「第4回日韓共同世論調査」をどう読み解くか

2016年7月20日

2016年7月14日(木)
出演者:
奥薗秀樹(静岡県立大学国際関係学研究科准教授)
澤田克己(毎日新聞論説委員)
西野純也(慶應義塾大学法学部政治学科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

第2話:アメリカ、中国との距離感から見る日韓関係

2016-07-17-(9).jpg 工藤:続いて、世論調査をもとに、日韓関係について議論してみたいと思います。まず、世論調査で、現状の日韓関係に関しては「悪い」「どちらかといえば悪い」を併せると、日本人は50.9%、韓国人は62.3%と、いずれも半数以上が「日韓関係は悪い」と思っているのですが、昨年まではさらに悪く、日本人の65.4%(2015年)、一昨年は78.8%(2014年)が「日韓関係は悪い」と認識していました。それが今回、15ポイントも改善しました。このことが持つ意味は、先ほどの「これまでの行き過ぎの是正」と同じなのでしょうか。

行き過ぎを是正する動きに加え、日韓関係そのものも変わりつつある

2016-07-17-(1).jpg西野:過去3年間の関係が非常に悪かったことに比べると、昨年末の慰安婦合意があって、底を打ったのではないかということで、韓国においては「非常に悪い」という答えが、昨年の34.3%から今年は13.3%に急激に減りました。ただ、依然として「どちらかといえば悪い」という人が44.0%から49.0%に増えているので、「非常に悪い状況は脱したけれど、まだまだ悪い」と思っている人がやはり多いのだと思います。日本側では、慰安婦合意に対する評価がもう少し高いということもあり、「良くなってきているけれど、今後どうなるかはまだ分からないのではないか」というのが、おそらく、現在の日韓関係と今後の日韓関係の評価から見えてくるものなのではないでしょうか。

 韓国の中では、とりわけ慰安婦問題に対する否定的な評価が日本に比べて非常に多い状態ですし、それは、慰安婦合意自体に対する評価もありますが、朴槿恵政権に対する政治的な評価の表れでもあります。現在、朴槿恵政権の外交に対する評価、とりわけ、アメリカと中国との間で挟まれているのではないか、外交が非常にうまくいっていないのではないかという、全体的に否定的な評価が多い状況ですから、韓国が置かれている状況に対する認識も、日韓の世論調査に反映しているのではないかと考えています。

工藤:今後の日韓関係については「変わらない」という答えが両国でそれぞれ半数くらいあって、改善に向けての確信はないわけです。奥薗さん、澤田さんはいかがでしょうか。

2016-07-17-(7).jpg 奥薗:韓国の人たちと話をしていると、朴槿恵政権、安倍政権になってから、首脳同士が会うことすらできないような期間が相当長い間ありました。その間に、事態がまったく動かないということで、「このままではまずいことになる」という問題意識、危機感のようなものは、韓国の人々も共有していたと思います。ですから、そういう流れが、慰安婦合意以降初めて、プラスの方向に傾いてきたということが、ある種の安心感のようなものを与えている側面があるのだと思います。

澤田:お2人が言われたように、「去年までがひどすぎた」という要因はあるのだと思います。また、これからの日韓関係について「よく分からない」「不透明だ」というのは、そこまで考えてはいないのだと思います。日本と韓国の関係は、ここ20年くらいで大きく変わりました。それまでの、日本の方がはるかに大きくて韓国がそれに依存するという関係、一方で日本は韓国を(共産主義陣営に対する)防波堤として強く必要としていたというかつての関係とは違う、もっと水平的な関係になってきています。ですから、過去に経験のない状況の中でこの関係がどうなっていくのか、というのは誰にも分からない、ということを反映しているのではないでしょうか。

工藤:そういう皆さんの見方を前提に、いよいよ本質的な議論に入りたいと思います。日韓関係の重要性ですが、今後の日韓関係について、日本の中でも「日韓関係をどう考えていけばいいか」といういろいろな議論が存在しています。奥薗さんがおっしゃったように、韓国が中国の影響下にあり、依存関係にあって、実際に中国を非常に意識しているという構造の中で、これからの北東アジアのあり方に関しても、今まで私たちが単純に日韓を同じ側で見ていた状況とは違うものがあるのではないか、という疑問があるわけです。

