言論スタジオ

日本の民主主義は日本が直面する課題に対して答えを出せるのか

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2016年6月16日(木)
出演者:
上神貴佳(岡山大学法学部教授)
内山融(東京大学大学院総合文化研究科教授)
吉田徹(北海道大学法学研究科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第一話:課題を解決していく上で民主主義は有効なシステムなのか

工藤泰志 工藤:言論NPOの工藤泰志です。言論NPOは7月10日の参院選を前に様々な日本の将来課題、そして今回選挙で考えるべきことについて議論を行っています。

 そこで、今日は民主主義の問題を議論したいと思っています。私は、先週アメリカから帰ってきたのですが、「トランプ現象」の中で、アメリカでも民主主義のあり方について議論が行われていました。つまり、民主主義の仕組みが課題解決に向けて動き出すことを多くの人達が期待していたのですが、今生じている現象は、国民の不安や反発に政治家が迎合し、支持を集めていくというものであり、その大きな流れに対して知識層やジャーナリズムがほとんど対抗できないという状況にあるわけです。そのように、ポピュリズムの問題をアメリカ社会は大きな話題にしていました。しかし、これはアメリカだけの問題ではなく、ヨーロッパや日本でもそうした現象があるわけです。政治が有権者の民意、意向を捉え、この国の課題のためにきちんと仕事をしていくというサイクルがこの国で回っているのか。それが、私達の最大の問題意識です。この参院選を機会にそうした問題についてじっくり考えてみようということで三人の方に来ていただきました。

 まず、東京大学大学院総合文化研究科教授の内山融さん。次に、岡山大学法学部教授の上神貴佳さん、最後に、北海道大学法学研究科教授の吉田徹さんです。皆さん、よろしくお願いします。

 さて、アメリカとか先進国だけではなく、世界各地で議会制民主主義というものが、ある程度まで増えたのですが、その後、増えなくなり、逆に権威主義体制、指導者に権力を集中させるような動きが出てきたりして、「アラブの春」以降も民主主義が後退しているのではないかと言われています。

 一方先進国でも、先程紹介したように、国民の不安や反発に迎合して、支持を集めていく、そしてその人達が選挙で勝利してしまうような流れが出てきている。課題を解決するというよりも、国民からの色々な反発を受けて政治が動いていくという現象があるように見えるのですね。

 こうした動きをどう考えていけばよいのか、この点から皆さんにお話を伺いたいのですが、内山先生いかがでしょうか。

民主主義は短期的な問題解決には不向き

 内山:ある意味、これは民主主義の成熟というか、ひょっとすると爛熟の結果なのではないかと思います。つまり、ポピュリズムというのは民主主義の究極の形態と言えなくもないのですね。それまでの民主主義は政治参加がベースにありながらも、ある程度一部の政治的なエリート達が回してきた。ところが、「エスタブリッシュメント達だけではもう駄目だ」ということでポピュリズムが登場してくるわけですね。

 ですから、政治参加の裾野を広げたという意味では民主主義の一形態と言えなくもない。ただし、それが良いことか悪いことかは別問題だと思いますね。本当にポピュリズム一辺倒でこれからも行くのか。それとも、アリストテレスが指摘したように「政治体制というものは循環するもの」であり、民主主義も良くなったり、悪くなったり、健全であったり、堕落したりするのだから、今の現象もその一つのプロセスに過ぎないのか。長い目で見ると、また違った方向もあり得るのかなと思いますが、とにかくこれは非常に大きく、難しい問題だと思っています。

工藤:確かに民主主義の中の大きな変化、循環の一局面だと考えれば、今の状況は「反発」であって、また色々な形で変化するということも考えられます。ただ、ちょっと分からないのは中国、ロシアみたいな民主主義とは別の考え方の流れが明確に出てきている。国家主義というか、国家というものを強くすることによって、色々な問題に介入していくという国が出てきている。そのように国家間で理念に断層があるような状況では、民主主義は循環しないような感じがするのですが、内山さんどうですか。

内山:国家主義、例えば中国については、非民主主義的にやっていることでスムーズにいっている面も確かにありますが、逆に大きなひずみもありますよね。典型的なのは一人っ子政策だと思うのです。非民主主義的な形で決定すると一見スムーズにいくけれども、実はひずみがある。ただ、そのひずみが出てくるまでにある程度のタイムラグがあるかもしれない。ですから結局、中長期的に見れば民主主義的なやり方の方が良いのではないかということになると思うのです。もっとも、その裏返しとして民主主義的なやり方の場合、短期的な問題解決には向かないという可能性はあります。

国家単位では解決できない問題に対し、民主主義以外の対応が出てきている

 上神:私達が考えている民主主義とは、自由主義と代議制民主主義ですが、ある種のエリーティズムの要素を組み合わせ、それによって安全装置をかけたというむき出しの形のデモクラシーではないわけですね。そうした形でのデモクラシーというものが、国民国家や福祉国家と組み合わさって、戦後、所得の再分配をしながら発展してきたわけです。しかし、デモクラシーの仕組みの問題とは別に、経済のグローバル化だとかあるいはそうした様々な人間諸活動のグローバル化によって、国家単位によっては解決できない問題が一方で出てきている。そのように問題の性質自体が変化しているという指摘は色々なところであります。その中で、先程お話がありましたけれども、国家資本主義のようなものも、新しい問題に対する、民主主義とは別の形での対応として表れている一つの形態であるということも言えるのではないかと思います。

