統領が一貫した戦略に基づいて動いているわけではなく、今後も刹那的な判断による行動が続く可能性が高い。
• マムダニ氏は、市営バスの無料化など、本来共和党が最も嫌う類の政策を掲げている。
• それにもかかわらずトランプ大統領がマムダニ氏を評価したのは、「そこに何らかの答えがあるのかもしれない」と感じているからではないか。
• 日米経済関係については、日本企業が「米国に投資し、内需にチャンスを見出す」姿勢に移っているため、大きな懸念はない。
• 米国が自由貿易に戻ることは考えにくく、米国以外とのFTA・EPAを推進しつつ、人口大国の内需に活路を見出す戦略が必要だ。
• ルールベースの国際秩序が崩れる中で、それを前提とした「自由で開かれたインド太平洋戦略」を訴え続けてよいのか、新しい打ち出しが求められている。
• 3月の高市首相の訪米では、台湾を巡って米中が拙速なディールを行わないよう、明確に釘を刺せるかが重要になる。
I 中間選挙は「勝者なき選挙」になる可能性
中林美恵子氏(早稲田大学教授、東京財団理事長)発言要旨
• ベネズエラがより住みやすくなり、難民や麻薬・犯罪の流入が抑えられるのであれば、今回の攻撃を「悪くない」と受け止める米国人は少なくない。• 一方で、トランプ大統領の支持率は特に無党派層で急落している。
• 対外干渉を避け、物価高対策など国内課題に注力するという約束を果たしていないことへの不満が、支持離れにつながっている。
• 格差の中で恵まれていない人々に光を当てようとしている点や、党内主流派と距離を置く存在である点で、トランプ氏とマムダニ氏は共通している。
• 共和党、民主党双方の主流エリートが嫌われる中で、中間選挙は「どちらの党が勝った」と単純に言えない結果になる可能性がある。
• 日本外交は、米国のいない場で各国をまとめ、意思統一を図る努力がより重要になる。
• 同時に、対米外交では、これまで蓄積してきた外交資産を活用しながら向き合っていく必要がある。
I 米国は「右左」ではなく「上下」で分かれ始めている
三牧聖子氏(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)発言要旨
• 中東での失敗を批判し、国内課題への集中を求めてきたMAGA派が、今回のベネズエラ攻撃には最も賛同していた。• 「ドクトリン主義」は米国の伝統外交との連続性を装っているが、実態は明確な断絶であり、米国外交は歴史的な新段階に入っている。
• 激しく対立しているように見える民主党と共和党だが、極端な格差を前に、政策面では似た傾向が表れ始めている。
• 現在の米国社会は「右か左か」ではなく、「上と下」で分断されている。
• 崩壊した中間層を含む「下」の人々が、新しい政治を求めてマムダニ氏に投票した。
• 米国に依存し続ければ、その依存関係を逆手に取られて傷つけられる可能性があり、外交の多元化が不可欠だ。
• 日本は対中関係改善の糸口もつかめておらず、外交論議も低調なまま。今年は米中会談が4回行われる予定であり、日本外交にとって正念場の一年となる。