言論スタジオ

全人代で示された経済構造の改革は成功するのか

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2016年3月10日(木)
出演者:
河合正弘(東京大学公共政策大学院特任教授、前アジア開発銀行研究所所長)
佐久間浩司(国際通貨研究所経済調査部兼開発経済調査部長)
田中修(日中産学官交流機構特別研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第一話:中国経済に今、何が起こっているのか

工藤泰志 工藤:言論NPOの工藤泰志です。言論NPOは、今年の年明けから、「2016年、世界はどう動いていくのか」について議論を行っています。今、世界経済は非常に不安定化しています。その大きな要因は、中国経済の減速にあります。現在、開かれている全人代でも、まさに中国経済の構造改革への取り組みが話し合われています。そうした構造改革のチャレンジは本当に成功するのか。そして、中国経済の行方はどうなるのか。それが、今日のテーマです。

 それでは、ゲストを紹介します。まず、東京大学公共政策大学院特任教授で、元アジア開発銀行研究所所長の河合正弘さん、続いて、日中産学官交流機構特別研究員の田中修さん、最後に、国際通貨研究所経済調査部長 兼 開発経済調査部長の佐久間浩司さんです。
皆さん、よろしくお願いします。

 さて今年の年明けから、中国は人民元安、株安という波乱の幕開けとなりました。その後、中国経済の構造調整のリスクが、世界経済のシステムリスクの大きな要因になっているのではないか、という議論がなされています。同時に、中国の改革の行方を、世界は注視しています。こうした中国経済の状況や実態をどう判断しているのか、皆さんにお話を伺いたいと思います。

中国経済の実態と市場の間のミスマッチから起こる人民元の下落

 河合:当面の最大の問題は、人民元に対する下方圧力だと思います。中国は経常収支の黒字を維持していて、直接投資も中国に入っているのですが、それ以上に大量の資金が流出しています。こうした状況が、2014年の第4四半期から起きていて、昨年後半以降とくに12月から今年の初めにかけて、大量の資金流出が起きました。その結果、外貨準備が急速に減ってきています。

これに対して、当局は為替市場介入を行い、なるべく人民元の下落を防ごう、あるいは下落幅を小さなものにしようと努めていますが、市場は「人民元はもっと下がるのではないか」と思っている節があります。実際、去年の8月に中国の通貨当局が人民元の対ドル基準値を切り下げて以来、「人民元を切り下げるということは、中国経済の実態がよほど悪いのではないか」と市場が思い込んでしまっている状態が続いているのだと思います。

 昨年の中国のGDP成長率は6.9%で、目標値の7%に達しませんでした。6.9%と7%ではほとんど違いはないのですが、それを市場が悪い材料にとってしまい、資金流出が起き、人民元の下落圧力がかかっています。中国経済の実態は市場が考えるほど悪くなっているわけではありません。

 人民元が対ドルで下落すると、それは株価にすぐ反映されて上海総合指数が下がってしまい、同時に世界の株価下落にもつながっています。しかも、人民元が切り下がると、他の多くの新興国の通貨も切り下がる傾向にあり、世界経済に対して必ずしもプラスの影響をもたらしません。特に日本経済にとっては、中国からの資金流出で人民元安になると、日本円が資金の受け皿の一部になって円高になる傾向もあるので、人民元が下がることは決して良いことではありません。

 ただ、中国の場合、企業が抱えている外貨建ての対外債務は外貨準備と比べるとまだまだ小さいため、アジア通貨危機のようなかたちで人民元危機が起きるような状況ではありません。かつ、中国はまだ経常黒字を維持していますので、人民元が大幅に切り下がる根拠は、あまりありません。

 では、なぜ、ここまで人民元に下落圧力がかかっているのか。アメリカの金利が非常に低かったということもあり、多くの中国企業はこれまでドル建てで資金調達をしてきていました。それが、アメリカのFRBが金利引き上げを始めるという背景もあって、「中国の経済実態は悪く、人民元は下がる。損しないうちになるべく早くドル資金の返済をしなければいけない」ということで、人民元からドルや円に資金が移っているのが実態だと思います。それに加えて、人民銀行は金融政策を緩和させる方向に動いてきたことも元レートの下落圧力につながっています。いずれにしても、中国経済の実態と市場の見方の間にミスマッチがあり、それが人民元の下落を招いていると思われます。

中国経済は、高度成長から中成長に移行するギアチェンジの時期

 田中:中国では、二つの大きな時期が重なっています。一つは、短期的な経済減速です。今は、世界経済の状況が良くないので、当然、輸出は伸びず、中国が外需に期待することはできません。内需の中でも投資については、多くの企業は過剰設備を抱えているので、設備投資が増える状況にありません。住宅もかなり在庫があるので、不動産開発投資が伸びる状況にもありません。そうすると消費に成長を依存することになり、どうしても力強さに欠けてしまうわけです。現在の中国は、そうした景気後退局面にあるということです。

 もう一つは、中国の経済そのものが、高度成長から中成長に移行するという大きなギアチェンジの時期にあります。そうすると、中成長に合わせて経済構造をスリム化していかなければならず、大きな構造調整、構造改革が必要となっています。その二つが重なっているので、非常に厳しい状況に見えるのだと思います。

