言論NPOの立ち位置は、世界が分断をこれ以上悪化させず、世界が力を合わせて課題に取り組むことです。

ところが、世界は戦争を止めるために力を合わせられず、経済は分断やブロック化が進み、自国利益を優先する大国の力の行動が広がっています。その中で、気候変動や資源・食料、経済格差など、世界的なレベルでの課題への取り組みが進まず、世界は歴史的にも困難な局面に立たされています。

私たちは、日本こそがこうした課題に責任をもって取り組むべきだと考えています。そのため、私たちは世界を代表するシンクタンクとも連携して、この日本から世界の課題解決や多国間主義を守り抜き、世界の困難に力を合わせるための様々なメッセージを発信し続けています。

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「関税の世界」は続くのかー 日本の識者は「トランプ政権のシナリオ通りには進まない」と見る

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世界の課題を考える第二弾企画では「トランプが主導する世界経済秩序は持続可能か」をテーマに議論しました。

私たちがトランプ政策の持続可能性を議論しているのは、米国の一方的な関税政策の背景には、ドル体制の維持を前提に米主導の新しい力の体制の構築があり、それが本当に成功するのか、が世界では今、今後の国際秩序を考える上で大きな議論になっているからです。

現時点の世界の見方は、成功すると見る人と為替やインフレなどの影響から米国内で行き詰まるとの見方で分かれていますが、まだ確定はしていません。

関税政策の影響は徐々に表れており、行き過ぎた米国の行動が世界の経済リスクを高める、という見方や、米国に挑む中国との「米中関係」の接近にも関心が高まっています。

日本での議論には宮崎成人元財務相副財務官、木内登英野村総研エクゼクティブエコノミスト、河合正弘東京大学名誉教授の3氏が出席してこの問題を考えました。

木内氏は、まず高関税は米国が主導で作り上げた自由貿易体制を壊すもので、米国国内の金融市場、国民世論、司法という「三つの壁」によって修正を余儀なくされる。貿易不均衡の被害者が、基軸通貨国だとの論理自体は自明ではなく、ドル安での誘導もうまくいくとは思えない、と語ります。

河合氏は、トランプ政権のブレーンのミランは貿易赤字はドル高のせいで、ドル高は基軸通貨だからだと考えている。それを埋めるため関税が出た可能性はあるが、第二のプラザ合意は難しい、中国は絶対入ってはこないし、G7各国との通貨調整は難しい。「関税の世界」は続くだろう、との見方を示しました。

宮崎氏も、基軸通貨体制を米国は手放すことはないが、「通貨価値を人為的に変更しようとして上手くいった試しなどない」と指摘。また、「ドルの地位を維持したままドルの価値だけを切り下げる」というような非常に都合の良いことに他のG7諸国がまとまって協力することもないだろう」として行き詰まりを予測。

各氏は、様々な角度から、世界はトランプ政権が思い描くシナリオ通りにいくことはないとの見方を示しました。
                     
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I 木内登英氏(野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)

第二期トランプ政権の高関税は、第二次世界大戦後の米国が主導して築き上げてきた世界の自由貿易体制を、米国自身が壊そうとするものだ。しかし、高関税にせよドル高修正にせよ上手く行くことはないだろう。

第一期政権の頃はトランプ氏のビジネスマンとしての感覚で、「貿易赤字は負け」「対外収支を改善させればGDPが増える」という単純な発想で高関税をかけていたのだろう。しかし現在は、自由貿易体制と基軸通貨ドル体制の下で、「相手国に出し抜かれ、負担を押し付けられた。その象徴が貿易赤字だ」と考えている。だから、輸入を抑えるために高関税をかけたのだろう。同時に、国内の衰退した製造業の立て直しも狙っている。

米国が抱える問題は、貯蓄投資バランスの不均衡であるし、トリフィンのジレンマについての明確な検証はない。しかし、ミラン氏やベッセント財務長官らはこうしたジレンマがあると考えている。基軸通貨としての役割を維持しつつ、行き過ぎたドルの価値を下げたいというこの二つの矛盾を解消するための「答え」として出てきたのが、おそらくステーブルコインだ。

