言論スタジオ

全人代で示された経済構造の改革は成功するのか

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2016年3月10日(木)
出演者:
河合正弘(東京大学公共政策大学院特任教授、前アジア開発銀行研究所所長)
佐久間浩司(国際通貨研究所経済調査部兼開発経済調査部長)
田中修(日中産学官交流機構特別研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第三話:中国経済の軟着陸は可能なのか

工藤泰志 工藤:今回の全人代で出された改革の進展状況にもよると思いますが、中国経済が今後どうなっていくのか、みなさんと議論したいと思います。今年のダボス会議でジョージ・ソロスが中国のハードランディングは避けられないと発言し、世界が中国の構造問題に目を向け始めました。確かに様々な発言には、いろいろ思惑があるのかもしれませんが、中国の過剰債務や過剰設備は非常に大きな問題で、世界がそれに関心を持っている。中国はその解消に乗り出し経済をコントロールしながら軟着陸させ、投資主導型経済から消費主導型経済に転換していく、という大きなチャレンジをしているわけです。中国経済の軟着陸は本当に可能なのでしょうか。

本当の意味での消費主導型経済には、大きなチェンジが避けられない

 佐久間:私は、ハードランディングは無いというふうに思います。というのも、例えばアジア危機のようなハードランディング的な結末を迎えるのは、当局が戦っても勝てない相手に立ち向かわれた時です。中国の場合、対外的には純債権国であり、これは非常に大きな強みです。いろいろな問題がありますが国内の自分たちの手の内で何とかしなければいけないし、何とかできる範囲の問題なわけです。だからこそ問題の先送りがなされてきているのも事実ですが、やはりハードランディングは無いと考えます。ただ問題がクリアに順調に解決されるかというと、いろいろ先送りされるものも出てくるでしょうし、生煮えのような状態が続くのではないかと考えています。

工藤:中国経済がハードランディングをせず、ソフトランディングをするための鍵となるものは何だと思いますか。

佐久間:おそらく経済の域を超えて、政治的なことに話が踏み込んでしまうのですが、例えば内需については、明らかに家計の消費をもっと盛り上げなければならない。消費というのはモノだけではなくてサービスも含みますが、サービス業を中心としたそうした都市部の経済圏が発達しなければなりません。都市部のサービスを中心とする経済というのは、基本的に市民が自由で好きなことができる、そうした自由闊達な一人ひとりの個人がいてこそ実現する経済のモデルです。中国もいつかはそこまで踏み込んでいかなければならないでしょうし、いつまでも躊躇しているようだとこの改革というのはいつか行き詰まると考えています。

工藤:本当の意味での消費主導型経済やサービス型の経済になるためには大きなチェンジが避けられないということですか。

佐久間:いつかそういう日がくると私は思います。

中国経済はハードランディングするのか

 田中:私はハードランディングを想定していません。ハードランディングが心配されるケースは、景気対策の外圧がかかったときです。かつて、第一次オイルショック後に「日独機関車論」がありました。日本と西ドイツが頑張って世界経済を引っ張っていけと世界中から言われて、実現に向けて無理な財政出動をやったものの、結局できなかった。

 今回も中国に対して、海外から当時のような圧力がかかり、国内からも改革疲れとか改革に対する嫌悪感などが出て来る。そこで、中国がまた大規模な投資をやってみようという誘惑に負けてしまった時、それはもう逆方向に向かっていってしまうので、取り返しがつかないことになります。そうすると中国経済の寿命は縮んでしまいます。

 しかし、今はまだG20でも構造改革、構造調整を実行すべしという声のほうが強いですし、中国もそうした外圧を利用して改革・調整を進めようとしているので、この勢いが止まらなければ、進んでいけると思います。

 こうした大きな改革というのは政府だけでは無理です。国有企業改革はイデオロギー的な面があるので、やはり共産党が主導権を持ってやっていかないと頓挫する可能性があります。そういう意味では今、共産党、特に最高指導者に権力を集中させて、党の強いガバナンスをもって改革を進めていくというスタイルは間違えていないと思います。ただ、最近言われていることは、あまりに反腐敗が厳しすぎて、一部で地方の役人のサボタージュみたいなことが起こっている。そのように地方が、やる気というかインセンティブを失ってしまうと、中央がいくら旗を振っても物事が前に進まなくなります。ですから、インセンティブを維持しながらどのように改革を進めていくのか、というバランスは大事だと思います。

