トランプ政権2.0は、歴代政権及びトランプ政権1.0と何が異なるのか
米国の政治学者であるウォルター・ラッセル・ミードは「理念か、国益か」「外向きか、内向きか」という二つの軸をもとに米国外交を四つに類型化している。これに当てはめると、トランプ政権1.0の外交は「国益重視の内向き」(ジャクソン型)と「理念重視の内向き」(ジェファーソン型)の二類型を併せ持っていた。しかし、トランプ政権2.0では大統領側近をトランプ氏の意に沿う人間ばかりで固めた結果、ジャクソン型に純化したといえる。 二類型を併せ持つことは近年の歴代政権に共通した傾向であり、その結果として四類型のいずれかにおいて前政権との連続性があった。例えば、オバマ政権、バイデン政権の外交は「理念重視の外向き」(ウィルソン型)とジェファーソン型を併せ持っていたので、このジェファーソン型の面ではトランプ1.0政権との連続性があった。
しかし、トランプ2.0政権はジャクソン型に純化しているので、バイデン政権との連続性はない。こうした前政権との断絶は、米国外交に対する予測可能性を低下させるものであるといえる。これは「米国は何をするかわからない」という意味では抑止の信憑性を高めるが、日本のような同盟国から見れば米国に対する信頼性低下につながる。また、理念軽視のジャクソン型政権では、法の支配に基づく秩序、特に日本が強調してきた「自由で開かれたインド太平洋」などはあまり受け入れられないかもしれない。
もっとも、政権内部にはトランプ氏をはじめとする内向きの「抑制主義者」もいるが、優先順位を定めつつ重要なものには注力する「優先主義者」や、米国の優越性を徹底的に追求する「優越主義者」から成る派閥グループもいる。イラン空爆は決してパワーを軽視せず、国益のためであれば軍事力も躊躇せずに行使するそうしたグループの意見が通った結果だ。
こうしたトランプ2.0政権が取る戦略は、優先主義者エルブリッジ・コルビーの「拒否戦略」であり、おそらくこれが国家防衛戦略(NDS)の中核になるだろう。ここでは地政学的側面では東アジアを重視し、中国の覇権を拒否することが最大の目標となる。そのための軍事戦略は、核の報復のような「懲罰的抑止」ではなく、中国に目標達成を断念させる「拒否的抑止」になる。具体的には第一列島線を重視し、その中核にある台湾防衛に注力することになる。そのために海空軍を重点配分した結果として、今後在欧・在韓米軍が縮小されることはあり得る。
同盟の負担と防衛力強化のための財源をどう確保するか
トランプ氏ら抑制主義者にとっては、米国にとっての同盟はあくまでも戦術的な手段であり、損得に基づいて「利用できるのであれば利用する」という位置づけだ。それにもかかわらず、同盟国が米国に一方的に負担を押し付けることは許しがたいことであり、「フリーライド」を完全に否定しようとする。トランプ1.0政権は日本に対して在日米軍関係費の倍増を求めてきたが、こうした要求は2.0政権でも変わらないだろう。費用対効果で見れば、日米同盟は特に日本にとっては「安い買い物」だったが、在日米軍関係費は現在、円安のために日本側が38%、米国側が62%と分担率が偏っている。トランプ政権はこの数字をベースとして負担増要求を強めてくることが予想される。
優先主義者の場合は、同盟を米国の戦略的資産として重視しているが、求める役割も大きくなる。日本に対しても中国を対象とした反覇権連合の一角を担うべくより防衛力を強化することを求めてくるだろう。
米国は同盟国に防衛費の対GDP比で3.5%から5%を求めてきているが、5%は米国自身も達成していないため現実的ではない。NATOの5%目標は、その内訳を見ると防衛費3.5%にインフラ整備の1.5%を加えているという工夫がある。一方、日本が2022年の安保三文書で約束した2.0%にはすでにインフラ部分を含んでおり、上積みが難しい。
では、日本は防衛費を増やすことができるのか?1990年から2025年に至る35年間の財政規模に占める防衛費の比重の推移を見ると、防衛費の一般会計に占める割合は4.2%から 8.7%へと4.5%増加している。一方、社会保障費のそれはこの間、11.6%から38.3%へと26.7%も増加している。
これまで圧倒的に「大砲よりバター」だった日本が、今後高齢化が進み社会保障費がますます膨らむ中で、防衛費をさらに積み増していくことは可能なのか。対GDP比2%目標でさえ安定財源を確保できていない中、3.5%さらには5%を目指すとなると社会保障費削減の必要性なども出てくるが、それを有権者が受け入れるかどうか。防衛特別所得税の新設や建設国債の発行も手段としては考えられるが、後者については日本の公的債務の対GDP比の際立った高さを考えると難しい状況だ。
また、仮に防衛費増ができたとしても、それを何に費やすのか。サイバーや宇宙といったマルチドメインへの対応、継戦能力、抑止力の強化、自衛官定員の確保、研究開発費の確保など防衛力を強化する上での課題は多く、その方向性も今後の重要な検討課題となる。