「普通の世界」は終わりを迎え、もう戻らない。
より混沌とした危険な時代の中で民主主義を再生しなければならない

閣下、御来賓の皆様、御挨拶申し上げます。「東京会議」で御一緒できて大変うれしく思います。
英国は混乱の中でも、民主主義の強さを示した
今、すばらしい講演がメアリー・ロビンソン氏からありました。私も強く同感です。講演の最後は、日本の元総理大臣の発言引用で締めくくられました。ということで、私はイギリス人として、英国首相ウィンストン・チャーチルの引用から始めたいと思います。彼は民主主義について大事なことを述べていました。「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」と言っていました。今の状況でこそ、それを覚えておかなければなりません。
民主主義は悪いリーダーを誕生させることもある。不確実性、非効率を生み出すこともある。政策が突然変わることもあります。強烈な意見の相違があるかもしれません。英国を見れば、それはよく分かるのではないでしょうか。特にこの数年間、それを如実に示してしまいました。EU離脱についての国民投票をしたことは、決して良いアイデアではなかったと言わざるを得ません。その結果、英国政治は大混乱に陥りまして、7年間で5人の首相が誕生しました。現職は大変優秀な首相ですが、一周してようやく、といったところでしょうか。多くの変更と多くの間違いがありました。
しかし、それでも我が国からは民主主義の強さを見てとることができます。政党は、政権が変わったとしても、「それは正しい政策ではない」と主張し続け、そして今や正しい指導者がいる。最高裁は政権と異なる意見を示している。国民は、言論の自由、あるいは報道の自由を十分に享受し、また自分の暮らしについて安心していられる。個人の見解、オープンなアイデアを安心して表明することができる。こうしたことについては民主主義の強さだと考えています。
民主主義からの教訓ははっきりしています。強力な制度や機関が重要であるということです。また、実効性のある国際協力は、民主主義国家にとって重要であることも分かっています。これらの真実を再び解釈しなければなりません。それは今、非常に厳しい状況にあるからです。
「普通の世界」の終焉
我々は、いわゆる「普通の世界」に暮らしていると思っていましたが、その世界は変わってしまいました。1990年頃から2015年頃でしょうか、その頃は「普通の世界」はずっと変わらずに続いていくと思っていました。グローバル化が安定的にずっと進むと思っていました。先進民主主義国が発展を続け、主要大国間は平和な関係を維持すると思っていました。バグダッドも北京も、今はどこにいたとしてもやがて我々に近づいてくるのだ、かつてフランシス・フクヤマが言ったような「歴史の終焉」がやがて訪れるのだと思っていた。
しかし、それは欧米民主主義国の傲慢、慢心、自己満足だったのかもしれません。普通だと思っていたその世界は終わりを迎え、しかももう戻らないということが分かりました。ソーシャルメディアが政治に影響を及ぼしています。これは変わりません。気候変動の影響・・・ちょうど先程ロビンソン氏が話をしてくれました。それによって世界も変わっています。新型コロナから人々は日常を取り戻しつつありますが、将来のパンデミックのリスクは依然としてあります。戦争がまさに起こっています。しかも、主要国同士の戦争です。普通だと思っていた世界は終わってしまいました。より混乱した、混沌とした、より危険な時代に入っています。
この時代において、我々はまさに民主主義の責任を思い起こし、民主主義を再生しなければなりません。それが本日のトピックです。
現在および将来にわたるウクライナへのサポート
6つの提案を申し上げます。うち3点は外交に関しての内容であり、3点は民主主義におけるハイテクの未来です。最初の3つについては、自明かもしれません。既に言及されています。ウクライナへのサポートです。ウクライナを支援し、武力攻撃を行ったロシアを敗北させ、国際法を守ることが重要です。今、ウクライナという国だけではなく民主主義それ自体が危機にさらされています。ウクライナは自由な選挙で大統領を選び、EUとの友好関係を選びました。その自由が脅かされた場合には、ほかの多くの国々の自由も安全ではないことになります。
したがって、軍事的に必要なサポートを提供することが重要であり、ウクライナが戦場で勝つことができるようにしなければなりません。何らかの形で戦争が終わった暁に重要なのは、十分に強い安全保障を将来にわたってウクライナに提供することです。たった1回の戦争を乗り切ればいいのではなく、今後も安全を保障し続け、復興に取り組むことが重要です。この復興は大変な作業となります。国際協力と寛容性が必要です。しかも、復興をなるべく早めに開始し、ウクライナの皆さんに将来の希望を与えなければなりません。6つのうちの第1は、こうしてウクライナを支援することです。
違いを理解し、帝国的振る舞いを改めながら グローバルサウスと対話することが大事
2つ目について、これは簡潔に申し上げることが可能です。ロビンソン氏がすでに話をしてくれたからです。それはグローバルサウスとの対話・関与です。欧米民主国家及び日本から手を差し伸べ、より想像力を豊かにして、実質のある形で対話をすることです。インド、ブラジル、南アフリカとは意見の違いがあります。民主国家同士であったとしても、意見は違います。世界に対する見方がかなり違います。英国と米国に比べれば、あるいは日本と比べれば相当意見は異なります。しかし、歴史的、文化的な違いを理解しなければなりません。
