日米同盟はなお不可欠――その上で問われる日本の主体性と役割~言論フォーラム「日米同盟の意義と、今後の同盟関係」~
第二次トランプ政権の発足を受け、日米同盟は新たな局面を迎えている。中国の軍事的台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発、ロシアの対外行動など安全保障環境が厳しさを増すなか、日本と米国は防衛協力の強化を進めてきた。一方で、米国の同盟国への負担要求や通商政策をめぐる不確実性も存在する。インド太平洋地域の安定を支える基軸として、日米同盟は結束と課題の双方を抱えながら、その真価が問われている。
議論では、中国の軍事的台頭や北朝鮮、ロシアを含む厳しい安全保障環境の中で、日米同盟は依然として日本の安全保障の基軸であり、抑止力として不可欠な役割を果たしているという点では、おおむね意見が一致した。
一方で、トランプ政権下の米国の対外姿勢を受け、日米同盟は従来の「価値の同盟」から、中国への対抗を主眼としたより軍事色の強い同盟へと変化しつつあるとの見方も共有された。参加者からは、軍事的な抑止力の維持は重要であるものの、それだけでは地域の安定や秩序を支えられないとの指摘が相次いだ。
また、日本は今後も日米同盟を外交・安全保障の基軸としながら、自律性や主体性を高めていく必要があるとの認識でも一致。防衛力の強化に加え、同志国との連携を深め、多層的な外交・安全保障ネットワークを構築することが重要だとの意見が多く聞かれた。
さらに、法の支配や国際秩序の維持こそが、日本の強みであり役割であるとの認識も共有された。軍事力による抑止と並行して、日本が地域や国際社会の安定を支える「バランサー」として行動し、必要に応じて同盟国である米国にも率直に意見を述べる姿勢が求められているとの見方が示された。参加者は、日米同盟を維持・発展させながらも、日本独自の外交的役割を発揮することが今後の重要な課題であるとの認識で一致した。
I言論フォーラム「日米同盟の意義と、今後の同盟関係」
参加者:佐藤武嗣(朝日新聞論説主幹)
佐竹知彦(青山学院大学国際政治経済学部教授)
千々和泰明(日本大学国際関係学部准教授、元防衛研究所主任研究官)
西正典(元防衛事務次官)
司会者:工藤泰志(言論NPO代表)
佐藤武嗣氏(朝日新聞論説主幹)発言要旨
・同盟には①抑止力強化、②防衛コスト軽減、③国際的影響力・発言力の確保、④経済的相互利益という4つの主要な利点がある。戦後日本は日米同盟を通じてこれらの利益を享受し、繁栄を実現してきた。
・しかし第2次トランプ政権の登場により、日米同盟の利益だけでなくリスクも顕在化している。抑止力や安全保障面での日米同盟の有効性は依然として認められる一方、国際的影響力や経済的利益の面では課題が生じている。
・日本が掲げるFOIP(自由で開かれたインド太平洋)の理念である自由、開放性、包摂性、法の支配と、現在の米国の行動との間に乖離が生じている。
・日本は中国への抑止力強化を進める必要があるが、力のみでは中国に対抗できず、日本の国益に直結する法の支配と自由貿易を守る戦略が必要である。
・日本外交の基軸は引き続き日米同盟に置くべきだが、対米一辺倒ではなく外交的自律性を拡大する努力が求められる。自律性とは、他国からの強制ではなく、自国の規範や国益に基づいて主体的に行動する能力である。
・ASEAN諸国では米国への信頼低下と中国への傾斜が進む一方、日本は「最も信頼できる国」として高い評価を維持している。日本が信頼される最大の理由は、国際法を尊重・擁護する国家と見なされていることである。
・日本は日米同盟を維持・管理しながらも、多様な外交的選択肢を確保し、自律的な外交を展開すべきである。米国への過度な追随はASEAN諸国の失望を招き、結果的に日本の国益を損なう可能性がある。
・トランプ政権下の日米同盟の特徴は、「価値の同盟」から中国への抑止を中心とした「純然たる軍事同盟」へと性格が変化しつつある点にある。
・トランプ政権の「力による平和」は、多国間主義や法の支配といったリベラルな価値を重視せず、勢力均衡による対中抑止を優先する考え方である。その結果、中国への軍事的抑止は日米同盟が担い、それ以外の地域秩序や価値の維持は日本や地域諸国が担うという役割分担が必要になっている。
