言論スタジオ

中東情勢は今後の世界の火種になるのか

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2016年1月26日(火)
出演者:
村上拓哉(中東調査会研究員)
坂梨祥(日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究主幹)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)




2016年、シリア問題は解決へ動けるのか

工藤:中東に関しては、私たちはシリアの紛争が気になっています。それはテロの問題とも連動しているのですが、空爆にロシアが参加し、一方でシリアから難民があふれています。国家として体をなしていない状況の中で、混乱が続いています。遠くから見ると、「なぜこれが解決しないのだろう」という思いがありますが、少し見てみると、アサドと反アサドの対立があったり、反アサドとISとの関係があったり、いろいろな状況の中で動けなくなっていると見えてしまいます。これをうまく解説していただきたいのですが、今年、シリア問題は解決に向かって動けるのでしょうか。動けないとすれば、どこに大きな問題があるのでしょうか。


シリア問題の「解決」とは何か、という合意が存在していない

坂梨:シリア問題がなかなか解決できない最大の理由は、シリア問題の「解決」とは何か、をめぐるコンセンサスが存在していないことだと思います。シリアの内戦は、アサド政権と反政府勢力の間だけの問題ではもはやなく、アサド政権側をイランやロシアが支援していたり、反アサド勢力側をサウジやトルコが支援したりしています。そして、外からの補給が終わらないということもあって、紛争が終わらない状況になっています。

 なぜ、それだけたくさんの国が双方を支援し続けているかといえば、シリアという国が、中東地域秩序の要のような国であったからだと思います。シリアでアサド政権が転覆するようなことになると、それに伴い多くのことが変化します。先ほど、サウジアラビアはイランによる現状変更に反対なのだ、というお話がありましたが、シリアにおいて、サウジアラビアは、むしろ力による現状変更を実現したい側にいます。サウジアラビアは、イランが参加している話し合いには参加しない、という立場だったわけですが、アサド政権をどうするのか、どうやって今後のシリアのあり方を決めるのか、といった点をめぐり、紛争に関与する国々の間で接点を見いだせていないということが、非常に大きな問題になっています。これをどう解決するかということは、すぐに答えられる問題ではないと思います。

工藤:私たちも非常に難しいと思っています。ただ、和平プロセスが始まっていることを考えると、反体制派も含めて、少なくとも、一つの国家としての枠組みをつくり直し、そこで秩序を回復させる、ということを目標にしているとは言えないのでしょうか。つまり、シリアという国そのもののガバナンスの改革を目標として合意できないのでしょうか。


シリアの統治再建では合意しているが、新政権を誰が担うのかが焦点

村上:おそらく、シリアの統治機能を回復するという点では、皆が合意しています。問題は、新しくつくるそのシリア政府を誰が担うのか。ここが、それぞれの勢力が合意できていないポイントです。すなわち、アサド大統領が残るのか、それとも排除されるのか。アサド大統領を支持する政府機構は残すのか、それも排除するのか。

 反体制派を支援するサウジアラビアやトルコにとっては、アサド大統領の退陣はそもそも大前提です。2012~13年頃に国際社会が行った和平介入のプロセスでは、アサド大統領は、次の移行政府で役割を担う余地がないと確認されたはずなのに、それを履行できておらず、いつまでも政権にしがみついていて、シリア民衆から支持されていない、ということを、サウジやトルコ、また当時は欧米社会も主張していました。

工藤:1月25日に始まった和平プロセスは何を目指しているのでしょうか。

村上:今の和平プロセスでは、まさに、次のシリア政府においてアサド大統領の処遇をどうするのか、といったことに関して、関係者が集って協議しています。

工藤:つまり、国家としてのガバナンスをきちんと取り戻すというところで、一応のコンセンサスはあるのですが、それを誰が担うか、という話ですよね。そこで、もう一度新しく選挙をするという話になっていますよね。

