言論スタジオ

「第12回日中共同世論調査結果」をどう読み解くか

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2016年9月23日(金)
出演者:
加藤青延(NHK解説委員)
園田茂人(東京大学大学院情報学環教授)
高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第1話:日中両国民が両国関係にマイナスイメージを持つ背景

2016-09-22-(5).jpg 工藤:言論NPOの工藤泰志です。さて、言論NPOは今月27、28日の2日間、東京で「第12回 東京-北京フォーラム」を行います。中国からは約60人の各分野の専門家、要人が東京に集結し、安全保障や経済、政治、ジャーナリズム、そして交流という5つの問題について、本音レベルの議論を行うことになっています。私たちはこうした議論をすべてオープンで行うと同時に、日中両国の国民に世論調査を行い、国民がどのような問題意識を持っているかを明らかにした上で議論することになっています。そのフォーラムに先駆けて、23日に記者会見を開き、12回目の日中共同世論調査の結果を発表します。

 今日は、この世論調査の内容について、東京大学大学院教授の高原明生さん、東京大学大学院情報学環教授の園田茂人さん、NHK解説委員の加藤青延さんのお三方にお越しいただき、今回の調査結果をどのように読み解けばいいのか、議論していきたいと思っています。

政府間外交の動きは、両国民の日中関係の評価に良い影響を与えなかった

 まず、この世論調査の内容に即して皆さんにお話を伺いたいと思います。12年間の調査結果を見ると、尖閣諸島の国有化以降、日本と中国の国民感情がかなり悪化してきたのですが、中国では2013年から、日本では2014年からピークアウトして、それ以降改善してくるものだと考えていました。しかし、今年の世論調査結果を見ていると、首脳会談が行われたにもかかわらず、両国の国民感情は悪化しています。特に、「現在の日中関係についてどう思うか」との設問では、マイナスの印象を持つ人がかなり増えています。この問題をどう考えればいいのか。日中関係は、首脳会談が行われ、意外に良いかたちで動いていたのではないかと思われていたのですが、国民はそう思っていないという状況が見えてきたわけです。まず、こうした点について議論を始めたいと思います。

高原:細かく見ると、中国側の日本への印象は、ほんの少し改善しています。日本の側は大きく変化したわけではないのですが、中国に良い印象を持つ人の割合がやや下がっているということで、プラスの要因、マイナスの要因それぞれが働いていて、状況は複雑であると思います。したがって、一点一点、検討していく必要があるという印象を持っています。

2016-09-22-(4).jpg 園田:一般の人たちにとって、政治家が首脳会談を行ったからといって、あまり強い印象を与えなかったということです。政治をウォッチしている人たちは、要人の人たちの様々な振る舞いを見て、細かなニュアンスを読み解きながら「改善に向かっている」というメッセージを受け取ります。しかし、多くの一般市民は、そのメッセージでは変わらないような非常に強い相手国に対する悪い印象を持っていた、むしろそれを押しとどめるほど大きな政治的メッセージが来なかった、と理解しています。

工藤:日本にいると、「首脳会談が行われたかどうか」ということが非常に大きなニュースになって、日中の政府間関係が動くことによって国民感情が改善すると見られていたのですが、意外に状況が違うということが見えてきています。加藤さん、それについてはどうお考えですか。

2016-09-22-(7).jpg 加藤:政府間の二国間関係の善し悪しよりも、実際に日中間を取り巻く国際環境が良くなったか、悪くなったかということが、最も関係しているのないかと思います。特に、私たちメディアの立場から言えば、ちょうどこの調査が行われる前の1~2カ月の間にどのようなことが起きたかというと、1つは南シナ海の問題で、中国の立場を全面否定するような国際仲裁裁判所の裁定が出ました。もうひとつは、日本の尖閣諸島周辺に大量の漁船や公船がやって来て領海侵入をするということが起きていますそのような中国の独善的な動きを反映した出来事の後に行われた調査ということになります。やはり、日本の国民からすると、中国に対して良い印象を持たない、悪い印象を持つ人が増えても仕方ないという国際環境があったことが大きいと思います。