 今回、調査の設問の中に、日韓関係の重要性に関する設問を3つ加えました。まず「日韓関係は重要だと思いますか」と聞いたところ、日本人の21.1%、韓国人の27.8%が「重要だ」と回答し、「どちらかといえば重要だ」との回答が韓国人で59.1%%、日本人で41.6%となり、それらを併せると7~8割の「日韓関係は重要だ」と考える人がいる、というのが日韓のお互いの重要性に関する国民の意識です。

 ただ、これに中国との関係を加えて、「日韓関係と対中関係の中でどちらが重要と思うか」と尋ねると、「どちらも重要だ」との回答が日本人は45.6%、韓国人は56.8%と最も高い回答です。ただ、それに続くのが、韓国人は「日韓関係よりも中韓関係の方が重要だ」との回答で35.1%、日本人は「日韓関係よりも日中関係の方が重要だ」が21.2%とります。したがって、韓国の方が、日本と比べて「中国との関係が相手国との関係に比べて重要だ」という人が多いということです。一方、「日韓/韓日関係の方が対中関係よりも重要だ」と言い切る人は意外と少なくて、日本人で8.3%、韓国人で3.8%にとどまります。

 最後に、それぞれの国民に「自国との関係にとって、世界の中でどの国が最も重要だと思うか」と聞いてみました。すると、日本人では「アメリカ」との回答が65.9%と圧倒的でした。しかし、韓国人では、安全保障上の同盟関係にある「アメリカ」よりも「中国」との回答が多く、「中国」が47.1%、「アメリカ」が39.8%と続きました。ここで「日本」を挙げたのはわずか2.6%です。また、日本人で、自国にとって最も重要な国として「韓国」を挙げたのは、なんと1.7%でした。世界の中での重要性と、二国間関係とは、直接ではないにしてもいろいろな意味で連動してくる問題だと思います。お互いの関係を考えるときに、国民がこう考えていることをどう読み解けばいいのでしょうか。

中国の台頭をどう捉えるかで、相手国への認識に違いがでるのは当然

西野:先ほど澤田さんのご指摘の通り、日韓関係は過去に比べて非常に大きく変わってきているので、まずそれを踏まえる必要があります。それから、いろいろな設問項目がありますが、日韓関係のみについて、韓国との関係あるいは日本との関係は「重要ですか」と聞けば、隣国同士なので「重要だ」と皆が思うのは当たり前だと思います。ただ、グローバルな観点から見たときに「どの国との関係が重要なのか」と聞くと、その答えは、自国が国際社会でどういう位置に置かれているのかという自己規定の反映にもなると思います。日本の場合は、やはりアメリカとの同盟関係があり、日本の国のサイズは韓国と比べても極めて大きいので、「アメリカが一番重要だ」という答えが当然多く、「韓国が重要だ」という答えは1.7%しかないのは当然だと思います。

 他方、韓国は、北東アジアの中で見れば中国と日本に挟まれており、中国との様々な関係は無視できないということで「中国」が47.1%、同盟国の「アメリカ」が39.8%、そして「日本」が2.6%という答えになっているのだと思います。ある意味、現在の国際社会で置かれた日韓それぞれの立ち位置を素直に表した結果だと見ています。

 ただ、こういう状況の中で、今後、日本と韓国がどのような関係をつくっていくのかということが重要です。先ほど澤田さんもおっしゃったように、あるいはこの世論調査結果が示唆するように、まだ、どういう関係に進めばいいのかが日韓両国民とも十分に見えていません。他方、日本の観点から見れば、安倍首相は今年の施政方針演説で「日韓は戦略的利益を共有する最も重要な隣国である」と語っていました。日本政府は、韓国は戦略的利益を共有していかなければいけない国だと規定したわけです。ただ、どういう戦略的利益を共有しているのか、いくのかというところは、今後、国民的な議論を深めていくべきです。

 他方、韓国から見たときには、日本との関係をまだ十分に規定しきれていないと思います。やはり、中国というのが隣の最も重要な大国ですから、中国との関係をどうするか。中国との関係を築いていく中で、日本との関係をどう築いていくのか。この点について、韓国は模索しているというか、非常に悩んでいるのが現状ではないかと思います。

奥薗:中国の台頭をどのように受け止めるか、ということが大きなポイントだと思います。

 「日本にとっての中国」と「韓国にとっての中国」とは、違う側面があります。中国が経済的な意味で非常に大きな存在であるというのは日韓共通ですが、経済的な面で見ても、韓国は日本以上に国内市場が小さく、また、もうすぐ人口減少時代に入っていきます。その中で、経済的にも、中国への依存度は日本以上に大きなものがあります。

