言論スタジオ

中国経済の現状と日中経済の行方

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2016年9月16日(金)
出演者:
河合正弘(東京大学公共政策大学院特任教授、元アジア開発銀行研究所所長)
駒形哲哉(慶應義塾大学経済学部教授)
三尾幸吉郎(ニッセイ基礎研究所上席研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第一話:中国経済の構造調整は今、どこまで進んでいるのか

グローバルな経済構造調整の鍵を握る中国経済

c6dd8e0f38aeb31a09125418246176135ef9cb04.jpg工藤:言論NPOの工藤泰志です。さて、言論NPOは9月26~28日の3日間の日程で、東京で「第12回東京-北京フォーラム」を行います。このフォーラムは、日本と中国が直面する課題をきちんと議論して克服するためのいろいろな動きを始めよう、という趣旨で、12年前に設立されたものです。

 そして、今年のフォーラムでは、まさに中国の経済問題が主要なテーマの一つとなります。これは中国だけの問題ではなく、今、グローバル経済が構造的な調整局面に入っていて、それが本当にうまくいくのかという問題がありますが、私たちは、その鍵を握るのが中国経済の構造調整だと認識しています。この議論に、中国からは計13人の、現役の企業経営者や政府関係者などが東京に参集することになり、日本からもいろいろな専門家が集まってこの問題を議論することになっています。

 今日の言論スタジオでは、このフォーラムに先立って、今、中国経済の構造調整がどういう現状にあるのか、そして、今後アジアの成長基盤となる日本と中国の経済が、協力関係を含めて新しい展開をつくるために何が必要なのか、そういうことについて議論を進めたいと思っています。ということで、3人の専門家の方々に来ていただきました。まず、東京大学公共政策大学院特任教授で、前アジア開発銀行研究所所長の河合正弘さんです。続いて、慶應義塾大学経済学部教授の駒形哲哉さんです。最後に、ニッセイ基礎研究所上席研究員の三尾幸吉郎さんです。

 経済の問題は、今年の春に行われた日本でのG7、そして9月に中国で行われたG20の主要なテーマでした。経済の世界的な調整をきちんと進めないといけないという中で、中国経済の状況、また日本経済をどうすればいいのかということが、この1年間議論されていました。リーマンショック以降、世界経済を牽引してきたのは中国であり新興国だったのですが、その中国や新興国の経済が、今、調整局面を迎え、その中で、世界経済を次に進めるために、中国経済の動向から目が離せない状況になっています。今年は年明けの上海株暴落による資本流出の懸念から始まり、いろいろな議論がなされています。中国は構造調整に真剣に取り組んでいると思っているのですが、まず、このあたりの状況について皆さんにお話を伺いたいと思います。河合さん、中国経済の構造調整はうまく進んでいるのでしょうか。

消費主導型への体質転換が緩やかに進んでいる

2016-09-17-(15).jpg河合:まず、経済成長について、中国経済は昨年6.9%の成長をし、今年はどれくらい減速するか、というのが大方の関心事なのですが、今のところ今年の前半は6.7%の成長であるということで、まずまずの成長をしています。その内訳を見ますと、消費の成長への寄与度が非常に高く、4.9%で全体の三分の二以上の寄与度となっています。投資も伸びていますが、投資の寄与度は2.5%で消費の半分くらいです。外需はマイナス0.7%の寄与度で成長にマイナスとなっています。つまり需要サイドの構造調整という観点からすると、「投資主導型から消費主導型へ」の転換が緩やかなかたちで起きている、と評価していいのではないでしょうか。外需はわずかながらマイナスの寄与度なので、「純輸出主導型」とはもはや言えない状況になっています。

 名目GDPの産業別構成をみると、第二次産業(製造業)のシェアは昨年末から約2%ポイント減少し39%となる一方で、第三次産業(サービス産業)のシェアは同約4%ポイント増加し54%になっています。つまり供給サイドでも、政府が目指す、重厚長大型の製造業からサービス業への構造転換が着実に進んでいます。

 次に、鉄鋼、石炭、セメントなどの過剰生産能力の問題があります。これがどの程度進んでいるのかというのはまた後の議論になるかと思いますが、あまり進んでいるとは言えないのではないかと感じています。

