世界とつながる言論

日中の相互不信とメディアの役割


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第15回:「メディアの人的交流を進め、相互理解を深めることが大切」

劉北憲 きのう、私たちは宴会のときに、ワールドカップサッカーのニュースの話になりました。それを例にとって、1つフランスのジダンのことをお話ししたいと思います。

もう1人の選手に頭突きをしたということでいろいろな問題がありました。何億、どれだけ多くのサッカーファンが見たことでしょうか。しかしながら、彼の行動は見る人によって見方が違っている。そしてそれによって引き出される結論も違っているということです。私が知る限りは、ジダンの頭突きはよかったのではないかと思うのです。私ももしその立場にあったら、非常に男らしかったのではないかと思います。しかしながら、ある人は私に反対の意見を出します。ジダンは国の利益を考えていない。自分の怒りをぶつけただけだ、それによってフランスのチームが苦境に陥り、負けてしまったというような異なる見方があるわけです。

それから最近、陰謀論というものも聞きました。ジダンはイタリアからお金をもらったために、わざわざあの重要なときに頭突きをしたというような話さえ出ています。しかし、その陰謀論には、それを生み出す背景、土壌があると思います。私たちはFIFAが既に処分を出してからも、さまざまなメディアでさまざまな議論が出されて、非常に複雑な状況を呈しています。国と国、民族と民族、文化と文化の交流の中で、異なる観点が出てくることは当たり前であります。

きのう、木村先生と1つコンセンサスを得ました。きょうの議論においては小異を残して大同につこうということです。もし差がなかったら中日両国なんてあり得ません。差はあるもので、それぞれの利益があります。ですから、必ず差は生まれるし、また異なる見方も生まれます。しかし、それは決して怖いことではありません。さまざまな意見の闘わせがあることは非常に正常なことです。

熊先生、範先生、それから私もそうですが、決して固定化されたステレオタイプの考え方はしません。決して『バカの壁』を飛び越えられないというようなことはありません。私たちは日本の方々、それから日本の学者も、それからまた中国のメディアも、それらの英知があって、それを信じています。そして私たちも信じてください。民族、民主、そして自由、そして法治による国、正しい道を必ず歩んでいきます。1メートルずつ必ず前進していきます。もし私たちの間にこのような信頼関係、尊重があれば、私たちの意見の闘わせ合いというものは、それを進めていくものになるでありましょう。

ささやかですが、1つ提案があります。東京新聞の方から挙げられた提言については賛成です。今回だけでなく、私はあしたの大会でもぜひ発言したいと思うのですが、今後、メディア間の人的交流をさらに拡大していこうということを提言したいと思います。これは両国関係の改善にとっては非常に重要なことだと思います。もし1000人のメディア関係者が互いに交流できれば、そして真実、お互いの実際の様子を知ることができれば、それは子供たち、学生を 1000人呼ぶよりもさらに大きな役割が発揮できるでしょう。そして、政治家は今この点について気がついていないようです。ですから、私たちの方からそれをぜひ提言したいと思います。中日両国の政府、民間機関、民間団体もこの重要性をぜひ認識してほしいと思います。メディアの関係をまず改善し、それによって相互信頼をつくっていく、そして日中友好を推進していくということは、必ず大きな流れになっていくと思います。皆さんがもし同意してくださるなら、ぜひそれを提言にしたいと思います。

小林陽太郎 先ほどの川村さんからのサゼスチョン、先生からもお話のあった日中両国間のジャーナリスト、メディア間の人材交流は、実は私どもの委員会の中でも既に提言としてまとまる方向で進んでおります。高校生、若者の交流と同時に、メディアの交流をということ。これは次回、私どもは10月の第3週、今度中国へ参りまして第5回の委員会をやりますが、さらにこの問題についてはフォローをして、なるべく早く実現をしていったらどうかと思います。