村上:移行政権をつくるにあたって、暫定政府をつくることになっています。その暫定政府は誰が担うのか、次の選挙の際にアサド大統領は出馬してよいのか、ということがまだ決まっていません。

工藤:ということは、今動いている和平プロセスはうまくいかないという理解でよいのですか。

坂梨:まさに、新政権を誰が担うのか、ということで合意できるか否か、次第だと思います。

工藤:それには誰が合意すればいいのでしょうか。表面的に登場している国だけでなく、アメリカやロシアのような背景にいる力を持った国々が合意することが必要なのでしょうか。


アサド氏の処遇をめぐり、欧米とサウジ・トルコで論調に違いが生じている

村上:欧米諸国は、アサド大統領が一時的に残ることも必ずしも排除しない、という論調に変わりつつある、と一部では報道されています。一方、現地のサウジアラビアやトルコは、それに絶対反対という立場です。こうした地域諸国の対応が変わらない限り、現地で続いている戦闘が収まる見込みはないことになります。

工藤:逆に言えば、パワーを持っている国同士の対話、合意が鍵だ、という理解でいいのでしょうか。

村上:それもあると思います。ただ、アサド大統領には、自分が退陣するという選択肢もありますし、反体制派が一時的にアサドをトップに抱くという選択肢もあるわけです。

工藤:「反体制派」、つまり、民主化という一つのイメージを持った人たちがアサドの行動に反発し、シリアを建て直す、という勢力がシリア国内にそもそもあるのか、疑問なのですが。


アサドと反アサドの対立に周辺国の思惑が絡んだことで、対立が泥沼化

坂梨:勢力としてあるというより、アサド大統領は長らく独裁政権を敷いていましたので、それに対する反発は当然存在していて、アラブの春がシリアに波及したというのも、その通りだと思います。ただそのときに、アサド政権の独裁に反対する人々を、力強く外部から支援した国々もありました。その理由は、「アサドが独裁だから」だとか「抗議行動を暴力的に弾圧したから」などといろいろ言われていますが、おそらく、サウジアラビアがシリアにおいて反アサド勢力を支援した理由の一つは、アサド政権が転覆されれば、イランの中東地域における足場が弱体化するからであったと思います。

 今、イランがアサド政権を支援していることからも分かるように、二つの政権は同盟関係にあったと言っていいと思うのですが、イランの同盟者であるアサドを転覆することがサウジにとっては重要だった、という側面も、おそらくあると思うのです。最初は、民主化、あるいは独裁政権への反発であったかもしれないものが、反アサド勢力の戦いに、知らないうちに外側からいろいろな意味が与えられて、その結果紛争が長期化してすでに泥沼化してしまっています。

工藤:かなり分かりにくい構造になっていると思います。一方で、ISを駆逐しなければいけないのは世界的な合意だと思うのですが、反アサド派がISとつながっている、というような議論があります。その経路で武器がISに流れる、などという状況になっているのでしょうか。


シリア国内の混乱により、反アサド派からISへの資金・武器の移動が容易に

村上:政治的なグループとしてつながっているというより、実際にシリアが内戦状態になっていますので、現地では人の移動や資金、武器の移動は融通無碍に行われている状況です。サウジやアメリカが反体制派支援として出している武器や資金は、彼らが支援する反アサド勢力に渡されるのですが、それが簡単にISに奪われてしまっています。

工藤:国際的なテロは、パリやジャカルタにも広がっていますが、ISをなくしていくためには何が必要なのでしょうか。それは、2016年、解決に向かう兆しがあるのでしょうか。


シリア内戦の終結なくして、ISの解決は難しい

坂梨:ISという組織に、世界のいろいろな国々から身を投じて戦いたいという若い人たちが集まる理由は、中東のパワーバランスなどとはまったく別のところにあると思います。ただ、ISがそもそも生まれた背景には、イラク戦争後のイラクの混乱があり、その後、シリアの内戦で息を吹き返した過激派の存在がありました。

