言論スタジオ

外交・安全保障政策の評価と選挙で問われること

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2016年6月17日(金)
出演者:
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
川島真(東京大学大学院総合文化研究科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第三話:選挙において考えなければならない外交・安全保障問題とは何か

工藤泰志 工藤:最後のセッションに入ります。今度の参議院選において外交が大きな争点になることは、なかなかないと思うのですが、新しい秩序づくりに向けた地域の再編を含め、世界がここまで大きな変化を遂げている中で、我々ももう少し視野を広げて、世界や地域の問題を考えることが必要だと思います。

 今回の選挙で何をいうかというよりも、選挙の時に、本来考えていかなければならない世界のイシュー、日本に関係するイシュー、どういうことに関心があるかについて伺いたいと思います。トランプからアメリカ大統領選もあるし、様々な問題があるかと思いますが、川島さん、いかがでしょうか。

外交・安全保障面で、野党が説得的なオルタナティブを提示できるか

 川島:参議院選挙の場合は、おそらく焦点は経済、社会保障政策だと思いますので、外交それ自体が大きな争点になるかは分かりません。しかし、1つの大きな争点としては、安保、外交の面で、野党の側がどのようなオルタナティブを提示できるかということだと思います。もちろん、安倍政権のやっていることは完璧ではあり得ませんから、色々問題を抱えているわけです。もちろん安保法制のこともありますし、たくさん論点があると思います。そうした中で、野党が批判することは簡単ですが、どうようなオルタナティブを提示して、それがどれほど有権者にとって納得のいくものであるのかという点がまず争点だと思います。加えて、工藤さんが指摘されたように、トランプの問題もありますし、世界全体が大きな変動期に入っている、また国際経済の面でも色々な見方がある中で、安倍政権のことをただ批判すればいいということでもないと思います。

 野党の側も、たとえば、いまの国際経済をどのように見て、日本の対外的な経済政策をどうすればいいのか、安保政策をどうすればいいのかというところまで、はっきりと言い切ることができるかどうかが肝心です。ここができないとやはり、外交、安保の分野だけぼやけた部分になると思いますし、また、民進党に限っていえば、特に安保法制の部分については、民進党内部で意見が分かれるところなので、どのようにして意見統一を図っていくのか、というところも1つの見所かと思います。

工藤:川島さんにお聞きしたいのですが、私がよくわからないのは、参院選に関するアンケートを行ったときに、安保法制の是非を今回の選挙で問うべきだという議論がいまだあるわけです。ただ、安保法制に賛成、反対どちらでもいいのですが、その状況によって何を実現するのかがよくわからない。先程のオルタナティブというのはそういう話だと思うのですが、安保法制がなくなったら、どういう問題があるのでしょうか。

川島:安保法制の問題と憲法改正を結びつけて、「平和国家日本」を維持するべきだという主張もあるでしょうし、逆に安保法制を崩すということは日米関係の根底を覆すほどのことであるという議論もあるでしょう。

 安保法制それ自体に反対するにもいろいろな理由があるのだと思います。ただ、いずれにしても、そのような意見があるとして、例えば、安保法制をなくすなり、改正した上で日米関係あるいは日本の安全保障の在り方がどう変わるのかという点でのオルタナティブ、それを説得的に出すことができるのか、ということがあります。特に、このような流動的な状況の中でそれが出せるのかというとちょっと問題があります。ただ、安倍政権が安保法制を通すときにやや拙速気味であったという批判は否めないところであって、熟議していないと言われると、そうした部分があったことは事実でしょう。そうした意味では、安保法制や安全保障政策については、いろいろな部分で議論を継続するべきだという点で、有権者のほとんどが似通った見解をもっているのではないでしょうか。

参議院選挙を外交・安全保障上、様々な問題を知るきっかけにすべき

 神保:安保法制は、家で言ったら、土台を作り、立て付けをどうしていくかという法制度の問題で、もちろん全てパーフェクトに整ったとはほど遠い状態なので、常にそこを点検、精査することは大事だと思います。現在の、特に野党の論点は、これを廃案にし、一部領域警備等に関して立て直すということで、かなりラディカルな法の見方をしているという点においては、すごくプラクティカルな安全保障とはかなりかけ離れた世界で、国民の歓心を買おうとしているところは気になるところです。