 一方、中国側から見ると、この調査のすぐ後にG20が杭州で開催され、首脳会議が予定されていました。中国としては、できるだけ周りの国と穏便にやりたいという外交を展開し、報道の姿勢にも比較的そのような傾向がありました。中国では、政府が先頭に立って厳しく日本を批判する大キャンペーンのような報道があまりありませんでした。むしろ過去の戦争をテーマに旧日本軍が悪いことばかりするというような番組の放送がだいぶ減って、中国人の対日感情を少しでも良くした、という背景があるのではないかと思います。

工藤:二国間関係の評価については、日本人の44.8%、中国人の66.8%が、この1年間で日中関係が「どちらかといえば悪くなった」「悪くなった」と見ています。また、今後の日中関係の見通しについて、日本人では「どちらかといえば悪くなっていく」「悪くなっていく」が合わせて約10ポイント増え、中国でも7ポイント増えて半数近くになっています。政府間関係はASEAN首脳会議やG20でも首脳が会うなど、ある程度動いていているのですが、今後の日中関係に関して、政府間関係が動いているほどは、国民間では確信を持てていないという感じがしています。

2016-09-22-(11).jpg高原:そこが面白いところで、日本側でも相手に対する印象はそれほど悪化していません。しかし、二国間関係についての評価が非常に厳しくなっていることをどう読み解けばいいか、という話だと思います。私の印象では、特に南シナ海をめぐる中国の報道は、相当厳しく日本を批判しています。「アメリカの片棒を担いで中国包囲網を形成する重要な一角を、日本がはしゃぎながら担っている」といったニュアンスの報道が非常に多いので、自分が日本についてどういう印象を持っているかはさておき、「国家間の関係はこれから厳しくなりそうだ」と感じる中国人が増えたということだと思います。

両国民は領土をめぐるWin or Loseの枠組みの中で日中関係を見ている

工藤:二国間関係の先行きに対してここまで悲観的になっているという結果は、私たちの過去の調査を見ても、尖閣諸島で大きな事件が起こったときと同じような状況です。しかし、昨年は安保法制の成立、安倍談話がありましたが、今年は事件性があるものは何もありません。むしろ、政府間では協議が始まり、協力関係を話し合っている状況において、二国間関係の将来にここまで悲観的な見方が高まっていることに、違和感を覚えてしまいます。

園田:「日中関係の発展を妨げるものは何か」という設問では、日中ともに尖閣問題を挙げる人が多く、「どちらかが引いたらどちらかが勝つ」というWin or Loseの枠組みの中で日中関係を見ていることが分かります。それが本当にWin-Winにドラスティックに変わる、つまり国際環境の変化とか政治家の交流が起こることによって、それが改善に向かうのでしょうが、実際にそこがうまくいかない。むしろアメリカの関与や南シナ海の問題が取り上げられるようになると、どうしても出口がない、追い詰められているような閉塞感が大きくなってしまいます。だからといって、新聞の報道で「経済的にはお互いうまくWin-Win」という論調が強くなって、マイナスな印象が中和されているわけでもありません。

 結局、領土をめぐるWin or Loseの構造が、人々の日中関係に対するイメージの非常に大きな部分を占めていて、出口はない。努力はしているけれども、それが共同の努力として目に見える形にならないことによる、地滑り的なイメージの悪化と理解した方がよいのではないでしょうか。

工藤:報道の現場では、普通、首脳会談が行われると、二国間関係が少しくらいはうまくいっているのではないかという評価になります。しかし、お互いの国民がここまで先行きを不安視しているということは、今の政府間関係がどのように映っているということになるのでしょうか。

