第1セッションに続いて開催された第2セッションでは、「民主主義国は、世界の分断と民主主義の修復にどう立ち向かうか」をテーマに、再び10カ国シンクタンク代表者が長時間の議論の疲れを見せずに、熱い論戦を繰り広げました。
司会を務めたカナダ国際ガバナンス・イノベーションセンターのロヒントン・メドーラ特別フェローが「シンクタンクの皆さんで一緒に民主主義に何ができるのか、どう推進すべきなのか考えよう」と呼びかけ、1時間半余りの議論が始まりました。
今まさに問われているのは「民主主義の正統性」。市民自身が担う課題解決のサイクルを、国境を越えて回していくことが正統性を拡幅する大きな戦いとなる
最初に冒頭発言をした言論NPO代表の工藤泰志は、現在の世界で民主主義と権威主義の対立の状況は生じつつあるものの、それは問題の本質ではないと指摘。今まさに問われているのは「民主主義の正統性」であるとしましたが、この正統性をこれまで担ってきた米国の力は低下しており、それがトランプ支持者の米議事堂襲撃事件などの暴挙にもつながっていると分析。フェイクニュースの蔓延などの脅威も迫る中では、民主主義各国には民主主義を守り、発展させるための努力が求められていると問題提起しました。 工藤はさらに、言論NPOが実施した民主主義に関する55カ国世論調査結果を踏まえて、「大半の国の国民は、民主主義自体を疑わっているわけではない。政府や政党における民主統治の仕組みを疑っている」と指摘。
その上で、国民所得を増やして中間層を厚くすることなどを掲げている岸田政権の「新しい資本主義」を例に挙げ、こうした社会基盤を安定させることが民主主義の基盤づくりにもなると語りました。
さらに工藤は、「市民自身が担い手として課題解決をしていく。そして、国内だけでなく世界とも課題解決に向けて連携していく。そういう新しいサイクルが必要であり、これが正統性を拡幅する大きな戦いとなる」と強く訴えました。
いかなるシステムを採用するにせよ、人々がそれを統治の仕組みとして、価値を認め、信頼できるものでなければならない
シンガポールのオン・ヨンケン南洋理工大学S.ラジャラトナム国際関係学院副理事長は、「何が民主主義で、何が自由なのか。地域によってとらえ方が異なり、明確な共通理解があるわけではない」と指摘し、「インターネットやデジタル化の影響で民主主義のあり方も変わってくるかもしれない」「それほど自由ではない民主主義もあるかもしれない」というところから議論を始めるべきなどと問題提起。
オン・ヨンケン氏はその上で、いかなるシステムを採用するにせよ大事なのは「人々がそれを統治の仕組みとして価値を認め、信頼できるものでなければならない」と主張しました。
リーダーの悪口を言うだけでも、票を投じるだけのものではない。民主主義のために戦うという心構えも必要
ブラジルのジェトゥリオ・ヴァルガス財団のカルロス・イヴァン・シモンセン・レアル総裁も同様に「民主主義を定義するのは難しい」とする一方で、「民主主義ではないものは定義できる。言論の自由がなく、反対意見を表明できず、指導者を投票で選ぶことができなければ、民主主義ではない」と指摘。「また、どのようにコンセンサスを醸成するのかも重要だ。交渉して合意を目指しても、話がかみ合っているかどうかも判然としない場合も多いからだ」と語りました。 レアル氏はさらに、1815年のワーテルローの戦いに言及。勝利した連合軍の一角・イギリスは国債(コンソル公債)を発行することで戦費を調達していましたが、有権者は、「信頼のメカニズム」に基づいて議会を通じてこれに承認を与えていた一方、敗れたナポレオン帝政下のフランスにはそうしたメカニズムがなかったと指摘。「民主主義というのは、街角でリーダーの悪口を言うだけのものではないし、票を投じるだけであとは何も気にかけなくてもよいというものではない。自由を損なうようなことを受け入れてはならない」としつつ、場合によっては民主主義のために戦うという心構えも必要だと説きました。