 おそらくアジェンダ設定をするべきなのは、当然、これから中国とどう付き合っていくのか、ということです。さらに、2016年末にかけて仮にプーチン訪日ということになれば、対ロ関係を戦略的にどう位置付けるのか、ということも問題になってきます。ワシントンとヨーロッパが日本の対ロ政策を本当に理解しているとは思えないし、我々も説明責任を果たしているとはいえないとすれば、どのように海外に語っていくのか、ということが重要になってきます。そして、おそらく6月辺りには、南シナ海に関する仲裁裁判の結果が出るといわれていて、国連海洋法条約と南シナ海の位置付け、そして、わが国の沖ノ鳥島や大陸棚限界委員会の勧告を含む、200海里排他的経済水域の問題も含めて、どのような海洋戦略と法の支配の位置付けを取るのかということについても、より深い国内のコンセンサスづくりに努めなければいけない。これから、様々な論点がたくさんあると思います。

 こうした論点が国民レベルでもう少し底上げして議論されるというのが重要だと思います。外交、安全保障の問題について、選挙の論点として、ここまで専門的に議論できるかどうかは別にして、少なくとも関心をもって、こういうアジェンダがこれから向こう6カ月、1年以内に控えているのだということは意識されて然るべきだと思います。

工藤:確かに、こういう論壇を日本の中でどのように作っていくのか、という問題が問われている気がします。それは、皆さんと一緒にやっていくしかないのですが、ただ、選挙でみた場合、少なくとも大国間関係というのは、中国との関係、そしてアメリカとの関係。アメリカとの関係は全く問題が無かったのですが、大統領選を見ていて「アメリカ大丈夫か」という声もあるような気がします。この2つの大国間関係という問題は争点にならないにしても、どのように考えていけばいいのででしょうか。

川島:まずアメリカの方ですが、今までであれば、アメリカから日本への目線が落ち着いている状態の中で日本側が争うところがあったのですが、今回はアメリカの内部において安全保障をめぐる大きな議論が起きているわけです。そうすると、日本の様々な政治家の発言がアメリカの言論とすぐ絡みつく可能性が大いにあるわけです。そうした意味でいうと、通常の選挙とは少し異なる影響を日米関係に与える可能性があって、そこは、責任というか、発言が与える影響を考慮しながら言葉を選ぶしかないのだろうと思います。それは、日米関係において、ある種新しい現象でしょう。

 一方、中国の方は一貫性があるというか、今年から来年にかけて、中国の政権内部でいろいろあるでしょうけれども、習近平政権の対日政策とか、対東シナ海、対南シナ海政策においてドラスティックな変化があるとは思えません。このような状態で、日本国内で、自民党、あるいは現政権の対中政策に対して、ネガティブな意見を持つならば、どのような対中政策が望ましいのかという点を打ち出さなければならないでしょう。南シナ海についても、いま、安倍政権の採っている政策以外の政策、あるいは尖閣についてもそうですが、現政権以外の政策を出すことが求められるわけです。それは意外にハードルが高いことかもしれません。微修正はありえるでしょうし、ただ批判を口で言うのは簡単かもしれませんが、オールタナティブを提示して、それを実現するのは相当難しいことです。その辺りを神保さんがおっしゃる、プラクティカルな観点でどれほどの政策が出せるかということが大きな問題でしょう。日米関係では、むしろ今はアメリカの方が、偏差が大きい事態になっているような気がします。

工藤:川島さんにもう1つ伺いたいのですが、日中関係に対する評価が日本と中国で違うのではないかと冒頭で言及されました。日中韓首脳会談が今秋に行われる予定ですが、南沙諸島問題で日本が主張すればするほど中国が反発している現状のままだと、日中韓首脳会談の開催がなくなる危険性はあるのでしょうか。

