世界とつながる言論

日中の相互不信とメディアの役割


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第11回:「メディアが直面する政治、市場、大衆の3つのプレッシャー」

今井義典 範先生が3つのPというお話をしましたが、私は日本のメディア、あるいはいわゆる民主主義、自由主義の世界にも同じような問題があると思うのです。我々は常に、第一に政治権力、第二に市場、あるいは資本の圧力、それから3つ目に、大衆に対するおもねりといいますか迎合するということ、この3つのプレッシャーの中に常にさらされているということについては、私は程度の差こそあれ日本と中国にそんなに大きな環境の違いはないのだろうと思います。

ただ、何が違うかといえば、我々はこの三つの圧力・介入に絶対に負けてはいけない。闘いにいつも勝っているわけではありません、負けているときもあります。しかし、何とかして勝たなければいけない。その理由は何かというと、人々が何でも知るべき権利を持っている、それにできるだけこたえるということだろうと思うのです。そしてそのことが、政治や社会や人間の様々な行動の、悪をあぶり出し、過ちを浮き彫りにし、世の中を少しでもいい方向に変えていく情報を人々に、社会に提供することができるのです。

非常に難しい点かと思いますが、そこが今の日本と中国の間の基本的に違う点だろうと思います。これはそれぞれの制度、体制の違い、社会のあり方の違い、発展段階の違い、いろいろな問題があるから、時間をかけた、主体的な取り組みしか近道はないと思いますが、大事なのは、人々が知りたがっていることにできるだけぎりぎりまでこたえるという努力ではないかと思うのです。

その点で1つ、最近の中国からのニュースで非常に疑問に思ったことがあります。それを私が知ったのは、アメリカのニューヨークタイムズとウオールストリートジャーナルのウェブのページで6月末から7月初めごろに読んだ記事ですが、中国当局は、今後大きな事件が起きたときに、社会的な影響を考えて、報道を規制することがあるという法律を今準備しているという記事でした。

NHKも新聞も皆同じですが、日本のメディアの立場から言うと、大きな事件、例えば大地震が起きたり台風が来たり、あるいは原子力発電所で事故が起きたり、あるいはSARSのような病気が起きたりしたときに、我々は政府が何と言おうと、知りえた以上、出すべきものは出さなければいけない。それが我々の存在している最大の理由だと思っています。

それを規制するということに、中国のメディアの皆さんはそれで本当によいと思っているのかなという疑問があります。我々は、これは非常にぎりぎりのところまで闘わなければいけない難しい問題だと思っているという立場から、お伺いしたいと思います。

熊澄宇 まず私から申し上げたいことは、その情報はそう正しくないということです。外国の記者発表の中で、中国の外務省の報道官と全人代の報道官は両方ともその説明をしております。

確かに中国は関連の法律を制定しております。ただし前提としては、大きな事件の場合に、メディアが客観的にありのままの状況を報道するときは法によって守られます。ただし、歪曲したり、また風説を流布したりした場合は法の裁きを受けるということです。6月の海外のウェブサイトによる報道は、恐らく中国が現在やっていることについての情報を正しく伝えていないと思います。

劉北憲 私から少し補足説明したいと思います。

やはり制度が違い、文化面の相違があり、コミュニケーションするときに異なる見解があるから、1人の人が何かをやるとき、その出発点、趣旨と、そして人によって受けとめられた結果は違うのです。例えば中国は、日本の多くの方も述べていたように、日本の方は民主で、そして自由、そして法治国家を目指して頑張られている。中国も長年努力して、このような道を歩んでいきたいという気持ちがあるのす。

そして、先ほど熊先生から説明があったように、その関連の法律も1つです。例えば突発事件が起こったときに、マスメディアはそれをいかに正しく報道するかが問われております。もしもそれを正しく報道すれば、法によって守られます。ただし、もしもそれを歪曲したり、または事実を間違って報道したりした場合に、それなりの責任を負わなければならないということです。この点は特にとがめられることではないと思います。

日本にかかわるデモに関する中国の報道ぶりについて申し上げますと、中国の関係部門は恐らく善意から、好意的にマスコミに声をかけたと思うのです。それを余り大きく報道しないように呼びかけをしたと思います。我々の本当のねらいは、そもそも日本側を刺激しないこと、中国側がそれを大きく報道したいというような誤解を与えないことでした。