 今、イランやアメリカ、その他いろいろな国が、まずはイラクで、ISを掃討しようとしています。しかし、イラクで掃討作戦の対象になれば、ISの人たちは地続きのシリアに逃れることができます。そこで、シリアのISを何とかすべきだ、と皆が思っていますが、シリアではまだ内戦が続いています。しかも、アサドを倒したい側としては、「ISが問題」というよりも「アサドが問題」ということになっていると思います。今でこそISはこれだけ大問題化していますが、もともとISはしばらく、シリア内戦の中で、一つの「プレーヤー」として戦っていました。それが、アサドと戦っている限りは許容されていた面があります。内戦ですので、「どこで何を抑える」というコントロールはきかなくなっていた面もあるとは思いますが、いずれにせよシリアの内戦を何とか終結させないと、おそらくISの問題も完全には解決できず、一方でシリア問題自体の解決も、非常に難しいということだと思います。

工藤:つまり、シリアの秩序を回復しないとISの問題を解決できないということですが、その逆はないのでしょうか。「ISを倒す」ことを一つのコンセンサスとして皆がまとまって、それを実現した後にシリアの秩序を回復する、というプロセスはありえないのでしょうか。


反アサド勢力にとっては、ISよりアサド、イランが脅威

村上:1週間前、イスラエルの国防大臣がある会合の場で「ISとイランであれば、イランの方がより悪い」と言って、物議を醸しました。ISの対処が必要であることに関しては、政府であれば、自国への脅威ですので合意できると思います。ただ、脅威のバランスとして、ISの問題よりもむしろアサド大統領、そしてイランの方に目が向いているのが、サウジをはじめとしたいくつかの地域諸国の共通認識です。例えば、トルコ政府は、ISの対処には真剣に取り組むと言っていますが、実際には、ISと前線で戦っているクルド勢力を裏から攻撃しています。ですから、特にシリアをめぐる混乱の中で、「誰が最優先の敵か」はプレーヤーによって異なるというのが現状です。

工藤:ただ、この現状を解決するためには、共通の敵を決めないと、誰と戦えばいいのか分からなくなってしまいます。これを一つに整理していくことは、どうすれば可能なのでしょうか。


核合意の前までは「脅威はイランだ」という合意があった

坂梨:核合意の前は、「脅威はイランだ」ということでかなりのコンセンサスが成立していたと思います。ただ、核交渉が意外とうまくいって、合意まで成立した現状において、さてどうなのだろう、ということになっていると思います。

工藤:イランの核合意では、常任理事国とドイツ、EUという世界の主要プレーヤーがイランの脅威について一致し、協議に参加するという構図でした。ISの問題も、いろいろなところに波及し、世界の脅威になっていますが、イラン協議のような枠組みがつくれないのでしょうか。

村上:そういった試みは既に何度かありましたし、枠組みも既にできています。しかし、それがうまく成果をあげていません。その原因は、各プレーヤーにとって最大の脅威がISではないからです。どこの国も自国にとって最大の脅威に対抗することが国益になります。いかに欧米諸国が「ISが脅威だ」といっても、現地にいるサウジやトルコにとってはそうではないということです。その溝は、そう容易に埋まるものではありません。

工藤:シリアやテロの問題は、2016年、解決に向かうのは難しいというお考えですか。


サウジは「イランこそ最大の脅威」という認識に固執

坂梨:「最優先されるべきはイランの脅威への対処なのだ」という考え方から距離を置きそうにない国々がいくつかあります。また、シリアに関しては、サウジやトルコという、それなりに力をもった国々が、これまでと同じ考え方にこだわり続けていることもあり、なかなか難しいと思います。

工藤:アメリカやロシア、EUなど、誰かがそれを調停してまとめ上げることは不可能なのでしょうか。


米の力の後退という認識が、調停を難しくしている

坂梨:少し前までは「アメリカが言えば絶対だ」というところがありました。しかし、オバマ政権の中東政策はあまり力に訴えるところがありません。それを評価する人もいるかもしれませんが、逆にそれが弱さを見せているように受け止められることもあり、アメリカの言うことに納得がいかない場合には、「言い張れば何とかなる」、という考えが生まれてしまったかもしれません。

