非公開会議3
世界の分断を「民主主義」対「専制主義」の対立で捉えるのは間違いとの認識で一致


 翌24日に行われた非公開会議3では、「世界は、民主主義国と中露の対立に向かうのか」というテーマで、世界10カ国のシンクタンク代表者が議論しました。司会は、カナダの国際ガバナンス・イノベーションセンター(CIGI) 特別フェローのロヒントン・メドゥーラ氏が務めました。

 まず、10カ国のシンクタンクの中から5人が問題提起に立ち、さらに日本で長年にわたって民主主義に関する世論調査を行ってきた、言論NPO代表の工藤泰志が発言しました。


民主主義にとって重要なのは、社会を発展させ、国民の期待に応えること


 最初に発言に立った、シンガポールのS.ラジャトナム国際研究大学(RSIS)副理事長でASEAN事務局長も務めたオン・ケンヨン氏は、「民主主義国と非民主主義国は常に緊張があり、その緊張を沸点に到達しないようにどのように管理していくかだ」との見方をしましました。その上で同氏は、民主主義について、定期的に選挙をするとか、政府に参加する等ではなく、社会を発展させていくこと、その中でも特に経済を発展させ、各国国民の期待、希望にどのように応えていくかが重要であり、そのためには、「我々が何らかの形でお互いに関与し、対話していくこと」が必要だと訴えました。


民主主義と強権主義の対立を、どこまで限定できるかが焦点


 次に発言した、フランス国際関係研究所 (IFRI) 所長のトマ・ゴマール氏は、「民主主義と強権主義の対立を避けるか避けないかということではなく、その対立をどこまで限定的なものにできるかがポイントだ」と指摘しました。そして、ゴマール氏は、中国とロシアも「西側とは違う、自分たちなりの民主主義モデルが存在しているのだ」と発言していることに触れ、民主主義と強権主義の大きな違いとして、文民と軍隊の線引きだと語りました。

 さらにゴマール氏は、①民主主義国は世界人口の30%しかカバーしていないという調査結果を紹介し、民主主義以外のマーケット、特に、強権主義の中国が支配しているマーケットでどのように事業展開し、利益を上げていくのか、②民主主義国が、グローバル・サウスの国々とどのように商取引を行っていくのか、③民主主義体制、強権主義体制にかかわらず、効率と尊厳のバランスが重要だと強調しました。


民主主義にも多様性があり、自国の尺度で解釈すると誤解を生む


 続いて、ブラジルのジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV)総裁のカルロス・イヴァン・シモンセン・レアル氏は、第二次世界大戦後、アジアの多くの国々が民主主義国となった、あるいは少なくとも民主主義国であると主張している点を指摘し、フランスとアメリカの民主主義が異なるように、自国の民主主義の尺度で他国の民主主義を見ていくことでは、「たくさんの誤解が生じる」と語りました。その上でカルロス氏は、民主主義とは何なのか、民主主義の最低限の性格は何か、という点を理解する必要性を訴えました。そして、「ブラジルは今、完全な民主主義に向かって進化しつつある」と強調しました。


世界の分断を「民主主義」対「専制主義」と捉えるのは間違いであり、世界の課題を解決するためには、国際協調しかない


 アメリカ外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏は、「世界の政治における根本的な分断を、『民主主義対専制主義』と捉えるのは間違っている」と指摘。リンゼイ氏は、非常に競争が激しい世界の中で、国境を越えた多数の課題が存在しているが、各国だけでこれらの問題を解決することは不可能であり、それに対処するには国際協調しかないと断言。自国のバイデン政権が主張する「民主主義対専制主義・独裁主義」という枠組みについても、課題解決に向けて一緒にやっていこうという国があっても、民主主義国家でないということで排除されてしまうことになり「良くない」と語りました。

 さらにリンゼイ氏はブリンケン国務長官が、対中関係について、協力すべきところは協力し、競争すべきところは競争し、対立しなければならないところでは対峙していく、との発言を引用しながら、「様々なバケツがある中で、お互いのトレードオフはどこにあるのかが焦点になるだろう」との見方を示しました。一方で、中国の姿勢が変わらなければ、アメリカの姿勢が変わることは考えられないとも強調しました。

 ロシアに対してリンゼイ氏は、「楽観的になるのはほぼ無理だ」と指摘し、プーチン大統領の戦略のベースになっているのは、西側が折れることであり、その中で平和を目指そうとすることだと解説。「しばらく終戦を迎えるのは無理だろうが、いつかは終わる」とし、その終わり方によっては、世界秩序に大きな影響が出ることになり、ロシアがウクライナのほとんどを手にすることになると、その後の世界は様変わりし、2022年2月24日のような線引きには戻れないと語りました。


「グローバル・サウス」と一括りにするのではなく、各国にどのようにアウトリーチし、よりよい政治的・経済的な提案を行えるかが重要


 5人目の元NATO政策企画局長のファブリス・ポティエ氏は、バイデン政権が民主主義のための団結を訴えている点について、外国の民主主義というよりは、アメリカの民主主義を強化しようという話ではないかとの見方を紹介。その上で、民主主義が開かれた情報市場を持っているこということは、偽情報による外国の介入などの脅威を招くことでもあり、それらによって古い民主主義的なプロセスが弱体化することを意味しており、民主主義というシステムの中に、どのようにして強靭性を作るかが問題になると語りました。

 続けてポティエ氏は、特にヨーロッパでは、民主主義国・権威主義国間での地政学的なギャップをつくってはならないという見方が多く、さらに湾岸地方、アジア、アフリカ、南米諸国を「グローバル・サウス」と容易に一括りにしている点についても疑問を呈しました。