レアル氏は他にも、「資金と動機づけがなければ民主主義は世界に広がらない」とし、投資促進の必要性についても提言しました。
世界が発展していくにつれて民主主義も広まっていくというかつての想定は誤りだった。民主主義国家ではないところとも連帯していく必要がある

英王立国際問題研究所ディレクターのクレオン・バトラー氏は、民主主義諸国は今後いかにして民主主義を強化していくべきなのかについて発言。まず先進国がなすべきこととしては、汚職撲滅などの取り組みを通じて、途上国が自らのガバナンスを強化していくことを手助けすべきと提言。
次に、各国が取り組むべき課題としては、フェイクニュースが蔓延するインターネット空間を念頭に、「英国では公共放送、テレビに対して厳しい規制を敷いている。同じアプローチをネット空間でも講じることを検討する必要がある」とし、新たなメディアとの関与のあり方が過渡期にあるとの認識を示しました。
バトラー氏は、ウィリアム・ヘイグ氏の基調講演を引き継ぐ形でさらに提言。世界が発展していくにつれて民主主義も広まっていくというかつての想定は誤りだったとしつつ、こうした中では「民主主義国家ではないところとも連帯していく必要がある」と主張。気候変動・パンデミック、過剰債務といった課題は、政治体制に関係なく取り組まなければならないものであるとしました。ただ、利害の異なる分野は当然出てくる以上、「協力の分野は上手く切り分けるなど工夫が必要だ」とも語りました。
もっとも、民主主義国家同士の協調も依然として重要であり、既存の多国間枠組みを維持・活用しつつ、地球規模課題の解決に取り組むとともに、中国など権威主義国家に対して連携しながら対処すべきと語りつつ、G7議長国日本のリーダーシップを求めました。
新たなテクノロジーを活用した民主主義の再活性化を
カナダの国際ガバナンス・イノベーションセンターのポール・サムソン会長は、インターネットとデジタル化については確かに大きな課題はあるとしつつ、「弊害ばかりではなく、世論をより捉えやすくなるなどプラスの面もある」など新たなテクノロジーを活用した民主主義の再活性化の可能性を指摘しました。
サムソン氏は、世界の分断に関しては、様々な課題解決への取り組みを通じてG7がリーダーシップを発揮すべきとし、同時にそこでは特にG20との橋渡しをしていくことが重要との認識を示しました。
危機の中でも民主主義に魅力を感じている国は多い。こちら側に入ろうとしている力に注目すべき
イタリアの国際問題研究所のエットーレ・グレコ副理事長は、世論調査結果が示すように民主主義自体への信頼が揺らいでおり、さらにロシアが「欧米の民主主義制度を貶める発言を繰り返している」など権威主義側からの攻撃を受け、「民主主義は危機にある」と強く懸念。この危機に民主主義国の政府が上手く対処できなかったら、人々の不信感はさらに強まると警告しました。 グレコ氏はその上で、「地政学と内政が結びついている中で、例えば、モルドバやジョージアでは加盟を求めてEU旗がはためいている。EUとその民主主義制度に魅力があるからだ」「ロシア側でなく、こちら側に入ろうとしている力に注目すべきだ」などと主張しました。
デジタルテクノロジーの進化は民主主義にとってプラスの材料だが、一貫性のある言説を生み出していくことが大事
仏国際関係研究所のトマ・ゴマール所長は2004年にウクライナで起きたオレンジ革命などによって民主主義が世界に広がる期待はあったものの、その後の反動で「民主主義は厳しいトレンドに置かれている」と指摘。先進国内での投票率の低下や政治への不信感増大もそれに拍車をかけていると懸念しましたが、その一方で「テクノロジーの進化で自ら言説を発信できる時代になった」とし、デジタルテクノロジーの進化は民主主義にとってプラスの材料だと分析。そこでは「一貫性のある言説を生み出していくことが大事だ」としつつ、「東京会議」にもそうした言論の自由を擁護していくための役割を求めました。
若い世代はハイテクツールを持っているが、それをどう使いこなすかは訓練が必要