工藤:河合さんは、経済の体質改善が緩やかながらも進んでいるのだ、という考えを示されました。駒形さんはどうご覧になっていますか。

過剰生産に成長を依存する中、「体制移行の罠」の克服が今後の課題

2016-09-17-(2).jpg 駒形:私も基本的には、河合先生のおっしゃる通りだと思います。その際、成長率の低下をどのようにとらえるか、ということで、四つほどの視点が考えられます。一つは経済の循環、二つ目は少し中長期的な成長モデルの転換。三つ目はリーマンショックの後始末の問題、そして四つ目が制度改革、まさに今日のテーマになるところだと思いますが、いわゆる体制移行の罠という部分だと思います。

 この四つのうち、第一点の循環性についてはあまり議論する必要がないと思いますが、第二点の成長モデルの転換ということで言えば、よく言われるのは、工業化の進展に伴い農業労働力が不足に転じる「ルイスの転換点」を超え、生産性の向上、特にイノベーションに経済成長の源泉を期待しなければいけない段階に行く。さらに、河合先生がおっしゃったような内需主導への転換ということで、徐々には体質改善が進んではいるかと思います。

 この転換期でよく言われるのは、人件費の上昇や後発新興国の台頭により高所得国へ脱皮できない「中所得国の罠」の議論ですが、私は、これはあまり大きな問題にはならないと思います。中国は新しい技術が出てくれば次々にキャッチアップしていく能力を持っていますし、新興国に向けて市場を拡大していき、また内需も拡大します。ということで、今の中国は持続的な成長が可能であり、そして少し次元は違うのですが、日本の70年代、つまり高度成長期が終わった後の質的発展の時代に入ったというイメージを持ってもいいのかもしれないと思います。

 ただ、今の成長率を引っ張っているのは、先ほどの四点のうち後半の二つになります。一つはリーマンショックの後始末、これが過剰生産をかなり生み出しているだろうということです。そして、これが次の制度改革とかかわってきますが、過剰の大きな部分は国有企業が抱えています。そうすると、今後の展望は、制度改革、体制移行の問題をどうクリアしていくのかというところだと思います。

2016-09-17-(10).jpg三尾:お二方がおっしゃった通りなのですが、付け加えるとすれば、中国の経済構造の調整は、需要面から見ると「投資から消費への移行」がようやく順調に動き始めたものの、その持続性についてはまだ確認できない段階だと思います。

 一方、供給面から見ると、中国経済は改革開放で経済体制が整った後、輸出をして外貨を稼ぐ、そのために国内に工場をつくり、ものを生産して海外に輸出をするという、工業を中心とした発展をしてきていました。それが今、ある意味で限界に達しています。産業別の成長率を見ますと、特に昨年、第二次産業の成長率が大きく減速し、名目ベース、時価ベースで考えると一時マイナス成長になったという状況でした。今年の上期については、名目ベースの第二次産業の成長率もようやくプラスになりましたが、それでもかなり低い数値で推移しています。一方で第三次産業の伸び、つまり中国が「世界の工場」になるにあたって経済を牽引してきたエンジンから、それ以外のサービス産業へ移行するというプロセスについては、それなりに安定を保っていて、実質ベースで8%くらいの成長、今年に入って若干下がっていますがそれでも7.5%くらいの成長を維持しています。したがって、第二次産業から第三次産業への大きな転換が起こっている。

 このように、需要面から見た姿と供給面から見た姿とは、まったく違うように見えますがリンクしていますので、その動きがうまく順回転を続けられるかが、今後の注目ポイントかと思います。

工藤:今の皆さんのお話では、少なくとも変化が始まっているということは確実であり、それから、ある程度の経済成長を生み出しているのも事実だということでした。また、構造改革が本当にどうなるかは、今後の課題だということです。

 これを基本に戻って考えると、中国政府が考えている計画から見れば、中国経済はどのように進んでいるのでしょうか。今年から始まっている第13期5ヵ年計画は、「小康社会」を目指す2020年までの最後の5ヵ年計画となりますが、その中で経済の体質を大きく変え、構造調整もする。一方で経済成長もある程度維持し、資金流出も含めたマネージをきちんとするという作業は、今、かろうじて進んでいるという状況なのですが、その出口が示されているのか、という点はどうなのでしょうか。

