
本日はお話しする機会をいただき、ありがとうございます。すでに工藤さんから、いかに私たちが劇的な変化に直面しているか、ということについてのお話がありました。ヨーロッパに劇的な形で戦争が再来し、悲劇的な人道的危機が起きています。罪のない多くの人が国外に避難し、私たちの国々でも深刻な経済的な損失が生じています。
私たちはここ数十年で初めて安全保障上の脅威に直面しております。この脅威は冷戦直後に消え去ると皆が期待していたものです。しかし今日、ウクライナに戦争が戻ってきました。ロシアによる容赦のない激しい攻撃と残虐行為が続いていることを私たちは目の当たりにしなければならないのです。
しかもこの侵略は、工藤さんからもご指摘があったように国連安全保障理事会常任理事国という、第二世界大戦後の世界平和に対して特別な責任を負っていると主張している国の一つによるものです。ロシアのウクライナに対するいわれのない不当な攻撃は、偽りの口実と見え透いた嘘の下で続いています。そして、戦闘から逃れ故郷を離れざるを得なくなったウクライナ人はすでに200万人を超えました。
我が国ドイツのアンナレーナ・ベアボック外務大臣は国連特別総会における演説で、「ロシアの侵略は新しい時代の幕開けを告げるものだ。分水嶺となる瞬間だ。昨日の確証はもうない。今、私たちは誰も選んだことがない新しい現実に直面している。プーチンが押し付けた現実なのだ」と述べました。
ロシアからの容赦のない攻撃は国際秩序に対する脅威です。しかし、こうした安全保障リスクはヨーロッパだけではなく、アジアなどその他の地域でもここ数年高まっていたものでした。ここで認識すべきことは、平和と繁栄を数十年にわたって保証してきたこの国際秩序は、もはやすべての人に受け入れられていないということです。民主主義国家はこの秩序の確立に貢献してきましたが、今は言葉と行動によって国際秩序を守る必要がある局面であるということを認識しなくてはいけません。
岸田総理のご挨拶にもあったように、国連総会ではロシアの行動に対して141カ国が非難し、支持したのはわずか4カ国でした。EUとそのパートナーは結束して対応しています。G7も結束して対応しています。G7諸国間の首尾一貫性はこれまでもこれからも極めて高い緊密性があり、各国は取るべき対応についての調整を行なっています。外相同士、そして専門家同士のレベルで日々そのような調整が行われています。私たちはこうした調整における日本の役割も高く評価しています。
バイデン政権下のアメリカは、国際秩序と同盟関係に対するコミットメントを再確認しています。またNATOは、以前はその存在意義を疑問視される声もありましたが、欧州の平和と安全の維持に不可欠な存在であることが証明されました。G7とEUは協調して、広範囲における経済・金融制裁を複数回実施していますが、さらなる制裁が続くことになるかもしれません。
我が国ドイツは自国の安全保障戦略の抜本的な見直しを行いました。2月27日、ドイツ連邦議会での演説においてオーラフ・ショルツ首相は、ウクライナに対して武器などの防衛装備品を支援することを発表しました。また自国の防衛のためにも1000億ユーロの基金を創設し、将来的には毎年GDPの2%以上を国防費に費やすことを公約しました。
これまでドイツは、ロシアと特に深い経済関係を結んできました。その関係は数十年に及びます。ドイツにとってロシアは化石燃料の主要供給国で、全輸入に対するロシア産の割合は天然ガスが約55%、石炭が約50%、原油が約35%でした。また、ロシア向けの輸出が2021年には260億ユーロを超えるなど、ドイツにとってロシアは巨大な市場でもありました。
したがって、このロシアとの断絶によってドイツが失うものは非常に多い。それでもドイツは代償を払うことを厭いません。例えば、ロシア産の天然ガスをドイツに運ぶパイプラインプロジェクトである「ノルドストリーム2」を停止しました。
日本も、G7諸国と基本的な歩調を合わせて制裁を実施し、私たちにとって信頼できる建設的なパートナーであることを再び証明しました。先ほど岸田総理のご挨拶にあった通りです。また日本は、ウクライナに防弾チョッキ等の非殺傷の装備品を提供することを決定しました。長年保持してきた自主的な武器給与規制から離れたものです。
ルールに基づく国際秩序は政府や議会だけでは維持できません。私たちの民主主義的価値、基本的人権、安全保障、繁栄、自由、そして生活様式が危機に瀕していることは、社会全体、私たち全員にとっての課題です。だからこそ私たちは国民に語りかけ、侵略者の誤ったプロパガンダや嘘に対抗しなければなりません。言論NPOのような組織はまさに、事実に基づいたオープンで合理的な対話のための貴重な空間を作り出しています。工藤さんの努力と本日の「東京会議」の開催に感謝いたします。
もしプーチンが私たちを分断できると計算し、私たちが一致した対応ができないと考えたのであれば、彼は間違っていたと言えるでしょう。これまでのところ彼が達成しようとしていたことから全く逆の結果に至っているからです。この道を歩み続けることが私たちの責任です。
今日の議論の中では、このウクライナ問題がアジア、特に台湾海峡の状況においてどのような意味を持つのか、議論していただきます。ヨーロッパからの大使としてこの問題について二つだけ短くコメントさせてください。
まず軍事力による現状変更は、ヨーロッパにおいてもアジアにおいても受け入れることはできません。
そして二点目として、行動に表れている侵略への意志と軍事力の増強を真剣に受け止めなければなりません。プーチンはすでに2007年のミュンヘンの安全保障会議で修正主義的な政策を発表していました。防衛上の必要性をはるかに越えたロシアの軍備増強は何年も前から明らかでした。中国は台湾の大陸への統一要求を強め、そのための軍事力行使を放棄していません。中国の軍備力増強はここ数年、南・東シナ海において非常に強力に進められています。海軍や空軍は非常に強力になっています。
発言を締めくくる前に、最後にもう一点言及したいと思います。ウクライナに関する劇的な状況は、当然ながら私たちの議論における最優先事項です。しかし私たちは、次の世代に安全で住みやすい地球を提供するために、そのほかの大きな課題、すなわち気候変動やパンデミックといった課題も意識しなければなりません。だからこそドイツのG7議長国としての当初のテーマは今なお強い関心を集めるに値するのです。ご清聴ありがとうございました。