ポピュリズムの短期的要因と長期的要因

 吉田:いまの先進国にあるデモクラシーに対する批判は、デモクラシーそのものへの批判というよりは、それが十全に機能していないことに対する不満です。つまり、デモクラシーが人々の期待値を満たせず、民主主義は機能していないのではないかということが、ポピュリズムを生み出す原因のひとつになっている。

 ポピュリズムが生まれているのには、短期的な要因と長期的な要因があります。短期的な要因としては、リーマンショックとユーロ危機が一段落してからというもの、ヨーロッパ各国は増税と財政緊縮に舵を切りました。アメリカは、民間部門の債務は相変わらず減っておらず、教育への支出も減っている。これが若年層へのしわ寄せという形になって表れています。南欧諸国では若年層の約2人に1人が失業状態です。さらに、中間層の所得も横ばいか下落傾向にあり、没落への恐怖に怯えている。これらが、ポピュリズムを呼び込んでいます。

 長期的な要因としては、私が「リベラル・コンセンサス」と呼ぶ政党政治の次元での変化があります。冷戦崩壊以降の90年代、社会民主主義政党は、経済政策における自由主義の原則を是認する方向へと転換した。逆に保守主義政党は個人の自己決定権での自由主義を是認するようになりました。この「リベラル・コンセンサス」によって、従来の社民政党を支持していた労働者、従来の保守主義政党を支持していた中高年のホワイトカラーの有権者は、政治的代表の回路を喪失しました。西ヨーロッパの極右ポピュリズム政党の支持者の多くは単純労働者です。彼らが既成政党への不満を高めて、それもポピュリズムを呼びこむ素地を作っています。




民主主義のそのものに内在する限界と、政党の機能不全の問題

工藤:皆さん、非常に適切な問題提起をされたと思います。つまり、民主主義というものが、課題を解決する上で有効な仕組みなのかということが問われているという話ですよね。長期的にはそうだとしても、しかし、短期的には違うかもしれないという理解でよろしいでしょうか。

内山:そうです。

工藤:しかし、本当に民主主義というものは、今起きている世界的な課題に対しては、短期的には機能しないのでしょうか。

吉田:世界史の長い歴史を見れば、フランス革命以降、民主化の流れは後退や揺り戻しを経験しつつも、止むことはなかったということはいえるのではないでしょうか。

 例えば、ロシアでプーチン政権のもと、ホモセクシャル(LGBT)への抑圧を強めたら、どんな強権的な政権であっても、それに対するデモが起きる。さらに、これに国際世論の支援の輪が加わって、監視の目を強める。中国でも、民主的な制度を変えようとすると、雨傘革命が香港で起こる。自己決定の手段への希求が民主主義だとするなら、民主化を求める流れを押し留めるのは難しいのではないかと思います。

上神:私もほぼ同意見です。ただ、その一方で民主主義というものは同質化を求めるというか、違いがあることに非常に敏感な政治の仕組みだと思います。そういった中で、特に産業構造の変化や、それがグローバルに展開していくと、それをコントロールできないなどの問題などが生じてくることに人々は、フラストレーションを感じるわけですね。それに対する処方箋というのは、民主主義という仕組みの中に内在化しているかというとこれはなかなか難しい。問題が外の世界にあると思います。

内山:これは政党の問題も大きいと思います。政党の機能が明らかに不全をきたしている。それは、民主主義そのものというよりも政党政治の仕組みですね。政党がどれだけ責任ある選択肢を示せているのか。政党がついつい目先の選挙を気にするあまり、有権者にこびるような政策を打ってしまう。A政党がそういう政策をするとB政党も同じようなことをやる。結果として、有効な政策が打てずに機能不全をきたすという政党政治の問題の裏表だと思います。

上神:政治家は自分の再選のことだけ考えていて、長期的な課題に取り組まない。なぜそうなるのかというと、政党という組織の問題だろうと思います。なぜ政党はそうした長期的なコミットメントができるような政策、あるいは組織を作れないのか。問題の性質ということもあるし、専門的な知識や世界経済に対する理解の問題などの原因もあります。政治家はそれをどのように政策という形で昇華させていけるかという、テクニカルな側面もかなりあると思うのですね。さらに、それを有権者の側でもどこまで消化できているかという問題もある。そういった要因で困難を抱えていることは間違いないと思います。

吉田:民主主義とは何かと政治学者のロバート・ダールは問うて、それはポリアーキー(polyarchy)のことだと定義しました。ポリアーキーというのは、参加と異議申し立て、包摂と自由という、二つの次元が高度に統合されているものだ、という定義です。これがリベラルデモクラシーの究極の姿です。

 もう一つの民主主義の両輪は、熟議と決定の次元、いうなればデモクラシーの理念と制度の側面です。熟議を続けても、どこかの段階で決定をしなければならない。しかし、そのためには十分な熟議が伴わなければ、有効な決定とはらない。この両者のバランスを確保していくことが、デモクラシーが機能するための前提条件となります。

 その上で申し上げれば、いま、グローバルに起きている様々な問題、低成長、格差、少子化、あるいはエネルギー問題にしてもそうですが、議会制民主主義の時間軸のなかでは解決できないものばかりです。何れも4~5年の選挙サイクルのなかで解決できる問題ではありません。

 ドイツのメルケル政権のもとでの脱原発の決定も、東日本大震災があって突然下されたものというより、1990年代後半からずっと政治アジェンダとして提示されていたものが選択されたものです。選挙での競争が激しくなって、ますます短期的な争点が突出する中で、どのようにして長い視野に基づいて問題解決していくかについては、いまの民主主義のサイクルはあまりにも短いといわざるを得ません。

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