加藤:客観的に見て、中国がものすごい勢いで軍事力を増強し、それに対して日本側も決防衛力を増強せざるを得ない状態になっています。また、実際に尖閣諸島の周りにいる中国の海警の公船と、日本の巡視船は、お互いにだんだん数が増えています。日本側は補正予算を含めてどんどん船の数を増やそうとしていますし、中国も「日本の2倍の船をつくる」ということで、ものすごく船を増やしています。まさに、お互いがレースをするような状況が起きています。ですからたとえ外交の面で話し合いの努力が前進したり、あるいは経済交流が増えたりしても、安全保障の面で「お互いにすごく対立しあっているのではないか」という不安の方がより強い印象を双方の国民、特に日本国民に与えていると言えるのではないでしょうか。

工藤:政府には、国民感情が政府間関係についてここまで悪化しているという認識はあるのでしょうか。

加藤:もちろんあると思います。しかし、その悪化を抑えるために巡視船の数を増やすのを止めるか、中国もそれができるか、あるいは防衛力の増強を止められるか、ということになると、相手が強く出てくる以上はそれには負けられないという気持ちの方が強くなるのはやむをえないのかもしれません。

4.jpg

直接的な交流の増加が政府間関係の悪化を下支えし、
緩和していくという新しい局面に

工藤:冒頭で高原さんもおっしゃいましたが、今までは「政府間関係に対する評価」と「相手国への印象」がだいたい連動していました。しかし、今回はこの両者にずれが出てきていて、これも12年間で初めてのことだと思います。日本では中国に対する印象が悪くなっているのですが、中国では日本への印象がなだらかに改善しています。

 一方、この世論調査を見ると、中国で「日本への渡航経験者」の割合が13%を超えています。2005年にこの調査を開始したときは1%台しか渡航経験者がいなかったことからすれば、段違いに増えています。直接的な交流の増加が政府間関係の悪化を下支えし、緩和していくという新しい局面に来ていると捉えてよいのでしょうか。

高原:私の印象では、国家間の摩擦が個人の感情にマイナスの影響を及ぼす面もあるのですが、今おっしゃったように、日本を実際に自分の目で見る中国人が増え、それがプラスに働いて、対日印象の良し悪しに大きな変化なし、やや改善という結果になっているのではないかと思います。

工藤:政府の行動に依存していた国民意識を、市民や国民による民間ベースの交流が別な形で下支えするような可能性を感じさせている、と受け止めてもよいのでしょうか。

高原:おっしゃる通りだと思います。もちろん、両国の国民は相手の国に関してマスメディアからたくさん情報を得ています。しかし、相手国を自分の目で見てきた、耳で聞いてきた人が増えてきたことの反映だと、素直に解釈しても間違いではないと思います。

工藤:園田さんは、「二国間関係への評価」と「相手国への印象」が違う動きをし始めている現象をどう見ていますか。

園田:この点は、2005年にこの調査を開始する前から、日中の間で1つの特徴になってきていると思います。日本側も中国側も、国家や体制のレベルの話と、個人のレベルの話は、別のものだと考えています。つまり「体制としては違うけれど、個人は好きだ」「政府はダメだけれど、個人としては良い」という世論調査結果は、1980年代、90年代からずっとありました。今回のデータでは特に中国側がそうなのですが、「日中関係をどう思うか」と尋ねた場合、回答者は国の関係をイメージしていると思います。一方、「相手国への印象」についての回答は、「日本人はこうだ」とか「日本の環境はこうだ」という個人の経験に根差した話が出ていますが、それは国家の関係とは違う話です。結局、イメージが改善するかどうかは、今申し上げた構造でいうと、国家の間では対立しているけれど、個人の間で「ああ、やっぱりあの人はいい人だね」という印象が支配できるようになるかどうかだと思います。