高関税は今後、金融市場、世論、司法という米国国内の「三つの壁」によって修正を余儀なくされるだろう。その後はドル安という形で貿易赤字の縮小を目指すかもしれないが、通貨安を避けながら基軸通貨の地位を維持することは難しく、それもやはり行き詰まるだろう。

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I 河合正弘氏(東京大学名誉教授)

世界第一の経済大国である米国のWTOルールを無視した行動は非常に深刻だが、これによって自由で開放的な貿易体制が壊れてしまったというわけではない。その理由としては、まず、トランプ氏自身も相手国のさらなる市場開放を目指すための手段としてやっていること。次に、戦前のような関税引き上げ競争にはなっていないこと。最後に、日本やEUなど他のG7諸国は、自由で開放的でルールに基づく貿易体制を維持しようとしている、という三点がある。ただ、トランプ政権の政策が今後も続くのであれば、世界の国々は米国との経済関係を減少させるとともに、他の国・地域と緊密な経済関係を構築し、それによって世界経済上の米国の相対的地位は低下していくという変化は生じるだろう。

高関税の最大の目的は米国製造業の復活と雇用回復だ。グローバル化の中での「敗者」となったかつての中産階級である製造業従事者たちの声をすくい上げて大統領になったトランプ氏にとって、製造業復活は政治的な使命だ。高関税をかければ輸入を縮小させるだけでなく、米国にモノを売りたい海外企業は米国に投資をするために、それを梃子にすれば製造業を復活させることができるだろう、というのが彼の強いモチベーションになっている。しかし、米国のより根本的な問題は貯蓄投資バランスの不均衡が長い間続いていることだ。

ミラン氏は赤字はドル高のせいであり、ドル高は基軸通貨であるからだと考えている。だから、ドル安にしたいとは考えているが、基軸通貨としての地位を失うほどのドル安というのは考えていないはずだ。そこで高関税が出てきた可能性がある。

仮に第2プラザ合意のようなことをやろうとしても、そこに中国が入ってこないとまったく意味はないが、中国は絶対に入ってこない。また、中国にレアアースの輸出規制をされたら米国は何もできない。他のG7諸国との通貨調整も難しいし、「関税の世界」はしばらく続くのではないか。

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I 宮崎成人氏(三井住友信託銀行顧問、元財務省副財務官)

ブレトンウッズ体制下のIMF、世界銀行、WTOは「三輪車」であるため、そのうちの二輪である自由貿易(WTO)と通貨体制の安定(IMF)は当然両立し、一貫させるべきものだ。しかし、自由貿易体制が崩壊したら自動的に通貨体制も終わりを告げるのかというと、そうではない。当初の金ドル本位制と現在の変動相場制におけるドルの動きは事実上異なるものであるし、その中で自由貿易がどう機能するかについても違いがあるからだ。

米国は経常収支の赤字をファイナンスするにあたっては、自国通貨ドルを発行すればよいという特権を有している。これが何十年にもわたる過剰消費を可能としてきた。それにもかかわらず経常収支赤字を問題視する見方は1980年代からあったが、トランプ氏の頭の中も80年代から変わっていないのだろう。そして、トランプ政権の経済政策を支えるブレーン、スティーブン・ミラン氏をはじめとして貿易赤字を問題視している人は他にもたくさんいる。だから、その是正手段として関税を使ったのだろう。しかしその結果、米国は過剰消費ができなくなる。そのマイナスの影響は米国民に返ってくるのだが、それを分かった上でやっているのかは疑問だ。

経常収支赤字のファイナンスにもいずれ限界が来るためにドルの信認低下のおそれがあるが、それなら「経常赤字を早く縮小しておくべきだ」となるはずだが、トランプ政権はそのために貿易赤字を問題視しているわけではない。製造業への政治的配慮や「赤字は負け」の発想で高関税政策をやっているのだろう。
歴史を振り返ってみても、通貨価値を人為的に変更しようとして上手くいった試しなどない。また、「ドルの地位を維持したままドルの価値だけを切り下げる」というような非常に都合の良いことに他のG7諸国がまとまって協力することもないだろう。結局、トランプ政権が思い描くシナリオ通りにはいくことはない。

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言論フォーラム「米中の接近は本当か」

1月20日(火) 17:00~18:00