「第4回日韓共同世論調査」をどう読み解くか

2016年7月20日

2016年7月14日(木)
出演者:
奥薗秀樹(静岡県立大学国際関係学研究科准教授)
澤田克己(毎日新聞論説委員)
西野純也(慶應義塾大学法学部政治学科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

第3話:共通の課題を克服しながら未来につなげる役割を

2016-07-17-(9).jpg 工藤:今度は、安全保障についての設問がけっこうあるので、この議論をさせていただいて、そして、最後は、今後の日韓関係をどのように考えていけばいいか、という話をしたいと思います。

 私たちは、韓国だけでなく、日本と中国の間で行う世論調査でも「軍事的な脅威を感じる国」を必ず同じように聞いています。日本ではいつも「北朝鮮」や「中国」が脅威だと回答する人が多いのですが、韓国では「日本」を脅威だと思う人がすごく多くて、昨年は「中国」の36.8%に対して、58.1%の韓国人が「日本」を軍事的な脅威だと考えており、1位は「北朝鮮」(83.4%)でした。今回は、日本に対する韓国国民の軍事的な脅威感は20ポイントくらい減っていますが、それでも37.7%と中国と並んだという感じです。

 また、アメリカのシンクタンクがいつもこのデータを使って論文を書くのですが、「日韓間で軍事紛争が起こると思うか」という設問について、日本では「数年以内に起こると思う」回答は0.4%しかなく、「将来的には起こると思う」も7.7%です。しかし、韓国ではいつも「数年以内に」(4.5%)「将来的には」(33.2%)を併せて4割近く存在しています。確かに、同盟関係でみれば、日韓は対米同盟というかたちで同じ側に立っていて、日本の社会では韓国との紛争を考えている人はあまりいないと思います。ただ、韓国では、今回減少しているとはいえ、こういう傾向が必ず出てきます。

 もう1つ、トランプ現象もありますが、今回、お互いの国の国民に核武装について聞きました。日本人は「日本、韓国とも核武装することに反対だ」という声が8割を超えていて、日本の核武装に「賛成」という声は5.1%です。ただ、韓国の国民は、日本の核武装には「反対」が82.2%ですが、自国の核武装については59.0%が「賛成」と答えています。こうした現象をどう見ていけばいいのでしょうか。

韓国人は日本人より核アレルギーが低く、感情的な核武装論に傾きやすい

2016-07-17-(1).jpg西野:軍事的な脅威に関する設問ですが、昨年、韓国の中で「日本が軍事的脅威だ」という回答の割合が非常に高かったのは、2014年から15年の日本国内の動き、つまり集団的自衛権に関する憲法解釈変更や新安保法制に対する韓国側の不信、不安の表れだったと思います。ところが、昨年8月の「安倍談話」以降、どうやら「安倍政権は思っていたほど保守的でも、軍国主義的でもない」という認識が出てきて、数字が落ち着いた。それでも37.7%という非常に高い数字なのは残念ですが、昨年に比べればかなり減っています。

 それから、日韓の間で軍事的な紛争が「ある」という認識が非常に多いも残念なのですが、他の設問を見てもわかるとおり、韓国の人たちにとっては「竹島問題」が日韓間の最大の懸案です。竹島の問題で、ひょっとしたら日本が軍事的な手段を使って何かをするのではないか、という不安が非常に強いのです。2005-06年の盧武鉉政権のとき、竹島周辺への海底調査船派遣などの問題で日韓間では大きく緊張が高まり、「ひょっとしたら物理的に衝突するのではないか」という危機的な状況がありました。そのような状況の中で、韓国では、「竹島の問題は国家主権にかかわる重要な問題なので、場合によっては日本が物理的な力を行使するのではないか」という漠然とした認識が出てきて、それが維持されているのではないかと思います。

 核の問題については、日本人が一般的に持っている核アレルギーに比べれば、韓国の方にはそういった核アレルギーはありません。実際に、1990年以前には、韓国にはアメリカの戦術核が配備されていました。そういう意味では、韓国人の核アレルギーは低い。感情的というのはよくないかもしれませんが、韓国側の調査結果は、今の状況に対する一種の不満の表れです。「核武装した時にどういう利益があって、どういう損害があるのか」、例えば、韓国が核武装することによって日本も台湾も核武装するかもしれない、地域の不安定化をもたらすかもしれない、といった諸々の要素を考えた上でも核武装を支持するのか、ということになれば、この数字は減ると理解しています。

