2010年3月18日
鳩山政権の半年をどう見るか
鳩山政権の半年をどう見るか
聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)
田中: 工藤さん、こんにちは。鳩山政権が誕生してから半年が経ちましたが、今の状況をどう見ていらっしゃいますか。
工藤: もともと鳩山政権には、国民との約束を軸にして、それをどうやって実行していくのかということが問われたわけです。それは、何が何でもマニフェストを守らなければいけないという意味ではなく、できない場合は「できない」ということをきちんと言わないといけない。にもかかわらず、予算編成でマニフェストをそのままやることができないということが明らかになったにも関わらず、それに対する説明を聞いたことがない。国民に向かい合う政治とは国民に対する説明責任が伴う政治です。それが全くできていない。
田中: つまりそれは、何を目標にしていて、何をどこまでできたのかという説明ですか。
工藤: 事実上、マニフェストは修正されたわけです。それだけではなく、今回の予算編成ではっきりしたのは、マニフェストをそのままのかたちで実現することはもう不可能になったということです。このマニフェストを実現しようとなると、膨大な財源が必要になりますが、その財源の捻出ができない。今年はなんとか予算を組みましたが、マニフェストをそのまま行うとなると、毎年膨大な財源が必要になる。子ども手当も来年は満額の支給となるし、そのほかにも支出が増えます。そうなると国債をさらに増やすか、増税を行わないと、予算を組むことは難しくなるわけです。いずれにしてもマニフェストをそのまま実行することは難しい。となると、国民に約束の履行に関して説明する、今はまさにそのタイミングにあるのです。しかしメディア報道だけを見ていると、あたかもマニフェストがそのまま実現に向かって動いているかのように説明されている。こういうごまかしをして政治を進めるのでは、約束に基づいて政治を行っているとは言えません。
田中: 私たちが昨年の選挙の際にマニフェストを評価したときにも、実現可能性に問題があるという結論を出していました。実際に予算を編成してみて、政府自身が、難しいということに気づいていると。そして、マニフェストの修正が実際に行われているのだけれども、その説明がなされていないということですね。
工藤: そうです。だから、今度の参議院選挙までに約束を見直して、もう一度、国民に信を問う必要がある。私たちが昨年の選挙で27点というとても低い数字を付けたのは、マニフェストが準備不足であり、党内で政策形成のガバナンスがきちんと機能していなくて、政策の体系化ができていなかったから。だから、混乱に陥るのはわかっていました。にもかかわらず、政策目的も説明できないままに、様々なばらまき的な政策が組まれた。その財源は無駄の削減で捻出できると説明していたのに、その捻出ができなかったわけですから、あのマニフェストが行き詰まったと見てもいいわけです。だから、マニフェストを見直すのか、国債を発行してでもやるのか、それとも増税するのかをはっきりさせないといけない。もうそういう局面に来ていると思います。
鳩山政権は、政策をつくるということが本当に大変なのだということに、政権に入って気づいたと思います。だから百歩譲れば、今はまさに政権運営をしながら、自分たちのマニフェストをきちんと現実的なものにしていくというプロセスだとも考えられます。ですから、やはり今度の選挙では今のマニフェストを見直して、国民にもう1回信を問う、ということをやってくれないと。この国の政治を古い政治から、約束を軸にした新しい政治に変えたいという、国民の期待を裏切ってしまうような状況にあるような気がしています。
田中: マニフェストを大幅に修正できるチャンスは、次の選挙だとおっしゃっているのですね。
工藤: それまでに用意をしないと。約束を軸とした政治自体が行き詰まってしまう。もうひとつ、半年間の鳩山政権を見ていて感じるのが、政策決定のプロセスに違和感があるということです。
田中: 政策決定プロセスに問題があるとおっしゃいましたが、もう少し詳しく説明していただけますか。
工藤: マニフェスト政治というのは、国民にきちんと約束をして、それを政府が責任を持って実行するというプロセスなのです。だからマニフェストそのものを実行したかどうかというよりも、それを実現するというプロセスを政府が責任を持ってやって、そのプロセスをオープンなかたちで開示して、国民に開かれたものにしていくことが重要なのです。その中で約束が実現できなくなった場合は、国民にきちんと説明しなければいけません。あくまでも、国民が主体なのです。
