
まず、主催者として最初に皆さんにお礼を申し上げたいと思います。
「東京会議」は、2017年に私たち言論NPOが世界10カ国の世界を代表するシンクタンクと一緒に立ち上げた世界的な会議です。当時から世界では、自由、法の支配、そして民主主義が多くの試練に直面していました。こうした規範を守るだけではなくて、世界の課題に世界に力を合わせて取り組もう、そのために我々民主主義国のシンクタンクも努力しようということを考えました。何よりもこの東京、日本から、そうした議論を世界に届けたいと私たちは思いました。こうした歴史的な局面で日本の責任が問われていると考えたからです。
危機に結束できるのか、それとも分断に向かうのか。世界の分水嶺に
「東京会議」は過去2年間、コロナの影響でオンラインで開催していました。今回は3年ぶりに対面で、しかも桜が満開のこの季節に、世界を代表するシンクタンクのトップたちとともに議論できることになりました。また、私たちが世界の中で、今最も耳を傾けなくてはならないオピニオンリーダーたちにも来ていただきました。
なぜ、この局面でこんなに多くの人たちがこの東京に集まってくれたのか。それは世界が今、分水嶺に立っているからだと私は思っています。世界の危機に世界は結束できるのか、それとも世界は分断に向かうのか。私たちは、その岐路に間違いなく立っている。
私は、世界は力を合わせる局面だと思っています。世界が直面する課題に、世界は協力して取り組まなければならない。しかし、今はまだそういう状況になっていないわけです。逆に言えば、危機が積み重なっている。この状況を何とかしなければならない。日本の社会でも、そうした議論をきちんと起こしたい。私たちはそう思っているわけです。
では、この状況に我々はどう取り組むのか、それが今日これから行われる議論の課題なのです。そのために我々はここにいます。私たちはいろんなことを考えなければなりません。今、川口さんにまさに世界が直面している課題について説明していただきました。ウクライナに対するロシアの侵略は、1年経ってもまだ続いており、世界の平和秩序は壊れたままです。世界の経済の状況を見て、リーマンショックの再来を思い出す人もいると思います。
分断をこれ以上悪化させず、より強靱で、持続性のある世界に発展させなければならないというのが、「東京会議2023」に集まった我々の覚悟
では、この状況を一体誰が解決できるのか。世界では、安全保障で全てを考える傾向が強まっています。そのため、ウクライナ戦争の影響で資源価格は高騰し、気候変動の対策では足並みが乱れています。
この状況をこのまま放置していいのだろうか。私たちは、そう思ってはいないわけです。世界の分断をこれ以上悪化させず、世界が一丸となって力を合わせる方向に舵を切り戻さなければならない。そして、何よりも法の支配や自由や人権を大切にした社会を実現する。そのためもう一回、みんなが力を合わせる。そして、その世界をより強靱で、持続性のある世界に発展させなければならないというのが我々の覚悟です。
既に世界では、異常気象の影響はもうかなり広範に広がっています。人類の未来のために力を合わせなければ手遅れになりかねない。そんな局面なのです。だから、私たちは今日の議論で、ウクライナの侵略をどのようにして止めるのか。世界は、そのためにどう力を合わせればいいのか。私たちがそういうことを話し合うことにしているのは、この戦時的な状況を早く解消しなければならないと思っているからです。
社会の分断や政治不信が高まる中、民主主義自体の有用性が問われている
もう一つ、今日の私たちの議論で問わなければならないテーマがあります。それは民主主義国の責任という問題です。自由や平等、そして基本的な人権は、先人たちが長い努力の結果、獲得した人類の財産です。ところが、民主主義は世界で今、後退している。それだけではなく、先進的な民主主義国で、その民主主義自体の有用性が問われており、社会の分断や政治不信が高まっています。日本でも全く同じような状況が起こっています。
世界では、民主主義というだけではもう支持が集まる局面ではないのです。民主主義が、その正統性をもう一度取り戻し、高めるためには、我々は民主主義をもう1回鍛え直して、そして多くの国と連携し直さなければならない。つまり、民主主義国にとってこれまで以上の努力が問われているのだと思います。
民主主義国は、共通の基盤を持つ新興国や途上国とも、その文化や歴史的な違いなどの違いを認め、あるいはそれを乗り越えて連携すべきだと思います。そして、民主主義国に住む市民も、これを他人事だと考えてはいけないのです。今、世界は本当に変わろうとしている。この分水嶺にある状況でどうするか、自分の頭で考える力を身につけなければなりません。私たち言論NPOは、ずっと多くの国の人たちと対話をしていました。そのときにいつも考えていたのは、私たち民間と市民の役割でした。民間や市民がまず動かなければ、政治を、政府を動かす力にはならない。それが私の信念です。
