
非公開会議4「北東アジアの安全保障リスクは管理できるか」は、「東京会議2023」最後のイベントとして行われました。司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。
米中対立の深刻化や北朝鮮の行動は、北東アジアの地政学的な環境をより厳しくし、安全保障リスクを高めています。日本はその中で安全保障対応を拡大し、より機能的な抑止力の形成に向けた努力を始め、日米韓も協力に動き始めています。
今回の会議では、緊張が深まる台湾海峡での紛争の可能性や北朝鮮の核・ミサイル問題をどう見るのか、日中韓の安全保障関係者がシンクタンク代表者らと議論を展開。紛争の可能性を分析すると同時に、この地域の紛争リスクを管理し、さらに将来に安定的な平和を作り出すためにどのような努力が求められるのか、について話し合いました。
まず日中韓三カ国から五人が問題提起を行いました。
北東アジアの安保リスクを管理するためには防衛交流の早期再開が必要。北朝鮮問題では、影響力を持つ中国の役割が不可欠
最初に登壇した元統合幕僚長の河野克俊氏は、北東アジアの安全保障リスクとして「台湾問題」と「北朝鮮問題」を提示。台湾については、「ウクライナ同様、力による現状変更の可能性が出てきている。中国による軍事的併合の可能性はある」と強く懸念。北朝鮮についても、「今後5か年計画が完成したならば、アメリカに対して『核保有国として認めろ』という態度に出てくるだろう。このウクライナ戦争の結果、北朝鮮が核を放棄することはもう望めない」とし、北東アジアの安保リスクは5段階評価で「4」の危険度にあるとの見方を示しました。 河野氏は、こうしたリスクを管理するためには、日中韓の防衛交流が必要だとしつつ、これが現状機能していないことを問題視。早期再開を強く訴えました。また、北朝鮮問題においては、日韓関係の改善を背景に日米韓の連携に明るい展望があることはプラスの材料としましたが、北朝鮮に影響を及ぼす中国の役割が不可欠との認識を示しました。
台湾有事をめぐって日米間にはギャップがある。リスクシナリオを共有できるようにしっかりとすり合わせをしておく必要がある
続いて、防衛省防衛研究所理論研究部政治・法制研究室長の増田雅之氏が登壇しました。増田氏は台湾有事が起こり得るとしたら中国は、「単純な軍事作戦による現状変更」ではなく、サイバーなどを含めた「きわめて高度にハイブリッドなかたちでのオペレーション」を考えると予測。したがって、そのハイブリッド戦における戦略的優位性を確保することが大事だとしましたが、「アメリカの覇権が低下している中では、抑止の体制を強化しないとハイブリッドな意味でのパワーバランスも覆される」と警告しました。 増田氏は、中国としては、「現状変更する機会の窓をこじ開けることを狙っている」との見方を示しましたが、この“窓”を完全に閉じることは難しいとも指摘。アメリカとしては当然、この“窓”を狭めるべきではあるものの、自国の覇権が揺らぐ中では「同盟関係を前提とする全体的なアーキテクチャーができない限り、それは難しい」と分析しました。
その上で増田氏は、日米の認識の相違に言及。「台湾有事は日本有事」という点では両国は共通認識があるものの、日本側の認識は、「米中が衝突すれば付近にいる日本も無傷ではいられない」という受動的な意識であるのに対し、アメリカ側は「日本もより能動的に中国と戦うための態勢を整備するべき」という認識であると分析。こうしたギャップがある中では、「リスクシナリオを共有できるようにしっかりとすり合わせをしておく必要がある」と問題提起しました。
米韓・日韓の連携が進んでいることは好材料。様々な事態に備え、政治・外交・経済など包括的な統合抑止体制を構築しておくべき
続いて、韓国・アサン政策研究所所長の崔剛氏が登壇しました。その中で崔剛氏は、北朝鮮の核ミサイル能力の増強、台湾海峡、ハイブリッド戦、各国の軍事力増強の4つを北東アジアの安保リスクとして提示。特に、北朝鮮の核問題については、ウクライナが核を放棄した結果、ロシアの侵略を許したこと、ロシアの核の恫喝にアメリカが積極的な対応をできていないことなどから、北朝鮮は核保有の有用性を確信したと分析し、その課題解決の難しさを強調。5段階評価のリスク度としても「4.5から4.6」と厳しい見方を示しました。
崔剛氏は、この地域の政治的な展開についても言及し、合同軍事演習の再開など米韓同盟の強化が進んでいることや、日韓関係の改善が進んでいることを安全保障の観点からは好材料であると評価しました。その一方で注視すべき点として、来年2024年の台湾総統選挙や、インド太平洋地域の安定においてアメリカがどのような指導力を発揮するかという点に加え、米中対立の展開などを提示。米国とその同盟諸国は様々な事態に備え、政治・外交・経済など包括的な統合抑止体制を構築しておくべきと提言しました。
