基調講演 / パオロ・ジェンティローニ(欧州委員(経済担当)、元イタリア首相)

パオロ・ジェンティローニ

欧州委員(経済担当)、元イタリア首相


分断の出現は、大きな経済的代償を払うことのみならず、国際協力を必要とする他のグローバルな課題への取り組みにも支障をきたす


 本日はご挨拶の機会をいただきありがとうございます。


 パンデミック、ロシアのウクライナ侵略戦争、地政学的緊張の高まりは、世界経済関係の流れを変えつつあります。安全保障への懸念が世界の経済政策を形成しています。産業政策が復活し、貿易制限は2015年以来5倍に増加しています。


 世界GDPに占める世界貿易の割合は比較的安定しています。しかし、分断と貿易パターンに変化の兆しがあります。海外直接投資は地政学的な線に沿って、ますます細分化されています。


 こうした考え方の背景には、サプライチェーンを保護し、特に戦略的分野における脆弱性を減らしたいという、理解できる理由もあります。例えば、ガス供給停止などロシアのエネルギーの脅しに対抗してEUが行ったようなことです。ロシアのパイプライン・ガスを米国、ノルウェー、アフリカからのLNGに置き換え、国内の生産能力を増強しました。


 しかし、こうした地域経済の分断は大きな代償を払うことになります。IMFは、2022年のウクライナ決議に関する国連の投票に基づいて、世界経済が2つのブロックに分断された場合、世界のGDPが2.5~7%縮小すると見積もっています。


 より広義には、「西側とそれ以外」と呼ばれるような分断の出現は、気候変動、AI、貧困、パンデミックなど、国際協力を必要とする他のグローバルな課題への取り組みにも支障をきたす可能性があります。



多極化し、分断化した世界において多国間協力を回復することが、EUや日本に課せられた課題


 したがって、特にEUや日本のような多国間主義の擁護者にとっての課題は、多極化・分断化した世界において多国間協力を回復することなのです。


 貿易に関して言えば、我々の目標はグローバリゼーションをより安全なものにすることであるべきです。つまり、国境の後ろに退いたり、跳ね橋を引き上げたりすることなく、より強固で弾力性のあるサプライチェーンを構築することです。メイド・イン・ヨーロッパではなく、メイド・ウィズ・ヨーロッパを目指すべきなのです。もちろん、それは微妙なバランスの上に成り立っているものです。


 欧州委員会は、開かれた戦略的自治の政策と、1月に採択された「経済安全保障パッケージ」によって、分断のコストを最小限に抑え、安全保障と回復力を最大限に高めるというバランスを取ろうとしています。


 これは、3つの「P」に基づいたアプローチです。具体的には、「EUの競争力を促進する:Promoting」「リスクからの保護:Protecting」「経済安全保障上の利益を共有するために、可能な限り広範な国々と連携する:Partnering」となっています。


 志を同じくするパートナーとの結びつきを強化するにあたっては、当然のことから始めるべきです。そして、EUと日本のパートナーシップからそのヒントを得ることができると私は信じています。


 つい数週間前、日・EUは重要な節目を迎えました。経済連携協定が発効してから5年が経過しましたが、これはEUがこれまでに締結した中で最大の貿易協定です。この間、日・EU間の貿易は20%以上増加しました。また、日・EU間のパートナーシップは、デジタル貿易、気候変動、経済安全保障に関するさらなる協力の基盤ともなりました。今後も、自由民主主義諸国は、持続可能で包摂的な成長を実現できることを示すために、日々協力し続けなければなりません。


 我々は、気候変動に関する政策行動が相互に支え合うものであることを保証しなければなりません。貿易と投資を増加させるべきであり、差別したり、新たな貿易障壁をつくったりしてはなりません。我々は、クリーン技術への移行に不可欠なサプライチェーンの多様化と強化において緊密に協力しなければなりません。例えば、EUが日本や米国との専用作業部会で行っていることがその好例です。



より広範な連合を目指して、あらゆるレベルにおいてグローバルサウスとの関わりを深めていかなければならない


 このような友人やパートナー間の協力は、世界が直面している課題に取り組むために必要ではありますが、十分な条件ではありません。課題解決のためには、より広範な連合を構築する必要があるのです。


 私たちは、政治、外交、文化、経済など、あらゆるレベルにおいて、グローバルサウスとの関わりを深めていかなければなりません。チリとの貿易協定やケニアとの経済連携協定が最近まとまったことは、この意味で強いシグナルを発していると思います。


 ロシアのウクライナ侵攻を受け、G7は我々の集団的な対応を調整し、共同の課題に取り組むための効果的なフォーラムとして浮上してきました。我々の結束は最大の強みです。私たちはこの団結力をさらに高めていかなければなりません。残念なことに、同じことはG20についても言えるわけではありません。私たちの最善の努力にもかかわらず、サンパウロで開催された前回のG20財務大臣・中央銀行総裁会議は、またしてもコミュニケを発表することなく幕を閉じてしまいました。  


 しかし、私たちは2つの対立する勢力の出現を甘んじて受け入れてはなりません。EUと日本は、グローバルな協力とルールに基づく秩序の維持にコミットしており、より効果的な多国間主義を実現するための橋渡し役、そしてパートナーとして理想的な立場にあると私は信じています。会議の成功を祈念いたします。