工藤:ということは、アメリカの力の後退という認識が、事態の解決をより難しくしているのでしょうか。

村上:そうだと思います。ただ、地域諸国間のバランスも重要な問題です。外交というのはゼロサムゲームにならないわけですから、自分が敵を思っているものすべてをたたきつぶすのは現実には起こりえません。そうすると、一種の外交上の取引として、「シリアについてはアサド大統領が移行期において役割を担うことを認めるけれど、イエメンにおいては、イランは完全に手を引いてくれ」とか、もしくは逆に、例えば「イラク政府が統治能力を回復させて、さらにイラクがイラン寄りの姿勢を変えてもう少し中立の位置に戻ってくれれば、周辺国でイランの脅威が若干抑えられる」という安心感が生まれれば、「別の問題では妥協しよう」という機運が生まれるかもしれません。

工藤:今日はかなり突っ込んだ議論をさせてもらって、非常に良かったと思います。

 パワーバランスの大きな変更という認識が、今の事態をつくり出しています。また、いろいろな形での国益上の見方の違いが対立の原点にあって、なかなか課題解決に動いていません。これまでの話は「合意を成功させるためには」という観点から聞いていましたが、それが失敗すれば、非常に大きな発火点になる危険もあるような気がします。中東における混乱は、世界全体から見てどういう意味を持つと考えればいいのでしょうか。


資源の供給地である中東の安定は、日本にとっても重要

坂梨:日本にとっての中東の重要性ということで最初に出てくるのは、「資源の供給地」という観点です。原油にしても天然ガスにしても、日本の中東への依存度は非常に高いわけです。ですから、中東地域の安定は日本の生活の安定にも直結しています。今は中東で非常に混乱が深まっているなかで、中東の安定が日本にとっても重要であるだけに、何か役割を果たせないか、という模索はすでに行われていると思います。すぐに「これが正解だ」という答えはないにしても、日本にとっても完全に他人事ではないということで、何とかかかわる道を探していくべきなのかなと思います。

工藤:日本は、イランやサウジなどの調停を担うことができるのでしょうか。


日本には、中立の立場を活かしたメッセージや脆弱国家の支援が求められる

坂梨:調停する上で相手から妥協を引き出すにあたっては、相手に何かを与えられなければいけないのですが、日本はそういう立場にはないかもしれません。ただ、日本は、イランともサウジアラビアとも良好な関係を維持しています。そういう立場を何らかの形で活かしていくことはできるのではないでしょうか。

工藤:中東諸国にとって、日本は「遠い国」という印象もありますが、地域の紛争に関しては割と中立的な立場を維持しているとも見られています。そういう意味では、各国に働きかけるレバレッジのようなものはありませんが、メッセンジャー、あるいは対立の鎮静化を呼びかける存在としては、重要なプレーヤーでもあると思います。また、対サウジ、対イランというより、その周辺諸国、まさに統治能力が低下している脆弱な国に対して、日本は支援を継続的に行っています。そうした統治のキャパシティビルディングをきちんと行っていくことは、日本の得意分野でもありますし、地域において最も感謝される協力形態ではないかと思います。


国際的な平和秩序をどう考えればいいか、私たちも問われている

工藤:今日は、中東の今の課題について突っ込んだ議論を行いました。この地域の大きな変化、混乱の背景には様々な要因があります。しかし、地域の平和的な秩序をつくらなければ、世界的な平和秩序につながりません。世界の脆弱国家のガバナンスが弱い中で、そこに経済的な混乱が起こってきています。2016年、非常に大きな試練の年ですが、国際的な平和秩序をつくり出す一歩をどのように考えていけばいいのか、私たちも問われている局面だと思っています。皆さん、今日はどうもありがとうございました。

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