 もう1つは、北朝鮮というリスクを常に抱えている韓国にとって、有事における北朝鮮リスクへの対処という意味ではアメリカが大事なのですが、平時において北朝鮮のリスクをどう制御していくかという意味では、中国の協力が欠かせません。ですから、北朝鮮というリスクをどうマネージしていくかという点で、韓国にとって中国という存在は決定的な意味を持っています。ですから、経済だけでなく、北朝鮮の問題を含めて考えると、韓国が中国のことを日本よりもはるかに重視するのは、ある意味で自然だと思います。

 我々としては、アメリカが中心になって形作ってきた戦後の秩序の中で、おそらくアジアにおいて最も繁栄を築いたのは、日本と韓国だと思います。ところが、最近、中国が台頭してきて、そして、アメリカがかつてのような「世界の警察官」の役割をアジアで果たすことができず、アジアから少しずつアメリカのコミットを減らしていかざるを得ません。そこにできる力の空白を、理想的には、日本と韓国という同じ価値を持った国が埋めていくことになるのだろうと思います。ただ、韓国が置かれている立場は、日中に挟まれ、また米中に挟まれるというポジションです。やはり、日本のように、「今後もアメリカがつくる秩序の中で生きていく」と、きっぱり割り切れない。アメリカがつくってきた秩序を大事にしつつ、中国がつくろうとしている新しい秩序にも、韓国としては足を突っ込まざるを得ない。韓国には、そういう日本とは違う難しい立場があるのだと思います。

2016-07-17-(8).jpg 澤田:日韓関係と対中関係ということですが、どこの国で調査をしても、おそらくこういう結果になると思います。オーストラリアでやってもフィリピンでやってもベトナムでやっても、対日関係よりも対中関係の方が大事だ、という結果になるでしょう。日本側で、「日韓関係の方が重要だ」という人よりも「日中関係の方が重要だ」という人がはるかに多いのですが、次の「親近感」を問う設問では、「韓国に対してより親近感を持っている」人の方が「中国に対してより親近感を持っている」人よりずっと多いわけです。ですから、「中国に親近感を持っているから、中国との関係が大事だ」といっているというより、「摩擦もあり、あるいは協力すべきこともあり」という、プラスとマイナスの両方を含めて中国との関係が大きいということですから、そういう意味で、どの国で調査をしてもこのような結果になるのだろうと思います。

 あと、先ほど西野さんがおっしゃったように、日本で「韓国との関係が最も重要だ」と答えた人が1.7%しかいないというのは当然でしょう。日本の安全保障や経済を考えると韓国は大事ですが、「どこを最も気にしなければいけないか」ということでいうと、やはりアメリカであり中国だということになると思います。韓国にとっても、日本よりは中国やアメリカが大事だというのは当然だし、その中で、経済的な重要性になると、韓国側の回答は圧倒的に「中国」になり、政治的な関係では「アメリカ」が「中国」よりも少し上を行ったりほとんど同じだったり、という感じで、政治と経済でかなり意識が違うのだと思います。

安全保障面でも中国に傾く韓国と、日本はどう付き合っていくのか

工藤:私たちはこの世論調査を使って9月2日に「日韓未来対話」という対話を行うことになっていますが、今回はここが非常に大きなテーマになってくると思います。自国の経済にとって特に大事だと思う国は、確かに、世論調査を見ると、韓国の人は「中国」が1位で81.1%、次いで「アメリカ」の68.3%です。ただ、「日本」が大事だという人も36.9%と4割近く存在します。日本も経済的な大国ですから、韓国の国民もその中での関係をよく知っているのだと思います。ただ、日本側は「アメリカ」が1位で7割越え、次いで「中国」が6割越えなのですが、その次に3割を占めているのは、「韓国」のほかに「ASEAN諸国」「EU」「インド」があり、経済的なリレーションが重要だと思う国が多様化しています。一方、日本と韓国の二国間だけを見れば「韓国は日本にとって経済的に大事だ」という傾向も出ています。

 先ほどの「日韓関係は重要か」という問いへの傾向は、経済的な要素と政治的な要素が一緒に考えられていて、経済的な要素もある程度反映されていると思います。ただ、政治や安全保障上の問題を見ると、少なくとも日本の社会では、日米同盟、米韓同盟をハブ・アンド・スポークスで見たときに、スポークである日本と韓国の間の協力関係が北東アジアで極めて大事だ、という議論が、政府からも国民に対してなされていました。他方、専門家のレベルでは、韓国は中国をかなり意識しているということになっています。