 佐久間:一言で説明しきれないぐらい、非常に多くの問題が噴出しているように見えます。もともと、江沢民の頃までは高成長で、成功の果実を皆が受け取っていたのですが、胡錦濤時代になって、環境や格差の問題が表面化したことで、初めて中成長へのギアチェンジを行いました。ところが、ギアチェンジをしたところで、グローバルな金融危機が発生します。外需の激変により、このギアチェンジは頓挫します。とても「和諧社会」などとは言っていられない、とにかく世界の需要が突然大きく減ったので需要が必要だ、ということで、逆に無理にエンジンをふかさなければならなくなったのです。今、そのふかしすぎた部分をどうやって抑えていくか、元の中成長時代に戻っていこうとしている局面だと思います。

 ただ、問題をさらに難しくしているのは、世界全体が、グローバル危機の後、中国がふかした無理なエンジンに乗っかってしまっていたことです。その結果、中国が中成長に戻ろうとすると、世界全体が騒ぎ出すことになる。そういう構造を考えると、私は中国が「ちょっと気の毒だ」とすら思っています。彼らとしては、必要な景気減速に自ら舵を切り、必要な構造調整を始めています。こうした現状は、リスクというよりは、構造調整をしなかったときよりははるかに良い状況だと思います。

工藤:今、皆さんから、中国経済が陥っている構造問題が指摘されました。ただ今、世界が見ているのは、その構造調整は本当にうまくいくのかということです。4兆元の景気刺激策から始まって、不動産の在庫などが膨らんでしまいました。過剰設備と過剰債務の構造調整を、中国はちゃんと吸収して処理できるのか、というところに関心が移ってきているような気がしています。その点はどうお考えでしょうか。

中国は、過剰設備と過剰債務の状態から構造調整を実現しようとしている

河合:今、中国では「サプライサイド(供給側)の改革」が必要だと言われています。これは、4兆元の景気刺激策以来の過剰生産、過剰設備を何とか解消していくこと、過剰な不動産在庫を解消していくこと、そして非効率的な、いわゆる「ゾンビ企業」、つまり実質的に破綻しているけれども補助金で生き延びているような国有企業を何とか整理し管理していくということです。

 これは、今後、時間をかけて行っていくことであって、すぐできるわけではなく、少なくとも何年はかかります。こうした構造問題を処理していくためには、財政資源が必要になりますが、中国の財政にはまだ余力があり、とくに中央政府の債務は対GDP比でも低い水準にあります。中国は構造問題を隠さず、「こういう問題があり、これに対処します」と言っているので、この認識は評価できます。ただ、こうした供給側の改革を行っていくと景気にはマイナスの効果をもつので、財政・金融面からテコ入れをしていくことが重要です。2月末のG20財務相・中央銀行総裁会議では構造改革、財政政策、金融政策の「政策総動員」によって経済リスクに対処していくことが合意されましたが、これは中国を念頭に置いたものです。中国としては、問題に対処し構造改革を実行する能力があるということを、きちんと見せていくことが重要です。私は、中国には財政資源も含めて、実行する能力が十分あると思います。

工藤:計数的にはどういうことが言われているのでしょうか。例えば、構造調整でのロスはどれぐらいあって、それに対して財政の余力は対応できているのでしょうか。

田中:債務残高のGDP比は、中央・地方合わせて40%くらいだと計算されています。そのうち地方政府が半分以上を占めていると思いますが、地方債に借り換えているわけなので、デフォルトはまだ起こっていません。そこは、これから地方財政の強化で解決していくと思います。中央の債務残高は、それほど大きくありません。その中で中国当局がやろうとしているのは、これまでの過剰設備投資や不動産開発投資ではなく、真に必要なところに投資を集中させて、それによって経済を下支えしていくことです。

工藤:不動産に関して、海外のファンドの投資が指摘されていました。その構造についてはどうでしょうか。

佐久間:対外的なネットの債務という意味では、それほど大きくないと思います。それ以上に問題なのは、人民元建ての国内での債務が拡張していることです。先ほど田中さんがおっしゃったのは政府部門の債務ですが、民間も合わせれば国内の債務はGDP比で200%ぐらいになります。そのなかには、今後、景気減速の中で不良債権化してくる部分があると思うので、今後の調整がうまくいくかどうかは、その過程で生まれてくる不良債権問題をうまく処理できるかどうかにかかっています。

 それがうまくできないと、日本の「失われた20年」のように、長い低迷に陥ります。中国で10数年くらい前に行われたように、アセットマネジメントカンパニーをつくってうまく処理しきれれば、乗り切れるのではないかと思います。

田中:不良債権比率そのものが低いので、そういう意味では、1990年代末の5割近かった頃に比べると、その問題はまだ顕在化していないので、早く処理をしていくことが重要だと思います。


報告
第1話:中国経済に今、何が起こっているのか
第2話:全人代で示された中国政府の本気度
第3話:中国経済の軟着陸は可能なのか


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