世界とつながる言論

日中の相互不信とメディアの役割


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第5回:「両国民の認識に構造的に埋め込まれた誤解こそ問題」

小林陽太郎 複眼的な物の考え方を可能にするために、メディアのあり方というのは、私は幾ら重要性を議論しても議論し過ぎることはないと思っています。

1つだけアンケートについて感想です。メディアに依存する度合いが高いという色々な結果が出ていますが、私がある意味では非常におもしろいと思いましたのは、中国の調査結果に出ている、日本を主導する政治思潮、あるいは日本が直面する重大問題についてです(この調査結果を見たい方はこちら/pdf)。まず、思潮の方は、何々主義と主義で括るというのは非常に簡単ですが、ある意味では非常に危険な括り方だと思います。これはいずれもマルティプル・アンサーですから、かなり極端な部分は平均化されているとは言いながら、そういう問題がある。しかし、問題があると言いながら、日本の人たちも、中国の人たちも、相手の政治思潮などについては結構いいところを見ているのではないかというのが私の率直な感じです。

日本の主導的な政治思潮の最初に軍国主義があるというのは、やや意外かもしれませんが、民族主義とか、日本人の排他性とかいうことを考えれば、こういう答えが出てくるのは当たり前に思えます。経済中心主義ですが、これは自分の反省も含めて経済人の非教養性を考えれば全くそのとおりです。国家主義については、依然として行政が非常に高い優位性を持っているという状況を考えれば、国家主義と言われても不思議はない。ですから、そんなにおかしな答えでもないという気がいたします。

また、日本の抱えている重大問題はまさに人口の高齢化と人口の減少です(この調査結果を見たい方はこちら/pdf)。これは日本人が考えている問題ともぴったり合っています。外交危機、隣国の責任、信認を失う、これは必ずしも中国、韓国だけではないと思いますし、外交の問題が小泉内閣の積み残した最大の問題だということについては、日本の中でも非常に問題意識が高い。そのことを中国でもかなり正確にとらえている。これは多分中国のメディアの報道が、そういう意味ではかなり中庸を得ていたからだろうと思います。ですから、複数のメディアが、中国の、あるいは日本の視聴者に対して、こういう面については結果としては割に正確な情報を複眼的に提供したことになっているのではないかと考えています。

ただ1つだけ、問題を感じています。これはテレビの場合です。NHKは別として、日本のテレビの場合、幾つかのキャスターの話を聞いていますと、これはとにかくアクセントを極端に濃くしないと視聴者がわかってくれないと判断しているからなのか、かなりひどい物の言い方をしています。かなり断罪的に相手をやっつけるとか、経済人をやっつける、あるいは逆にほめるときはまた極端にほめ上げる。そういうようなことはテレビが特に極端ですが、新聞などでも、これも極端な物の言い方を許していただければ、一般の読者が内容をちゃんと読むということを期待しているのか。いいニュースも、悪いニュースも、かなり極端なというか、上に振れても下に振れても世論調査に現れる。私が申し上げているのは日本のメディアに対してでして、これをベースに考えたときそういうことがあるのではないかと考えております。しかし、一方で、メディアはそれぞれ売らなければいけないということがあるわけで、いわゆるバランスのとれたような物の書き方をしていても全然売れない、読んでくれないという現実はあるのだろうと思います。

ただ、我々視聴者、あるいは読者の立場から考えると、それはそうかもしれないけれども、なおかつその中で、見られるもの、読まれるものをつくるのがプロのメディアパーソンの仕事ではないかとあえて言いたいと思います。特に日本の場合、黒白極端にはっきりさせないと意見を言ったことにならないとか、見てもらえないとか、少しそういうことが強くなり過ぎて、一般的な視聴者、読者がそれによって影響を受けている面がある。これは日本の場合、否定できないと思います。

最後に、1つだけ私個人の経験として申し上げます。北京に行った時に、たまたま私が新日中友好21世紀委員会の日本側の座長ということもあったので中央電子台に出ないかというようなお話がありました。その時、北京在住の日本のメディアの方から、小林さん、気をつけた方がいい、小林さんの言ったことをそのまま流してくれるとは限らない、中国側に都合のいいところだけ残してばっさりやられる危険もあるよというようなことを言われました。また、具体的にそういうことが実際にあったという政治家の話も聞きました。

ただ、結論から申し上げると、私が中央電子台に出て、委員会の活動とか、どういう考え方で進めているかということについては、全くカットされたりすることなしにそのまま流れました。したがって、こういうことはお互いの経験がこれからだんだん積み重なって信頼というものをつくり上げていくのだろうと思います。それは日中間のメディアに対する信頼もありますし、いわゆる視聴者、読者のメディアに対する信頼感というものもそういう形でつくり上げていく必要がある。