 奥薗さんは冒頭に、「北朝鮮のミサイルなどいろいろな問題があるので、韓国は米韓同盟にシフトしてきた。それによって日本への認識も少しずつ良くなった」とおっしゃいました。ただ、私が国際会議に出ていると、世界ではその話よりも、CICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)という、中国やロシアが主導するアジア内陸部の安全保障会議に、韓国だけは外務大臣を出していて、習近平主席がその中で南シナ海の議論をしている、という光景に驚いている人たちが多数いました。安全保障面でも、韓国が米中どちらも重視するというかたちで、アメリカをベースにした同盟関係のハブ・アンド・スポークではない別な仕組みをつくるとすれば、日本はこれとどう付き合っていけばいいか、という本質的なテーマが私たちに問われているような気がしています。

西野:私は国際政治が専門なので、非常に重要な問題だと思います。今、工藤代表がおっしゃったような経緯があるのですが、とりわけ昨年の後半以降、韓国が安全保障問題でアメリカと中国の間に挟まれるような状況が非常に多く出てきました。2015年9月、朴槿恵大統領は天安門広場で習近平国家主席、プーチン大統領と一緒に中国の軍事パレードを見たわけです。それについてアメリカや日本から批判が起こりました。それが、昨年10月中旬に、朴槿恵大統領がオバマ大統領と首脳会談を行った際、オバマ大統領の「南シナ海問題で中国がルールを守っていないときには、韓国も声を出してほしい」という発言につながったのだし、韓国もそう理解したと思います。だからこそ、中韓関係の発展と米韓同盟の強化とのバランスを取っているとはいいながらも、より一層、米韓同盟あるいは日米韓関係の強化に進まなければいけないと判断したはずです。

 しかも、2016年初めに北朝鮮が第4回核実験をした後、中国が韓国の期待しているような行動を取ってくれなかったことに対する朴槿恵大統領の失望は非常に大きかった。以上のような一連の状況が、韓国をして日米韓関係を強化したらしめる重要な要因になったのだと思います。そうした状況が、世論にも影響を与えたのでしょう。例えば、「日韓関係よりも中韓関係が重要だ」という答えが10ポイント近く減っているのは、「中国に対する過剰な期待は禁物」という認識が出てきていることの反映ではないかと思いました。

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奥薗:私も基本的に同意します。ただ、最近、韓国で面白いなと思っているのは、朴槿恵政権を支持する保守勢力の中で、朴槿恵大統領が就任以来、中国との関係を非常に重視してきたことに対する不安感、それが対米関係を害するのではないかという不安感がありました。しかし、4月の総選挙で与党が負けて以降、政権末期で政権の求心力が落ちていく流れの中で、「北朝鮮が軍事挑発をしてきたときに『中韓蜜月』がいっこうに機能しなかったではないか、これは朴槿恵外交の失敗である。やはりアメリカとの関係をしっかりしていかなければいけないのだ」という明らかな揺り戻しの動きが、韓国の国内でも表面化してきていることです。

 韓国世論は、シンプルに「安保はアメリカ、経済は中国」と単純に考えて成立するものと思ってしまっているところがありますが、決してそうではありません。THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の問題や、南沙問題をめぐる仲裁裁判所の判決を受けての動きの中で、韓国が、安全保障の問題だからといって「中国ではなくアメリカだ」とシンプルに動くことによって、中国との関係を大きく害しているという現実があるわけです。そこで韓国が苦しんでいるというところがあると思います。

澤田:基本的な認識は、お2人とあまり変わりません。ただ、そこで日本の方に誤解を与えやすいのは、「対中認識が日本と同じラインに立つのか」というと、それは全然違うということです。流れとして「中国に期待しすぎたよね」という揺り戻しはあるのですが、それは相対的な認識のレベルが下がったというだけであって、日本の対中認識とは次元が違います。日本の対中認識と韓国の対中認識が必ずしも一致しない中で、安全保障面の協力なども、日米韓の連携がスムーズにいくかというと、そういうものでもない。むしろ、期待しすぎてしまうと、南シナ海の問題などで韓国が動かなかった時に、日本やアメリカの側で失望感が強くなりすぎはしないだろうか、というのを心配しています。

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