しかし、この半年間を見ていると政府がそれに責任を持って取り組んだのか、疑問です。それができず最終的には党の意向でその最終決定がなされるということが、予算編成でもありました。つまり幹事長室が最終的に要望を集約して、それによってガソリン税などの暫定税率を残した。これにはやはり違和感を覚えます。党の要望が国民の声だというのなら、それをもっとオープンにして、どういう声があったのか、明らかにしてくれないといけません。にもかかわらず、予算委員会で鳩山首相は「私は暫定税率を廃止したかったが、こういう国民の声があったから維持した」みたいなことを話している。それは党の声なのに、「国民の声だ」と言う神経に驚くわけです。仮に政府がそれをできないということであれば、政府の責任で「やめます」と言い、そして「こういう事情です」という理由を国民に説明しなければいけない。
それから、予算編成の前に公共事業の箇所付けの資料が流れてしまうということがありました。国民に開かれた政治を目指すと言いながら、実際には利害誘導型で、昔の古い党の体質のようなものが見えてしまうわけです。そうなると国民に開かれた新しい政治を期待した国民は「どうなっているんだ」と思ってしまいます。民主党の政治も自民党と同じく古い政治なのだとしたら、そういう政治を期待したわけではないからです。
新しい政治とは、国民に開かれた、国民に向かい合った約束に基づく政治であるべきなのです。私たちがマニフェスト型の政治にこだわるのはそのためです。そう考えれば、マニフェストをつくり直すしかない。いっぽうで、その約束を実現するための政策決定のプロセスを、国民に見えるかたちで、政治主導でやるというしくみに対しても責任を持っていただきたい。
その2つが、半年を迎えた鳩山政権に突きつけられている課題だと思うのです。これを乗り切ってくれないと、鳩山政権がどうだというよりも、新しい政治を期待した国民の声や期待を、台なしにしてしまう。僕たちはそれを非常に危惧しています。
田中: わかりました。ありがとうございます。何よりも、政策決定プロセスの透明性、そして私たちに開かれているということが重要だとおっしゃっているのですね。それから、マニフェストを守り続けるというよりは、修正のプロセスがあるということも、私たちは理解しないといけないわけですね。
工藤: そうですね。その代わり、そこでは国民に対する説明が問われるということです。あくまでも国民との約束ですから。できなかったら国民に説明する。最後は必ず国民だという姿勢を貫いてくれないと、マニフェスト型の新しい政治に、今の政権がこだわっているとは思えなくなってしまう。今はそういう重要な局面だと思います。
田中: ありがとうございました。
(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)
鳩山政権の半年をどう見るか 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事) |
投稿者 genron-npo : 22:46 | コメント (0) | トラックバック
2010年3月11日
「エクセレントNPO」が市民社会を強くする
言論NPOと「非営利組織評価基準検討会」が提起する、「エクセレントNPO」を軸とした強い市民社会づくり。今、なぜ市民社会が問われているのか。エクセレントなNPOはなぜ必要なのか。そして強い市民社会に向けた「良循環」とは。工藤が語ります。
このたび、「『エクセレントNPO』とは何か」というブックレットが発売になりました。このタイトルを見て、「おや?」と思った人がほとんどではないでしょうか。というのも、「エクセレントNPO」とは、このブックレットにおいて私たち非営利組織評価基準検討会が初めて使い、提案するものだからです。さらに、「強い市民社会への『良循環』をつくり出す」というサブタイトルについても、「どういうことなんだろう」と疑問に思った方が多いはずです。私たちの提案の詳細についてはぜひブックレットを見ていただきたいのですが、ここでは、検討会が考える「エクセレントNPO」とは何なのか、強い市民社会のための「良循環」というものがどのように実現するのか、ということについて、少しご説明したいと思います。
今、なぜ「市民社会」なのか?