また、欧米がかつて偽善的であった、あるいはまだ帝国のような振る舞いをしていることへの批判も受け止めなければなりません。あるいは多極化した世界を受け入れていないということも受け止めなければなりません。我々自身の国益とグローバルサウス諸国の国益の連携を、様々な方法で取り組む必要があります。とりわけ重要なのが気候ファイナンスです。これもロビンソン氏から言及がありました。前進はあったものの、貧困国に対するファイナンス支援については、今後もしっかりと優先順位を高くつけて行う必要があります。
主要民主主義国家間での強いネットワーク構築の必要性
3つ目ですが、強いネットワークを主要民主主義国家間でつくることです。通商や貿易、安全保障に関連するものです。合理的な世界のままであれば、本来はあるはずだったのですが、それがないのであれば、民主主義国家は民主主義国同士のネットワークを強化する必要があります。様々な方法があります。例えばQUAD。日本が入っていますし、G7のようなネットワークがあります。あるいは防衛協力。例えば日英伊の次世代戦闘機開発に向けた協力があります。あるいはオーストラリア、イギリス、アメリカを含めたAUKUSなどのグループがありますが、これらをさらに強化をする必要があります。
また、民主主義国家同士は、経済的なつながりとパートナーシップを強化する必要があります。まさに英国と日本の間では現在行われています。例えば、科学技術パートナーシップがありますし、昨年はデジタル・パートナーシップを立ち上げました。ぜひスーパーコンピューター分野でも連携を進めていくことを私は期待いたします。また、TPPは英国加盟で合意しました。
ソーシャルメディア時代の民主主義において、いかにして事実と真実を確保するか
あとの3つについては、外交分野ではありませんが、世界各地で色々なことが起こっています。それはなぜかというと、ハイテクのためです。私が4つ目の提案をするのは、真実を守る必要があるからです。民主主義が依拠するのは一定の事実と真実に関する共通理解です。しかし、ソーシャルメディアが拡大した結果、これが怪しくなっています。この数日間でも何百万の人たちが、ドナルド・トランプ元米大統領が逮捕されたという映像を信じている。ツイッター上に出回っているのはかなり説得力のある動画です。しかし、今のところ彼は逮捕されていません。ソーシャルメディア時代の民主主義においては、真実が優勢であることが重要です。
最近、ウエールズの男性と話をいたしました。なぜイギリスのEU離脱の国民投票で賛成したのか尋ねたところ、「EUは王制を廃止すると言っているから」であると。それは真実ではありません。国王や女王はオランダ、スペイン、ベルギーなどにもいるではありませんか。「EUは王制廃止などしようとしていませんよ。そんな情報をどこで見つけたのでしょうか」と言うと、「フェイスブックにそう書いてあったから」と。
「それは違う」という情報がほかで見つからないとこのように流されて判断してしまうのです。民主主義国家としては、ソーシャルメディアの規制を何らかの協調のもとで行う必要があります。ソーシャルメディアの企業に、代替的な見解を示すことを義務化し、アルゴリズムを透明にすることを強制することが必要です。
民主主義国家がハイテクの標準を決め、イノベーションを牽引することが重要
5つ目の提言については、民主主義の現状の優位を使って、イノベーションを世界で牽引することです。なぜかといいますと、おそらくハイテクの進化は、人類文明の中でも最も速い速度で発展しているからです。そのため、民主主義国家が標準を決めることが不可欠的に重要です。私たちが高齢化の社会を維持し、防衛費を確保するためには・・・これは特に今、日本で話題になっていると思いますが、その唯一の方法は、生産性を高めてハイテクで最先端にいることです。これについては多くの政策を追求することが可能です。
何もかもを変えるAIの将来をどう考えるか
最後、6つ目です。今のことに関連しています。AI(人工知能)の統治がこれから数十年間で、抜本的に重要な課題となります。ヘンリー・キッシンジャー、エリック・シュミット、ダニエル・ハッテンロッカー共著の『AIと人類』という本が2年ほど前に出ましたが、私はそれと同じ考えを持っています。気候変動とともに、AIの将来が21世紀の重要な課題であると書いてあります。これで全てが変わります。AIで何もかも変わり、しかも、それは雇用やビジネスが大きく変わるだけではありません。民主主義が大きく変わり、地政学が大きく変えられてしまいます。
そこで、何よりも重要なのは、今こそ統治のベストプロセスを考えることです。AIについてしっかりプロセスを考える、これは人類にとって大きな機会をもたらすものではあるけれども、併せて大きな危険をもたらす可能性があるので、どのようにすれば良いプロセスにできるのか、それを考えなければなりません。
数百年の間、ハイテク、あるいは通信技術が進んだ結果、世界では民主主義が発展しました。例えば15世紀には印刷技術、あるいは20世紀にはテレビが登場いたしました。そしてインターネットが登場しました。そうして直近30年の間、民主主義には大きな発展がありましたが、AIは権威主義国家も使うこともできるのです。
したがって、AIに民主主義国家のスタンダードを適用することが重要です。AIのガバナンスについては透明性、あるいは分権、また説明責任が必要であり、たった一人の人間、あるいはたった一つの企業、たった一つの当局、たった一つの国家だけが人工知能を管理するような状況が将来起こってはなりません。
たくさんの提言をいたしました。ウクライナをサポートすること、グローバルサウスと対話を行うこと、民主主義国家のネットワークを強くすること、真実を守ること、我々の優位を使ってイノベーションを主導すること、また、AIのガバナンスについては、民主主義国家と適合するものにすべきであり、独裁に合わせたものにしないことです。以上の御提案を申し上げます。ご清聴どうもありがとうございました。