「東京会議」を2017年に立ち上げた時、私が最も意識したのは、世界経済の分断であり、自由経済の混乱や世界が直面する課題での国際協調が壊れていること、そして、世界の民主主義が信頼を失い始めていることでした。その年は、米国では自国第一主義を掲げ、国際協調や民主主義に背を向けるトランプ政権が発足した年です。
このような混迷の中、世界を代表する民主主義国のシンクタンクが集まって、こうした課題を議論し、世界に提案をしようと考えたのは、世界の自由と協力の先行きに危機感があったからです。私たちは一年に一度、東京に集まることにしました。それが私たちの議論の始まりでした。
「東京会議」に参加・協力をしたのは、米国の外交問題評議会(CFR)や英国のチャタムハウス、ドイツの国際政治安全保障研究所(SWP)、フランス国際関係研究所(IFRI)、イタリア国際問題研究所(IAI)、カナダの国際ガバナンス・イノベーション(CIGI)、日本の言論NPOというG7各国にインド、ブラジル、シンガポールを加えた10のシンクタンクです。この10ヵ国の代表が集まり、3日間の議論を行い、共同声明をまとめるというのは一見簡単そうに見える作業ですが、実際にはそう容易ではありませんでした。多くのシンクタンクが政治的なポジションを取ることを避けており、各国の国内法にも様々な規制が存在していたからです。
共同声明づくりで一度、深夜まで話し合ったことがあります。その時、私たちの議論は、自分たちのシンクタンクの誕生のルーツにまで話が進みました。自由や民主主義を守ることは政治的なポジションなのか、それこそ、我々のシンクタンクの存在理由なのではないか。世界の多くのシンクタンクは自分の思いを語りました。私たちの立ち位置が固まったのは、その夜でした。
「東京会議」が誕生して以降、私たちは毎年、東京に集まり、世界の協力と自由秩序のアップデートのために議論を行い、G7議長国に提案しました。
その後、新型コロナの世界的パンデミックで、「東京会議」は2021年の会議よりオンライン開催を余儀なくされましたが、国際情勢は年々、不安定化しています。今、私たちは、世界の分断をこれ以上悪化させず、世界課題での協力と自由秩序を守り、世界の紛争を回避することが最優先の課題だと考えています。 2022年3月14日に開催された、第6回目の「東京会議」は、過去6年間にない緊迫した状況下で行われることになりました。わずか、1ヵ月前に国連の常任理事国で核大国であるロシアがウクライナを侵略しました。戦局が広がり、第三次世界大戦への懸念まで指摘されました。まだ状況把握も十分とは言えませんが、事態は世界の平和秩序を崩壊させかねません。オンラインの会議ですが、10のシンクタンクは世界の平和秩序をどうしたら修復できるのかをテーマに据え、この事態に向かい合いました。
開会式へビデオメッセージを寄せた日本の岸田文雄首相は、2017年の「東京会議」の立ち上げからの参加者です。岸田首相からは、「国際社会の根幹が壊れかねない瀬戸際にある」との強いメッセージが届きました。
本報告書は、今回、「東京会議」で行われた議論をまとめたものです。私にとっては、新しい決意を固める場となりました。この混乱した世界の秩序を修復し、平和と協力を取り戻すために、「東京会議」は何ができるのか――私たちの挑戦は新しい段階に移ったと考えています。
来年2023年は、ドイツからバトンをつなぎ、日本政府がG7議長国を務めます。ウクライナや台湾などの難題が重なる中、岸田政権の力量が問われていますが、政府だけではなく、民間もその両輪になり、新たな国際協調と安定した秩序づくり、そして共通のルール作りに向けて市民社会の議論を喚起する必要があります。「東京会議」は、日本唯一のプラットフォームとしてその先導に立ち、貢献していきたいと考えます。