私はいろいろなところで「市民が強くならなければ、日本は変わらない」ということを言っています。言論NPOではウェブサイトの全面リニューアルに伴い、「市民を強くする言論」という議論づくりを始めましたが、私は、政治に何でもお任せするのではなく、私たち自身が変わっていかないと、この国は根本的に変わらないと思っています。有権者が当事者意識を持って政治や政策を判断する社会、さらに市民が自ら社会の課題解決のために自発的に取り組み、そうした動きが尊重されるような社会。それが私の考える、「強い市民社会」です。
鳩山政権は「新しい公共」という考え方を提起していますが、実は政治サイドからこうした提起がなされるだけでは不十分なのです。「公」に対する「気づき」が、市民の生活レベルから生み出されて、そこから社会参加という自発的な行動が生まれていくという循環が始まらない限り、「新しい公共」は実現できないのだと、私は思います。
「エクセレントNPO」とは―非営利の世界から社会を変える
非営利の世界に目を向けてみると、NPO法制定から11年が経って、NPOの数は約4万団体にまで膨らんでいます。しかし、日本の市民社会は本当に強くなったのでしょうか。なっていないとすれば、強い市民社会をつくっていくためには何が必要なのでしょうか。
「非営利組織評価研究会」を前身とする「非営利組織評価基準検討会」は、そのような問題意識のもと、日本や海外で活躍するNPO・NGOの実践者と専門家たちによって結成されました。そして、2年間にわたる議論の末に私たちが出した答えが、「エクセレントNPO」を軸に、強い市民社会に向けた「良循環」をつくり出す、ということなのです。市民社会を強くするためには、受け皿となる非営利組織こそが強くならなければなりません。非営利の世界で、優れたNPOが課題解決を競って切磋琢磨し合い、そうしたエクセレントなNPOを目指す競争が始まる。それらの活動が市民から信頼され、支えられていく――それを軸として市民社会が強くなっていくような大きな変化こそが、今の日本の閉塞感を打ち破り、未来を切り開くために必要なのです。
「エクセレントNPO」とはまさに、市民社会を強くしていくためのモデルとなるNPOのことです。私たちの提案は、この「エクセレントNPO」を軸として、強い市民社会に向けた変化を促すしくみをつくるということなのです。「エクセレントNPO」を判定するための評価基準は4月にも公表予定ですが、私たちは「社会変革」「市民性」「経営の安定性」の3つのテーマとして考えています。社会の課題解決のために自発的に取り組む競争力を持つためには、持続的で安定的な経営が不可欠です。そして、その活動は政府から自立し、市民による寄付やボランティアという参加に支えられたものでなければならないのです。
そうした「エクセレントNPO」の評価体系が市民社会の中で機能すれば、先ほど言ったような課題解決のための競争と、そうした優れたNPOを目指そうする競い合いが生まれるはずです。エクセレントなNPOが社会で信頼を獲得し、それを目指そうとする社会のインフラが整えば、多くの市民の資源がそこに向かって動き出すことでしょう。
市民社会の中にそうした「良循環」が始まることで、非営利セクター全体の信頼の底上げにつながり、非営利組織が強い市民社会の受け皿として機能する展望が見えてくるのです。
「強い市民社会」に向けた議論をここから始めたい
私たちはこれまで行ってきた議論を踏まえ、まず今月14日に京都で開催される日本NPO学会のパネルで、「望ましい非営利組織の条件と評価基準」をテーマに発表を行います。ここでは、今お話ししたようなことを中心に、強い市民社会に向けた「良循環」をどのようにつくっていくのかということの全体像について、説明する予定です。また、来月には公開シンポジウムを開催し、「エクセレントNPO」の評価体系を公表しようと考えています。私たちの提案を世に問うことで、「強い市民社会」に向けた大きな議論を始めたいのです。
私には「今年こそ、新しい市民側の変化を起こしたい」という強い思いがあります。編集委員会による議論をはじめ、市民社会の担い手たちとの対話なども行っていますが、その内容はホームページやメールマガジンでどんどん公開していきます。今回の提案をきっかけに、日本の非営利セクターを巻き込んで、「強い市民社会」のための議論のうねりを起こしていきたいと考えていますので、ぜひいろいろな方に参加していただきたいと思います。
また、ブックレット「『エクセレントNPO』とは何か」には、NPO・NGO間で交わされた議論をはじめ、専門家や実践者の方々の発言も収録されています。とても斬新で、内容の濃い一冊に仕上がったと思っていますので、ぜひご覧ください。
投稿者 genron-npo : 16:49 | コメント (0) | トラックバック
2010年3月 1日
言論NPOはウェブサイトを全面リニューアルしました
3月1日、言論NPOはウェブサイトを全面的にリニューアルしました。リニューアルの目的とは。新サイトでどんな議論が始まるのか。言論NPO監事の田中弥生氏の問いかけに対し、代表の工藤が意気込みを語ります。
聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)
田中: 工藤さん、こんにちは。3月1日から、言論NPOはウェブサイトを全面リニューアルしたということですが、その内容について詳しく聞かせていただけますか。
工藤: かなり時間がかかりましたが、ようやく今日リニューアルに漕ぎ着けることができました。言論NPOではウェブサイトを、強い民主主義をつくるための議論のプラットフォームに、大きく変えたいと思いました。そのために、今までやってきたことを全面的に見直して、いろいろな人たちが議論に参加し、自分たちで日本の政治や日本の将来を考え、判断できるような場をつくりたいと考えたのです。そして、双方向性がある一方で非常に知的な、市民社会の論壇をつくろうということで取り組んできました。
