言論スタジオ

アメリカ大統領選と日米関係

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2016年6月19日(日)
出演者:
神谷万丈(防衛大学校総合安全保障研究科教授)
中山俊宏(應義塾大学総合政策学部教授)
渡部恒雄(東京財団ディレクター・上席研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第三話 今後の日米関係をどう考え、行動すべきか

工藤泰志 工藤:今回の大統領選に見られる構造や、選挙結果が日米関係にどのような影響をもたらすのか、また、私たちは日米関係を今どのように考えなければいけないのか、ということをお聞きします。中山さんからどうでしょうか。

日本は自力で、またアメリカと共にアジアの平和に何ができるかを考えるべき

中山:仮にトランプ政権が誕生するようなことになると、まったく予測不可能ということになります。今まで、日本は「大統領選挙でほとんど日本が話題になっていないではないか」と文句を言ってきました。今回は日本が出てくるケースが非常に多いのですが、必ずネガティブな文脈においてです。ただ、トランプ政権でなくクリントン政権においても、例えばTPPなどに関していえば、議会を通過するのはかなり難しくなっているだろうと思います。ですから、「トランプか、トランプではないか」ということもありますが、アメリカ自体が全体としてアジアや日本への関与を弱めようとしている雰囲気はあります。

 ただ、日本としては、それにいちいち過剰反応しないことも大切です。日本の目指したいこと、そのためにどの国と協力すると最も合理的かというと、依然として日米同盟であって、トランプ政権が仮に誕生して4年続くとなると、その期間内に、何か同盟に代わるものを構築することは不可能です。だから、トランプ政権下においても、日米同盟堅持以外の実質的なオプションにはないと思います。ただ、それを主張することが難しい環境がどんどん出来上がってくるのではないでしょうか。

工藤:トランプは、日米同盟をやめたいと言っているわけではないですよね。「ただ乗り」というお金の問題を言っているだけですよね。

 中山:彼はビジネスマンですから、「日米同盟がどういう利益を生み出しているか」を重視します。同盟という制度自体が、いわゆる短期的な利益を生み出すものではありません。ただ、トランプのこれまでのキャリアの中で、「秩序維持」とか「公共財の提供」に対する発想がないので、「日本はただ乗りしている、アメリカは日米同盟から何も利益を得ていないじゃないか」という議論になっています。誰かがトランプ氏に同盟の価値を説かなければいけないのですが、今の段階で仮に政府関係者からいうと、逆に、それを口実に攻撃されてしまうかもしれないので、今のところは静かにしておこう、という状況です。

 渡部:最近、共和党のベテランのロビーストに「日本人はトランプに反論をするな。反論すれば、それが跳ね返ってきて不利な政策を設定されてしまう。放っておけ」と言われましたが、正しいのではないでしょうか。それよりも、トランプになろうが誰になろうが、アメリカの政府の次官補(局長)級以上のポストは、ほとんど政治任用によって埋められ、日本のように既存の官僚が運営するシステムではありません。次官補以上の政治任用職は議会が同意しなければ任命されませんから、トランプが大統領になっても、素人で政府の主要ポストを固めることは不可能なので、政権には共和党から専門集団が入らざるを得ません。だから、トランプ政権になったときに、トランプの暴言が実行されると考えるべきではないし、過度な心配はすべきでありません。

 本当に心配すべきは、中山さんが言ったように、アメリカの有権者が内向きになっていることです。それに対して、日本は自力で一体アジアの安全保障環境を維持するために何ができるのか、アメリカと一緒に何ができるのか、を考えておくことです。その意味で、安倍政権が「積極的平和主義」で打ち出していることは、実はタイムリーなのです。集団的自衛権行使も含めて、日本がアジアですべきことを考えて粛々と実行していけばいいのではないでしょうか。

 神谷:中山さんがおっしゃったように、冷静で合理的に考えると、誰の政権になっても、アメリカにとっては日米同盟が重要に決まっているわけです。というのは、先ほど私が言いましたように、中国の自己主張の強まりの前に、自由で開かれたルール基盤の秩序がうっかりすると揺らぐのではないか、といわれています。しかし、アメリカはそれを守りたい、特にアジアで守りたい。アジアはアメリカにとって、経済にとっても安全保障にとっても重要です。でも、アメリカ単独では秩序を守れないとすると、最も有力な自分の味方は日本ですから、日本を大事にするしかないはずです。

