川北省吾氏(共同通信編集委員)発言要旨
・米中関係は構造的に悪化(structural decline)する関係にあり、対立そのものをなくすのではなく「競争を管理する段階」に入っている。
・バイデン政権が掲げた「ガードレール」から、現在は「建設的な戦略的安定関係」による競争管理へと移行しつつある。中国は「協力主体の競争管理」、米国は「ディール主体の競争管理」を志向しているように見える。
・今回の首脳会談では、習近平主席が米国と対等に渡り合う姿を国内外に示す演出が重視された。習近平主席の世界観の根底には「百年変局」「東昇西降」があり、中国の台頭と米国の相対的衰退を歴史的潮流として捉えている。
・「戦略的安定関係」とは、台湾が独立に向かわない限り米中が直接衝突を避ける枠組みと理解できる。
・米中双方に関係安定化を求める政治的要請と安全保障上の要請が存在する。米国側は中間選挙やトランプ政権後半のレームダック化回避を意識している。中国側は次期党大会での習近平主席の4期目続投を見据え、安定した対米関係を維持したい。安全保障面でも、米国は中国との直接対決を避けたい一方、中国もロシアのような長期戦争状態を回避したい。
・中国は「時間は自分たちの味方」と考えており、時間経過とともに国力差が縮小・逆転すると見ている可能性がある。
・トランプ氏は中間選挙に向けた成果として、中国による農産物購入やボーイング機購入など、支持者に示しやすい実利を求めた。
・中国側は購入品目や数量を明示せず、今後の交渉カードとして温存している。中国にとって最大の成果は、台湾問題における「レッドライン」を国内外に明確に示したことにある。
・トランプ氏による台湾・中国双方への揺さぶりだけでなく、より構造的な変化として「戦略的曖昧性」が限界に近づいている。バイデン氏も複数回、「台湾侵攻時には米軍が介入する」と発言している。
・1979年の米中国交正常化時と比べ、現在は中国の大国化、台湾の独立意識の高まり、米国の相対的地位低下など環境が大きく変化している。中国は統一を求め、台湾は独自性を強める中で、従来の曖昧戦略では対応が難しくなっている。
・習近平主席は、プーチン大統領がウクライナ問題で米国とウクライナの間に楔を打ち込もうとするのと同様に、台湾問題で米国と日本・台湾の連携に楔を打ち込もうとしている。日本国内の「台湾を見捨てない」という発言や姿勢は、中国にとって障害であり、中国はそれを弱めようとしている。
河津啓介氏(毎日新聞中国総局長)発言要旨
・中国国内では、米中が対等な関係になったとの印象が強く演出された。
・8年半前のトランプ氏初訪中時と比べると、今回は特別待遇の色彩は薄かった。前回の故宮での晩餐会のような破格の歓待はなく、中国はトランプ氏とプーチン氏をほぼ同格に扱い、米国だけが特別な存在ではないことを示した。背景には「米国一極支配ではなく、多極化した世界」という中国の世界観がある。
・中国は従来から国家間関係を「戦略的互恵関係」などの枠組みで定義することを重視している。今回提唱された「戦略的安定関係」も、中国にとって重要な対米関係の新たな枠組みである。
・中国が「安定」を強調していること自体、現在の米中関係が不安定で衝突リスクを抱えていることの裏返しである。
・米中双方とも関係安定化を求めており、その点では利害が一致している。トランプ氏は経済的な成果を求め、中国側は時間を稼ぐことを重視している。中国は時間の経過が自国に有利に働き、将来的に米国を追い越せると考えている可能性がある。
・習近平主席にとって新たな対米関係の枠組みを打ち出すことは、党大会を前にした重要な政治実績となる。4期目続投への環境整備や政治基盤強化の意味合いもある。国内政治を意識した実績づくりという点では、習近平主席とトランプ大統領には共通点がある。
・中国はトランプ政権2期目との厳しい対立を乗り切ったことで対米戦略への自信を深めた。現状を維持すれば将来的に米国を追い越せるとの自信を持っている可能性がある。今後も首脳会談を重ねることで関係を安定させ、中国に有利な環境を維持したい考えとみられる。
・中国は台湾問題を米国との交渉対象にはしないが、米国側が台湾を交渉カードとして扱うこと自体は中国に有利だと考えている。中国の狙いは、米国に「台湾防衛のコストは大きい」と認識させ、介入への意欲を弱めることにある。
・高市早苗氏や頼清徳総統への厳しい批判は、日台を「米中安定を妨げる存在」と印象付ける狙いがある。日米間や米台間に距離を生じさせることで、中国に有利な状況を作ろうとしている。
・今回の米中首脳会談に対する米国内の評価は、共和党支持者と民主党支持者で大きく異なる。民主党からは懸念の声が出た一方、共和党議員の多くはトランプ大統領の対中政策を支持している。
・トランプ大統領は「G2」という表現を使うが、発言と実際の政策行動には大きな隔たりがある。「G2」という言葉は習近平主席への配慮や外交的リップサービスの側面が強く、米国第一主義そのものは全く変わっていない。
・米中双方が「建設的戦略的安定関係」の具体的内容について合意したとは考えにくい。
・トランプ大統領が求めたのは、中国との対立がこれ以上エスカレートしないよう現状を「ピン留め」することだった。米国側は中国のように長期的な戦略目標や時間軸を設定しているわけではない。
・トランプ政権の国家安全保障戦略では、中国との関係を「不公平な関係」と位置付けている。「公平性と相互性」という表現は、必要であれば再び関税などの圧力措置を取る余地を残す意味合いを持つ。
・トランプ大統領は中間選挙前に習近平主席をワシントンへ招き、経済成果を示したい考えを持っているとみられる。ただ、今回は経済成果よりも、習近平主席との関係構築そのものに重きを置いていた可能性が高い。
・米国はAIが軍事バランスを左右する時代に入ったと認識している。中国の技術力や軍事支援能力への警戒感が背景にある。AI分野の対話は米国にとって戦略的価値の高い成果だった。
・米国の台湾政策の基本方針は変化していない。「台湾への武器売却を協議した」というトランプ氏の発言は、政策変更を意味するものではない。「売るかもしれないし売らないかもしれない」発言は台湾と北京の双方を揺さぶる「究極の曖昧戦略」とも言える手法だ。
・台湾を揺さぶること防衛力強化の努力やで対米投資を促す意図もあるとみられるが、国家安全保障戦略では台湾への言及が過去最多であり、台湾重視の姿勢自体は変わっていない。
・米国内では「民主主義の灯台」といった理念よりも、半導体供給網の重要性が台湾支援の根拠として重視されている。トランプ氏は台湾を軽視する面もあるが、半導体拠点としての戦略的重要性は十分認識している。
・中国は一貫して日米間に楔を打ち込もうとしている。中国はトランプ大統領に対し、「日本こそ台湾問題のトラブルメーカーだ」という認識を植え付けようとしている。高市首相らへの批判も、その文脈で理解できる。対日批判がリークされた背景には、中国のこうした働きかけを問題視する米政府関係者の存在があった可能性がある。