川島:十分にあります。今年の前半の核セキュリティ・サミットの際に、首脳会談があるやもという話もありましたが流れた経緯もありますので、このままでは9月のG20の時に杭州で会うことはできますが、日中韓首脳会議が年末におこなわれるという保障はありません。年内に、G20のほかに、あともう一度くらいどこかでうまく会える可能性がありますが、そこでどういう反応を示すかによって、今秋の日中韓サミットができるかどうかということが決まると思います。

 また、今回のG7の、特に外相会議における発言に対し、中国側がかなりヒートアップしているので、時間的に解決するのか、あるいは違う言葉を用いるのかはわかりませんが、どこかでクールダウンしないとかなり難しいと思います。

言論NPOのような幅広い国民に届く外交活動がアメリカにおいても必要に

神保:まずは、今まで安定化の変数の最大値と思われていたアメリカがここに来て、最大の変動する要因になってしまったというのは、十分深刻に受け止める必要があると思っています。考えてみると、2009年に鳩山政権が誕生したとき、日本はかなりドラスティックな外交のポートフォリオの変更を図ろうとしましたが失敗しました。その時の日米関係を支えた重要な要因は、アメリカの変わらない姿勢だったと思います。どんな形であれ、日本が例えば、普天間基地の移設先を探していたとしても、アメリカは一切、それでも自民党政権時に合意された案が最も良い案であるということで動かさなかったことは非常に大きかった。仮に、現在のトランプ候補が万が一の形で大統領になったとして、日米同盟に対するドラスティックな見直しを迫ったときに、我々はこれまでの蓄積がどれほどの価値があるものであったのかということを、しっかりと理論構築して語り、そして揺らがないかというところが問われると思います。

 ところが、懸念されるのは勝ち馬に載る形で、日本の保守派からもリベラル派からも、まさにトランプのように日米同盟の意義というものを軽んじ、かつ日本が自主防衛するべきだということに乗っかろうとする議論が日本の中で盛り上がることはほぼ確実だと思います。それに対してどのように我々が備えておくかということは大変重要だと思います。

 ただ、それだけで事が済まないのは、まさに、トランプ候補がなぜここまでフォーカスされているのか、ということです。専門家であれば当然だろうということに対する不信感がアメリカ社会の中に盛り上がっているのだと思います。その中で大事なことは、我々はアメリカの中西部や労働者階級、中低所得層の人達に届くような外交の言葉を持ってきたかということを考えなければなりません。彼らに届くように、「それっておかしいよね、日米関係ってすごく大事だよね」と思うような言論活動を行ってきたか、ということを振り返らなければなりません。手前味噌の話かもしれませんが、言論NPOのような活動が今までは中国、韓国に対して非常に重要な役割を果たしてきたと思いますが、今やアメリカの多くの国民層に語りかける言葉を持っているかということも新しいアジェンダになっているのではないかという気がしています。

工藤:いまの話はその通りで、先日、ワシントン、ニューヨークでアメリカの様々なメディアの編集幹部と話したのですが、彼らの議論は、ポピュリスティックな言動に知識層やジャーナリストが無力であることを、非常に気にしており、ある意味で言論NPOのような組織が必要だという声もありました。また、様々な人達が集まって、議論をして、世界的なネットワークを作り、メッセージを送り合えばいいではないかという声もありました。

 これは対岸の火事ではなくて、日本自身の問題でもあると思うのですが、1つ私が分からないのは、トランプは特異な人だと思うのですが、トランプを支えているアメリカの国民層の意識の中に確かな変化があるのを感じました。ピュー・リサーチ・センターのブルース・ストークス氏と最近のデータに基づいて議論したのですが、アメリカの中に他の国に対して介入し過ぎである、という声がどんどん増えて6割ぐらいあるということでした。すると、誰がトップになろうとも、アメリカ世論の中に、力を持ちつつも、国際的な介入を自重する傾向が出てくるのではないか。それも含めて、日本の安全保障の問題が問われると思いますが、いかがでしょうか。