 しかし、ここからが問題で、トランプはいろいろなことが分かっていません。それから、トランプを支持している人たちは、あまり教育レベルも高くありませんし、都会ではなく田舎に住んでいて、外国のことにあまり関心もなければ、詳しくもありません。そうすると、彼らは日本のことなどほとんど考えずに毎日を送っているわけです。日本ではどんな人でも「アメリカは大事だ」と思っているわけですが、アメリカの普通の人にとって、日本は「大事らしいけれど、遠い国」なのです。そういう人たちが「日本は大事だ」と思い続けてくれるかどうか。難しいのは、トランプが「ただ乗り」という、ずいぶん久しぶりに聞いた言葉を言い出したことです。本当は「ただ乗り」というのは相当に嘘で、昔から、日本は基地を提供しています。平時から外国に基地を置かせるというのは大変なことで、そういうかたちで義務を果たし続けています。あるいは、ホストネーション・サポート、いわゆる思いやり予算を出しています。これも普通ではないことで、それでアメリカは日本を守ってくれる、ということでバランスが取れていました。

 その上、最近の日本の新しい安全保障政策において、集団的自衛権を限定的に行使するということで、同盟のかたちが普通に近づいて、ますます「ただ乗り」などという話は出てこなくなるはずです。ただ、ここからが難しくて、普通の同盟では、集団的自衛権というものは、お互い当たり前に行使して、いざというときは助け合う、ということを言っていますが、日本の場合、そこが依然として限定的です。その代わりに「基地を出しています」「お金を出しています」と言っても、普通のアメリカ人は基地のことなど知りません。それから、お金も、トランプが言うように「全部出しているわけではないじゃないか」というと、もっともらしいわけです。そういう、トランプのむちゃくちゃではあるけれども印象に残る言葉の影響が、誰の政権になっても残ってしまうのではないか、というのが私の心配です。

工藤:トランプさんの言動はテレビなどで見ているしかないのですが、基本的に、自由貿易体制に関してネガティブです。この前ワシントンに行ってブルース・ストークス氏と話すと、「世論調査をすると、トランプの支持者の67%が自由貿易協定に反対だ」と言っていました。しかし、クリントンの支持者の6割は賛成しているので、「クリントンはなぜTPPに反対したのか」というところで揺れています。ただ、日米関係を見ると、まず、TPPを含めた自由貿易を進めるということについて本当に同じ考え方なのか。また、基地の問題では「お金を出せ」と言っていますが、あそこまで明確に主張しているということになると、トランプ政権になってその主張が曖昧になるのかがよく分かりません。このあたりは、変化がありえるのではないかと思うのですが、中山さん、どうでしょうか。

TPPが停滞し、各国がアメリカに疑念を持ちかねない

中山:同盟については、まだよく分かりません。選挙キャンペーンの言葉としていろいろ言っていますが、実際にトランプ政権が発足したら、政府の高官をきちんとしたプロで固めなければいけませんが、ある種の軍の間の継続性、制度的に同盟が整備されているので、それをトランプの思い込みでどこまで変えられるかは分かりません。

 TPP、自由貿易に関しては相当大きな変化があります。これまで、共和党の3分の2と民主党の3分の1くらいで議会を通していたようなものですが、共和党の中でも反対派が多くなって、民主党の中でもクリントンを支持している人たちはある程度賛成しているかもしれませんが、特に左派の間では自由貿易への反対感情がさらに強くなっています。ただ、TPPは単なる経済的なディールではなく、地域の秩序、先進的な地域の経済ルールを日米で一緒につくっていくという意味合いがありました。仮に、そこからアメリカが降りるということになると、確かにアメリカはアジアに関与せざるを得ないわけですが、「本気なんですか」という疑念が、当然、この地域の国々から出てきますし、中国などはそこを突いて揺さぶりをかけるのではないか、という気がします。

工藤:日米同盟は少なくともアジアの平和秩序の1つの構造をつくってきたし、それをさらに拡大するという世界的な視野を持った展開だと思います。にもかかわらず、「ただ乗り」という議論が支持を得ることになると、日米同盟に対するアメリカの理解が、戦後70年の間、限定された人たちの理解でしかなかったのかということです。そうであれば、今後の日米関係をちゃんと考えなければいけないのではないかと思っていますがどうでしょうか。