米中間で「緊張のスパイラル」が続く中、偶発的な衝突を回避するための措置は急務
中国からはまず、政治協商会議常務委員で、北京大学国際関係学院前院長の賈慶国氏が登壇。台湾海峡のリスク度を5段階評価で「4」とした上で、この地域における緊張がさらに高まるとしたらそれは米中関係のさらなる悪化の帰結だと切り出しました。
賈慶国氏は、台湾情勢緊張のそもそもの原因は、2016年に台湾の独立を志向する民進党への政権交代が起きたことだったと指摘。そのため中国が圧力をかけた結果、民進党政権はアメリカに接近。中国との対立を深めるアメリカが台湾への関与を強めると、それを受けて中国の圧力がさらに強まるという「緊張のスパイラルが続いた」と解説しました。
こうした中では、米中両国は、偶発的な衝突を回避することが求められるとした賈慶国氏は、バイデン米大統領が言及した「ガードレール」の構築が急務であると主張。行動規範(COC)の策定や、ホットライン開設をすべきと語りました。また、中長期的な課題としては、ペロシ下院議長が行ったような中国を挑発する行動を取らないように、政治家に節度を持った行動をするようアメリカに対して求めるとともに、台湾が独立への動きを強めないように「正しいシグナルを発信すべき」と要望しました。一方の自国中国に対しては、平和統一の方針を再確認すべきと提言しました。
北朝鮮の非核化に向けた対話を早期再開するとともに、アメリカは拡大抑止を強化せず、日韓は核武装をしないと明確に表明すべき
最後に登壇した中国国際戦略研究基金会研究員の張沱生氏は、中国からの視点として北朝鮮問題について問題提起。北朝鮮の核ミサイル能力増強が進む一方、アメリカは「核の傘」を含む拡大抑止に対する日韓の信頼性を確保し、核抑止力を協調して強化する姿勢を見せ、韓国では、尹錫悦大統領が戦術核の配備や独自の核開発の可能性に言及し、日本では核共有の議論が一部に見られるなど、「朝鮮半島をめぐる情勢は深刻な状況はエスカレートしている」と核拡散のリスクを強く懸念。核戦争リスクはロシア・ウクライナよりも高い確率にあるとの見方を示し、さらに事態が悪化すれば域内の戦略的安定性も重大な形で損なわれると警告しました。 張沱生氏はこうした危機の背景として、ウクライナ戦争や台湾海峡情勢の悪化などによって、主要なアクターが関わる余裕がなくなったため、北朝鮮はその能力増強を進められたことがあると分析。また、米朝対話が途絶えて久しく、韓国でも対北強硬の尹錫悦政権が発足したことで、南北対話も止まってしまったなど、対話の欠如も大きな要因であると指摘しました。
その上で張沱生氏は、関係各国がいかなるアクションを取るべきなのかについて提言。まず最優先すべきは危機管理であるとし、そのためにも、体制保証や核の先制不使用などを織り込みながら、非核化に向けた対話の早期再開をすべきとしました。
また、域内の戦略的安定性の回復については、アメリカは拡大抑止を強化せず、日韓は核武装をしないと明確に表明すべきと主張。さらに韓国に対しては、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備を戒めるとともに、アメリカに対しては中国が提案する核の先制不使用を真剣に検討すべきと呼びかけました。
張沱生氏は最後に、朝鮮半島非核化という目標自体は、半島の平和及び北東アジア全域の戦略的安定性実現のために不可欠であり、どの国も断念してはならないものだと呼びかけ、改めて対話の再開を主張し、問題提起を結びました。
問題提起の後、ゲストスピーカーと10ヵ国のシンクタンク代表者の意見交換に入りました。
北東アジアの安全保障リスク管理のため、早期の対話再開を
台湾問題に関しては、危機管理をどう構築していくかが議論の焦点となりました。問題提起にもあった対話の重要性については各氏の認識は一致。また、より多国間での危機管理体制構築に関する提言や、キューバ危機など過去の事例検討など様々な議論が展開されました。
北朝鮮問題では、核保有国として認めないという点では各氏が一致。一方、制裁解除や体制保証といった北朝鮮に対する“飴”に関しては、中国側から制裁強化はかえって問題解決を難しくするとの理由から、ある程度の譲歩は必要との見方が出されましたが、これに対しては「譲歩は解決につながらないのが過去の教訓だ」という反論が出るなど、見解の相違が見られる場面もありました。
その他にも、AUKUSの展開や日韓両国の核武装の是非、ウクライナ問題などに多面にわたる議論が展開されました。
セッションの最後に総括した工藤は、「北東アジアの安全保障環境はかなり危ないゾーンに入ってきていると感じた。世論調査結果を見ても、中国国民の中でも戦争の懸念が広がり始めている」とした上で、「こうした状況の中では、やはり対話をしないとこのゾーンを少しでも良い方向に動かすことが非常に難しい」と締めくくりました。