2016-07-17-(7).jpg 奥薗:核武装については、西野さんがおっしゃった通りだと思います。北朝鮮が核を持つに至っており、「それに対抗するために」というシンプルな発想で「イエス」という答えが反射的に出てくるのだと思います。専門家のレベルにおいても、また、与党の大物専門家などが韓国の核武装に言及するような雰囲気になってきたのも事実ですが、それについても、おそらく「日本並みの『核に対する自由』がほしい、アメリカが韓国にも日本並みの自由をくれなければややこしいことになる」というメッセージをアメリカに出したいという程度のものであって、実際に核武装することによって何がもたらされるかを考えれば、誰が見てもあまり現実性がないのは明らかだと思います。

2016-07-17-(8).jpg 澤田:調査について1つ言うと、「日本を軍事的脅威だと感じる理由」を韓国側に聞いていますが、ここでやはり一番多いのが、6割で「日本が独島の領有権を主張しているから」となっています。その点が、「将来的には日韓間の軍事紛争が起きるのではないか」と思ってしまう原因になっている。竹島は韓国が占拠しているわけですが、「自分たちが持っているものを取られるかもしれない」という単純な連想が働いてきているのではないかと思います。核武装については、西野さんも奥薗さんも言われているように、韓国人というより日本人以外では、核兵器は「すごく強力な爆弾」くらいの認識を持っている人も少なくないわけです。ですから、こういう数字が出てくるのも仕方ないと思っています。

工藤:今回、韓国側に「なぜ日本に軍事的な脅威を感じるのか」と聞いてもらいました。私たちは「なぜ日本が軍事的な脅威なのか」という違和感があったからです。中国との間の世論調査でも同じような傾向があるのですが、気になったのは、「日本の新しい安保法制の中で、集団的自衛権に基づいたアメリカとの共同行動が可能になったから」という答えが3割あるということです。この理解については、奥薗さんはどう思われますか。

奥薗:要するに、アメリカとの共同行動が可能になったことによって、朝鮮半島有事の際に自衛隊が朝鮮半島に入ってくることに対する強いアレルギーがあります。そのことで、韓国国内では、マスコミも含めてかなり議論が高まりました。それが反映されているのだと思います。

朝鮮半島統一後、長期的に在韓米軍が駐留するというコンセンサスはない

工藤:今回の世論調査では、少し気が早いのですが、「朝鮮半島の平和統一後の秩序においてアメリカという存在をどう考えていけばいいか」ということを考えるための設問を何問か設けています。例えば「平和統一後に在韓米軍は必要だと思うか」、それと連動したかたちで「その場合の在韓米軍の役割は何か」と尋ねました。その中で、日本人と韓国人とで、米軍の役割に対する認識が若干違うと感じました。つまり、米軍基地の役割として日本人は、自国防衛だけでなく、北東アジアの平和的な秩序のために米軍の役割を期待しているところがあるのですが、韓国人は自国と朝鮮半島の問題だけを考えていて、他の地域のために米軍が駐留することは国民的にも嫌がっているような状況が見えます。

 そうなってくると、将来的な北東アジアの姿を考えた場合、韓国はどういう立ち位置になっていくのか、ということを考えたいと思っています。この数字から何を読み解けばいいのでしょうか。

西野:「朝鮮半島統一後、在韓米軍が必要だと思いますか」という問いに対して、韓国の側では「必要だと思う」「どちらかといえば必要だと思う」という答えが多くなっています。こういう世論調査は韓国でもいくつかあります。それらによると、統一した後は当然必要だと多くの韓国人は考えているけれど、「長期的には見てどうか」と聞いたときには「考える余地が十分にある」という傾向です。つまり、この問題については、「統一直後に撤退されては困るけれど、長期的に考えたとき、恒久的に在韓米軍が必要なのか」、さらにそれが「38度線以北に必要なのか、以南に必要なのか」というところまで聞くべきでしょう。韓国の方々が考える将来的な米韓同盟、在韓米軍の役割、とりわけ中国との関係において在韓米軍がとどまるのがいいのか、あるいはどこに置くのがいいのか、ということについては、韓国の中ではいろいろ議論はありますが、統一されたコンセンサスは形成されておらず、さらに議論されていくべき問題なのだと思います。