今回の「東京会議2023」に先立って、多くの有識者に緊急のアンケートを実施しました(有識者アンケートの結果は108ページを参照)。調査期間が短かったので、回答した人は210人だったんですが、その傾向は多分、多くの日本人が考えているものと同じだと思いますので、少しだけ紹介させていただきます。
まず日本の有識者が、今、取り組まなければならないと考えている世界の最も大きな困難は「ウクライナの戦争と世界平和の後退」であり、69.1%と7割がこれを選んでいます。そして、その次が、「米中対立と新しい冷戦」で45.7%でした。世界の分断をこれ以上悪化させたくないということだと思います。

その上で次に、アメリカのバイデン大統領が言っているように、「21世紀は世界の民主主義国と専制国家の対立に向かっているのか」ということを率直に聞いてみました。しかし、日本の有識者で、そう考えている人は2割しかいません。むしろ、4割は「こうした見方がむしろ対立を誘導している」と懸念しているのです。
また、現状の世界に対して民主主義国に問われている責任について尋ねると、「専制国家などへの対応」と考えている人たちは8.1%でした。それ以上に多いのは、「自国の民主主義の修復」。日本においては日本の民主主義をまず立て直すべきとだという人たちが24.8%いました。そして、「世界の課題における協力のために、多くの国と連携すること」に向けて民主主義国は役割を果たすべきだという回答が42.4%と4割を超えています。多分これは私たち、そして会場に集まった多くの方々の見方にも近いと思います。つまり、我々は対立を求めていないのです。
9割近い日本の有識者は、日本の役割は世界の発展への協力だと考えている
さらに、米中対立下での日本の立ち位置についても質問しています。「米国との関係だけを重視する」べきだと考えている有識者は、6.7%しかいませんでした。一方、「米国との関係が大事なのは変わらないが、中国との関係にも配慮する」が54.3%。そして、米国か中国か、「どちらかにつくのではなく、世界経済の発展のために努力すべき」が34.8%ですから、この二つを合計すれば、9割近い人たちが日本の役割は世界の発展への協力だと考えており、これ以上の分断の悪化を求めていないわけです。言論NPOの世論調査では、過去何度もこの設問を入れていますが、今回の有識者アンケート結果だけがおかしいという状況ではないです。同じ傾向が毎回繰り返し明らかになっています。アメリカとの関係だけが大事だ、米中対立の中でアメリカだけに与するべきだということに賛成する人はほとんどいないのです。
さらに、「ウクライナ戦争の終結のために、最も重要なことは何か」という設問の結果には私も少し驚きました。意見が分かれて、明確に中心的な考えは存在しているわけではありません。しかし、その意見の分かれ方に面白い傾向がありました。それは、一つは侵略されている「ウクライナへの軍事や人道支援」が23.8%、そしてそれと並んだのが「中国やインドなどによるロシアへの説得」の24.3%でした。私は「ロシアへの制裁」は実効的にやるべきだと思っています。しかし、日本の有識者でそれに賛成する人は3.3%でした。日本は地理的にかなり遠く離れていますが、日本の有識者は戦争を止めて、平和を回復するためにどうしたらいいのか真剣に考えているわけです。
我々シンクタンク間でも、昨日からこの議論が行われています。つまり、この制裁の意味は何か。実効的な制裁ができるのか。世界経済にもかなり影響しているという現実をどう思うのか。今日もこれから行われる議論の論点になると思います。
今回の議論をまとめた共同声明を、G7議長国の日本政府に提案する
今週、世界では大きなニュースが流れました。WBC決勝で日本がアメリカに勝ったのは私もすごいニュースだと思いました。だけれども、私がもう一つ思ったのは、習近平氏がロシアを訪問して、仲介の動きをし始めた、まさにその同じタイミングでG7議長国日本の岸田総理がインド訪問後、そのままウクライナに訪問し、ゼレンスキー大統領と会談したということです。世界が今動き出そうとしています。その真っ只中で、この「東京会議2023」が始まっているのです。
実は、この開幕はちょっと遅れました。というのは、G7議長国日本の政府に提案をしようということで、そのための作業を行っていました。昨日帰国したばかりの岸田総理が、今夜この会場にいらっしゃるので、私たちは直接岸田総理にこの提案を手渡そうと思っています。世界が大きく動き、我々の責任が問われている。そういう状況の中で、それでは、「東京会議2023」を始めさせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。