そして、既に感情化に走っている一部の人をさらに刺激しないでくれというねらいがあったと思います。もう既に一部は理性を失っている人ですから、このような状況のもとでさらに刺激を与えると、より過激な行動に走ってしまうという結果になりかねません。これは中日関係にも、我々の今後の友好関係の発展にとっても、もっと不利であると考えて、恐らく中国の政府は、関係のマスメディアに声をかけたと思うのです。

ただし、それでかえって日本の方に誤解を招いて、反対する声が全然聞こえないではないかというようなお考えを持たれるようになったと思います。これは同業者として考えても、そして個人として考えるときに、やはり同じことでも異なる受けとめ方があるかと思います。

先ほど熊先生が説明したように、困難性、複雑性または長期性などといろいろな問題がありますので、中日関係に関しても同じことが言えます。すなわち、いろいろな見解が生まれて当たり前だと思います。ただし、同じ事実、同じ物事に対して見解の相違が生まれたときに、社会の公器とたたえられるマスメディアは、いかにして両国の国民の間に相互理解を拡大させていけばよいか、事実を強調すると同時に、我々の共通の目標、目的をいかに強調していけばよいのか。

むしろ現在のマスコミがやっていることは、双方の誤解を増幅しているのではないかというご指摘がありました。もしも我々がただ単にその事実の報道のみならず、より高い目標があって、すなわち知る権利をみんなに与えます、みんなが知る権利を持っていると。ただし、この知る権利を、知ってからどうするのだというようなことをきちんと考えれば、恐らく我々マスメディアはさらに健全なものになるのではないかと思います。

木村伊量 やはり双方の中で誤解を増幅するような面があるのではないか、ということでしょうか。我々が違いを乗り越えてこれから次の高みに行こうとするときに、どうしても避けて通れない。共通の言論空間と共通の認識を、実際にはどうやって持つことができるのか。これだけお互いが違うということは本当にもうつくづくよくわかるわけですね。

しかし、逆に、案外似通っているなというところもある。メディアによる互いの認識でなるべく共通部分を増やしていくための方策は、どうしたら見つかるのか。そのあたりの議論に少し入っていきたいと思います。

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「第11回/メディアが直面する政治、市場、大衆の3つのプレッシャー」の発言者

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今井義典(日本放送協会解説主幹)
いまい・よしのり

1944年生まれ。68年日本放送協会(NHK)に入り、地方局、国際部などを経て、ワシントンおよびニューヨーク特派員。95年から3年間はヨーロッパ総局長。この間86年から朝の「ニュースワイド」、93年から「おはよう日本」のキャスターをそれぞれ2年間担当。その後国際放送局長、解説委員長を経て、現在は解説主幹。

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熊澄宇(清華大学教授)
ション・チョンユィ

1954年生まれ。米国ブリンガムヤング大学にて博士号取得、清華大学教授、文化産業研究センター主任、ニューメディア研究センター主任。国家情報化専門家諮問委員会委員、教育部報道学教学指導委員会委員、国家新聞出版総署(国家版権局)新聞業顧問。多くの高等教育機関で客員教授を務める。これまでに中国共産党中央政治局の招聘に応じ、集団学習の講義を持ち、国家の重大プロジェクトの指揮及び起草業務に数多く参与する。学術著作8冊を出版。

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劉北憲(中国新聞社常務副社長兼副編集長、「中国新聞周刊」社長、高級編集者)
リィウ・ベイシエン

1983年大学卒後中国新聞社入社以来、編集役、ジャーナリスト、社会の反響を呼んだ一部の報道記事を書き、編集。中国新聞社編集長室副主任、主任、報道部主任。90年代初任副編集長として、重要ニュースの企画、報道を担当。1997年香港に派遣を受け香港分社長兼任編集長。2000年本社に帰還、副社長兼任副編集長。2004年常務副社長兼任副編集長。2002年より『中国新聞周刊』社長、一度編集長を兼任。

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木村伊量(朝日新聞ヨーロッパ総局長)
きむら・ただかず

1953年生まれ。76年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。同年朝日新聞社入社。82年東京本社政治部。93年米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、94年ワシントン特派員。政治部次長、社長秘書役、論説委員(政治、外交、安全保障担当)を歴任し、2002年政治部長。編集局長補佐を経て 2005年6月東京本社編集局長。2006年2月より現職。共著に「湾岸戦争と日本」、「竹下派支配」、「ヨーロッパの社会主義」等。

更新日:2006年10月14日

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