日米同盟の重要性について、知らないアメリカ人の方が多いという現実

渡部:アメリカにとっては日本などワン・オブ・ゼムだ、ということを理解しなくてはいけません。アメリカは超大国であり、日本以外にもいろいろな国と同盟を結んでいます。そこは日本にとっても救いで、トランプの「安保ただ乗り」は日本に対してだけ向かっているわけではありません。ヨーロッパに対しても韓国に対しても「ちゃんと負担しろ」と言っています。ただ、日本だけが「律儀に」反論してしまったわけです。他の国はホストネーション・サポートなどほとんど負担していません。日本は一番負担しているので、「お金は出しています」と言ったら、「もっと出せ」と言われたのです。だから、反論するとそれを言っただけのことしか返ってこないという話です。他の国は反論していないので、トランプも知らないだけなのです。フェアに見れば、他の国はもっと負担していないので、他国こそ、もっと「負担しろ」と言われるはずなのですが、トランプはそんなことまで考えていません。だから「トランプには反論するな」ということなのです。

神谷:渡部さんがおっしゃったことには、大筋で同感です。日本から見ると、アメリカは大きいし、いつも忘れることができない相手です。ところがアメリカから見ると、日本は重要なのですが、いつも意識している相手ではありません。アメリカはヨーロッパに向ける目の方が大きいですから、ヨーロッパの国に比べるとアジアに目を向ける度合いは低いし、その中で日本はワン・オブ・ゼムだ、というところがあります。

 日米同盟は大変に強化されました。一時怪しかったのを、安倍政権になってからずいぶん立て直して、今、非常に良い状態にあります。では、その日米同盟はどういうことで良い状態にあるのか、また、工藤代表がおっしゃったように、単に日本を守るためではなく、どういう役に立っているのか。それを分かっている人は、知的な人、あるいはワシントンにいる政策に通じている人の間でも、ごく少数に限られています。ですから、トランプの暴言みたいなものが変な影響を持つ可能性がゼロではないわけです。

 もう1つは、トランプの世界の見方は、全般的に古いのです。彼が売り出してきた1980年代や90年代初頭の世界の見方を引きずっているようなところがあります。日本についても「日本からの自動車輸入がアメリカ人の職を奪った」とか、我々には懐かしい、経済摩擦華やかなりし頃、まだバブルとかその直後くらいのころのイメージでものを見ているらしい。実は「ただ乗り」というのもそのときの言葉で、当時、本当はただ乗りではなかったのですが、「いざというときにアメリカを守ってくれないとは何事だ」とか「金だけ出して、それでいいと言うのか」といったことで「ただ乗り」と言われていたイメージをまだ引きずっている。そこに来てホストネーション・サポートを日本は非常に出しているのに、それも分からないから「全部出していないじゃないか」と言われるわけです。仮に全部負担すると、アメリカ人の兵隊の給料まで出すということになりかねない。そうすると日本人がアメリカ人を傭兵にしているようになるので負担していない、という意味もあるのに、そういうことも分かっていません。ただ、そういう意味がなかなか分かっていないアメリカ人の方が多いのです。

 最後に、今や、日米同盟は日本を守ることが主眼ではないかもしれないくらいなのです。まさに秩序維持、南シナ海や東シナ海、あるいはアジア太平洋を越えてグローバルに、日本がアメリカと手を携えて積極的平和主義のもとで関わっていく、そういう装置になっているのですが、そうした変化が起こっていることを分かっている人は非常に少ないということです。

工藤:確かに、皆さんおっしゃっている通りなのですが、逆に言えば、それを多くの日本の国民が「意外にアメリカは考えていないな」と分かり始めたわけです。そういう状況になったときに、これまで戦後のシステムの中でアメリカしか見ていなかった日本の多くの人たちから「それなら、もうちょっと考えてみてもいいのではないか」という声が出てくることもあってもおかしくないわけですよね。つまり、日米同盟を破らないというのであれば、「日本と関係ないなら、もういいですよ」と、ディールで交渉してもいいのですよね。真面目に考えると、日米関係における多面的な大きな議論をしていくのであれば、今の状況はプラスなのですが、そういう議論になりかねないような気がします。

