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 健全な輿論の力で強い民主主義を作り出す―言論NPOが「次の10年」で目指すこと

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言論NPOが「次の10年」で目指すこと 動画でみる 


111205_kudo2.jpg本日は、年末のお忙しい中、私たちの 「10周年を祝う会」 にお集まりいただき、感謝しております。今、お三方のパネルで言われたことを踏まえまして、言論NPOの『次の10年』に向けた決意を皆さんにお伝えしたいと思います。

私も壇上のお話を聞いていて、日本の民主主義のこと、そして言論NPOの10年のことを考えていました。会場には10年も前からこの運動を共有してくださった方もおられます。私も10年前のことは、今でも、昨日の事のように思い出します。

設立のパーティが開かれたのは、十年前の10月10日だったと記憶しています。国内では小泉政権が誕生し、そして、あの「9.11」のまさに一か月後、まだ世界も国内も騒然としていた時でした。当時から、この国は課題を先送りし、未来が全く見えない状況でした。「ジャパンパッシング」という言葉が出たのもその頃でした。その時、私が思ったのは、この国の未来のために、責任ある、言論の舞台をつくりたい、ということです。つまり、この閉塞感を「議論の力」で変えたかったのです。

私は、「議論の力」で、強い民主主義を作りたいと思っています。しかし、今のお三方のお話にもあったように、民主主義とはある意味で「危うさ」を持っています。民主主義は衆愚の政治や独裁を生み出す危険性を絶えず持っています。そうした不安定さを乗り越えるためにも、「健全な言論」が必要だと、私は思います。


10年前の覚悟と責任ある輿論(よろん)

私が当時、このNPOを立ち上げたのは、日本の言論の在り方にある疑問があったからです。この国のメディアには、当事者意識を持って、責任ある意見を自ら担う覚悟が、本当にあるのだろうか。世間の空気や雰囲気にただ流され、むしろそれに迎合しているだけではないか。そして、政治は、漠然とした世間の雰囲気や人気投票に過ぎないメディアの世論調査に一喜一憂して、課題から逃げ続ける。そうした政治家が私たちの代表ならば、責任ある民主主義とは言えないのではないのか。

それが、私の強い思いでした。

この状況を、私たちなりに変えなくては、と考えたのです。この10年、私たちが取り組んだのはある意味では、責任ある、輿論(よろん)をつくり出す作業でもあります。この輿論は、世間の空気としての世論とは異なり、責任ある公的な意見を意味するものです。そして、こうした言論の舞台は、非営利でなくてはできない、と思いました。

私たちは、この10年間、有権者と政治との間に緊張感ある関係をつくりたいと思いました。そのためには、有権者は強くならないとなりません。

民主主義の社会は、個人が自立して、自分で判断する力を持たなくてはならない。それが、私たちが、マニフェスト評価に取り組んだ、強い思いでした。

政権交代時の2年前の民主党マニフェストは、言論NPOの評価は約20の政策分野の平均でわずか20点でした。当時、何故そのように厳しいのかと言われましたが、私たちの評価基準ではそうならざるを得ませんでした。色々な風潮の中でもきちんと私達は評価というものを、有権者側に伝えるために、絶えずやり通しています。今の政治の状況を見ると、私たちの評価は基本的に正しかったのではないかと思っております。


この10年は、多くの志との協同だった

そして、6年前には国民間で感情が悪化し、政府間の対立が深刻化しました。この状況を乗り越えるために、日中関係で、民間の新しい対話のチャネルを作りました。そこでは両国関係やアジアの未来に関する本気の議論を公開しました。

こうしたすべての活動に、多くの有識者の皆さんがボランティアで力を貸してくれました。この10年、私は志を共有する、多くの方がこの国にいることを教えられました。そうした多くの力がなければ、私たちの10年もなかった、と思います。

私は、傍観者や評論家のような議論ではなく、当事者としてこの国の課題や未来に向けて答えを出すような責任ある議論をしなくてはならない、と思ってきました。こうした取り組みは、国際社会で新しい日本の存在感を生み出すだけではなく、民主主義を機能させるためにも、不可欠だと考えたのです。