ただ、あえて個人的にそれに加えて申し上げると、きょうの1つの大きなテーマというか、未来のアジアを考えるということと、新たな日中関係ですが、新たなというところに絡んで、いわゆる2国間だけに限らないで、少し我々の目を広げようというお話をしましたが、このジャーナリストあるいはメディア間の交流についても日中だけに限らないで、場合によれば、問題によれば第三者、第三国などからのメンバーも入れて、違った視点から日中関係がどう見られているのか、日中関係を日中で議論するだけではなくて、そこには新しい見方が出てくるのではないかと思います。

そういった視点から言うと、これまた先ほどサゼスションのあった、文化にもう少しウエートを置いたらどうか。これは私は個人的には本当に大賛成でありまして、これは決して政治、経済から文化へシフトすると言うよりも、政治、経済はあくまでも重要ですが、そこでの交流を今までよりもはるかに効果を持たせるためにも、文化面での交流をさらに大きくしていくということが大切で、もう皆さんがいろいろ出された具体的な例もあります。

最後に1つだけ、先ほど劉さんからのお話もありましたが、本当にこれは何でも率直に正確に効果的に報道すればよいのか、やはり中国にも日本にも、その仕方には文化があるのではないかと。私もそう思います。その点では、ジャーナリストであり、エコノミストであり、最後は非常に短期間ですが、総理を務められた日本の石橋湛山という人がいて、私は大変尊敬をしておりますが、石橋さんが言われていることの1つに、いかに自分が正しい、あるいはかたく信じる信念であっても、それが相手に不快感を与える、あるいは相手がそれに対して非常に問題だと思うようなことがあれば、当然そのときにはそれなりの配慮をすべきだと言っておられます。

したがって、やはり節度のある、相手の立場をも配慮した発言、そして報道、これは正確であり効果的であるということとは必ずちゃんと並行してできると思います。正確で効果的なことを期したら節度など保てないよと言わないで、やはり正確で効果的で、しかし、なおかつ節度ある報道の仕方というものは、お互いにこれから十分に目指していく目標として、大変に価値のあるものではないかと思います。

木村伊量 皆さんのご協力に心から感謝して、これで討論を終えたいと思います。長時間、熱心に議論していただき、本当にありがとうございました。


<了>

※以下にコメント投稿欄がございます。皆さんのご意見をお待ちしております。


「第15回/メディアの人的交流を進め、相互理解を深めることが大切」の発言者

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劉北憲(中国新聞社常務副社長兼副編集長、「中国新聞周刊」社長、高級編集者)
リィウ・ベイシエン

1983年大学卒後中国新聞社入社以来、編集役、ジャーナリスト、社会の反響を呼んだ一部の報道記事を書き、編集。中国新聞社編集長室副主任、主任、報道部主任。90年代初任副編集長として、重要ニュースの企画、報道を担当。1997年香港に派遣を受け香港分社長兼任編集長。2000年本社に帰還、副社長兼任副編集長。2004年常務副社長兼任副編集長。2002年より『中国新聞周刊』社長、一度編集長を兼任。

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小林陽太郎(富士ゼロックス株式会社相談役最高顧問)
こばやし・ようたろう
1933年ロンドン生まれ。56年慶應義塾大学経済学部卒業、58年ペンシルベニア大学ウォートンスクール修了、同年富士写真フィルムに入社。63年富士ゼロックスに転じ78年代表取締役社長、92年代表取締役会長、2006年4月相談役最高顧問に就任。社団法人経済同友会前代表幹事。三極委員会アジア太平洋委員会委員長、新日中友好21 世紀委員会日本側座長なども兼任。

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木村伊量(朝日新聞ヨーロッパ総局長)
きむら・ただかず

1953年生まれ。76年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。同年朝日新聞社入社。82年東京本社政治部。93年米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、94年ワシントン特派員。政治部次長、社長秘書役、論説委員(政治、外交、安全保障担当)を歴任し、2002年政治部長。編集局長補佐を経て 2005年6月東京本社編集局長。2006年2月より現職。共著に「湾岸戦争と日本」、「竹下派支配」、「ヨーロッパの社会主義」等。

更新日:2006年10月14日

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