 ただ、在韓米軍の役割について考えれば、アメリカも、また日本や韓国も、基本的には、北朝鮮の軍事的脅威に対する抑止力として必要なのであって、統一後は、在韓米軍のうち地上軍は数を減らしておもに空軍の役割を残す、将来的には全体的に減らしていく、いうことである程度のコンセンサス、一定の理解があるのではないかと考えています。

韓国人が米軍駐留を望む背景には、統一後に生じる力の空白への懸念がある

奥薗:データを見ると、米軍基地の役割について、韓国側では「朝鮮半島の平和のために存在している」、言い換えれば「北朝鮮の脅威を抑止するために存在している」という数字が出ている一方で、統一コリアにおいて「在統一コリア米軍が必要だ」という声が6割近くあります。統一コリアができれば北朝鮮の脅威はなくなるにもかかわらず、約6割が「米軍は必要だ」というのは、西野さんの今のお話と重なりますが、やはり、朝鮮半島から米軍がいなくなることによってできる空白があり、中国と日本という存在がそこに影響力を行使してくることを懸念しているのだと思います。

 朝鮮半島は、歴史的に見ても周辺諸国の角逐場になってきた経緯があるので、朝鮮半島が統一されたからといって在韓米軍がいきなりいなくなると、その空白をめぐって再びそういう歴史が繰り返されるのではないかという懸念が、朝鮮半島の人々には強くあるのです。ですから、統一された後、日本の軍事的役割の拡大とか、あるいは中国の朝鮮半島に対する軍事的役割の拡大といったものに対するカウンターバランスとして、在統一コリア米軍が必要であると考えられているのだと思います。

澤田:確かに、「力の空白が生じたときに、日本と中国が朝鮮半島で覇権を争うのではないか」ということで、韓国の人たちは19世紀末の日清戦争をイメージしています。そういう歴史に対する感覚があるので、米軍のプレゼンスが残っていてくれた方がうれしいと思う人たちがいるのだと思います。とはいうものの、今でさえ日米韓というフレームについては、日米韓対朝中露の対決になると冷静時代に逆戻りだと韓国では非常に嫌がられています。できればそのようにしたくない、日米韓で固めたくない、という韓国国民の意識は非常に強く感じるところであり、その点は、中国に対して非常に気を使わざるを得ない状況なのだろうと思います。

 日米同盟は、北朝鮮への備えという面もありますが、一方で、朝鮮半島有事以外にも台湾海峡の有事も想定されうるわけです。他方、米韓同盟については、韓国の人は台湾海峡の有事には絶対に触れたくない、触れないというようなことになっていて、むしろ中東に展開するための米軍の後方基地として使われるのは仕方ないけれど、という感じはあります。そこのところは難しいのかなと思っています。

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工藤:今日はこの世論調査についていろいろな議論をしてきたのですが、世論調査の性格が少しずつ変わってきているのは、この調査が、国家を中心とした秩序の大きな不安定化という問題をえぐろうとしていることです。ただ、もともとは、この調査の目的は、国家的な秩序形成をめぐる争いの中で、ノンステートの主体がその枠組みを変えるようなチャレンジができないか、というところに私たちの原点があって、その考え方はまったく変わっていません。だから、そういう私たちの目的も理解していただいた上で、日韓関係や私たちの動きに今後何を期待するか、どういうことが問われているのか、一言ずつご発言いただいて終わりたいと思います。

一部の問題が日韓関係全体に影響しないよう、共通利益を大事にしていくべき

澤田:「相手国に行ってみたい」という人は5割とか6割いるのですが、「行ったことがあるか」と聞くと、行ったことがある人は2割とか3割にとどまっています。このギャップを埋めるためにも、「行ってみたい」と思ってくれている人たちに、相手の国に実際に行ってもらって、そこでいろいろなものを感じてもらう、ということが重要です。確かに、一般の人々が相手国に行き、いろいろなことを感じたからといって、国と国との政治的な関係が大きな影響を受けるわけではりません。しかし、国と国との関係が悪くなるときのブレーキ役になる、あるいは極端に走らないようにはなるので、そういう意味でもっと交流を深めていくと、緊張がもう少しマイルドになる可能性はありますし、お互いにマイルドな視線を持てるようになっていくべきなのだろうと思います。