現実に今度の調査に出たように、本当にフェース・ツゥー・フェースの経験、日本人が中国に行く、中国の方が日本に来るというのは非常に少ない状況であるだけに(この調査結果を見たい方はこちら/pdf)、そういう意味では間接的にその情報を提供しているメディアとしては、非常にチャレンジングで、なおかつその中で商売をしなければいけないという現実があることは十分に承知しておりますけれども、それを超えてメディアの責任というものについて、ひとつ正面切って向かい合っていただきたい。これがノンメディアマンからの率直な希望です。

工藤泰志 今までのお話を聞いて、実を言うと新鮮な話に聞こえたのは、先ほど今井さんが中国で世論調査はできないのではないかと質問したことに対して中国側が、「えっ、そういう認識なの」と驚いたということです。

つまり、このセッションの意味というのは、メディアの責任を議論することではなく、お互いの間に相互認識や相互理解でギャップが広がっているのではないか、そういう問題がある、それが課題だとすれば、その課題に向かい合いましょうという、そういう議論だと思うのです。その認識のギャップをよく見てみますと、例えば今の世論調査ができるのかとか、行動の自由があるのかとか、現状に対する理解の問題が1つあると思います。それが本当は事実はこうなんだけれども理解していないというのでしたら、それは議論の中で埋まっていくと思います。しかし、そうではなく、構造的に認識に埋め込まれているようなもの、そういう問題というのはかなり取り組んでいかないと固定化してしまうわけで、非常に怖いと私たちは思っています。

先ほど軍国主義とか、いろいろな問題がありました。それは確かに設問の問題を含めて、いろいろな問題、課題はあると思います。しかし、例えば世論調査に示されたように、中国で1600人の人たちに僕たちが面接をして、1600人をここに集めるというのは不可能なわけで、1つの国民が考えていることの参考で、調査内容は判断材料にはなっているだろうとは考えております。だから、これがちょっと違うとか、こうだということを議論しても余り意味がなくて、1つの判断材料として、提案されていることに対してどう思うかということです。僕たちは日本側をかなり分析しています。

実は、中国に聞きたいことがあります。

例えば、この1年の間に日本に対する感覚というか、印象がよくなったということですが、なぜよくなったのでしょうか(この調査結果を見たい方はこちら/pdf)。そういうことを率直に私は聞きたいのです。どういう理由によってよくなっているのか。例えば先ほど文化の問題がありました。この1年の間に中国の中で日本の芸術作品がたくさん出たのでしょうか、何かテレビ番組で非常におもしろい文化が出たのですか。先ほど「おしん」の話をされました。「おしん」というのは僕たちからすると随分と昔の話なのですが、今それを題材にされてもぴんと来ないのです。去年は異常だったのが、よく考えてみて冷静になって直ってきたということでしょうか。つまり、この1年の変化、起こっていることの理由についてどう思っているのか。

その上で、先ほど小林さんは、軍国主義、民族主義、いいことを突いているではないかとおっしゃいました。しかし、私が怖いのは、靖国神社の前に軍服を着た誰かが1人立っていて、それをテレビが100 回放送したら、中国の国民は、日本は軍服を着た人たちがいつも歩いていると思い込んでしまのではないかということです。つまり、軍国主義と中国がとらえていることについては、ひょっとすると中国の国民は日本のことを平和主義とか民主主義ではなく、軍国主義だと本気で思っているのではないかと不安に思いました。

だから、中国の人たちに、日本はどんな国だと思っているかと率直に聞いてみたいのです。日本は軍国主義だと思っているのか聞いてみたい。ここでデータで出されていることについて、自分自身はどう思っているかということです。そして、これはこのとおりではないかというのでしたら言っていただきたいのです。また、それはちょっと違うのではないかという話にもなると思います。メディアというのはそれを批判されるよりもそれを改善するために大きな力を持っていると考えるべきだと思います。

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「第5回/両国民の認識に構造的に埋め込まれた誤解こそ問題」の発言者

060803_3_kobayashi.jpg小林陽太郎(富士ゼロックス株式会社相談役最高顧問)
こばやし・ようたろう

1933年ロンドン生まれ。56年慶應義塾大学経済学部卒業、58年ペンシルベニア大学ウォートンスクール修了、同年富士写真フィルムに入社。63年富士ゼロックスに転じ78年代表取締役社長、92年代表取締役会長、2006年4月相談役最高顧問に就任。社団法人経済同友会前代表幹事。三極委員会アジア太平洋委員会委員長、新日中友好21 世紀委員会日本側座長なども兼任。

060803_3_kudo.jpg工藤泰志(言論NPO代表)
くどう・やすし

1958年生まれ。横浜市立大大学院経済学修士修了。東洋経済新報社入社。「金融ビジネス」編集長を経て、99年4月から2001年4月まで「論争 東洋経済」編集長を務める。同年11月「言論NPO」を立ち上げ、多彩な言論状況を作り出している。同名の雑誌も創刊。「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」の常任政策委員を務める。主著に『土地神話の行方』。

更新日:2006年10月14日

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