2019年参院選挙の争点とは何か ― 社会保障政策 ―

2019年7月17日

2019年7月11日(木)
出演者:
西沢和彦(日本総研主席研究員)
亀井善太郎(PHP総研主席研究員、立教大学大学院特任教授)
三原岳(ニッセイ基礎研究所主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

kudo.png工藤:私たちは世論調査に加えて、有識者にアンケートをとっているのですが、日本の将来の危機感の中で、人口減少や高齢化、年金や社会保障という回答が上位を占めますが、そこに追い付いてきたのが地方の破たんなど、地方の問題です。政党の公約にも地方政策とかありましたが、今はほとんどありません。

kamei.png亀井:今の北海道知事は夕張町長だった鈴木さんです。彼が北海道知事になったことは大きな動きだと思っています。つまり、これからの地方を考える際、知事や市長がある種の主体になって、大きな方向性が見えてくる。大阪や福岡で起きていることも同じ現象だと思いますが、東京では起きていない。もう少し、地方発の話が見えてこないといけないのかなと思います。いずれにせよ、地域に任せる話について、国はそこを手放した方がいいと思います。

工藤:それは分権とかの国の話ではなくて、まずはアイデアの話を地方から出してもらうということですね。

亀井:具体的にも社会は変わっているし、状況は全然違う。例えば、福岡は、東京を見ていなくて、完全にアジアの方を見ている。そういうことも、それぞれの地域ごとに既に起きていることはある。問題は参勤交代している国会議員が地元を東京みたいにしたいから金を突っ込め、という話をやるから問題になる。

 申し訳ないけど、国会議員は国全体のことを考えてくれれば良くて、自分の地域のために何かをするということは考えないでくださいと。

工藤:最後に話を戻して、最終的に今回の選挙での公約を点数化してほしいのですが、いかがでしょうか。

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マニフェストと呼ぶに値しない各党の参議院選挙の公約

mihara.png三原:私は2005年の公約が良かったと思っています。自民党も民主党も財源を考えながら年金のことを競争して、民主党がややラディカルな改革をやり、自民党はマクロ経済スライドのような現状維持的な改革をやる、という政策競争がありました。

 それを一つの採点基準として考え、2005年を及第点とするのであれば、今回の公約は評価できません。それは自民党も同じで、政策のメニューがいっぱい入っているだけで、負担の話が全くありません。

亀井:自民党は部会要望を書いているだけですから全く意味がありません。それから、野党は政権とる気がありませんから、全く意味がありません。特筆すべきは国民民主党かもしれませんが、一生懸命書いた割には結局何がやりたいか分かりません。書く技術は優れているかもしれませんが、魂は残っていません。正直言うと、点数をつけるに値しない。0点もつけられない、マニフェストと呼ぶに値しないと思います。

 マニフェストというのは本来、優先する政策プログラム集と、それをどうやって実現するか、というチームや人材、体制が書かれていなければなりませんが、どっちも全くない。

nishizawa.png西沢:会社が潰れかけているのに、社長が社食のメニューを増やすとか、そういう風にしか見えない。つまり、日本の財政悪化とか高齢化が進み、経営を揺るがすような大問題が発生しているにもかかわらず、社食を一品を増やしましょうと。与党が品数を増やすと、野党ももう一品と品数を増やすけど、価格は据え置きですという感じになってしまっている。

 私は、社会保障を政府に任せるのは荷が重すぎるので、少し引いてくださいと。引き算で、これとこれは企業、家計、地域に任せるので、政府は自分の能力のできる範囲でやります、という引き算で書いてくれればいいと思います。

亀井:昭和の終わりにこうなることは見えていたのです。頭の良い人たちはその時に言っていました。しかし、いよいよ普通に真面目に暮らしている人が実感し始めた。それが今なんです。ずっとやるタイミングがあったにもかかわらず、細かいことはしてきたかもしれないけど、根本的なことはやってこなかった。そのツケをどこかで返さないと、このままいくと本当にひどいことになります。

工藤:今日は社会保障、年金、医療、介護について、本質的な評価をやろうと思いましたが、なかなか評価できない、という苦しさがこの評価会議に表れたと思います。

 冒頭に言いましたが、私たちが行った世論調査の結果で一番気になったのは、日本の統治、つまり投票して政治家を選ぶという代表制民主主義から国民が退出し始め、信頼をしていないという現象がはっきり見えてきたということです。

 この状況をしっかりと考えて、民主主義という仕組みをもう一度、ある程度機能するものに変えていく必要があると思います。

 しかし、今回の公約では、選挙にならないわけです。こうした公約を許してはいけないという流れを作らなければいけない。最後に何かあればお願いします。

亀井:今回、投票率が50%いかなければ、本当に問題だと思います。そこを超えるかどうかが勝負だと思いますし、デモクラシーそのものが試されている。ただ、与野党問わず、立候補した人も含めて、デモクラシーをやっている方が、デモクラシーを軽んじているということが大問題だと思います。

西沢:政治家と話をするときは、その政治家個人に話しているという気持ちはありますが、その人に投票している10万人、20万の人を相手に話しかけているつもりです。自分に投票をした人の思いを背負って、国会に出てきてほしいですね。

三原:できることなら、社会保障というのは国民の生活や懐事情に最も絡むところで、自らやるかは別にして、政治家が考えなければいけないことだと思います。その争点をつくれないということは、工藤さんがおっしゃるようにデモクラシーの危機なので、やはり負担と給付の関係をもう一度くくり直すような議論を、後、国がやるのか、自治体がやるのか、民間企業がやるのかという主体の問題、そうしたことを今一度くくり直す必要があるな、ということを今日改めて感じました。

工藤:日本の民主主義を機能させるために、今が正念場だと思います。皆さん、ありがとうございました。

⇒ 2019年参院選挙の争点とは何か 社会保障政策 / 経済政策 / 財政政策
 言論NPOは今回の参議院選挙で何が問われるべきなのか。世論調査結果から、日本の将来に悲観的な理由として多くの人が高齢化や人口減少に有効な対策が見えないことを挙げました。そこで、各党の「社会保障」に関する公約について議論しました。

 与党も野党も公約ではしっかりとした提案がなされず、今回の選挙で政治は、給付と負担を含めた社会保障の全体像を示すべき、との見解で一致しました。
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