非公開会議2
私たちが守るべき世界秩序とは何か

非公開会議②では「私たちが守るべき世界秩序とは何か」と題して議論が行われました。


米国が国際公共財から離れる中で、欧州は自ら独立した安全保障の極をつくる必要がある。しかし、ウクライナ問題では米国との協調が不可欠


 冒頭、問題提起が行われました。G7国からの出席者はまず、「従来はG7と中露など権威主義国家、グローバル・サウスという三つのブロックがあったが、現在は米国対G6という新たな断層線が生じている」との見解を示すとともに、こうした事態が少なくとも今後4年程度は続くことを前提として対応を考えるべきと指摘しました。

 米国は国際公共財に関する問題(気候変動、自由貿易など)からも、それに関する国際システムからも離れたいと訴えていますが、これに対しては「現実的かつ野心的なアプローチをしなければならない。米国以外の我々ができるだけ既存の国際的な制度を活かし続ける」ことでシステムの保護・維持を図るべきとの認識を示しました。

 一方、欧州の安全保障にはより大きな困難があると問題提起。「欧州は自ら独立した安全保障の極をつくる必要がある。より多くの防衛負担をしなくてはならないし、独立した研究開発もする必要があるだろう。防衛装備品についても日本やカナダ、オーストラリアなど緊密な関係の国々との協力を今から始めることが肝要だ」と主張。こうした努力は米国が欧州との協調に再び回帰したとしても無駄にはならず、「より強力な西側の安全保障同盟ができる」と語りました。ただ、この出席者は同時に、気候変動など他の国際課題では米国抜きでも課題解決を進めることはある程度可能であるとしつつ、とりわけウクライナ問題に関してはどうしても米国との協調が不可欠であることも併せて強調。時間がかかったとしても米欧間で何らかの合意の基盤を見つけること以外の選択肢はないと断じました。



米ロ中三カ国で次の世界秩序を決めてしまうことになりかねない。それぞれのフォーラムにも課題は山積している


 BRICSからの出席者は、「今後の世界秩序がどうなるかはウクライナの戦争が終わったら分かる」としつつ、現在ウクライナで行われているのは、単なるウクライナ対ロシアという主権国家同士の戦いではないと指摘。「欧州の安全保障の枠組みをめぐる戦いでもあるし、さらに国際秩序の未来をめぐる戦いでもある」との認識を示しました。

 特に、国際秩序の未来をめぐる戦いという側面に焦点を当てたこの出席者は、2月28日に行われた米国・ウクライナ首脳会談がロシアへの外交姿勢などをめぐって激しい口論に発展、決裂したことに言及しながら、このトランプ氏の態度を「今後の世界秩序のあり方についてロシアと交渉したい、ということだけを優先的に考えており、ウクライナの平和はもはや二次的な問題に過ぎないとみていることの表れだ」と分析しました。

 さらに、トランプ氏は世界情勢が落ち着きを取り戻してからロシア、さらに中国と軍縮や核軍縮交渉を進める意向を示していることを踏まえ、そうなると「米国、ロシア、中国の3カ国だけで次の世界秩序を決めてしまうことになるのではないか」と強い懸念と不満を示しました。

 こうしたことを踏まえて、今後の世界秩序を支えるべき枠組みとしては、まずG7に言及。「結局、ロシアを会議室に入れなければ貿易も安全保障も国際秩序も話が進まない」との認識を示しつつ、「ロシアを復帰させてG8に戻した方がよい」としましたが、G7がG6になりかねない現状や、ロシアを復帰させたら今度は欧州が離れかねないという悩ましさも滲ませました。


 一方、BRICSについては内部に明確な対立を抱えていると指摘。「特に中国をめぐっては意見の隔たりは大きい」として、国際的な議論を主導できるような状況にはないと解説。

 G7とBRICSの主要メンバーが参加するG20についても、かつては国連外で唯一多国間の対話フォーマットとして機能していたと評しましたが、今は亀裂が大きいと指摘。南アフリカでの外相会合を米国が欠席したこともG20の今後を示す一つのシグナルだと語りました。

 国連についても、常任理事国(P5)が改革を望んでいない中で「瓦礫状態」となり、ウクライナとガザでも無力であり、「国連など存在しないも同然だ」と厳しい評価を下しました。

 こうした中でEUに対しては、幾多の戦争と対立を乗り越えながら統合を成し遂げたと評価しましたが、同時に「統合は今後も続くのか」と問題提起。ロシアの脅威を前にして、隣国とともに平和や秩序をつくり上げていく作業は「今後の世界全体の秩序形成にもかかわってくる」としつつ、「それはどこに向かうのか分からない」と憂慮。平和よりも対立の歴史の方が長いというEUのそもそもの成り立ちに加え、中東の混乱が続く限り欧州は移民問題に悩まされ続けることなども新秩序形成に付きまとう難題であるとの見方を示しました。


かつての大国間協奏の再現は可能か


 これを受けて別のG7国からの出席者は、「我々がグローバルな国際秩序に求めているものは何か。それは紛争の最小化であり、世界的な戦争の回避だ」とした上で、「欧州はこれまで戦争、危機、無秩序の中心だったが、機能するモデルも生み出してきた。いわゆる『勢力均衡の時代』だ」と発言。「特に、ナポレオン戦争から第一次世界大戦までの約100年間の『ヨーロッパ協調』の頃は、『私たちはより良い未来のためにこれを維持しよう』と合意していた。それを国際レベルでもできないか。BRICSプラス、拡大されたG10、あるいは他のグループが、かつての大国間の協奏のような形で結束する可能性はないのだろうか」と問題提起しました。