国有企業改革が進まない中、構造調整の「出口」はまだ明確には見えない

河合:構造改革の中で最も重要なのが国有企業改革だと思います。極めて大きな過剰生産能力や債務を抱えているのが国有企業であることから、供給サイドの改革によって過剰生産問題を処理する過程では、どうしても国有企業改革が避けて通れません。しかし、同時に国有企業を大きく整理・淘汰していくということになると、有効需要の点から、また企業や内外投資家の心理という点から見れば、中国政府も、思い切った国有企業改革をスピード感をもって進めることがなかなかできないのだと思います。今のところは、何とか成長を続けながら徐々に供給過剰問題を処理していくという現実的なアプローチをとっているのだろうと思いますが、やはり国有企業改革のスピードが落ちているのが現状なのだと思います。したがって、出口はまだしっかりしたかたちでは見えないということになります。

工藤:駒形先生、中国は国有企業改革に取り組んでいるのでしょうか。

雇用調整や、民間企業の立場が弱いという問題もあり、国有企業も活用した成長をまだ続けざるを得ない

駒形:非常に力を入れていると思います。ただ、押したり引いたりというところが非常に大きいのですが、まず、中国の基本的ないわゆる国体が、国有企業を共産党一党独裁政権の経済的な基盤にしていますので、この根本的な部分でどこまで改革できるかは、つまるところの課題になると思います。

 ただ、今、特に大きな問題は、地方の国有企業の、鉄鋼や石炭などの過剰だと思います。このあたりは、有効需要、また雇用の問題があって、スピードを上げていくことはなかなか難しいと思います。イメージとしては、日本のエネルギー革命のとき、三池炭鉱などのスクラップをする際の雇用転換への圧力よりも、ゼロが一つか二つ多くつくような規模に対する手当てが必要になりますので、ここはそうスピードを上げて過剰の調整を進めていくわけにはいかず、非常に悩ましいところだと思います。

三尾:中国といえども、やはり今後は民間企業の発展が中核になっていくと思います。中国政府は国有企業改革を進めていまして、特に中央の国有企業については、経営の中身を変えるというより、どちらかというと合併し、大きくして世界に打って出るという動きが中心なのではないでしょうか。2013年の三中全会(共産党第18期中央委員会第3回全体会議)で示された方針を見ても、結局、中国はあくまで国有企業が中心で、民間企業については「活躍してね」というくらいの方針でしかありません。今、国有企業が中心で、そこは変えないという中、立場の弱い民間企業がどれだけ打って出られるのか。銀行からの借り入れも制限があったり、偏見の目で見られたりという中、なかなか低利での借り入れができない、また目に見えない制約を含めていろいろな制約がある中、民間企業の活躍の余地を増やしていくことが必要なのだと思います。

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河合:今年の1月から8月までのデータを見ると、固定資本投資は8%程度で伸びているのですが、うち国有企業の投資は対前年比で20%以上伸びており、民間投資の伸びは2%台にしかすぎません。つまり、政府は今年に入って国有企業の投資を大幅に伸ばしており、今のところ民間企業の投資の伸びが、昨年、一昨年と比べて大きく落ち込んでいるという状況です。

工藤:ということは、国有企業という巨大企業をベースにした経済改革を進めていくということなのでしょうか。

河合:今のところ、民間企業の投資が弱含んでいるため6.5%以上という成長目標に貢献していないことから、政府の相当なてこ入れによって成長を持続させるという姿になっているのだと思います。民間企業が、この減速局面でなかなか投資をしないという問題があります。国有企業改革は重要なのですが、それは当面脇に置き、成長維持のために国有部門の投資を大幅に拡大させるという政策をとっている、と判断されます。

工藤:すると、大きな力を持っている国有企業そのものを改革するというよりも、その力も活用しながら、とにかく成長を維持しているということなのでしょうか。

駒形:ただ、投資に関して言えば、景気対策として銀行が貸し出しているのは、比較的、国有企業が得意な領域が多くなっています。一方で「今、なぜ成長率が低いのか」という点の関連では、本来、生産性が高い方にお金を動かすということが成長率を伸ばす一番良い方法なのですが、生産性が低い国有企業に集中的にお金が回っています。それから、先ほど申し上げた国有企業、特に地方国有企業の状況と組み合わせると、「ゾンビ企業」の生存のために無駄なお金がかなり投じられているという面があります。したがって、国民経済の限られたお金が有効に使われていないということが、成長率について最も大きな問題なのだと思います。

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