インドのオブザーバー研究財団のサンジョイ・ジョッシ理事長は、この言論の自由という発言を受けて、「過激な表現はどこまで許容されるのか、など自由の制約の範囲には難しい議論がある」と問題提起。こうした中で特に課題に直面しているのが「若者と表現」であるとし、「我々が若い頃にはなかったハイテクツールがあり、若い世代はそれらを使って様々な表現をしているが、民主主義国家ではそれを抑えることはできない」と指摘。
こうした中では、教育によって新たなコミュニケーションツールの使い方を訓練する必要があると主張。また、データに関しても言及し、「データのプライバシーは何を意味するのか。昔とは異なり、誰がどのデータを用いてコントロールしているのかが重要になっている」と指摘しました。
価値観を示すだけでなく、民主主義は実際に生活をより良くしていくということを示していく必要がある
米外交問題評議会シニアバイスプレジデントのジェームス・M・リンゼイ氏は、「政治に関わる議論は二極化している」と切り出し、その原因には、偽情報を拡散させるソーシャルメディアと、不平等を拡大したグローバリゼーションがあると多くの人々が考えているとの見方を示しました。 偽情報については、「何が本当の事実なのか、というところから議論しなければならないとなると民主主義は機能しにくくなる」と強く懸念。また、AIの急速な進化が民主主義にさらなる困難を突き付ける可能性があると問題提起しました。
リンゼイ氏は、不平等に対する不満に対しては、「民主主義は人々が声を上げることができ、それによって政治を変えられたことで、多くの国々を惹き付けてきた」としつつ、「より良い価値観を示すだけでなく、民主主義はその社会に暮らす人々に良い結果をもたらす、ということを示していく必要がある」と語りました。
民主主義国家は権威主義国家よりも効果的な施策を実現することが可能であることを示していく
リンゼイ氏のこの発言に対しては、ドイツの国際政治安全保障研究所ディレクターのステファン・マイヤー氏も、「我々の民主主義をもっと魅力的にするしかない。どのような成果を実現するかだ」と応じました。マイヤー氏は、1990年代にサハラ以南のアフリカで民主化支援をしたものの、「外からの民主化」は結局根付かなかったという経験を踏まえながら、「我々は外部からは部分的にしか変えられない。だから、世界には構造的な違いが残り続けることは受け入れなければならない」としつつ、移民問題やパンデミック対策などにおいて、民主主義国家は権威主義国家よりも効果的な施策を実現することが可能であることを示していくしかないと語りました。
課題を解決するためのサイクルを回し、民主主義の有用性を示すべき。そのためには知識人や言論人、シンクタンクの果たす役割は大きくなっている
この点に関して工藤も同様の見方を示し、気候変動など国内外の課題を解決するためのサイクルを回し、民主主義の有用性を示すべきと主張。もっとも、世論調査が示した日本の事情として、課題についての考え方を訊ねても「わからない」という回答が多いとしつつ、「課題について自分で考えることができない人が増えている」と懸念。その上で、「課題解決に向けたサイクルが回っていないことが問題だ。大学のキャンパスに乗り込んで、議論環境を構築していくなどの取り組みが必要だ。知識人や言論人、シンクタンクの果たす役割は大きくなっている」などと語りました。 これを受けてサムソン氏も、「民主主義には権威主義にはできないようなかたちでのリーダーシップのあり方がある。シンクタンクのような民間から良いアイデアを出していくメカニズムは権威主義国家は不得手だ」とし、シンクタンクの役割を強調。こうした課題解決プロセスにおいて、民主主義がその優位性を示すべきといった意見は各氏から相次ぎ、最後に司会を務めたメドーラ氏が「簡単に答えが見つからないから、我々は議論をしているのだ。民主主義がうまく機能するように努力を深化させることが、民主化したいと思っている国々へのアプローチになるだろう」と総括し、議論を結びました。