多極化の時代が到来する中、リベラルな国際秩序を可能な限り防衛すべき


 EUの有力国からの出席者はその発言の冒頭、リベラルベースの多国間主義に基づく国際秩序を「復活」させることはもはや不可能であり、次善の策として可能な限り「防衛」することを目指すべきと切り出しました。


 自由主義的多国間主義弱体化の要因としては、国連やWTO、WHOなどの国際機関の機能不全、金融危機やパンデミックに対して上手く対応できずに信頼を失ったこと、グローバル・サウスなど新たな勢力の台頭に伴う世界的な勢力図の変化などを挙げつつ、最大の要因としてはやはり「この秩序にとって不可欠な保証を提供してきた米国そのものの変節だ」と主張。こうした中では、「問題は最終的にどのような多極化が達成されるのか、ということだ。政治的、経済的、文化的なシステムが異なるレベルでの多極化であり、第三国の支持を得るために競い合いながらも、少なくとも平和的な紛争解決、国家主権、領土の一体性といった基本的なルールを受け入れ、遵守する多極化なのか。それとも、世界が勢力圏に分かれ、支配的な覇権国が自らの好むルールを課すことができ、そして実際に軍事力を使ってでもそのルールを強制するような多極化なのか。これが実際に今、私たちが直面している選択肢だ」と語りつつ、米国以外のG6は前者のために国際秩序の基本的なルールを維持することに関心のある他の国々と協力していくべきと提言しました。


地域の枠組みに着目すべき。もっとも、「包摂性」を意識しながら世界全体の新しい秩序についても考える必要がある

 ASEANからの出席者は、地域の枠組みに着目。今後数年間では、「グローバルな問題がグローバルな協力だけで解決されると期待するのは難しい」と予測しつつ、「だから、しばらくグローバルな協力のことは忘れて、地域の文脈の中でどのような手段と能力を持ち、それを活用できるかに目を向けるべきだ」と主張。すでにインド太平洋地域では、ASEAN+3やASEAN経済共同体(AEC)などの枠組みでこうした議論が始まっていることも紹介しつつ、地域の枠組みであれば主要な課題にも対処できると語りました。

 もっとも、世界全体の新しい秩序について今から考えていくことも必要であるとし、そこで求められる視点として「包摂性」を提示。「本当に我々が直面している課題に対応するためには、好むと好まざるとやはり中国とも話さなければいけないし、ロシアとも話さなければいけない」と指摘しました。


 問題提起の後、ディスカッションに入りました。ここでも「米国が世界秩序に戻ってこない場合、我々はどうするか」といった観点からの発言が相次ぎました。

 米国が復帰する可能性について、「ウォルマートで買っている安価な製品が高くなったり、エネルギーやガソリン価格が上昇したり、人々が仕事を失って景気後退が起きた時、トランプ氏の支持基盤からの反応があるだろう。そうすると、現政権の中で『トランプ2.0』から『トランプ3.0』への移行があるかもしれない」との予想も一部には見られましたが、バイデン政権やオバマ政権でも自国第一主義的な姿勢は見られたことから今後もこうした流れは変わらないとの見方が大勢を占めました。


 その上で、「米国抜き」で世界秩序を維持していくための方策としては、既存の国際機関やシステムをできる限り活用すべきという主張が多く、「今のシステムでできるだけ前に進み続けることが必要だ。TPPをCPTPPにしたのと同じように効果的なシステムに改革していくことはできるはずだ」「G7をG6にして米国不在に対応すべき」などといった主張が寄せられました。さらに、「例えば、ブレンディッド・ファイナンスや、民間セクターをテクノロジーやインフラなどにもっと関与させ、新しい形の多国間主義を描くべきだ。この民間セクターには大手企業も含まれる」と民間の役割を求める意見もありました。

 また、「米国抜き」に関しては、「南アフリカのG20財務大臣会議では、世界はすでに米国抜きで再調整を始めていると感じた」「太平洋や東アジアの国々は、米国不在の可能性に適応し始めている」といった指摘も寄せられました。特に、トランプ氏は地域の問題への対処には地域の当事者に役割を担わせることを求めていますが、「ガザでのリヴィエラ計画が発表された後、エジプト、サウジアラビア、ヨルダン、モロッコなどがリヤドに集まり、『これは許されない。私たちが何かしなければならない』と議論していた」とし、これは今後「米国が関与を続けられない、財政的に関与し続ける力がないと感じた場合に見られるパターンとなるだろう」との予測もありました。

 トランプ氏が構想しているとみられる米中ロ三カ国を軸とする多極化に対しては、BRICSからの出席者らも含めて皆一様に拒否感を露わにしました。

 しかし、この中でも中国に対しては、「パクス・シニカ(中国による平和)は、あまり良い響きではなく、私たちはそれを受け入れることができない」との意見はアジアの出席者から上がりましたが、米国はもちろん欧州の関与も期待できないことから「最終的にはこれらの地域の国々は自ら中国と交渉し、どのように対応するかを考えなければならない」との主張もありました。同時に、『パクス・シニカ』が実施される際の条件やルールについて、これから各国は中国と何らかの形で交渉を始め、適応し始めるだろうが、日本とインドはこの考え方を受け入れるのに苦労する」との日印にとっての難しさを指摘する声もありました。さらに、「グローバル発展イニシアティブ」や「人類運命共同体」など、中国が掲げる世界ビジョンは「聞こえは退屈だが、実際に多くの国々が今、求めているものだ。多くの地域の国々にとっては、退屈であることが良いということもあるので、私たちはそれに備える必要がある。中国が提案する退屈な世界ビジョンを過小評価してはならない」と警鐘を鳴らす参加者も居ました。