工藤:河合さんは、ハードランディングはしないと思っていますか。

 河合:はい。ハードランディングとは成長率が急激に低下することですが、すでに今年の成長率は6.5%~7%と言っているので、それを大幅に下回るような、例えば5%台や、それ以下になるような成長率というのは考えにくい。中国政府は成長を維持するだけの財政資源を持っていて、今回の全人代でもある程度の財政出動を行うことを決めました。当面の財政赤字は対GDP比で3%ということですが、本当に深刻な状況になるとしたら、様々な形でより強力な財政出動をやると思います。ですから、急激な成長率の低下というのは、あまり考えられません。ただその過程で、さらに次の問題を作り出してしまうかもしれません。次の問題が将来に繰り越されることになるかもしれませんが、現時点では成長率を大幅に下げるというようなことは許さないということだと思います。

 もう一つ、中国政府は、ニューノーマルつまり新常態を打ち出し、今までの投資主導から消費主導に移行しようとしており、実際に消費の伸びは投資の伸びよりも高い状況になっています。あるいは、これまでの低付加価値の加工型の製造業、重厚長大型の製造業から高付加価値のより高度化された製造業に移っていく。あるいはサービス業に移ることが重要な課題になっています。こうした移行が着実な形で起こっていけば、安定的な成長が中長期的にも望めるということになります。

 実際、サービス業の成長率は、製造業の成長率よりもはるかに高い数字を示しており、その中でも金融サービス業の伸びが非常に高くなっています。このサービス業が着実に伸びていくことで、製造業から吐き出される労働者を吸収していくことになるのではないか。中国では都市化もどんどん進んでいくので、サービス業もさらに成長していくことになると思います。ただ、その過程で、潜在成長率が徐々に低下していくことになりそうです。

工藤:構造調整のプロセスというのは、どこかが破綻したり、失業者が出たり、そうしたことが目に見えてくることで、多くの人たちがその実態を明確に知ることになります。そうした改革のプロセスにすでに中国は入っているのでしょうか。

田中:今はまだ全人代期間中ですから、やがて政府活動報告と五カ年計画が決まります。政府側の提案としては、「ゾンビ企業」については淘汰していくと言っているわけです。一方で、「雇用問題にも配慮しつつ」とか「合併・再編」というのも入っています。中国流のやり方だと「見せしめ倒産」、つまり、シンボリックな企業をいくつか破産、清算させることで当局の強い姿勢を示していく。ただ、大半のものは破綻させるのではなく、「合併・再編」などの方法を使いながら、失業率が必要以上に高まらないようにコントロールしていくのだと思います。

工藤:そうなると、世論もある程度それを支持していく状況を作らないと、社会不安になってしまいますよね。全人代まだ期間中ですけれども、強いメッセージも必要と思いますが。

中国は力で市場を押さえられないことを自覚しているのか

佐久間:市場は、まだ中国の改革へのコミットメントの強さを確信していないし、納得していないと思います。その原因の一つとして、コミュニケーション不足が挙げられます。ただ、わざとコミュニケーション不足に陥っているわけではなく、慣れていないというのが正しい表現かもしれません。また、中国も力で市場を押さえられない、ということはよく自覚しているようなので、いかにコミニケーションしていくかが重要です。

工藤:中国は、力で市場を押さえられない、ということとを自覚しているのですか。

佐久間:そうでないと見る方もいますが、私はそう見ています。中国は、アメリカですら、リーマンショックのような事態に見舞われたというのを見せつけられて、もし本当に、先進国のような自由な資本取引体制になれば、市場は押さえつけられないとわかっていると思います。

 いろいろな市場との対話によって、時にはミスコミニケーションも起こしますが、そこはトライ・アンド・エラーの学習プロセスだと思います。そして、中国は比較的、謙虚に学んでいるのではないかと思いますし、ある程度時間の問題でコミュニケーションの実力も上がっていくと思います。