 中国に関しては、日本に対する悪いイメージを背負って旅行に来ると、そこで「違う」と分かる。個人で旅行し、個人の日本人と会ったときの印象が、解毒剤としてじわじわと効いてきています。問題は、日本人の中国への訪問に関して、そのような傾向がまだあまり見えないことです。日本側では、「中国に行きたいか」という設問で「行きたい」という人の割合がまだ高くない。中国の同じような解毒剤、中和剤の力が日本でも起こってくると、「政府同士はいがみ合っているかもしれないけれど、国民同士は良いじゃないか」というポジティブ・フィードバックで相互印象が良くなる可能性があるのですが、まだそこまで行き着いていないかな、という印象を持っています。

工藤:中国側で13.5%を占める日本への渡航経験者だけを抽出してみると、そのうち58.8%の人が、日本に対するプラスの印象を持っています。一方、渡航経験がない人で日本に対してプラスの印象を持っているのは、16.0%しかいません。日本側でも、中国に渡航経験がある人だけを見ると、中国に対してプラスの印象を持っているのは13.4%、渡航経験がない人では7.0%でした。中国で、渡航経験の有無によって日本への印象にここまで差があるということを、加藤さんはどうご覧になりますか。

加藤:データ的な裏付けがないのにこういうことを申し上げてはいけないのかもしれませんが、中国と日本のそれぞれの社会性、国民性の違いにもかなり要因があるのではないかと感じます。中国では、「双方の違い」を残しながら「同じもの」をお互いに尊重し合う「求同存異」という言葉が非常によく使われています。相手の中に嫌いなところがあっても、それを横に置いておいて、好きなところだけを見つめて、それで好きになれる、そういうことができる国民性があると思います。だから日本に来て「好きになった」と言っている人も、突き詰めて「日本の事を全部好きか」と問えば、嫌いなところももちろん残しているのだと思います。でも、嫌いなところがあっても好きになれる、違いを棚上げして好きなところは好きになれる。そういうしたたかな国民性があるのだと思います。

 一方、日本は、「嫌いなところがあるとなかなか好きになれない」という純真な国民性があります。「相手の嫌なところを知ってしまうと好きになれない」という純朴なところが、我々の国民性としてあるのではないでしょうか。

 中国大陸では、嫌いなところがある人をみな嫌いになれば、周りの人がすべて嫌いになってしまい好きな人がいなくなるのではないかと思います。。逆に島国日本は、お互いに気を遣って相手に嫌われないようにする努力をする、皆と同じようにする、という社会性があります。すると「好きだけれど、嫌いなところがある」とか「嫌いなところがすごくあるけれど、でも好き」という割り切り方が、日本人にはなかなかできない。でも、中国の人は、矛盾した感情が心の中で両立しうる我々とは異なる民族性があるような感じがします。

日本人の対中感情を改善するためには、中国は自国の行動を説明すべき

工藤:高原さんにもう1つ聞きたいのですが、日本人の中国に対する「悪い印象」が9割以上になって、中国の対日印象との間に開きが出てきました。日本側のこの問題は、大きな論点になると思います。

高原:正直に言って、よく分からない部分もあります。実際に身の回りの日本人に接してみて、「この人は中国のことが好きではないのか?」という人はたくさんいます。9割が「悪い印象」というのは、不思議に思えるくらいの数です。いずれにしても、日本の中の中国に対するイメージをどうやって引き上げていくのかということが、引き続き、またいよいよ大きな課題になっていることは間違いないと思います。

 こうした状況下では、日中両方がいわゆるパブリック・ディプロマシー(公論外交)をしていく必要がありますが、特に中国側が一生懸命、日本側に対して自国の説明をするべきだと思います。

園田:私がすごく重要だと思うのは、日米の関係です。日本が「最終的にはアメリカが世界のリーダーで、そこに依存したい」と思った瞬間、中国を正面から見る、まさに小異を捨てて大同につくような発想がなくなってしまいます。多くの人たちは、中国への漠然とした嫌悪感や「相手が悪いのではないか」という感情を持っていて、「それで困る」というメンタリティーが出来上がっていません。したがって、日中関係が悪いと思っていても何か行動を起こすわけでもなく、「まあ、悪いよね」という程度の認識が続いていると見ています。

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