・日米同盟は中国への抑止力として不可欠であり、米国との協力を継続する必要がある。一方で、自衛隊と米軍の統合が進むほど、日本の行動の自由度や自律性が低下する懸念も存在する。オーストラリアでもAUKUSを通じて同様の問題が生じている。
・日本の主体性や自律性は軍事以外の分野で発揮すべきであり、そこに日本外交の余地がある。自律性とは選択肢を増やすことであり、そのためには、米国以外の国々との連携強化が重要である。同志国との連携を広げることは、結果として対米関係における自律性の向上にもつながる。
・「進化したFOIP」の核心は、地域の自律性と強靱性を高めることにある。日本は豪州、韓国、インド、ASEAN諸国などと連携し、大国による現状変更に対する地域の抵抗力を強化する役割を担うべきである。
・日米同盟は冷戦期にソ連封じ込め政策のアジアにおける要として形成され、日本防衛だけでなく「極東の平和と安定」を目的としてきた。かつては「極東条項」が日本を米国の戦争に巻き込むとの懸念(巻き込まれ論)が強かったが、現在は、むしろ極東有事の際に「米国は本当に日本を守りに来るのか」という懸念へと論点が変化している。
・日米同盟は「基地提供」という日本の義務と「防衛義務」という米国の義務によって成り立つ、非対称だが双務的な関係である。しかし、トランプ大統領はこれを「片務的」と捉え、これまで積み上げてきた同盟理解を単純化している。米国に防衛義務がなかった1951年旧安保条約時代への逆行というリスクもあり得る。
・自律性や自主防衛は人によって意味が異なり、概念が曖昧なまま議論されてきた。日米同盟を前提とするなら、自律性とは同盟を弱めることではなく、日本の役割を拡大しながら同盟を強化することだ。
・現在進められている主体性や自主性の強化は、トランプ政権への対応というより、2018年頃から続く日本の安全保障政策の延長線上にある。
・米中首脳会談で言及された「トゥキディデスの罠」は、単なる共存論ではなく、中国側が対中抑止を弱めるために利用している側面もある。中国の台頭を理由に抑止を弱めるべきではなく、日本は対中抑止の姿勢を維持する必要がある。
・国際法に基づく国際秩序の維持は、日本の国益そのものである。中小国にとって国際法は国益を守る基盤であり、大国による力の支配を抑制する役割を持つ。日本はこれまでも同盟国として米国と距離を調整しながら、国連や国際秩序を重視する方向へ米国を導こうとしてきた。今後も米国と対立するのではなく、同盟関係を維持しながら国際法重視の方向へ粘り強く働きかけていくことが重要である。
・日米同盟はギブアンドテイクの関係である。日本にとっての最大の意義は、核保有国が集中する北東アジアにおいて米国の拡大抑止に依存できる点にある。米国にとっても、日本の経済基盤や地政学的位置はインド太平洋戦略を遂行するうえで不可欠であり、双方に利益が存在する。
・米国が同盟国に負担増を求める流れはトランプ政権特有のものではなく、ニクソン政権以来続く長期的な潮流である。
・現在の国際社会では、ロシアのウクライナ侵攻以降、国際秩序や国際法が揺らぎ、「野蛮の復活」とも言える状況が進行している。日本は日米同盟だけでなく、欧州諸国と共有する価値観を基盤に、より広い国際秩序の維持について考える必要がある。
・米国は中国を十分に理解できていないが、日本は3000年にわたり中国と交流してきた歴史を持ち、中国文明と西洋文明の双方を理解できる数少ない国家である。日本には「文明間の通訳者」としての役割が期待される。日本の主体性とは、米国への追随でも対抗でもなく、米中双方を理解しながら柔軟に橋渡しを行うことにある。
・中国は現在、反腐敗運動などによる国内混乱を抱えており、軍事組織としても十分な機能回復には数年を要する。日本は中国の現状やリスクを米国や欧州に伝え、中国の暴走や混乱を防ぐ役割を果たすべきである。中国の混乱は世界全体を巻き込むリスクとなるため、その影響を最小化することが日本の重要な責務である。
・今後はホルムズ海峡などを含む国際的なエネルギー・経済秩序の安定を誰が担うのかという新たな課題に向き合う必要がある。日本には東アジアの安定的な国際システムを構想し、地域の理解を得るための戦略的思考が求められる。
・同盟国が誤った行動を取った場合には率直に諫言するべきだ。日本は米国に対して必要な意見を述べつつ、同盟を管理・運営していくべきである。