誰が大統領に当選しても、アメリカが抱えている格差等の問題と日本は関わらざるを得ない

神保:アメリカ社会も過去20年間で大きく変化をして、ヒスパニックを含む非白人層のウェイトが大きく高まったということがあります。またアメリカは教育界をリードし、エリートを尊ぶ文化というのがあったと思いますが、様々な層の人々がソーシャル・メディア等を使って社会の中で意見を表出する世の中になったのだと思います。それをトランプ候補や民主党のサンダーズ候補は巧みに拾い上げて、彼らが社会の中でより意見を反映させるインターフェースを提供したことが大きなエネルギーとなり、今、現れていると思います。

 彼らにとっての国際関係とは何かというと、はっきりいうと「それほど大した問題ではない」ということなのだと思います。今、まさにアメリカ社会の中にある様々な不満、例えば、中所得層、低所得層の人々の所得というのは過去20年のおいて、実は増えていません。アメリカが成長する中で彼らが滞留しているということは、当然、上と下との格差が広まっていくということで、そこの怒りの渦を埋めていくということが、おそらく最大のプライオリティに置かれると、これをあらゆる大統領候補は無視できなくなります。仮にヒラリー候補が勝ったとしても、同じ問題に直面します。根本的にアメリカ社会が抱えている問題と我々は関わらざるを得ないという構図は変わらないと思います。

工藤:川島さん、アメリカのなかの大きな変化というものを過小評価すべきではない気がするのですが、どうでしょうか。

川島:私は3月と5月にワシントンに行きましたが、時々聞くのが、今回のトランプ現象は中国が作ったという議論でした。それはどのようなものかというと、中国が国際社会、国際経済の世界に参入してグローバリゼーションが一層進んだ。グローバル化が進むと、ピケティの話ではありませんが、格差が拡大していって、格差の拡大というものがエスタブリッシュメントへの批判を産み、それが今回のトランプ現象になって現れたという議論でした。つまり、ワシントンのプロフェッショナルはこりごりであり、その代表であるヒラリーは一層こりごりだという議論を、幾人かの候補が拾い上げていったわけです。

 幸い、日本では全く同じほどの現象が起きているわけではありませんが、グローバルに見ると、同じような現象がこれから世界各地で起きてる可能性があるわけです。トランプさんのように見える候補者が、いろいろな地域で出てくるという現象が広まるとと、日本の外交や立ち位置も大きな影響を受けますので、そうした点も考慮に入れる必要があると思います。

外交・安全保障問題で、有権者は何を考えなければいけないか

工藤:今日は様々な議論をされたのですが、最後に、選挙は有権者が地域やこの国の将来のことを考える非常に貴重な機会だと思うので、最後に一言、有権者は、外交、安全保障の分野で何を考えるべきか発言いただき、終わろうと思います。

神保:やはり、先進国でこれまで支えてきたG7のような枠組みの価値というのは、当然大事なのですが、世界経済、国力のウェイトはどんどん新興国の力が増えていく。彼らと向かい合う時の論理をどうするかということを、国民全体で考えていくべきだと思います。

 したがって、これから、教育をしていく子供たちをどんどん新興国に行かせて、様々な言語を学び、そして、20年後の世界の中でトップリーダーになっていくための素養をどう付けていくか、という時の大きな分かれ目にあるような年、時期だと思っています。

川島:私は先程申し上げたように、将来、日本がこうあるべき、世界がこうあったら望ましいというイメージ作りがしっかりできていて、それに基づいてあるいはシミュレーションをしながら、今の政策を引き継げられるような形があればいいと思います。

 ですから、マニフェストなどを見ながら、その政党が描いている日本の将来像、世界の将来イメージがあればなおいいなと思っています。

工藤:今度の選挙で政党がマニフェストを出していますので、私もまた評価を始めますけが、少なくとも政党は何を実現したいのかということと同時に、世界がどのように変化しているのか、その中で日本はどのように平和で安定的な環境を作れるのか、ということをを語る機会にしてもらいたいと思いますし、有権者も政治家、候補者に「あなたはどう考えているの」と尋ねるくらいの、カウンターバランスを作っていきたいと思います。

 今日は皆さん、有難うございました。

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