工藤:先程の為替介入の話なのですが、中国政府は昨年の12月、今年の1月は月に13兆円もの外貨準備預金を取り崩し、人民元安を抑え込むために介入していました。2月は介入が減ったようですが、かなりの規模で介入する、非常に大変な市場との格闘をやっているわけですが、それはまだ収まっていないのでしょうか。

田中:確かに、2月は非常に少なくて外貨準備高の減り方が286億円ドルぐらいでした。これまで4兆元の対策をやってきて、不動産が過熱していた。その不動産を狙って外国からホットマネーが大量に入っていたわけです。その後、不動産市況が悪くなって、しかも、アメリカが金利を上げているので、一度入ってきたホットマネーが逃げ出していっているという部分があります。本来、そうしたマネーは迷惑なものだったわけです。そこが抜ける分には、中国としては困らないのですが、それ以上に逃げていってしまえば問題となります。当局としては、ホットマネーはかなり抜けたという認識なのではないでしょうか。

今後の国際経済のためにも、先進国はまず、自国の構造改革に力を入れるべき

工藤:最後に、中国経済という問題を国際経済の中で考えて見たいと思います。中国経済の構造調整リスクは今や世界のリスクと繋がり、世界経済の不安定化を招いていますが、逆に言えが、それほど、リーマンショック後の世界経済は中国などの新興国が牽引役となっていた、ということです。今後の中国の改革の行方もあるのですが、これからの世界経済の秩序というのは、どのように形成されていくことになるのでしょうか。

佐久間:リーマンショックから8年が経過しましたが、まだ、先進国は途上国の成長の勢いが止まるとデフレ懸念を抱くようになっています。しかし、中国経済が減速するからどうなるということではなくて、いい加減に途上国の成長に依存し過ぎるのを止めなければなりません。特に日本とヨーロッパだと思いますが、ヨーロッパは公共投資などの財政出動が必要だと思いますし、日本であれば、社会保障改革とか増税による歳入の拡充を行って、国民がもう少し、不透明性のない将来像を持てるようにする。そうした自分たちサイドの改革というのが先進国に必要だと思います。

田中:リーマンショック直後のG20は、世界中が大不況だったので、やるべき方向の一致性があったわけです。しかし、今はそうした一致性がなく、まだら模様になっています。アメリカの景気は少し回復して利上げも行いました。一方、ヨーロッパは停滞していて、日本はいま微妙なところにいて、中国は減速している。確かに、中国も一つの発信源でありますが、アメリカの利上げも一つの発信源でした。ヨーロッパも最近あまり発信源ではなかったのですが、ドイツの金融もひょっとしたら何かあるのではないかという話になっています。加えて、産油国の協調問題があり、連立方程式のように解が難しくなっているわけです。

 したがって、それぞれの国が自分の問題点をしっかり捉えて、潜在成長率をどう高めていくかということを、自分なりに自身の構造改革に真剣に取り組む、他力本願は止めるということが重要だと思います。

河合:日米欧の三極がしっかりした経済成長を成し遂げられるような基盤を作っていくということが一番の基本ではないかと思います。今、田中さんが言われたように、日本とヨーロッパにとっては構造改革が決定的に重要ですし、日本の場合、本当に経済成長の底上げに向けた構造改革をやっているのだということを世界に見せていくことが必要です。そして、潜在成長率は上がっていくということがわかるようにしていくことだと思います。日本の場合は、金融政策は目一杯やっていますし、今も補正予算の執行中ですが、財政出動もやっています。しかし、財政にはもうあまり期待はできないので、やはり、旧三本の矢の第三の構造改革をしっかり実行していくしかないと思います。

工藤:今日は中国の経済改革というものが、本当に上手くいくのか。そして、中国の経済改革が国際政治上の大きな不安定要因になるのか、新しい国際経済のシステムを作っていく問題についても、非常に大きな転換期に来ているのではないかと感じました。

 次回は、今日話を踏まえ、世界経済のシステムリスクという問題が、いま、どういう形にあるかについて議論を発展させていこうと思います。今日は皆さん、どうも、有難うございました。

報告
第1話:中国経済に今、何が起こっているのか
第2話:全人代で示された中国政府の本気度
第3話:中国経済の軟着陸は可能なのか

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