しかし、10年が経ち、それが十分にできたかと言えば、私は十分だとは、考えていません。有権者と政治家との健全な緊張感も出来たわけではありません。


次の10年、原点を大事にしながら進化する

この10年、私たちは質の高い議論を様々な形で広めてきましたが、それで、日本の何が変わったのか。そういう強い思いが私に中にあります。だからこそ、私たちは、次の10年、この活動の原点を大事にしながら、それをさらに進化させないとならない、と考えているのです。

では何を進化させるのか。二つのことを私は考えています。
私たちは、有識者を中心とした、健全で質の高い言論の舞台をもっと強いものにしていきたいと、考えています。

そのためには、先ほどの議論でも指摘されましたが、専門的で実行可能な質の高い議論、内外問題に関して課題解決を行う議論、そしてその議論の土台になるものを、恒常的に提供できるような舞台を作り上げたいと思っております。
これに関連して、私たちは海外と行っている、日本と中国の対話を大事にしています。しかし、アジアや世界の課題に関しては、マルチな議論な舞台も構築しなくてはなりません。この国際社会における議論をさらに発展させることも、来年の大きな課題になると私は思っています。

しかし、私は、こうした専門家や有識者の議論づくりやその発信だけでは、この国は変らない、と考えています。私は、この国が未来に向けて変わるためには、有権者が、そして市民が当事者として今の課題に向かい合わないと何も、始まらないと思います。つまり、有識者の議論と、市民の声をつなげなくてはならない。それが、私が考えている二つ目の進化です。


 有権者の真剣な議論と市民の声をつなげる

世界では、貧困格差や経済危機による、多くの市民のデモなどが行われています。日本では、なぜ若者がデモで国会を包囲しないんだ、などと、言う人がいます。しかし、こうした実力行使などなくても、この国でも「強い市民社会」に向けた変化が、確実に始まっていると、私は実感しています。
それは、震災の時の支援だけではなく、日本社会の危機の深まりと同時に、多くの人たちが、これまで遠い世界の話だと思っていた、民主主義の話や、社会保障から、原発の問題を、自分たちや自分たちの子どもたちの生活や未来の問題だと気付き、議論を始めている。
こうした変化に、言論NPOも、真剣に向かいあわない、といけないと思うのです。

しかし、肝心の日本の政党は、そうした課題に向かい合うよりも、自分の集団を守ることに必死です。政策で考えるならば、バラバラなはずの政党が集団としてまとまり、次の選挙での当選だけを考えて、行動している。だから、党内がなかなかまとまらず、こうしたガバナンスの崩壊が、統治の混乱をもたらしている。

こうした政治に期待することはかなり難しい状況になっていると、私は思っています。こうした政治全体を、政策を軸に組み替えるためにも、健全な輿論や市民の発言が必要な状況に来ているのだと、私は思っています。


私たちも直面する課題を決断する

そのためにも、私たちは、今、日本に問われている課題をタイムリーに一緒に考え決断をしなくはなりません。それだけではなく、年金制度や民主主義の仕組みなど、より根本的なことも考えることが必要です。

そうした意見を私たちは政治に伝え、その反応を市民がさらに判断する。そうした循環を作り出したいのです。

私たちの新しい議論作りは、そうした市民の自発的な議論の触媒となり、議論の土台を作るもの、でなければならないとならない、と考えています。私がこれからの10年でどうしてもやりたいのは、その問題です。

そして、これらの二つの事業を、来年の3月末を目指して立ち上げるために準備を進めています。


健全な輿論の力で、政治を動かす


 これらの取り組みは、健全な「輿論」を作り出す、ことと同じです。そして、この健全な輿論を通じ、健全な議論の力で、政治を変化させたい。私はそういう風に思っています。

― そうした政治こそ、「強い民主主義」だと思うからです。

今回の「祝う会」の看板では、「強い民主主義」「健全な輿論の形成」
を目標に掲げました。これが、私たちが次の10年に向けた覚悟です。

そのための役割を、私は必ず果たす、つもりです。

今日から、私たちはそのスタートを切りたいと考えています。
そのためにも皆さんに是非力を貸していただきたいと思っています。御清聴ありがとうございました。


特別パネルディスカッション「日本の未来と日本の言論」 +工藤の発言 の 報告 はこちら
特別パネルディスカッション 「日本の未来と日本の言論」 の 全文 はこちら
言論NPOの10周年を祝う会 の 報告 はこちら /  発言録 はこちら


 

2011年12月 5日 21:02

言論NPOのホームページはこちら

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