 そして、中国は、そうした国々と非常にシステマチックに政治的、経済的な安全保障上の関係をつくり、ロシアも西側諸国からの経済制裁に対して、代替的な経済ルールによって制裁を迂回していることを挙げ、西側がそうした国に対して、どのようにアウトリーチするか、よりよい政治的、経済的な提案をするかが重要だと指摘しました。


国際政治の正統性が問われているからこそ、「民主主義の有用性」を問うべき
一方、中国との対話もまだ排除すべきではない


 最後に発言した工藤は冒頭、「中露連携との戦い、対立は避けられないか」というテーマ設定自体が一つの問題提起であり、自身の考えとしては、それは「間違っている」と強調し、「国際政治の正統性は何か」とパネリストに提起しました。

 続けて工藤は、多くの人たちが自発的に守ろうとする「自由」や「人権」、「ルール」に基づいた社会を目指すということ自体は崩れておらず、中国やロシアもそれらを堂々と壊すとは主張しておらず、「民主主義なり自由という規範を彼らたちは否定することができない」と語りました。

 さらに工藤は、トランプ前大統領を支持した勢力が国会議事堂を占拠するという暴力に訴えたことで、民主主義は安定していないものであり、そうであるなら中国の民主主義の方がいいではないか、と中国が世界に訴えているとの見方を紹介。その上で、「自国の民主主義というものをここで鍛え直さないまま、対立を世界に求め過ぎている」と強調し、バイデン政権は民主主義国と専制国家の対立ではなく、「民主主義の有用性」について問うており、民主主義というものが、その国の安定や成長や市民の基盤において本当に役に立っているかを考える必要があるのだ、と日本で10年にわたって行ってきた世論調査結果も紹介しながらパネリストに訴えかけました。

 続けて工藤は昨年実施した中国での世論調査で、ロシアのウクライナ侵略と、台湾海峡の危険性について、中国国民がどのように考えているかといった質問が許され、中国国民の半数以上がロシアのウクライナ戦争に賛成していなかったこと、さらにコロナ禍において、中国の市民が白い紙を持ち中国政府のゼロコロナ政策に抵抗している映像を見て、中国の社会でも自由や平和を考える人たちが全くいないわけではないこと等を挙げ、日本側としては、中国との本気のレベルの対話はまだ必要であり、排除すべきではない、との見方を示しました。


 その後、シンクタンク10カ国の参加者間で、活発な意見交換が行われました。


民主主義国の裾野を広げることは重要だが、世界が直面する課題を乗り越えるためには、民主主義国だけでは対処できない


 日本から参加している元大使は、民主主義国家はその基盤を強化すべきであり、曖昧な国々を相手側に追いやるのではなく、民主主義国家の裾野を広げるということが重要だと指摘。一方で、あまりにも融和的、謝罪的であってはダメで、言うべきことは言っていくことの必要性を強調し、グローバル・サウスよりも、「真ん中に置かれている国々にもっと耳を傾けるべき」との見方を示しました。

 グローバル・サウス国のシンクタンク代表者は、民主主義国だけで連携していくためのコストについて、理解する用意、取り組む用意が出来ていないと強調。具体的にはサプライチェーンによって、途上国のみならず先進国でも中国の安い白物家電が普及し、多くの人が恩恵を受けた点を挙げ、デカップリングではコストが大きくなりすぎると指摘。そうした中で、中国をロシアから引き離すことができれば、中国と対話ができるかもしれないとの見方が世界で台頭していることに理解を示しました。

 北米からの参加者は、多くのスピーカーと同じく、民主主義というフレームを原則として使うことに対する疑念を示し、パートナーシップも違えば、様々な課題も違うため、民主主義も戦略の一部でしかないとの見方を示し、イシューを優先順位づけする、あるいはパートナーシップを構築するにしても、民主主義だけでは駄目なので、戦略から民主主義を外すべきだと強調しました。続けて、歴史的に見ても中国とロシアは深い絆で結ばれているわけではなく、日和見主義的な関係でしかなく、良好な関係は長く続かないとの見方を示しました。

 ヨーロッパからの参加者からは、第二次世界大戦後、様々な国際組織が構築されたが、それらは様々な政治制度に対応するために作られたものであり、全てが民主主義国であるという前提では作られていないと強調しました。さらに同氏は、気候変動、パンデミックといった非常に深刻な問題に直面しており、我々は戦後から学び直し、学習し直すことの必要性、さらに、こうした世界の状況を政治家が国民に説明することが必要であり、それが一番難しいと語りました。

 北米からの参加者の一人は、バイデン政権は中国に対してしっかりと対抗するために、具体的な政策イニシアチブに落とし込んでいくことが極めて重要だと指摘。その上で、我々が直面している課題を乗り越えていくということが重要で、そのためには中国も含まれるべきだとする一方、ワシントンDCでは、知的、政治的にも反中という一方向にしか風が吹いていない中で、北京とどの分野で、どのように協力をしていくのかを明らかにする必要性を強調しました。


知識層と一般の人の溝を埋めるための議論を開始すると共に、民主主義や自由、規範を守るために多くの人たちが連携することが重要


 今回の議論を受けて、工藤は「今の日本の政治は、半分の人が選挙に行かないから成り立っている仕組み」だとし、選挙に行かない人たちの声はインターネットで表出しているが、そこには陰謀論や、社会の不安を煽るだけになっていると説明。そうした中で、民主主義を立て直すためには、知識層が知識層だけでまとまっているだけでは駄目で、一般の人たちにも考えを伝えて、いろんな努力、議論を始めることが重要だと語りました。そして、民主主義の多様性を尊重しつつ、民主主義や人権、自由や規範を守るために、皆が本気で考え、そうした人たちが連携していく流れを作り上げたいと語り、議論を締めくくりました。