奥薗:日韓の間で、歴史や領土などの問題は何も冷戦が終わってから出てきたわけではなく、冷戦時代からあるわけです。そういう、両国を引き離すような遠心力が、歴史や領土という問題によって働く一方で、それを上回る求心力が冷戦時代にはありました。それは対共産主義や対北朝鮮だったわけですが、冷戦が終わって、遠心力だけが働くようになって、共通分母が日韓の間でなくなってしまいました。そのことでギクシャクし出したという大きな構図があるのだと思います。

 そう考えたときに、日韓関係の遠心力は今後も働くのですが、例えば北朝鮮の核に日韓がどう対するか、といったときには、今年に入ってからの日韓関係の改善を見ても、共通分母として機能しているのだと思います。そのように考えると、経済的な問題や北朝鮮などのいろいろな要素で共通分母を大事にしていく中で、遠心力が働いても、日韓関係全体が停滞してしまうようなことをいかに回避していくか。「これはこれだけれども、それはそれだ」というかたちで、2トラック、3トラックの多様な日韓関係を併存させていくことが大事です。そのためには、工藤さんがおっしゃったように、歴史や領土の問題で遠心力が働いたときに両国関係が決定的に停滞してしまわないように、日韓関係の足腰を鍛えておくという意味で、ノンガバメンタルな両国のパイプを太くしておくのは非常に有効だと思いますし、決して軽視すべきではないと思います。

関係改善には何が重要かという処方箋として、調査結果を活用していきたい

西野:今日は、政治・安全保障に関するやや難しい話が多かったのですが、言論NPOと東アジア研究院の共同世論調査の一番の大きな意味は、それが国民レベルや国民感情という観点から両国関係に良い影響が及ぼすようにしていく際の重要な指標としての役割を果たしていることにあります。その観点から、今年の世論調査で私が特に注目したものの1つは、慰安婦問題に関する調査結果です。慰安婦問題は政府間では合意がなされたけれど、とりわけ韓国の中では国民レベルでの反対が多いと言われています。今回の調査結果を見ると、韓国側で合意を「非常に評価する」「一定程度評価する」との回答をあわせると28.1%と低い数字で、慰安婦合意直後に行われた他の様々な調査とほぼ同じ数字なのです。しかし、「どちらともいえない」との答えが34.3%と非常に多く、かつ「あまり評価しない」「まったく評価しない」はあわせて37.6%でした。これらの数字は、「評価しない」という人たちが徐々に減ってきていて、今後合意がどうなるかを見守ろう、という韓国内の雰囲気を表しているのだと思います。この「どちらともいえない」という層に対して、「慰安婦合意を誠実に理履行していくことで今後の日韓関係をさらに意味あるものにしていくのだ」と伝えていく作業が必要なのではないかと、それが今回の調査から読み取れることではないかと思いました。

 それから、相手国に対して良い印象を持っている理由を問うと、韓国側の答えで多いのは「日本人は真面目だから」「親切だから」というものですし、日本側の答えでは「韓国のドラマが好きだから」などとなっています。こうした、ごくごく自然な国民レベルの素朴な感情が両国関係を支えていることは間違いないわけですから、これをもっと育てていく必要があります。この世論調査は、どこを育てていけばいいのかという処方箋を出していくための非常に重要な診断であると思っていますので、今後も調査を続けていただきたいですし、この調査を活用していくのが我々の役目なのかなと考えています。

工藤:今日は、3人の専門家の方に来ていただきました。皆さんがおっしゃったように、ある意味では共通分母を広げていくという作業なのですが、共通の課題をきちんと克服していくというサイクルをノンステートのレベルで起こす必要があり、その時に世論というものが非常に大事だと思っています。今、その作業に取り組んでいるのですが、そこに地政学的ないろいろな大きな変化が入ってきています。ただ、それでも我々の取り組みを、共通の課題を克服しながら未来につなげるという役割を果たすプラットフォームにしなければいけないと思っています。 

 今回の世論調査結果は、まさにその対話の1つの材料となります。この世論調査を多くの人たちに公開して、皆さんに活用していただきたいと思っております。そして、9月1日、2日にソウルで「第4回日韓未来対話」が行われます。それもいろいろなかたちで公開しますので、併せてご覧になっていただければと思います。

 ということで、今日はどうもありがとうございました。

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