日本国民自信が日米同盟の意味を再選択するプロセスが重要に

中山:アメリカにおいて日米同盟に対する理解が低いという話でしたが、日本でも、日米同盟に対する理解が十分かというと、決してそうではないと思います。数年前に、同盟の機能をまったく分かっていない方が日本の首相になられましたが、「やむを得ないから」「他にない」という観点から、日本の世論調査では日米同盟に対して圧倒的な支持なのですが、どこまできちんと分かって支持しているかというと、けっこう危うい。依存度が大きいからこそ、アメリカに対する違和感とかちょっとした不信感のようなものは、日本社会の底流にあると思います。そこにトランプのような人が出てきてしまうと、そういう不満が、場合によってはワッと大きくなって、アメリカを批判することが簡単になるわけです。

 ですから、日本側でも「なぜ同盟が日本にとって必要なのか」「日本はこういうことを実現したくて、そのためにどの相手と組むのが一番いいのか」ということをきちんと言語化して、同盟の意義をきちんと把握した上で、意識の上で「なぜ日米同盟が日本にとって重要か」ということを国民自身が同盟の意味を再選択するプロセスを踏んでおかなければいけません。

 仮にトランプ政権が誕生しても、それは永遠に続くわけではありませんし、そのタイムスパンで同盟に代わるものを構築できるわけはないので、「トランプを乗り切る」以外に発想はないと思います。ですから、反トランプ感情で変にもてあそぶようなことはしない、ということが重要です。

渡部:日本をよく知っているあるアメリカ人と最近話したら、「トランプは鳩山よりひどいな」と言っていましたが、アメリカは鳩山政権を乗り切ったのです。当時の日本の政権は少し揺れていたかもしれないが、大きく見ると、日本の国家理性は同盟を弱める方向には向かっていないと見て、彼らは非常に冷静に対処しました。トランプに対する日本の姿勢も同じであるべきです。夫婦関係だって、相手の調子が悪いときもあるし、自分の調子が悪いときもあって、それを互いにぐっと我慢してこそ安定して長続きする夫婦生活があるわけです。

日米同盟の重要性を多くの人々が納得するために、言論人の役割は大きい

神谷:中山さんがおっしゃったことは大変大事で、「なぜ日本はアメリカと同盟を組んでいないといけないのか」ということを自分でよく考えて、「やはり同盟は必要なのだ」と自分で納得するというプロセスが必要です。もともと、日米の同盟関係は、占領が終わるときに、選び取ったというより歴史の必然のようにできてしまった、ということがあるので、今まで必ずしも国民自身が納得するようなプロセスは十分にできていなかったかもしれません。

 でも、今、日本にとっては、もし「積極的」という形容詞がつくとはいえ、平和主義というものを貫きたい、要するに、自分で何でもやる軍事大国にならないのであれば、アメリカとがっちり組んでおかないと日本の安全が危なくなります。それから、中国をはじめとする国の台頭、自己主張の強まりがあって、力のバランスが変化する中で、アジア太平洋そして世界の安全保障を守り、あるいは紛争を抑え、ルール基盤の秩序を守っていく。このためにも、結局、日本だけがいくら力んでもダメで、そういう秩序を支えてきた側の親分であるアメリカにこれからも頑張ってもらいつつ、しかし彼らには日本にもちゃんと配慮してもらう。こういう関係を築いていくしかないのだということを分かった上で、「やはり日本にはそれしかないのだ」ということを、なるべく多くの人が納得していくようにしなければいけない。そのためには、言論NPOもそうですが、我々言論人と言われるような者の役割は非常に大きいのだと思います。

工藤:確かに、世界が大きく変化する中で、日本もいろいろなことを見直すだけではなく、その中で日本がどのように生きていけばいいのかを冷静に考えるという1つの大きなレッスンの場を提供しているのかもしれません。ただ、アメリカとの関係は日本にとって非常に大事な関係なので、今後もこの議論はしなければいけないと思っています。

 今日はオバマからトランプまで幅広く議論しましたが、11月の大統領選挙本選のときに、また議論したいと思います。今日は本当にありがとうございました。

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