田中: 具体的にはどのような構成になりますか。
工藤: まず、言論NPOの活動を4つのカテゴリに分けました。ひとつ目は「政治に向かい合う言論」、2つ目は「世界とつながる言論」、3つ目は「市民を強くする言論」、そして4つ目が「次の日本をつくる言論」です。これらに共通するコンセプトは、市民や有権者が自分の判断で今の政治や日本の将来を考えるためのお手伝いをしたり、そのための参加型の議論が行われるようなかたちにしていきたいということです。
「政治に向かい合う言論」は、まさに言論NPOが行ってきたマニフェスト評価のことですが、ここでは評価の作業や結果、評価のプロセスに対するコメントなりを公表していきます。鳩山政権も発足後半年を迎え、今年の7月には参議院選挙も予定されていますが、先の選挙での民主党の約束がどう実現したのか、それから約束そのものが問題だということもあるので、それを見直しどのように変えていくのかなどに注目する必要があります。リニューアル後のサイトが今までと違うのは、マニフェストの進捗状況や、政策課題をどう考えるかということが、このサイトを見ればわかるようにしていくということ、それから皆さんに発言していただく場を設けていくということです。また、一般の方々向けのセミナーやフォーラムを行うことも予定していますので、それらと連動して議論が進んでいくようなサイトにしていきたいと考えています。
「次の日本をつくる言論」も、政策課題についての議論になりますが、ここでは評価とは違い、みんなで一緒に考えたことを提案していくということです。ここで私が考えているのは、3~4ヶ月間、チームで議論をして、その結論を何らかの提案にまで持っていくようなしくみができないかということです。例えば、財政再建や社会保障、医療の問題などが考えられますが、いろんな方に参加していただきたいと思っています。一般の方も議論に参加できるようにして、みんなで日本の将来のために考え、提案していこうというわけです。
この2つが政策に関する議論になりますが、それらと関連するのが「世界とつながる言論」です。日本の社会は世界とつながっています。中国が経済的に大きくなり、アメリカは苦境に陥っているという、世界が多極化しているこの状況下で、グローバル・イシューに私たち自身がどう取り組むのか、この「世界につながる言論」の中で、みんなでそれを考え議論を行うようなサイトにしたいと思っています。言論NPOが行ってきた「東京-北京フォーラム」といった対話のチャネルや、「アジア戦略会議」など、すでにいろんなチームがありますので、そこを母体にしながら、世界やアジアについてオープンな議論を行っていけるようにつくり変えていきたいと思います。
最後に、今回のリニューアルで最も力を入れたのが「市民を強くする言論」です。これまで、私たちは政治や政策に向かい合う議論をしてきましたが、その中で痛烈に感じたのは、政治というものをただ客観的に見るのではなく、実際に参加して、当事者として何かをつくっていかなければいけない。もしくは様々な社会のサービスに関わって、課題解決の担い手になっていくという、大きくダイナミックな市民側の動きがないと日本は変わらないと思いました。そのために田中先生をはじめ色々な方々に協力をしていただく中で、私が思ったのことは、「強い市民社会をつくるためには、市民が強くならなければいけない」ということです。言論NPOは今、市民を強くするための様々な議論を企画しています。非営利セクターについては、今までのやり方のままでいいのかとか、何でも行政にお任せするようなかたちで本当にいいのだろうかとか、もっと自分たちで考える議論の舞台が必要なのです。また、日本の社会の中にいる、キラリと光る数多くの人たちと対話をし、議論に参加してもらおうと考えています。こういったことを通じて、市民社会が強くなるような循環をつくりだせるようなサイトにしていきたいと思います。このサイトは私だけでは成り立ちませんので、学者さんたちを中心とした「編集会議」を発足させました。この編集委員たちがナビゲートをし、議論をつくっていきます。これらを通じて、言論NPOのウェブサイトの中に、強い市民、強い民主主義のためのプラットフォームをつくります。また、言論NPOの活動そのものも、そういうかたちにしていきたいと思います。
田中: 今まで行ってきたことを柱としながらより双方向的に、市民側に立って、言論NPOの活動を行っていく、という意思が強く表れていますね。
工藤: そうですね。そうしていかないと日本は変らないと思っています。しかも今年は参議院選挙もあります。そのときは評価も含めて、政策どう考えるかという判断材料をみなさんに提供していきますが、それだけではなく、このサイトの中で何らかの動きをつくっていきたいと思います。この3月、4月でいろんな挑戦をしていきますので、ぜひ期待していただきたいと思います。
田中: 政権交代が起きたときから、自分たちももっと政治に対してものを言いたいとか、社会に貢献したいという人は増えていますので、今回のリニューアルは絶好のタイミンングだと思います。
工藤: これはある意味では「市民の論壇」ですので、いろんな方々に参加してほしいと思います。ただ、私たちは議論のクオリティを追求していきます。そしていい議論はどんどん紹介したいのです。このウェブサイトだけではなく、メールマガジンやブックレット、フォーラムなど様々な仕組みと合わせて、皆さんに参加の機会を提供し、強い言論をつくっていきたいと思います。
田中: 今後の展開を楽しみにしています。ありがとうございました。
ウェブサイトを全面リニューアルしました 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事) |